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僕、妖狐になっちゃいました 弐  作者: yukke
第伍章 寸善尺魔 ~蔓延る悪しき思い~
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第捌話 【2】

 その後何とか笑いを堪えた僕だけど、天逆毎さんとはあまり顔を合わせられないです。濃いんですよ……髭があるなんて聞いてないよ。


 そして僕達は、皆で天逆毎さんの後に続き、その社へと向かいます。その時もしょっちゅう僕を見てくるから、本当吹き出さないようにするのに必死でした。


「いやぁ~悪いな。こんなに押しかけちゃってよ」


「本当よ。ハッキリ言って迷惑なの。用件を言ったら、とっとと出て行ってね」


 おじさん風の顔で声は綺麗な女性とか、中々厳しいですよ。あぁ、でもちょっと慣れてきました。


 そして、こじんまりとした社に着いた僕達は、その中に通されます。入り口近くに台所とか水回りを備え付けた、普通の住まいですね。

 辺り一面森に囲まれた、こんな静かな場所で1人で住んでるなんてと思うと、ちょっと可哀想に思ったんだけど……その奥のリビングに入った瞬間、その思いは打ち砕かれました。


「お~天っち! そいつが例の妖狐ちゃんか?」


「か~わいい~!」


「ねぇ、もふもふして良い?」


 広いリビングルームの大きなソファーには、人の姿をした狸と犬と野鳥が座っていて、皆でテレビゲームをしていました。


「誰?!」


「あ~こいつらは賊よ、賊」


『友達で~す!』


 まさかのリア充っぷり?! 黒い妖気を感じるから、獣神の妖気で妖怪化した動物達です。

 その妖怪化した動物達と、和気あいあいと楽しく日々を過ごしていたんですね。


「はぁ~面倒くさいな、お前達。お前達も用が済んだら森に帰ってよ」


『はいは~い』


 適当にあしらわれてますよ。逆の事を言う事が分かっているからなんでしょうね。

 天逆毎さんって女神様だし、強い妖怪だよね? いや、こんなの慣れっこです。いつもこうやって、僕の妖怪のイメージを壊してくるんですよ。


「はぁ~すっごいもふもふする~」


「うんうん、これは相当なレベルだな」


 そして、妖怪化した動物さん達が僕に近付いてくると、まだ許可もしていないのに、僕の尻尾を触り始めました。


「んっ……く。あのぉ……妖怪化した狐さんの尻尾触ったら?」


「いやぁ~あいつ、そろそろ夏毛に変わりそうでさ。その点おいなりさんレベルになると、その妖気で夏毛でももふもふ感はキープされてるんだよな」


 皆、人の姿でも手足は動物のそれだから、体毛はあるんだよね……人間に触られるよりもくすぐったいよ。


「きゃははは!! 羽毛、羽毛がくすぐったいよぉ!」


 あぁ……香奈恵ちゃんも犠牲になっちゃった。妖怪化した野鳥さんに思い切り尻尾もふもふされてるよ。


「こらこら。いい加減にしとけ、お前達。ところで、あんた達の用はなんなんだ。私は忙しいんだ」


 すると、台所の方で僕達の人数分のお茶を入れてきた天逆毎さんが戻ってきて、真ん中のテーブルにそれを置きながら、僕達の用件を聞き出してきました。


「いやぁ、悪いな天っち。実は……」


「あっ、飯綱~あんたは良く来てくれたね。ゆっくりしていきなさい」


 あれ? 飯綱さん嫌われているんじゃ……。

 僕達の代わりに飯綱さんが喋ろうとした瞬間、天逆毎さんが満面の笑みでそう言ってきました。

 だって逆の事をしないと気が済まないんでしょ? つまり、歓迎していても本当は逆で……歓迎していないって事になるよ。飯綱さん、大丈夫なんですか?


 それと、お友達の妖怪化した動物さん達も言っていたけれど、天っちって天逆毎さんの事かな? 凄い愛称ですね。


「おぉ……相変わらずのアウトローっぷり。流石、天っちだぜ」


「ふふ……ありがとう、飯綱。あんたも相変わらず素敵な妖怪よ~」


 飯綱さん飯綱さん……これダメ、これダメなパターンだよ。仲良く見えるけれど、多分絶対に違うから! どこがマブダチなんですか、飯綱さん!


「よ~し! それじゃあ、天っちと私の友情に、一曲……うぇっ」


 すると、飯綱さんがどこからかギターを取り出し、歌おうとした瞬間、その姿が消えてしまいました。いや、一瞬風が吹き荒れたように感じたから、天逆毎さんの逆鱗に触れて吹き飛ばされたんだ。


「……飯綱さんの馬鹿……」


 問題が、その様子を妲己さんが必死に笑いを堪えながら見ていた事かな。

 妲己さんも天逆毎さんの事は知っている風だったし、顔見知りじゃないのかな? 分かっていたなら止めて欲しかったかな。僕は緊張してて動けなかったんだから……。


「あ~ら、気付かなかったわ。素敵な妖狐まで居るなんて、最高ね。飯綱の方がもっと最高だけど」


「やっと気付いた? どうもありがとう。まぁ、気配を消していたからね。今回私達が来たのは、そこの子がどうしても強くなりたいって言うからね。何かその子の為になるような事でも言って上げて」


 そして、飯綱さんを吹き飛ばしたあとに、やっと妲己さんの存在に気付いた天逆毎さんは、ちょっとだけ嬉しそうな顔をしました。

 本当は嫌なんですね……ただ、飯綱さんの満面の笑みよりマシかも。


 それよりも妲己さん、ちょっと大雑把過ぎますよ。まぁ、案内してきた肝心の飯綱さんが吹き飛ばされてから、僕達何しに来たんだって感じですからね。


 すると、天逆毎さんは僕の方を見ないで、そのまま話続けます。


「あぁ……そこの目障りな鬱陶しい妖狐ね。さっきからチラチラと目に入っててイライラしてたわ。強くなりたい? あんた見たいな弱者が、力を求めても何の意味もないわよ」


 あ、あれ……さっきの飯綱さんとはまるで正反対の反応。しかも、目まで合わせてくれません。


「さっき私の姿を見て笑いそうになってたし、本当許せない。あんた可愛くないのよね~それなのに、おこがましくも私に力を求めるなんて、いい加減にしなさい」


 えっと……えっと、逆の事を言ったりしないと気が済まないなら、この反応って……。


「えらく気に入られてるな、椿よ。いったい何――」


 そんな天逆毎さんの様子を見て、不思議そうにしていた白狐さんだけど、そう言いかけたあとに何かを見つけ、僕の肩を突いてきました。


 あっ、あれ……僕のファンクラブの会員誌。嘘でしょう……。


 それと、白狐さん黒狐さんはニヤニヤしないで下さい。僕の可愛さが浸透していって嬉しいなんて顔をしないで下さい。その後僕の両脇を固め始めましたね。僕のファンクラブの人って、絶対に尻尾もふもふしてくるんだよね。


 きっとこの妖怪化した動物さん達も、僕のファンクラブの会員なんでしょう。


「大嶽丸」


「……へっ?」


 すると、そっぽを向いている天逆毎さんが、そのまま何か言ってきました。『おおたけまる』っていったいなんでしょう。


「三大妖怪の1人じゃな。酒呑童子に並ぶ最強の鬼神か……」


「そいつがどうしたんだ?」


 あっ、白狐さん黒狐さんすいません。

 妖怪の事は色々と調べているけれど、一瞬出て来ませんでした。詰め込み過ぎたよ……。


 大嶽丸って確か、鈴鹿山に住んで悪さをしていた鬼ですよね。田村麻呂って人と鈴鹿御前に倒されたはずだけど……生きてたの?


「今から素だからね。こいつは確かに倒されたけれど、怨念が強すぎて黄泉がえったの。あいつの武器、三明の剣もないのにおかしいと思ったのよ……それで調べたら、何と三明の剣も手にしていたわ。いったい誰が、どうやって大嶽丸を復活させたかは知らないけれど、こいつをこのまま放っておいたら……」


「厄介じゃな……」


 流石に真剣な話の時は、天逆毎さんも普通に喋るんですね。良かった。逆の事を言われたらどうしようかと思いました。


 それよりも、大嶽丸が酒呑童子さんにならぶ鬼だとしたら、確かに放っておくと何をしてくるか分からないし、酒呑童子さんと手を組まれたら、更に面倒くさい事になっちゃいます。


「因みにね、こいつの三明の剣は、全て強力な神通力を宿しているの。手に入れるなり、その力だけをあんたの武器に宿すなりしたら、あんたももう少しは神通力を使えるようになるんじゃない?」


 そんなに強力な剣なんですか? それなら、是非とも手に入れたいですね。


 すると、話し終えた天逆毎さんが、くるりと僕の方を振り向きます。凄く良い笑顔をして……だけど、その濃い顔での笑顔は止めて下さい!


「あんたなら――」


「ぶふっ!!」


「…………笑ったわね」


「ご……ごめんなさいごめんなさい!」


 天逆毎さんが何か言おうとしていました。だけど、今のは天逆毎さんが不意打ちをしてきたのが悪いんです。

 いや、天逆毎さんに悪気はないし素なんだから、笑うのは失礼だよね。だからとにかく、僕はひたすら平謝りです。


 飯綱さんみたいに吹き飛ばされたくはないです。

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