表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
115/335

村までの護衛?

「ちゃんと指名依頼を受けてくれて良かったよ」

「フェルさんの伝言もあるからって、ベルナルドさんに怒られました……」


 ライラが村への同行を決めたあと、フェリックスは冒険者ギルドを通して指名依頼を出していた。ケンタウロス族の村までの護衛依頼だ。サウラにも依頼として話を通してある。


「ちょっと怖かったんですよ? 『おまえは知人ならあれこれ全部無償でやる気か』とか、『タダでやる人もいるのに、なんて言い出すやつが増えたらどうする』とか。もちろん、間違ってないので私が悪いんですけど……」

「あはは、ごめんね。でも、ライラが『自分も遊びに行きたいだけだから受け取れない』って言うから、説得してほしいってお願いして正解だったよ」


 フェリックスのところへ、出発前に手続きをしていたカールが戻ってくる。今回は三台の馬車で、カールの他に二人の商会関係者が同行することになっていた。護衛もライラだけでなく、いつもフェリックスが依頼しているグライフたちが一緒だった。


「おい、フェル、終わったからいつでも出れるぞ」

「仕事中だよ、カール」

「っと、悪い……すみません」

「うん。それじゃ出ようか。今日はノルベルトにも護衛に専念してもらって、カールたちに御者をしてもらうから。森に入ったら、先頭の馬車をノルベルトにお願いすると思うけれど……ああ、ライラはカール以外の二人とは初対面だったかな? 左がシュセ、右がカランだよ」


 フェリックスに紹介されて、人族のシュセと狐獣人のカランが頭を下げる。二人とも商人向きの、接しやすい温和な雰囲気だ。意図的な愛想笑いも含まれているが、少し見ただけなら自然な笑顔に見えた。


「……カールって商人っぽくなかったんだね」

「いきなりなんだよ……」


 不満げな顔を隠さないカール自身、外面を取り繕うのが苦手だという自覚はある。


「今更おれに愛想よくしてほしいのか?」

「心配するから、しなくていいかな……」

「だろ?」


 ライラとカールが小声で話している間に、フェリックスは馬車に乗った。


「カイさんも乗りますか?」

「んー、リュナも歩くって言ってるし、乗らなくていいかなあ」

「できればリュナちゃんにも依頼を出したかったんですけどね……すみません」

「護衛依頼は受けられないし、しゃあないだろ。おいちゃんはライラの護衛だから関係ないってことで。まあ、一応ギルドでも、見学してリュナの経験にはなるだろうからって話してあるし、いいんじゃねえ? そっちの義務でもねえのに、食事は任せるわけだし。気ぃ遣わせて悪いな」

「せめて、それくらいはさせてくださいよ」


 ゆっくりと馬車が動き出し、門をくぐる。

 門番に見送られて、ケンタウロスの村へ出発した。





 出発したのだが、二時間ほど進んだところで問題が起きた。馬の機嫌が悪くなり、立ち止まってしまった。

 馬と翻訳されているけれど、それは役目や扱いが近いだけで、体の一部に鱗があるなどライラの記憶と違いはある。

 今は薄緑色のたてがみを揺らして、不機嫌そうに唸っていた。

 一番機嫌が悪いように見える先頭の馬へ、ライラが一切身構えずに近付く。


「どうしたの?」

『え、なに?』

「驚かせてごめんなさい。どうしたのか心配になって」

『心配は、嬉しいけど。……伝わるなら、お願い。もっとはっきりして、って言ってやってよ』

「はっきり?」

『そう。おっかなびっくり引っ張られたんじゃ、困るよ。痛いし、どっちに行けばいいかわかりにくいし。ずっと我慢してたんだ』


 助けを求めて、馬がライラに擦り寄る。唸り声は不安そうなものに変わった。

 ライラは馬にリンゴを与え、頭を撫でて機嫌をとっておいた。


「カール、手綱の引き方が弱くて、指示がわかりにくいって。痛いしわかりにくいから、はっきりしてほしいみたい」

「は? 弱いのに痛い? 今でも痛いのに、強く引いて平気なのか?」

『嫌なとこ当てるのやめてよ』

「変なところに当たって痛いだけだから、ちゃんとしてくれたら大丈夫ってことみたい?」

「わ、わかった」


 それから他の馬にも声をかけると、前の馬車が速くなったり遅くなったりするから警戒してしまい、疲れているらしい。


『ついでに、腰のあたり、ちょっと直してくれる?』

「腰?」

『感触が、いつもと違う気がするの。体じゃなくって、くっついてるところ』

「フェリックスさん、腰のあたりの留め具って、直せますか?」

「ああ、それならカランにやってもらうよ」


 頼まれたカランが調整すると、馬は嬉しそうにカランを見た。機嫌も治っている。もともと怒っていたというより、警戒心からの気疲れや、戸惑いからくる疲れと、普段との違いなどが重なって困っていたようだ。

 フェリックスもほっとして、ライラにお礼を言った。御者専門の者もいるが、一通り自力でもできるように、三人に練習させていたという。


「ライラがいてくれて助かったよ。そろそろ大丈夫だと思っていたのだけれど、慣れが足りないね」

「……あの、ノルベルトがいいって子がいるんですけど、どうしますか?」

「……もう少し、我慢してもらえるかな」


 やたらとノルベルトに懐いている馬は、「なんで今回は歩いてるのか」と伝わらない文句を訴えながら、ちらちら視線を送っていた。







 ライラが馬たちの苦情受付係をしつつ、なんとか無事に森の手前までたどり着いた。

 馬車を停め、テントや食事の準備を始める。

 薪を作って乾かすライラに、シュセが興味を持った。


「あの、魔力の微調整ってどういう感じでやっていますか? 温めすぎて燃えたりしないんですか?」

「風魔法だけなら、燃えないと思います。今は時間短縮に、火系統の魔力も使ってま――」

「二種類の魔力? 簡単そうにやっていますけど、魔導具みたいなことを自力で?」

「え、あの、あまり意識は――」

「精霊族だからですか? 精霊族には魔力の使い方が上手い種族が多い、とは聞いたことがありますけど」

「それは、わからないです」

「魔力が少なくてもできる方法って知っていますか?」

「詳しくは……あっ、例えば、水魔法の感覚で中の水分を外に出すとか……? 操作は大変かもしれませんけど、消費は減らせるかも――」

「発生させるんじゃなくて、存在する水を操る系統ですね」


 見開いた目を輝かせて、シュセはライラに詰め寄る。

 フェリックスが困った顔でとめに入った。


「そのくらいで終わりにしなさい。ごめんね、ライラ。シュセは魔法の話になると長いから……」

「もう少しだけ!」


 シュセは魔力が少なく、自分で使うことはあまりない。だからこそか、それなのにと言うべきか、魔法が好きで興味を持つと話が長いのだ。


「適正が風系統でも少ない魔力で実践できる方法があれば――」

「困らせてはいけないよ」

「うう。できるようになったら便利だと思って。すみません」


 謝るシュセの頭はフェリックスに向けて下げられているのに、視線は諦めきれずライラへ向けられる。

 近くで周囲の警戒をしていたサウラが、ライラに声をかけて首を傾げた。


「風自体を温風にするためには、火系統も必要なんですか?」

「私は蒸発させるのに火系統かなって思っただけで、乾かしたいってイメージで使ってるから……」

「複数に適正があると、細かい意識って必要ないんでしょうか?」

「習ったわけじゃないから、私も詳しくはわからない」

「え? あの、え?」


 シュセがぽかんと口を開けたまま、ライラとサウラを交互に見る。


「よ、よくわからないのに使っているんですか?」

「はい……ごめんなさい」

「オレも基本的に習う相手がいなかったというか、周りも適当だったというか……。特に姉貴は、感性だけの力押しでしたからね……」


 ライラもサウラも、シュセが望む回答を返せそうにない。

 いつの間にか、側でノルベルトが笑いを堪えていた。


「しょ、食材の準備が終わったみたいだって、伝えに来たんだけど……」

「ノルベルトさんはどうして笑いそうになってるんですか」

「シュセさんの反応が面白くて……あと、サウラの姉さんを想像して」

「姉貴を笑うなんて失礼な、と言えないのが悲しいですね」

「ま、感性だけの力押しってのは、冒険者にも多いからな。気にす……気にするな」

「まだ笑ってるじゃないですか」


 笑い合うサウラとノルベルトの間で、取り残されたようにシュセが落ち込んでいる。


「勉強すれば使えるようになるかもって、勉強しないと使えないのかなって考えていたんですけど……」


 しょんぼりしつつ、乾いた薪を運ぶ。

 残すは煮る工程だけとなった鍋を火にかけ、一息ついた。







 夕食を皆で囲みながら、グライフたちにも話を聞く。酒は飲まないようにしているので、果実水の甘い香りと、スープの香りが漂っていた。


「魔法の話?」

「うん。普通は習ったり、修行したりするものなのかなって。本もあるみたいだから」

「飛べるのは生まれつきっす!」

「一応、飛行訓練くらいは幼少期にやらせるが……使うこと自体は自然とできるものだな。歌も、以前はほとんど意識していなかった」

「使おうって思えば使えるっす!」

「オレの獣化も魔力消費はするけど、魔法って言えるかわからないから、参考にならないな」


 種族によって当たり前のもの、生まれつきのものもあるため、わかりにくい。


「結局のところ、個人差としか言えないわけですか……」

「得意な系統を調べ、魔力操作、魔力制御など扱いから学び、適正に合った魔法を習得して練習する者もいるから、勉強することが間違いとは思わないが」

「ありがとうございます、グライフさん。まあ、向いてないってわかってるから商人になったんですけどね……」


 シュセはただ、今でも憧れているだけのようだ。

 それにしても、この場にいる者が参考にならなさすぎた。


「竜族のブレスが一番わけわかんないです……」

「おいちゃんをジト目で見るのやめてくれるー?」


 口から放っているだけで、一応魔法に分類されているのに。


「魔法なら手から出してもいいじゃないですか!」

「力の流れ的に、口からが一番楽っつーか。まあ、だから、おいちゃんだって力の流れくらい意識してるよ?」

「そうですか……」


 特殊個体のワイバーンが、魔法でなく口内の器官から火や毒を吹くこともあるらしいが。何にしてもシュセは口から吐く気はないし、体の器官から変えるつもりもない。


「精霊魔法は相性もありますから、これも参考にならないですね。……そういえば、里で魔法の適正ってどうやって調べたか……もしかしてオレが使いやすいと思ってるだけで……」

「え、覚えていないんですか?」

「何十年前だったかも思い出せなくて……すみません」

「くっ……」

「ただ、魔法に関する本があるくらいですから、練習したり、勉強してる人のほうが多いと、たぶん、思います」

「サウラさんの慰めが痛いです……」


 慰めでもなんでもなく実際に本から学ぶことも多いのだから、共通語の呪文や詠唱が浸透しているところもあるのだけれど。


「問題は魔力増やすところからじゃね――っ、近付いてるな」


 カイは森に視線を向けて、めんどくさそうな顔をした。


「結界の中には入れないけど、追い払ったほうがいいかな?」

「んー、嬢ちゃんは待って。リュナ、あれが明日の朝ご飯だよー」

「いってくる! なのですっ!」


 肉に目を輝かせたリュナは、カイが指した方向に真っ直ぐ走り出す。


「ちょっと、カイ!」

「心配ない数だから、つい」

「護衛の仕事をとらないでほしいっす!」


 心配したライラと、護衛の役目を無視されたアドラーが、カイを責める。

 グライフとノルベルトも、アドラーのように責めたりはしなかったけれど困っていた。

 影に追わせたサウラが、自分も行ったほうがいいのかと口にする前に、森から魔物の断末魔が聞こえた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ