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獣王国王都で

 宿の部屋で夕食をとりながら、地図を見て行き先を相談する。ヨシュカとサウラが図書館で得た情報も紙にまとめてあった。


「シュラーラの特徴は図鑑に記載された情報とあまり変わらないか。シザシャは……赤茶色の実を入手しないといけないんだったよね? 落ちないで熟しきると赤茶色になるんだけど、だいたいは赤いうちに収穫されちゃうから、森に残って熟してることを祈るしかない。干した実も赤茶色っぽいけど、赤黒いって言ったほうが近い色だから」

「同じ森の中でも、実る時期にずれがあるのは、カナンの西側みたいですよ」


 カナンという街に近い森は、まだシザシャが残っている可能性が高いとして地図に印もついている。収穫に適した時期が揃わないため、一気に取り尽くされることがないようだ。

 西側の森を抜けると、ほぼ隣接していると言っていい距離に迷い森が存在することもあって、奥に入る者も少ない。

 そしてカナンの近くでは、シュラーラの花が見つかったこともある。


「迷い森との境目は、木を見ればわかるって聞いた」


 騎士団が深追い禁止になっている森の境目を見極める時、木の表面を確認するのだ。

 迷い森の木は、表面に緑色の模様があるという。離れて見た時には植物が巻き付いているような感じで判別しにくいが、近くで見れば別の植物がくっついているのではなく模様だと判別できるもの。


「シザシャもシュラーラも見つかる可能性が高いなら、行き先はカナンかな?」


 ライラが皆の顔を見ると、地図を覗きこんだヨシュカが頷いた。


「森にはホラル側からでも行けるみたいだけど、カナンで宿をとったほうが近いね」

「明日の午後には出発しよっか」


 目的地を決めて地図をしまい、果実水のグラスに手を伸ばす。


「王都観光はしなくていいの?」

「午前中に買い物して、お昼ご飯は食べ歩きするっ!」

「おいちゃんは酒が買えればいいかなあ」

「……食べ物と酒以外には興味ないんですか?」

「サウラだって行きたい場所があるわけじゃないだろ」

「そうですね」


 大きな串焼き肉をかじって、グラスの火酒を一気に飲み干した。


「レンさんは住み心地を確かめたりしなくていいんですか? このまま滞在していいんですよ」

「正直……すでにエクレールへ戻りたくなってきた。騎士たちは気にした様子がなかったけど、街を歩いている時は視線が……」


 レンは落ちこんだように耳を下げ、弱気になった視線をさまよわせる。


「自分から見ても外見が似た種族はこちらのほうが多いのに、角が珍しいのか、エクレールよりも違和感のある目を向けられる」

「角のある獣人だって他にもいますけど……。ああ、宝石みたいな角ではないですね。まあオレに集まる視線も、エクレールとは質が違うなって思ってます」


 普段見かけない種族がいる、珍しい種族がいる、などと思われても、すぐに興味を失われる感じがするのがエクレールだ。インディーシアでも似たようなものだった。しかし、獣王国ではじろじろ見られている時間が長いように思う。


「気付いてるなら滞在を勧めないでくれ」

「周りが見慣れれば気にしなくなるでしょう」

「……あと、食事も問題だ」

「インディーシアの香辛料たっぷりな料理は平気だったのに?」

「唐辛子ばかりでは胃が、いやその前に舌がおかしくなりそうな気がして……」

「たしかに……でも、激辛麻婆豆腐、おいしいですよ」

「ここの基準で激辛を食べて平気な口がすごい。甘口でも足りる」


 激辛の皿へ手を出しているのはサウラとカイくらいだ。

 辛くない料理もいろいろあるが、何も注意書きがされていない屋台で普通に激辛料理が売られていたりもする。目に染みない程度でも、そのせいで気付かず注文してから串焼きが痛いほど辛かったということになりかねない。


「そういえば、リュナさんも辛いと食べられなかったりしますよね? 獣王国か、周辺の出身なら、唐辛子に慣れているはずでは?」

「こんなに使わねえ、なのです」


 シザシャを探すという目的があるから、もしシュラーラが咲く土地じゃなくても来ることになっていたが、花の情報が集まっていても本当に暮らしていたのか疑問が浮かぶ。


「私がアルテンで会った時、街に来たのが初めてって……アルテンに初めて来たってだけじゃなくて、街自体が初めてだったみたい」

「ああ、村では保存しておける量も街より少ないから、一度に大量には使わないですよね」


 アルテンやルクヴェルのような街だけでなく、ケンタウロス族が森で暮らしていたように、街から離れた村もあった。


「……街に食べに来たこともないって、まさか迷い森の中に住んでたとか」

「まだわからないけど、シュラーラの花畑を見たって噂も、迷い森の中で見たって」

「森へ入る気ですか?」

「え、うん」


 心配そうにするサウラに向けて、ライラは首を傾げる。


「入らないでどうやって探すの?」

「飛んで探すとか、噂だけじゃなくてもっと確実な情報が手に入ってからにするとか」

「全力で守るから、安心して?」

「守らせてくれないなら心配くらいさせてください、じゃなくて、ああもう……ライラさんの全力って想像できないけど安心感ありますね……」


 サウラは諦めて溜息を吐いた。

 ライラも考えなしに森へ入るつもりではない。精霊がいるという話も聞いていたので、その精霊たちから話が聞けるなら詳しいことがわかるのではと思っている。

 その詳しいことは行って聞いてみてからという、行き当たりばったり感はあるけれど。

 とにかく探してみないことにはわからない。

 明日に備えてしっかり食べ、早めに眠ることにした。







 翌日、朝から港近くで魚料理を食べて、買い物をする。


「すごい、燃えるお酒だって」

「強い酒なら他のも燃えるんじゃねえ?」

「違うのっ、注いだだけで燃えるって書いてあるよ」


 火が消えてから飲んでください、とも書いてあった。

 魔物の鱗羽が入っている酒だ。加工後も素材の特徴が少し残ってしまうのを利用して、珍しい酒として売っていた。

 辛かったり、ただ強いだけだったり、喉が焼けたりもしないという。ただ、ちゃんと消えてから飲めば。


「あっちは大きい串焼きが売ってるっ」

「肉ほしい! なのです!」

「辛くないみたいだから、買ってみよっか」


 うっかり激辛だったら困るので、とりあえず確認してみてから買う。


「種類多く食べられるように、一本を分けよう?」

「海鮮ダレ味と塩味と、ミソ味がいい、なのですっ」


 リュナの希望で味を決め、買った串焼きをレンにも渡す。辛すぎるものはさけていたが、これなら問題なく食べられた。


「唐辛子も少量なら香りが楽しめるな」


 ミソ味には少し唐辛子が入っていたけれど、甘辛い程度だった。


「お父様も一口食べる?」

「魚料理でおなかいっぱいだから……」

「サウラさんは?」

「……塩味を一口だけ……ん、これ、かなり濃いです」


 あっさりした塩味を想像していたので、余計にしょっぱく感じる。

 食後でなくとも、一人で一本を食べきるには途中で飽きそうだった。


「濃いからしっかり食べた感じするし、分けることにしてよかった。一人で三本は食べられないよ」

「味の濃さ以前に、大きいから……食後に三本は難しいんじゃないかな」

「が、がんばれば」

「そこでがんばらないで」


 ヨシュカに食べ過ぎを心配され、次の屋台では買ってすぐに収納することにした。

 買い物して歩き回っているうちに、昼食までには消化されることを祈る。昼には出発前最後の買い食いをしておきたい。




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