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落下と出会い

 木漏れ日の下、風が撫でる感覚で瞼を上げると、ライラは森の中に立っていた。

 白銀色の瞳に映るのは、色を変える木の葉や、花。花から実へ変わる鮮やかな生命溢れた森。懐かしさを感じる秋の森といった自然の中には、地球で見たことのない植物があった。


『ライラ、聞こえていますか?』

『ポチ? 今更だけど、行き先を決めてませんでした。私が今いる場所は、どこですか?』


 前は森、後ろも森で、街までの距離も不明。しかも白いワンピース一枚のみなので、足元の草が冷たい。直接聞こえるポチの声以外は誰の声も聞こえず、風と擦れる葉の音だけ。

 いきなり街の中に現れて周囲の目を集めるより良いとはいえ、連絡手段を頼んでいなかったらと思うと女性一人ではぞっとする状況だった。


『多種族が共存しているエクレールの近くへ送りましたが、今からでも希望があれば場所をお教えしますので……』

『友好的に話せるならいろんな種族に会ってみたいし、このままで大丈夫です。とりあえず、靴を作って……歩きますっ』


 不安はあっても好奇心のほうが勝った。

 スキルを使って、森の中でも歩きやすく壊れない、しっかりとした黒いブーツを出した。

 装備品は移動しながら考えればいいと思い、ブーツを履いて気楽に歩き始める。

 直後、足元の地面が崩れて地下へ飲み込まれた。



 新しい世界での生活は、始まって五分で穴の中へ。それでも、体は自然と動いて岩を避け、無事に着地した。

 どれくらいの深さに落ちたのか確認しようと上を向くと、ライラの眼前には大きな口と鋭い牙。薄く金色がかった鱗、尾の先が見えない巨体、頭九つ分の瞳が見下ろしていた。

 一口で食べられてしまいそう、と一瞬だけ考える。けれど、瞳の一つと目が合うなり、彼らはライラ以上に困惑した表情になった。


「えっと……こんにちは? 私はライラと……あっ、私の言葉がわかりますか?」

「もちろんだとも、日本からの流れ人」


 老いた静かな響きで、九つのうち紫色の角を生やした頭が返事をする。その声は優しく、音量が人間より大きいことを除けばただのおじいちゃんと言っていいほど、威圧感を与えないよう配慮されたものだった。


「日本、って……」

「ああ、驚かせてごめんね」


 次に先程よりは少し若い声がして、大きな首が動くと、最初とは別の頭が正面にくる。


「私たちは、といっても体は一つだけど、日本で暮らしていたから。何が落ちてきたのか確かめようとして……見えてしまって。少しだけど記憶が伝わったので、流れ人だと」

「そうそう! まあいつだったか、無人島に引っ越しちまったけどな!」


 言葉を選びながら緑色の角の頭が話し、それを遮るように横から次々話す頭たち。

 それぞれが別の意思を持っているらしく、声も話し方も違いがある。頭同士の会話には飛行機などを懐かしむ言葉もあり、その時代まで地球に存在していた事実を含んでいた。


「……そこからさらに引っ越して、こっちに住んでる」


 世界が違っても軽い引っ越しと同列のように説明した、白色の角の頭。


「ここは無理に隠れなくても大丈夫だから楽。まあ、今は困ってるんだけど」


 続いて、その横で住み心地の良さを語る黒色の角の頭は、最後に小さく溜息を吐いて弱音を漏らした。


「何かあったんですか?」

「わしらが巣穴を掘って……眠っておったら、周囲がダンジョン化を始めてしもたんじゃよ」

「まだ核も未完成じゃが、儂らが出られるほど壁を壊せなかった」


 ライラの問に、悔しそうな灰色の角の頭と、茶色の角の頭が答える。

 赤色の角の頭が深々と首を下げてから、心底申し訳無さそうな顔を上げた。


「まきこんですまない」


 他の頭たちも謝罪をしていき、中には顎が地に届くほど首を曲げる様は、巨体が小さく見えるほど迫力を完全に消し去っていた。

 言われるほうが悪者のような気分になるほど、悲しげな表情で謝られる。

 意外と表情豊かなことに驚いたとは言えない雰囲気で、ライラも謝り返してしまった。


「いえ……私こそ驚かせたというか、困らせてしまってごめんなさい」


 責めることもなく頭を下げたライラに、九つの頭が優しい眼差しを向ける。声だけでは、年齢すら首ごとに違うのではと思うほど違っても、気質は皆優しいものだ。


「気にしないでね。それより、お嬢さんだけでも早く外に出なさい。また塞がってしまったら大変だよ」


 気遣う言葉をかけながら、緑色の角の頭がライラを上へ持ち上げようと、頭に乗れるように顔を寄せて視線で促す。


「でも、皆さんは? 出られないままダンジョン化が進行したら、どうなるんですか?」


 心配してくれるのは嬉しい。でも、彼らをこのままにしておきたくない。

 外に出されるのを拒否して心配するライラに、八つの頭が困り顔をしているにも関わらず、青色の角の頭だけがけらけら笑った。


「階層が深くなったら勝手に守護主扱いかな! 魔石は持ってないから、魔物と同じ扱いになるかわかんねえけどな!」


 大雑把すぎる予想も外れているわけではないのか、他の頭たちは深刻そうに溜息を吐いた。

 どうして笑っていられるのかといった視線を集めながら、青色の角の頭はまたけらけら笑う。


「えっと……私がどうにかしてみます」


 ライラの提案は、九頭龍にとって想定外のもので。今度はライラへ驚きの目が集まった。




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