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収穫祭二日目。イヴァレラ家の招待

 収穫祭二日目、カノヤとアルテに再会した。

 カボチャのアイスクリームを買って、食べながら話をする。

 カノヤは身長が伸びていたが、筋肉がまだ足りないと言っていた。男性に変化した実感は出てきても、理想にはとどかないらしい。


「鍛えてるつもりなんだけどな……」

「カノヤは今のままでもかっこいいよっ」


 変わらず仲が良さそうだ。

 服や防具の買い替えは大変だったけれど、体調は落ち着いているという。

 サウラが二人の話題とは無関係に溜息を吐く。


「また視線を感じて落ち着かないんですけど」

「気にしなくていいよ。本人が『石ころだと思ってください』って言ってたからね」

「にこやかな笑顔で石ころ扱い……」

「本人の希望だ。……サウラは文句言いながら、ライラにくっつく口実にしたくせに」

「ライラさん目当てで同行してるってわかりやすくしたほうが、殺気が減ったので、つい」

「そんなことしなくても、ダークエルフとの友好関係を壊すようなまねしないと思うけど」


 大賢者に執着するエルフのイグナーツは、ヨシュカが街に来てから離れて見ていたが、直接何かしてくることはなかった。ただ、ライラにくっつきすぎても親子の時間を邪魔する敵認定、ヨシュカをないがしろにしすぎても敵認定という、めんどくさい状況だが。

 視線に気付いてもこちらからは何もせず、屋台巡りを楽しんだ。

 カイが急に膝から崩れ落ちる時があるので、リュナは抱えてもらわずに歩いている。


「尊い」

「な、泣くなきもちわるい、なのですっ……」

「先行ってていーよー」

「早く歩け、なのです!」


 サウラはイグナーツの気配に溜息を吐きながら、カイのことも心配になって胃が痛い。


「何か変なものでも食べたんですか……」

「発作はそのうち治まるから」


 頬をかくヨシュカも心配している。そのうち治まるというか、治まってほしいというか。


「いもふらい! なのです!」

「隣の串焼き屋もおすすめ!」


 アイスの直後に揚げ物でも気にしないリュナに、カノヤがおすすめの屋台を見つけて教える。

 騒がしくしつつ、全員が満腹になっても屋台巡りは続いた。







 収穫祭が終わった翌日の昼、ライラはイヴァレラ家の屋敷へ招待されている。お連れの方全員でもと伝えられていたが、カイが最初に拒否して、サウラとリュナも宿に残ることにした。

 出迎えたグラツィアの案内で、昼食の席につく。

 コラードは外と違い落ち着いた様子で、フェルセはパレードの日と同じく顔色が悪かった。


「ライラ様の女神役は素晴らしかったです!」


 興奮気味に話し続けるグラツィアは、外じゃないせいかもう様呼びをためらう気がない。


「フェルセお兄様は頼りないなどと噂されていましたから、最初の収穫祭が盛り上がったことで印象が良くなったことも感謝しています」


 冒険者として酒場で食事する時よりは上品な仕草だが、わざとテーブルマナーをくずして気軽に料理を口へ運び、発泡ワインを飲む。雑にしているつもりでも、音がしないのはさすがだ。


「私はお兄様を頼りないと思ったことはないのですけど。酒場で病弱って聞くとついお兄様を思い出してしまいます。薬でも美容液でもクマが消えない才能があるのかも」

「グラツィアは兄を何だと思っているのか……」

「あの……消す方法を知っていてさけているわけではないんですか?」


 ライラの質問に、フェルセ本人も、コラードもグラツィアも首を傾げる。隠しているわけでもなく、知っている雰囲気でもない。


「知っているなら、その方法を教えてほしいくらいです。……ヨシュカさんも、その様子だとわかっているようですね」


 すぐに答えていいものか悩むと、ライラの視線で気付いたフェルセが、手を上げて使用人たちを退室させた。


「本来さけなければいけないような、広めたくない方法なのですか?」

「いえ、方法自体は……血を少し飲めば顔色もクマも改善すると思います。血が苦手だから口にしたくない、とかでなければ……。吸血族の体質みたいなので」

「吸血族の体質がなぜ……」


 イヴァレラ家は皆エルフだ。両親がエルフだったのに、フェルセが他の種族の体質をもっているとは思っていなかった。方法自体よりも、自覚がない場合を考え使用人の前で混血だと思わせるような発言をためらったというのはわかったが、心当たりがない。


「一部の体質だけで、種族はエルフですけど。あ……えっと、顔色だけで病気ではないと聞いていたので……。吸血族の体質みたいって……」


 鑑定しても種族はエルフとしか表示されない。病気を心配して勝手に解析までしましたとは言えないので、中途半端にごまかしてしまったけれど、少量の血液で改善することは本当だった。


「えっと……血液の錠剤、試しに飲んでみますか? 液体のままでもいいですけど……慣れていないなら錠剤のほうが味がしないかも……」


 じっと見られて落ち着かないので、ライラは使い道のなかったシーサーペントの血液を少しだけ出してみる。一部は錠剤の形状にして、一部は予備のグラスに注いだ。


「毒がない状態の血液なら、魔物でも動物でもなんでも……吸血族は家族同士で少しずつ交換することもあるみたいです」


 少量で足りるため殺す必要はなかった。自分の血液以外で、自分にとって毒になるものさえ入っていなければいい。


「あの……」


 ライラは反応がないことで不安になる。

 黙ったままのフェルセたちは、血に嫌悪感はなく、半信半疑で何を言えばいいかわからなかっただけ。用意された血液を見て、この機会に試してみるべきか考えていた。


「……改善する可能性が少しでもあるなら、試してみよう」


 フェルセの声でグラツィアが立ち上がり、ライラの用意した錠剤とグラスを運ぶ。

 血をかためた料理だって知っているのだから、フェルセは味が悪くても想像の範囲内だろうといったところまで考えて、その料理を食した時は改善したかどうかまでは思い出せなかった。

 とりあえずすぐにでも効果がありそうな、グラスに注がれたそのままの血液を飲んでみた。


「思ったよりしょっぱい」


 つい本音が漏れた。フェルセは味の濃さをごまかすようにワインを飲む。


「お兄様の顔色がっ……」


 グラツィアが口元を押さえて目を見開いた。顔色が悪いほうが見慣れているはずの兄の肌は、自分やコラードとあまり変わらない状態へ変化していったのだ。

 飲んだばかりで効果が出たことにも驚く。

 鏡を取り出して、フェルセ自身にも見てもらった。


「クマがないお兄様って違和感が、いえ、安心しました」

「顔色も……ここまで早く変化するなんて」


 吸血族が血液を摂取した時も、食物の消化吸収と違い、飲んだ血液をそのまま吸収するもの。肉や野菜も他の種族のように食べられる。今までの食事でも生死に関わる問題はなかった。


「本当に吸血族の体質だったみたいですね……」

「病気じゃなくてよかったです」

「これで、病弱そうと不安がられることもなくなります。でも……どうして……」

「ご両親がエルフでも、何代も前に混ざった種族の特徴が引き継がれることはあります」

「離れていれば離れているほど、確かめることが困難ですね」


 体質だけでハーフエルフというわけでもなく、親の不貞が疑われることもなければ、フェルセがエルフではないと誤解されることもない。鑑定石を使ったとしても、種族はエルフと表示される。だからこそ本人や家族はエルフ以外の体質だと考えなかったのもあるが。


「気付いていただけて助かりました。錠剤の状態で買い取らせていただくことは可能ですか?」

「はい、保存用の樽で用意できますよ」

「樽って……」


 ぽかんとしたコラードが、急に吹き出して笑ってから咳払いでごまかした。




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