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サルテリシアの冒険者ギルドへ

 身支度を整え、朝食にと用意された果実を食べる。昨夜は見なかった品で、見た目はスイカ、中身はメロンのようだった。マスカットのような、甘いのにさっぱりした香りもある。大玉スイカほどの大きさがあれば、ロプス族でも食用として丸ごと食べるらしい。


「リュナの果実水も同じ味?」

「うめえ、なのです」

「メロカが気に入ったなら、食べきれなかったものは持ち帰るといい」


 一房そのまま置かれていたメロカという果実を、コルフが一つずつバラバラに外していく。

 ライラは一つずつになったメロカを収納して、お礼を言った。


「実は、他に受け取ってもらいたいものがある。運べる量に、空きはあるか?」


 コルフが話題をきりだしたところへ、村長が来た。

 村長は持っていた包みを開き、ライラたちに中身を見せる。


「我々は、この鉱石が、病の原因ではないかと考えている。貴女のおかげで今は浄化されているが……村に運ばれてきた時は、黒い鉱石だった。忌避感がなければ、受け取ってほしいと思っている。恩人に押し付けるようなまねをしてすまない。しかし、このまま村に置いておけば不安に思う者も多いだろう。どうか――」

「おい、それ、石じゃねえよ」


 無表情のカイが、黒い鉱石だと思われていたもの、今は緑がかった淡い金の塊を見て指摘した。


「竜の鱗だったもの、だ」


 まさか魔国の山にまで落ちていたなんて、と思いながら、顔には何の感情も出さない。ライラとの繋がりを意識してロプス族の言葉を聞き取るだけのつもりが、思わず口を挟んでしまったくらいには動揺しているが。


「不安なくらいで手放すには、惜しい素材じゃねえか?」

「それは……。村に置いておくことを拒む者がいたのも事実だ。しかし、我らが礼として差し出せる品も他にない」


 黒い病の原因かもしれないという、恐ろしさはある。けれど、すでに浄化された今では、ただの貴重な素材でしかない。万が一、僅かにでも病んだ魔力が残っているなら、浄化を頼めばいいことだ。


「村で加工してから渡すには、時間も必要な上、望む仕上がりを保証できない。礼だと言いきるにも失礼なこととは承知で、受け取っていただきたいと思っている」


 ロプス族は鍛冶技術に自信を持っている。ただし、それは同族か、似た体格の種族を相手にした場合だ。ライラたちが使いやすい品に加工できる保証はなかった。

 変質した竜の鱗だと知っても、そこまで貴重な素材を加工できる種族が他に存在するかわからなくても、素材のままで渡すほうが良いと判断していた。


「わかりました。受け取ります」

「嬢ちゃんは考えてから答えてる?」

「うん」

「……それならおいちゃんも賛成しとくわ」


 サウラとリュナも反対しない。むしろリュナは自分の武器にしてみたいと言い出した。

 とりあえず使い道は後回しにして、ライラは受け取った竜の鱗を収納する。


「それと……」

「あ? まだ何かあんのかよ」

「実は、家の前に……酒や肉、野菜や果実などが届いていて……ああ、毛皮もあった。旅路の迷惑にならなければ貰ってやってほしい。村人個人からの贈り物だ」


 好きなだけ、というより運べるだけ持ち帰ってくれと頼まれ、村長の家を出て品物を回収していく。家の前は祭りかというような騒ぎで、収納が終わるまで感謝の言葉を繰り返された。







 サルテリシアに到着したライラたちは、移動の疲れがあったけれど冒険者ギルドへ向かう。

 サウラは何年前に作ったかも忘れた冒険者証を持っていて、街に入る時はタグを見せるだけで良かった。けれど、門番から「ちゃんと更新するように」と忠告を受けてしまったのだ。


「オレの都合ですみません……」

「気にしないでください。買い取りを頼みたいものもあったので」

「ああ、オレはいくつか換金しようと思っていますが、もし今すぐお金が必要というわけじゃないなら……魔国の品はエクレールへ戻ってからのほうが高く売れるかもしれないですよ?」


 冒険者ギルドの扉を開けると、すぐに視線が集まってきた。

 律儀にフードを外したサウラは、ダークエルフを知る知らないに関わらず目立つ顔立ちだ。知識として外見の特徴を知っていれば、街で見かけない珍しい種族だという目も向けられる。ライラの髪も一目で種族自体が珍しいとわかるため、共にいるだけで余計に目立つことになった。


「おい、あれってダークエルフなのか? なんだってこんなとこにいるんだ?」

「バカ、聞こえるぞ。そっちも珍しいが、あの白いの、天族か? 実在したんだな」

「天族は少し前に薬師ギルドに出入りしてるって噂があったぜ」

「知らねえよ。俺は昨日帰ってきたばっかだぞ」


 酒場のほうからは、酒のせいで声が大きくなっているからか、本人たちは気にしているつもりでも話が聞こえてくる。


「……オレのせいですみません」

「私こそすみません……」


 ライラとサウラが小声で謝り合って、足早に受付へ近付く。話題にされてもかまわないけれど、早めに用件を済ませて出たい。カイは抱えたリュナに見えないよう、鋭い目で周囲を見回した。

 受付嬢はさすがの営業スマイルと言うべきか、崩すほうが難しい笑顔で対応する。


「買い取りと、古いカードの交換ですね……あっ、すみません。ランクについてなのですが、一つ下になってしまうので、タグも出していだだけますか?」

「再発行にはどれくらいかかりますか」

「申請が必要なわけではないので、この場で新しいものをお渡しできます。買い取りも問題ありません」

「それなら助かります」


 サウラはタグを首から外し、受付に置いた。

 受付嬢は、箱型の魔導具に古いカードとタグを乗せて操作した後、新しいカードとタグを乗せる。


「ではこちらに手を乗せてください。魔紋確認が終わったら、光が消えるので……え、これ……」

「口には出さないでくださいね」

「……わかっています。でも、もったいないと思ってしまいますね。実力は磨かれているのに、Bランクになる――」

「もう終わりですよね? このまま買い取り窓口へ行って大丈夫ですか? それとも、こちらで買い取り手続きもお願いできるんでしょうか」

「すみません。直接買い取り窓口へ行っていただいたほうが、素材によっては早く済むと思います」

「ありがとうございます」


 にこやかな笑顔、他者から見れば笑っているかも不明な程度の笑みを浮かべたサウラは、カードとタグを受け取ってその場を離れた。


「お待たせしました。買い取りを頼んだらすぐに宿を探しましょう」

「前にお父様たちが泊まってた宿なら、リュナも過ごしやすいと思うんですけど……空いてるかな」

「そういえば、そのお父様とは連絡がついたんですか? 移動中に繋がらないと言っていましたよね」


 ヨシュカは「帰りは普通に帰る」と言っていたので、カイが乗せる必要はない。ただ、もしもまだ魔国から出られていないなら、合流することも考えて連絡をしていた。


「繋がらないって言っても、相手の念話石が存在しないのとは違うので……たぶん大丈夫だと思うんですけど……」

「心配なら、早く済ませて宿へ行きましょう。そこでもう一度連絡してみては?」

「はい、ありがとうございます」


 話しながら買い取り窓口に向かう。

 窓口に顔を出したサウラを見て、職員の男は一瞬だけ硬直して言葉を詰まらせた。


「買い取りをお願いしたいんですけど……どうかしました?」


 ダークエルフだから珍しがっている、天族を連れているから驚いた、どちらも違うような反応だ。


「あの……聞こえてますよね?」

「す、すまない。ちょっと昔のことを思い出して、ああいや、貴方にとっては昔でもないかもしれないかもしれないが。そっくりな女に会ったことがあって、ん? あ、その、ダークエルフがみんなそっくりなのかは知らないが」

「そっくりな女……良ければ名前を聞かせてもらえますか? 知っている人かも――」

「本当か? って、そういや名前も聞いてない」


 窓口の台から身を乗り出した職員の男は、がっくりと肩を落とす。触り心地が硬そうな獣耳も尻尾も、毛がしんなりして見えた。


「……何があったのかだけ聞いても? 話したくなければ無理にとは言いません」

「話すのはかまわないが、聞いてどうする?」

「外と関わりが薄い分、同族同士の交流は深いので、他の種族に会った話ならオレも噂くらい聞いたことがあるかと思って。もし聞いたことがある相手なら、その女性の名前もわかるかもしれません」

「そうか! まあ、恥ずかしい話でもあるんだが、まだ冒険者だった頃に助けてもらったんだ。調子にのって、依頼を受けられるランクに達してもいないのに、勝手に魔物を討伐しに出たことがあってな。かけだしだからランクが低いだけで、実力はあると思いこんでた頃だ。結局負けて、もう死ぬかもって時に、ダークエルフの女が軽々と魔物を吹き飛ばした。怪我も治してくれたんだ」

「それ――」

「治した後で、身の程を知れとボコボコにされてな。弟子入りは断られたが、そっから一晩中、倒れては治され、倒れては治され」

「ああ……」

「たった一晩で実感できるくらい戦い方が変わった、いや戦い方がやっとわかったと言うべきか。同時に自分が向いてないこともわかった。それまでは実力があるなんて思い込んでいたのにだ。夜間に襲ってきた魔物を解体していたら、戦いよりも解体技術を褒められて、転職を決意した」

「姉がすみません……」

「ん?」

「いえ、何も。その……女性で魔物との戦いにも優れていて、夜になっても狩りから帰って来なかったくせに無傷で、持ち出した治癒薬を使い切った代わりに解体させて肉だけ持ち帰ったと自慢していた女性になら、心当たりがありすぎて困ります」

「なっ……! きっとその人だ、毛皮は足りているからと言って、こっちが遠慮しているのを気遣って置いていった」

「……実際に足りていたと思います」

「どうすれば連絡がとれる!? 礼が言いたいだけなんだ。それ以外のことは何もしないって約束する。あの時気付かせてくれたから魔物に殺される前に転職できた。あの時の毛皮があったから、生活が安定して新しい仕事に集中できた。門の近くにある解体所の下働きから、ギルドで直接雇ってもらえるまでになったのも、その人と出会ったおかげなんだ」

「そうですか……第一印象そのままの女性だとわかっていて連絡するなら止めません。商業ギルドへ行って、ダークエルフの里に行く商人さんへ手紙を預けるよう言ってください。吹雪の里、レイリャリシアル・ニュクシュに届けてほしい、と。これなら、手紙は届きます。念のためオレからも、貴方の手紙を預かることになったと商業ギルドへ伝えても――」

「ありがたい!」

「他の里と間違えないよう気を付けてくださいね」


 サウラは精神的な疲れで溜息をこぼし、心底嬉しそうに尻尾を振る職員の前に素材を出した。




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