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ギルドの食事。テナイル山

 冒険者ギルドへ、指名依頼の達成を報告に行く。

 視線を集めるライラたちは、暑さを理由に軽装だ。

 ライラとリュナは、途中で買ったキャミソールワンピースに、一応ショートパンツを履いている。日差しを避けるため、薄いストールも身に着けているが、防具は収納してあった。

 カイがラフな格好なのは相変わらずと言っていいけれど、ヨシュカもタンクトップに昨日の派手なシャツのパンツスタイルで、魔法職らしさは皆無だ。

 同じようにサウラも軽装で、肌も長い耳も一切隠していない。インディーシアでは褐色の肌なら多く見かけるが。

 注目される中で無事に報告を終えて、酒場で昼食をとることにした。奥の席では同様に防具を外して寛ぐ冒険者の姿もあったが、カイのように派手な前開きシャツで開口一番「火酒ロックで」とか、強い酒を飲むようなことはしていない。依頼で外へ行く前に腹ごしらえしている程度の客ばかりだった。


「私は果実酒の……サテャ?」

「ナシゴレンってなんですか?」

「頼んでみればわかるよ。俺は……」

「あっ、私も食べてみたい」

「ハンバーガーとパンケーキ! なのですっ」


 うきうきしながら注文していく。


「ロミモンのマリネ? あと、日替わり塩釜焼き」

「ごめーん、今日の塩釜焼きの魚、人族は食べないでくれにゃ」


 猫獣人の店員が、ヨシュカの注文を聞いて忠告してくれる。


「ショリャワだったら人族も食べられるから、どう? 香草塩とバターで焼くんだけど、塩系だったらこっちもオススメにゃ」

「ありがとう……うん、そっちに変更で」

「ほい、りょーかいにゃ」


 途中から三本に分かれた尻尾を振って、店員が厨房へ入っていく。


「嬢ちゃんが渡し舟のチケット預かってたよな? 食べ終わったら島に向かう? それとも、薬草探しがてら依頼受ける?」

「カイが飛べそうなら、薬草が先かな? シイシャラは、テナイル山まで行ったほうが確実って……」


 寄り道した薬師ギルドでの話を思い出しながら、食事の後の予定を考える。


「あーそういや飛ぶのきついって言ったような気が……ああ、そろそろ二日酔いも抜けてきたから、飛べる」

「よかった。ありがとう」

「ったく……果樹園みてえな感じで、育てときゃいいのにな」

「俺が試した時は、失敗したからね……。森の中で、火精霊の痕跡がないと、実が育たないんだ」

「火精霊の痕跡?」

「そう。だからどこでも入手できるってわけじゃない。でも、実る場所にはまとめて実るって感じだから、生えてるところを見つければ、量の心配はないかな」

「火精霊がいる森ってことは、村があったりするの? 前に、工房の窯から生まれた子がいて……」

「ああ……ええと、近場だとそれもあるね。テナイル山の場合は、火山だから」


 話している間に飲み物が運ばれてきて、強い花の香りが漂う。注文したのは火酒と果実酒、リュナ用の果実水と、花を連想する品はなかったはずなのに。

 ライラが首を傾げている間に、ヨシュカとカイは気にせず飲み始める。


「ねえ、お父様、この匂いって……」

「え? ああ、花氷? そういえば、今まで飲んだものには入ってなかったっけ……熱中症予防みたいなものかな。薬草の花が使われていて、氷から香りがしているんだよ」


 説明を聞いて、サウラとリュナも一口飲んでみる。

 ライラも改めて香りを吸い込んでから、果実酒を口に運んだ。果実の爽やかな香りに、カサブランカのような強い香りが混ざって、体を満たす。直接冷える喉だけでなく、体全体の力が適度に抜ける心地よさがあった。


「いくらでも飲めそう」

「ライラ、いくらでもはやめておこうね。これから薬草探しに行くんだろ?」

「おいちゃんも酒飲んだら完全に二日酔い治ったわー。とりあえずおかわり」

「カイも飲み過ぎないで。酔っ払いの背中にライラを乗せたくない」

「えー大丈夫だって、二本くらいなら変わらねえよ」

「二杯じゃなくて二本って時点で不安なんだけど」


 ライラとカイに酔いつぶれるほど飲む気はないし、ヨシュカもわかっているから、お互いに笑いながら言い合える程度の冗談だ。

 実際には、食事に合わせた水代わりのワインといった量で済むだろう。

 サウラにとっては火酒一本くらい、水と変わらない。


「カイさんなら本当に平気じゃないですか。火酒の一本や二本、気分が良くなる程度で」

「酒より肉にしろ、なのです!」

「ハンバーガー来るまで待とうねー」


 カイはリュナの頭を撫でてから、取り皿の準備をしておく。サンドイッチ感覚で食べられるハンバーガーと違い、インディーシアのハンバーガーは大きい。いや、大きいというか、厚みがある。

 順番に運ばれてくる料理を見て、リュナが目を見開いた。嬉しそうでもあり、驚いて戸惑ってもいる。頼んだハンバーガーは、持って齧れそうにない。


「……おいちゃんが切るの手伝う?」

「じ、じぶんでやってやる、なのですっ……」


 ライラとサウラは、真っ赤なナシゴレンを見て驚いていた。とにかく赤い。リゾットのような赤い何かに、複数の野菜をトマトで煮たものが添えられ、乗った目玉焼きまで赤い。黄身が赤身という状態になっている。唯一、白身がほんのりオレンジ色なだけだ。


「辛いのかな……」

「甘そうにも見えますけどね……」

「はっきり覚えてないけど、ナシゴレンってこういうのじゃなかった気がする……」


 取り皿に分けて食べてみると、辛くて甘かった。ただ、辛すぎるわけでもなく、甘すぎるわけでもなく、見た目が派手に真っ赤なわりに、美味しい甘辛料理だった。初めて見る者にとって珍しいだけで、インディーシアでは普通の料理だという。


「おいしいけど、口の中も真っ赤になりそう」

「着色料じゃないから、残らないと思うけど。あ、この香草塩、好みの味だ」

「私も食べるっ。ショリャワは白身魚だったんだ……見た目が」

「食感は肉っぽいですね」


 料理を味わっている途中で、突然リュナが声にならない声をあげ、テーブルを叩いた。


「……マリネの酸味が強すぎたみてえ。ほら、果実水飲め」

「っ、んー!」


 リュナは果実水を飲んでも、まだ涙目でぷるぷるしている。


「リュナ、大丈夫? お水のほうがよかった?」

「とりあえず両方頼んどくか?」


 追加注文しようと店員に視線を向けたところで、ちょうどパンケーキが運ばれてきた。


「おまたせ……あれ? タイミング悪かったかにゃ」

「むしろ助かった。果実水同じものと、水頼む」


 カイがパンケーキを受け取って、生クリームからリュナに食べさせる。

 これでもかと山盛りになった生クリームのうち、半分ほど食べたところで落ち着いた。

 ライラたちも皆一安心して、食事を再開する。全てたいらげて食休みまでした後、のんびり掲示板を見に行った。







 テナイル山に到着したライラたちは、依頼書の写しを確認しながら探索する。目的はシイシャラだが、他の薬草採取と、魔物の討伐依頼を受けていた。魔物に関しては、討伐自体というより、肉の納品のほうが重要だった。

 火山といっても今は静かなもので、険しくもない。あえて人気のない依頼を選んだけれど、難易度が高いわけではなかった。残っていたのは、山までの距離と、途中にある砂漠を面倒だと思う者が多いのだろう。

 探索を始めてからは、わりとすんなり目的を達成することができた。それでも、夜になってしまったので、今夜は山で一泊することになる。


「ご、ごめんなさい、なのです……」


 シイシャラの実が、探しているものとは違ったため、リュナが落ち込んでいた。


「気にすんなよ。遊びに……じゃなかった、修行に来たと思えば、な?」


 カイが慰めながら、焼いた肉を切り分ける。

 納品分より多く遭遇したため、自分たちが食べる肉も確保してあった。肉の納品を求められるだけあって、ただ焼いただけでもかなり美味しい。


「インディーシアに来てよかったっ……」

「ほれ、嬢ちゃんも全く気にしてねえだろ」

「あ、ありがと……なのです……」


 肉に満足するライラはもちろん、他の誰もが無駄足だったとは思っていない。皆それぞれに、インディーシアを楽しんでいる。


「いっぱい食べて元気出して。王都に戻ったら、またいっぱい遊ぼう」


 ライラの笑顔に安心して、リュナは力いっぱい頷く。思いきり肉にかぶりつき、いつもの調子を取り戻していった。

 ふとヨシュカが首を傾げ、顎に手を当てて何かを考える。気付いたカイが、そっと距離をつめた。


「どうした?」

「ん? ああ……リュナちゃんが探してるもの、次に可能性が高いのってシザシャなんだよね? 死者蘇生薬でも作る気なのかなって」

「は?」

「作っても効果はないよ。同じ魂は戻ってこないからね。ただ、以前見た……死者蘇生薬の材料と重なるなって思って……。別の薬もあった気はするけど」

「幻獣化の秘薬、そっちだと思ってる」

「材料が足りないから、もしそうなら……また失敗するんじゃない? 心配だね……」


 必要なら不足する材料を提供することも考えるけれど、何を作るか確定しないうちに渡すのもためらわれる。修行で旅をするために集めるだけで、使わない可能性もあるのだ。


「任せるしかないか――」


 話を終わらせようとしたところに、突然大きな音が聞こえてくる。

 警戒していた範囲より少し離れた場所のようだ。ライラの結界もあるため、簡単に襲われることはないけれど。

 木に何かが激しく擦りつけられるような音と、連続する爆発音が続く。離れていても聞こえる大きな音は、誰かが戦っている音だった。少しずつ近付いているのがわかる。

 身構えたまま火を消して、全員で気配を隠す。

 先にライラとサウラが走り出し、状況を確認できる距離まで駆け寄った。

 巨体の魔物に苦戦する、五人組の冒険者らしき姿が見える。


「お邪魔します」


 場合によっては獲物の横取りになってしまうので、サウラは一声かけてから弓を構えた。


「大丈夫ですか?」


 ライラは五人に向かって、回復魔法を使う。

 五人が驚きながらも体勢を立て直すと、巨体の魔物はすでに頭を撃ち抜かれていた。


「……突然手を出してすみません。なるべく原型を残したつもりですが……目的の部位は回収できそうですか?」

「あ、いや……討伐対象じゃねえから」


 呆然とした顔のまま、狼獣人の男性がサウラを見る。


「おれたちはいきなり襲われただけで……あ、その、助かったぜ、ありがとう」

「採取依頼なのにひどい目にあったにゃ。こいつ夜は寝てるはずなのにゃ。感謝するにゃ」


 猫獣人の女性は、ライラに抱きついて尻尾を揺らしていた。

 他の仲間たちも感謝を伝えて、採取作業に戻ろうとする。夜間にしか開かない花を、開花状態で採取しなければならないので、急いでいるという。


「今はちゃんとしたお礼もできなくて、ごめんなのにゃ。せめてその魔物は売っぱらって好きにしてほしいにゃ」

「おれたちが倒したわけでもねえのに、それじゃ礼にならねえだろ……運ぶのだって面倒だしな」

「うう、ごめんにゃ……プーシャトに戻ったら、冒険者ギルドからお礼送るにゃ」

「もしプーシャトに滞在するなら、直接奢らせてくれ」

「プーシャト?」

「ここから一番近い砂漠の街にゃ!」

「しゃべるダンジョンとかあって、けっこうおもしろいところなんだぜ」


 ライラはメイの他にも会話するダンジョンがあるのかと驚いたが、今は口にしないでおいた。

 五人組を見送って、カイたちのところへ戻る。

 何があったのかを報告しながら、喋るダンジョンに行ってみたいと考えていた。


「プーシャトに寄っても平気かな……」

「王都までの移動時間は、カイのおかげで短縮できてるから。納品期日もまだまだ先だし、平気だと思うよ?」

「ダンジョンに行ってもいい? 喋るんだって」

「……転生転移者のことかな」




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