第玖話
僕達が騒いでいる間に、香奈恵ちゃんの通う学校に到着していました。母親になったというのに、僕達は相変わらずです。
「もう、人前ではちゃんとしてよね~お母さん」
「くっ……香奈恵ちゃんに注意されるなんて……」
何だか嬉しいそうですね。僕の娘として、もっと教育した方が良いでしょうか?
とにかくこの学校は、僕が通っていた中学校と同じ敷地にあります。つまり、小・中・高まで一貫になっています。そう変更されたのです。
何でかというと、この学校は全国初の試みをしているんです。
「おはよう~!」
「あっ、香奈恵ちゃんおはよう! えっ? 今日はお母さんも一緒なの?!」
「えへへ~」
香奈恵ちゃんが友達に元気よく挨拶したあと、その友達が僕を見て驚いています。と言っても、僕は何回もこの学校に足を運んでいます。色々とやることがあるので。
そしてこの学校には、色んな子達がいます。
尻尾や耳がある子はもちろん、首が伸びる子、体が炎に包まれる子。頭に河童のお皿を付けている子など……沢山の半妖の子達がいます。
そう、この学校は人間と半妖が一緒に勉強をしているのです。人間も半妖も、分け隔てなく通える学校。それがこの学校なのです。
僕の夢は、一歩ずつ近付いていますよ。
「椿よ、あの校長に呼ばれとるんじゃろ? 行くぞ」
「あっ、はい。それじゃあ香奈恵ちゃん、後でね」
そして、僕は香奈恵ちゃんに手を振り、急いで3人と一緒に校長室へと向かいます。
今のこの学校の校長、ちょっと不安ではあるけれど、しっかりとしてくれている人です。
ただね……たまに暴走されるから、こうやって僕がちょくちょく顔を出さないといけないの。
もう校長室に着いた時から、中から何か聞こえるもん。
「ふふ……順調だ。半妖とは言え、しっかりと妖気の使い方を教えれば、立派な戦士と……」
「ここは人間と一緒になって、社会に出るために必要な勉強をするところです。妖気を使って戦いを学ぶ場じゃないですよ! 雷蔵さん!」
「ぬぉっ?! き、来ていたのか……いや、来ていたのですか」
いきなり扉が開いて僕が現れたら、そりゃ驚くよね? 雷蔵さん。そのまんまな名前だけど、この妖怪はあの雷獣さんです。
以前センターを乗っ取り、新たなセンターにしたものの、逆にそれを亰嗟に乗っ取られてしまい、色々と責任を取らされてしまった妖怪さんです。ちゃんと雷蔵っていう名前があったみたいなんです。
まぁ、白狐さん黒狐さんにも、白銀黒銀って名前があるくらいなんです。
だから他の妖怪さんにも名前はあります。ただ、その名前は真名らしくて、あまり知られてはいけないものみたいなんです。
僕にもあるみたいだけど、お父さんお母さんは教えてくれませんでした。
因みに、なんで雷蔵さんがびっくりしたあとに言葉使いを言い直したかというと。
「椿理事長」
僕がこの学校の理事長だからなんです。
任務をこなしても、そのお金の使い道ってあんまりないので、おじいちゃんに管理して貰っていましたが、おじいちゃん曰く、流石に何かに使えと言われちゃいました。
それで、通帳を渡されてビックリしました。高級マンション何個買えるの? ってくらいの額がその中にはあったのです。
だからせっかくなので、半妖がコッソリと通っていたこの学校に、沢山の出資をしていたら発言力も出て来てさ、色んな事をしている内に、理事長にまでなっていました。
今半妖の子達が堂々と正体を隠さずに通っているのも、僕が半妖の子達の事を、人間の子供達とその保護者、そしてPTAにめちゃくちゃ訴えかけたからなんです。
その必死さが伝わって、今は半妖の子達も普通に通えるようになったんです。
いじめは……そりゃありましたよ。うん、それは仕方ないけれど、それも僕がしっかりと対応をしたので、今ではその数は減りました。でも、0にはならないの。おかしいよね……。
「それで、用は何でしょう?」
礼儀正しくしている雷蔵さんに、僕はそう返します。
上から目線だったあの雷蔵さんを知っているから、この雷蔵さんに凄い違和感を感じます。
相変わらず髪の毛はツンツンに立ってるし、目つきも鋭い。そして、黄色をメインにした派手なスーツですね。
「それが、この学校に通う生徒達を付け狙う者がいるみたいで……」
「付け狙う? もしかして香奈恵ちゃんも?」
「あ~あの子は……まぁ、狙われても撃退したらしいので……」
言ってよ、香奈恵ちゃん。狙われてたんじゃないですか……しかも撃退って、何を危険な事してるんですか。
「なるほど……それを調査して欲しいんですね」
「まぁ、そういうことです」
そう言いながら、雷獣さんは校長室の上等な革の椅子に座り直します。それじゃあ、僕から一言言わせてもらおうかな。
「そう言うのはセンターに依頼して下さい。なんで皆直接僕にお願いするんですか!」
「金がかからんから」
「あっ、開き直った。雷獣さん開き直った!!」
「もう無礼講だ! 一応最初だけはキッチリとしてやるが、お前を目上として捉えるのは、無理がある!」
「僕だって、あなたから丁寧な口調で話しかけられたら、寒気がしますよ!」
あっ、でも、そんな事で言い争ってる場合じゃないです。
妲己さんが、冷たい目で僕を見てきているような気がします。仕事をしましょう、仕事を。
「それで、雷蔵さん。その生徒達を付け狙う人物に、目星は?」
「あまりハッキリとはついてないが、狙ってる生徒は半妖のみだ」
半妖だけを狙ってるって……それってもしかして、あの黒い妖気と関係がありそうな、亰骸という組織の人間でしょうか?
この学校の半妖の生徒を攫って、実験台にしようとか、そんな事を企んでるんじゃ……。
こうしちゃいられません。早速調べないと!
「あのさぁ、椿。その半妖達を付け狙ってる人って、こいつじゃない?」
「きゃっ!!」
「えっ?」
すると、妲己さんがそう言いながら入り口の扉を開けると、そこから急に女の子が倒れ込んで来ました。どうやらこの部屋の外で、聴き耳を立てていたようです。
「いったたた……」
良く見たら中学生くらいの美少女のその子は、倒れた時に打った鼻を擦りながら、上体を起こして辺りを見渡します。
それと、服装が僕と同じような巫女服っぽいやつです。鈴とかレースとか、そういった装飾はあるけれど、色合いは僕のと同じだよ! 被ってるよ、ちょっと!
「あっ、あわわ……大ピンチ~」
そして、その子は慌てふためきながらそう言います。
「なんだ、部外者か? 悪いが、部外者なら容赦はせんぞ」
「ひぃぃ~!!」
ちょっと待って下さい雷蔵さん、その前に恐がってますよこの子。
本当にこの子が、半妖達を付け狙っていた犯人? とてもそうは見えません。でも、さっき大ピンチって言ってたっけ?
と言うことは……本当にこの子が?
「悪いが、大人しく捕まって貰おうか。暴れると痛いぞ」
すると、雷蔵さんが自らの腕に雷を帯電していきます。痺れさせて捕まえる気? それよりも、先ずは話を……。
「ひぃぃ!! 土生金!!」
「なにっ?! ぐはぁぁ!!」
「へっ?!」
僕が止めようとしたら、地面からいきなり柱みたいな鉱物が飛び出してきて、雷蔵さんのお腹にクリーンヒットし、そのまま後ろの壁に吹き飛ばされました。
「あら、五行術じゃない。ということは、その子陰陽師じゃないの」
「ほぉ、懐かしいな。まだ使える者がいたのか」
「しかし白狐、妲己。これは俺達を滅しに来たと見て良いだろうな……」
へっ? えっ? なんだか空気が重くなったよ。本当にこの子、僕達を滅しに来たの?!
「ちょっと、陰陽師だからって何も……」
「椿、陰陽師は古来より、悪霊や悪鬼妖魔などを滅してきたの。それは妖怪も当てはまるのよ。それに、さっきのあの子の力見たでしょ? 異様よ、この子」
確かに、地面から鉱物を……つまり、土等を使ったコンクリートから鉱物を生み出した事になります。それが五行術……。
相生、相剋の関係を理解し、それを行使する。陰陽師の基本中の基本の力です。
それにしては、あの子はその術の威力が半端じゃないんです。普通地面からなら、あんな柱みたいなのは出せない。
せいぜいが、その範囲の地面を鉱石化するだけ……それなのにこの子は……。
「はうぅぅ……力使い過ぎた……もうダメ……お腹空いたぁ」
「……あの、滅するも何も、既にダウンしてますけど?」
「見習いかしら?」
力を使い過ぎたのでしょうか、僕が何とか話し合いをと思った時には、既に倒れてしまっていました。
それを見て、妲己さんは拍子抜けしたようで、呆れた様子でそう言います。白狐さんと黒狐さんも、僕の後ろにやって来て、その子の様子を確認しています。
丁度良いから、学校が終わったらおじいちゃんの家に連れて行って、話を聞くとしましょう。