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エクレール王都神殿。再会とカレーライス

 無事に到着したエクレールの王都神殿で、ライラたちはオスカーと対面した。


「オスカー、ひさしぶり――」

「ライラ様お久しぶりですー!」


 オスカーがライラにじゃれついて腹に抱え込み、わっさわっさ尻尾を振っている。

 人払いをしているとはいえ、初対面の者もいるというのに、神獣の威厳は相変わらずない。


「ライラでいいって言ったのに」

「ライラ様はライラ様なんですー! あーこの匂い癒やされます……前よりもずいぶん……」


 大きな舌先でライラの頬を舐めて、満足そうにすり寄った。

 ライラは初めて会った時に言われたように接しているが、オスカーが話し方を変える気はないようだ。態度は遠慮がないけれど。

 カイが無言で尻尾の毛を掴み、動きを止める。

 ヨシュカはとりあえず溜息を吐いておいた。


「……他の者もいるんですから、少しは落ち着いてください」

「いいんですー」

「よくないです」


 特殊転移者であるレンの話をするために連れてきたのに、最初から神獣らしさ皆無では不安になる。


「……もう今更オスカー様の態度について何か言うのも面倒なので、詳しくはチェルハイデア様から聞いてください。レンの……特殊転移者の登録だけは忘れずお願いしますね」

「今のうちにやっちゃいますよ。あ、他のみなさんは離れてー」


 オスカーは前足をくいっと動かして、床の一部に神気を流す。


「円の中に入ってくださいー。光が消えたら終わりなので、動かないで待っていてくださいね」


 おとなしくレンが指示に従うと、勝手に話を進めていく。


「貴方の個体情報を修正登録していくだけなので、名称が変更されても肉体や能力の内容自体が変わったりはしません。属性的に、特に制限されることもないと思います。終わったら正式な身分証の発行もできますよ」


 真面目に話していても、ライラを離す気がないせいで、オスカーから緊張感が感じられない。

 レンは、自分が受け入れられないのではといった不安は薄れたけれど、頼りにして大丈夫なのかという不安が出てきた。力は感じ取っているので、神獣だと言われて疑いはしないが、想像と違う。


「あとは今日の夕食ですよねー。何かご希望ありますか? あ、えっと、今日は神殿に泊まって行きますよね? すぐに帰るとか言わないですよね?」


 オスカーがヨシュカとカイの顔色を交互にうかがう。


「レンを連れてきただけで放置はしませんよ」

「あー、前はできなかった王都観光もあるしな……」


 ヨシュカとカイは、オスカーではなくライラの希望に従うつもりだ。


「王都で売っておきたい素材もあるから、ギルドに行ったり、お店見たりしたい」

「何日でも自由に神殿の部屋を使っていいのでゆっくりしていってくださいー」


 毛玉にならないか心配になるほど、もしゃもしゃとすり寄られてライラが埋まる。


「オスカー、く、くすぐったい。痛くないからいいけど……」

「ご、ごめんなさい」


 謝るけれど、まだまだ離す気はなかった。







 次の日になって、ライラは冒険者ギルドへ行った。

 ルクヴェルに持ち帰る分を残して、素材を換金する。解体は先にしてあったため、査定だけで解体を待つ時間はない。

 ギルドを出たところで、ジルベルトに声をかけられた。


「オレを探しに来てくれたのかい、純白のお姫様」

「違います」

「君に会えない時間は、色のない世界へ閉じ込められたようだった」


 ジルベルトは相変わらずコスプレ勇者に見える格好で、発言も外面仕様だった。


「どうして王都に?」

「オレの助けを求める声がしたからね」

「お仕事ですか……お疲れ様です」

「君を見ているだけで癒やされるよ、オレの女神様」


 ライラの頬に挨拶代わりの軽いキスをして、耳元に口唇を寄せる。


「お願い、本気で心配そうな顔しないで……心が痛い」


 小声で弱音が漏れた。

 癖にまでなっているはずの外面もそろそろ限界らしい。


「部下に鼻で笑われるより、本気で心配されたほうが辛いよ……」


 心が折れる前に移動したほうが良さそうだ。


 ライラはジルベルトの案内で、試しに売り始めたばかりだというカレーライスを食べに行くことになった。

 薄く焼いたパンで食べるカリーの店は以前からあるけれど、カレーとしてメニューに並ぶのは、ジルベルトの商会があるポルトでも一軒、王都で一軒。米は黄色で硬めだが、エルフ米の入荷が安定すれば白米のカレーライスも出す予定だという。

 店の個室に入ってすぐ、ジルベルトは大剣を下ろした。


「ケルミスでもカレーライスを扱ってくれる店があるといいんだけど。まだお試しだから、それでもいいって人に心当たり……あったりしない?」

「……アキツキシマ料理のお店なら」

「アキツキシマ料理って、普段はスパイス系あまり使わないと思うけど、平気?」

「たぶん、喜んでくれると思います」

「ケルミスまで一緒に来て……あっ! 別件の依頼も引き受けてくれる? さっきギルドで頼もうと思った、屋台の護衛!」

「……屋台?」

「マヨネーズの売上を伸ばそうと思ってて、たこ焼きを売りたいんだ。王都の鍛冶屋に頼んでた鉄板は完成したから、王都、ポルト、ケルミスで売ってみて、港の名物になればいいなって思ってる。黒ソースも合うやつが見つかったところだし……」


 見た目がショウユに似たサラサラの黒ソースではなく、とろみのある黒ソースを使う予定だ。


「お好み焼きの話聞いて、港町ならたこ焼きだ! ってね。移動中の護衛を主に依頼したい」

「お父様に相談してからでもいいですか?」

「もちろん! ヨシュカさんの勧誘も諦めてないから、連れてきてくれると嬉しいよ。返事は王都の支店か……先にギルドで指名依頼出しておけば断られてもわかるかな」

「あの、ジルベルトさんに念話石を一つ預けておきます」

「は? え? いいの!?」

「もし依頼受けられなかった時に、早くわかったほうがいいですよね」


 今日のうちにギルドへ依頼を持ち込むつもりだったなら、ライラが返事を待たせた分だけ遅れることになってしまう。


「助かるけど、いいの? オレ声が聞きたいだけでも連絡するよ? なんなら魔力切れするまで長電話するよ?」

「電話じゃない……じゃなくて、えっと……その時は没収します」


 渡したせいで体調を崩したら申し訳ない。


「料理の話に夢中になって、無理したらだめですからねっ」

「うっ……本気の心配が刺さる……」


 ジルベルトが、落ち込みながら念話石を服に隠したところで、カレーライスが運ばれてきた。

 少し黒カレーに近い濃厚な香りと味がして、胃を刺激する。


「この、胃がたまにチクチクする感じと、ちょっと苦味が残るところを改善したいんだよね」


 試しにとはいえ、売っても大丈夫だと思えるくらい美味しい仕上がりになっているが、さらに良くしたいと考えていた。


「チクチクっていっても、辛いからこのくらいは……」

「痛いほど辛いってわけじゃないでしょ?」

「そうですけど……このままでもおいしいです。苦味は……」


 実物が目の前にあるので、ライラは直接調べながら書庫で検索していく。


「苦味を出してる香草を、カルモ? っていう香草で代用するといいかもしれません」

「扱ってはいるけど、カレー向きじゃないと思ってた」

「胃痛も解消されると思いますよ」

「王都にいるうちに、今夜にでも作ってみようかな。ケルミスに持ち込む前に改善できたら、同じお試しでも喜んでもらえそうだし」

「……あと、香草を変えなくても、タマネギ炒めすぎかもしれません」

「……調理法については、店に伝えておく」







 神殿へ戻ってすぐヨシュカたちに相談して、ジルベルトの依頼を受けることにした。

 ジルベルトへ連絡して依頼を出す前に日程も話し合い、明後日から王都でタコ焼きを売ることに決まる。

 まだ珍しい鉄板を使うから街でも護衛するという名目で、試食しながら売り子も手伝ってほしいと言われた。

 次はポルトの予定だったが、先にケルミスまで行くことになった。売る順番が違っても、最後はポルトの商会まで屋台を運ぶ予定だったので、早めにケルミスでカレーの交渉もしておきたいらしい。


『明日の朝には依頼を出しておくから、ギルドで受けてもらえる?』

「わかりました」

『来てくれるの楽しみにしてるし、ライラはタコ焼き楽しみにしててね!』


 念話石の淡い光が消えて、声が聞こえなくなる。

 ライラの頭を撫でながら、ヨシュカが落ち込んだ様子で溜息を吐いた。


「俺もカレーライス食べたかったな……」

「つ、次はお父様も一緒に、ね? えっと……ご、ごめんなさい」

「謝らなくていいよ。……おいしかった?」

「うんっ」




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