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嵐牙族(ランガ族)

 リュナの母に案内され、突き出た断層をくり抜いた部屋に入った。床や壁、天井にも木の板が敷き詰められている。

 家具は低いテーブルと棚だけ。部屋の奥に木箱が積んであった。

 魔物の毛皮を敷きながら座るよう促されて、腰を下ろす。

 あとからリュナの父と祖父母も入ってきた。


「わしがランガ族の長、ショルガだ。孫が世話になった。……まずは茶でも飲んで寛いでくれ。テュナ、頼む。ああ、娘のテュナ、リュナの母にあたる。こっちが婿のリュト。……妻のラジュ」


 紹介されたリュナの母、テュナが手際よく薄紅色の薬草茶を注いで配る。

 薬草茶が並ぶ間にライラたちも自己紹介を終えると、ショルガはリュナと目を合わせてうなずいた。


「リュナ、持ち帰ったものを見せなさい」

「はい、なのです」


 三種類の薬用植物と、竜王の鱗を取り出す。

 薬用植物はテーブルの上に並べ、鱗は大きさもあって床に置いた。


「間違いないようだな。……他には」

「この剣、あ、刀も、なのです」


 リュナは集める必要があったもの以外に、旅の途中で手に入れた自分の物を説明していく。

 変質した竜の鱗を使った、特殊な二本の刀。

 収納鞄も、アイテルに返したその場で貰えることになったので、使い続けている。鞄に入ったおかげで、薬用植物の決められた部位以外も採取してあった。

 気に入った食材や香草も含めるとかなりの量になり、入るだけ詰めたといった感じだ。


「ふむ……短期間で目的の品だけ焦ってかき集めた、というわけでもないみたいだな」

「お客さんの前だからって何カッコつけてるの」

「うるせえ、黙っとけ! テュナだって――こほん。なんでもない。リュナ、お前は歴代の中でも最短で集め終えた。それはすごいことだが……実力は追いついているのか? 協力者に頼ってばかりではなかったか」

「う……」

「感謝さえ忘れなければ、優れた者を見極め、協力者に恵まれることも、大切ではある。悪いこととは言わない」


 ショルガは深い溜息を吐く。


「しかし、どうしても実力がついているのか心配になる。成人まではまだ長い」

「た、旅を続けろってこと、なのです?」

「……兄と戦って見せろ。弱いままの者に、ここを任せることはできない」

「あにさまなら勝てる、なのです」

「はあ?」

「ととさまと戦わせろ、なのです!」


 拳を握ったリュナは、キラキラした目で父のリュトを見た。


「どこからくるんだ、その自信は……まあいい。疲れもあるだろうから、やるのは明日だな」


 リュトが優しい父の顔をしたまま、瞳だけ好戦的に輝かせる。


「手加減はしねえかんな」

「あたりまえだろ、なのです」


 親子の仲が悪いわけじゃない。暮らしている間ずっと仲が良かったが、戦いとなると話は別だっただけ。


「今は酒と飯の準備でもするか。集め終えたことは祝っておかねえとな」


 リュトとテュナが準備のために部屋を出ていく。確認が済めば、ゆっくり話すのは食事時でいいと思っていた。

 おっとりした笑顔で黙って聞いていた祖母のラジュが、想像以上に早く再会できたリュナの顔を見て喜び、集めてきた薬用植物にも喜んだ。


「これでさっそく常備薬でも作ろうかね。特に傷の治りを早める薬は、大事だからねえ」

「え、傷薬?」


 思わず首を傾げて反応してしまったのはヨシュカだ。カイは表情を変えずに済んだけれど、じっとラジュの顔をうかがっている。

 驚いて警戒したのはショルガだった。


「どこまで気付いて、いや、どこまで知ってる?」

「ああ……ええと……嵐牙族が昔は使っていた薬について、あと、旧獣王国のことも知ってます」

「そうか、リュナを見てあの薬を作るなと忠告に来たのか」

「違いますけど?」

「ち、違うのか?」

「逆に薬が必要なら作り方も教えます。本が一部焼けたことでわからなくなった、他の材料も……少しの量なら提供できると思いますよ」

「焼けたことまで……」


 目を見開き、口も開けたまま、ショルガは直前の警戒を忘れてうつむいた。

 サウラもレンも、一族に関わるリュナも、話がわからずに戸惑っている。


「リュナちゃんは成人前だったから、確信が持てなかったんだけど……会った時は忘れてたのもあるし。ここに来て、本当に王族だったんだなって驚いてるよ」

「王族? リュナさんが?」

「旧獣王国だから、今の獣王国とは別だけど」

「どうしてここに来る前に話してくれなかったんですか」

「ここで家族の顔と額の宝石を見て、俺とカイが知ってる嵐牙族の血筋だなって。額の宝石は成人しないとできあがらないし」


 前髪の間から見える小さな丸い宝石は、嵐牙族の成人の証でもある。リュナの家系は透明感のある薄い緑色だ。


「臣下探しと同じことを続けてるなら、薬を作ろうとしてるのかと思ったんだけど……」


 ヨシュカがショルガに視線を戻すと、うつむいていた頭を上げた。


「今は、臣下を求めているわけでも、幻獣化の力を必要としているわけでもない。旅に出た本人が強くなることが目的だ。それと、集めてくる薬用植物は、シュラーラと合わせて常備薬に役立つ」

「鍛えることと、集めるものの内容だけ引き継いでるんですね」

「万が一の時に薬があれば、と考えたこともあるが……」

「備えておきたいなら、作り方を教えて、必要な素材も置いていきます」

「本気だったのか。どうしてそこまでする、ん? なぜ作り方まで知ってる?」

「ヤトの名が残ってるなら、その名を知ってるからと言えば、両方の答えになりますか」

「何代前だと思って……竜族でもないのに……竜族?」


 ショルガは自分の言葉に固まり、ぎこちない首の動きでヨシュカとカイを交互に見る。


「同じ名前なだけじゃねえ、竜族らしくない竜族と、何をしても死にそうにない変わり者……あ、いや、わしが言い出したわけじゃなくて!」


 慌てるショルガの前で、ヨシュカは苦笑いするしかない。


「もしかしなくてもヤトのせいで変な話が残ってる……? 俺は別に死んでないわけじゃないのに。あと、竜族らしさってなんだろうね?」

「竜王もアレだからな。じじい基準なら竜族らしいはず。あー、失敗して丸っこい毛玉になった時、大笑いされたの、根に持ってたのか?」

「俺は笑ってないよ、覚えてないけどたぶん。ずいぶんかわいくなったね、って、頭かもしれない部分を撫でた気がするけど」


 忘れたままでいたほうがいいのではないか。


「関係ないことなら思い出しそう。……やめておこう。とりあえず本と素材出しておいて……」


 遠い記憶はともかく、この場で置いていくと言い出したものを忘れるわけにはいかない。収納してあった本と素材をテーブルに並べて、揃っているか確認した。


「あとは自由に使って……乱用はしないでくださいね」

「わかった。あくまで備えておくだけだ。対価は……」

「元から嵐牙族が使っていた薬ですから、作り方に関しては対価を求めません。素材の分は、咲く直前のシュラーラと交換で」

「それなら、明日の朝に用意しよう」


 話を終えたところへ、リュトとテュナが酒や料理を持って戻ってくる。

 外と繋がる扉を壁ごと開けると、冷えないように正面で薪が焚かれていた。

 住人たちも集まり、外で大きな肉を焼いている。嵐牙族以外に、小柄な別の獣人族も暮らしているようだ。

 リュナが短期間で終えたことを、無事に帰ってきたことを祝って、宴会が始まった。




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