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僕、妖狐になっちゃいました 弐  作者: yukke
第伍章 寸善尺魔 ~蔓延る悪しき思い~
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第陸話 【1】

 ひとしきり泣いた後、おじいちゃんから皆に話しがあると言うことで、お母さんお父さんと一緒に、僕は大広間へと入ります。

 泣いた後は消えてるよね。皆にバレたら恥ずかしいからね。ただ、何故か皆ニヤニヤしているんですよね……何でだろう。


「うむ、来たか。椿も泣き止んだようじゃし、今後の話をするとしよう」


「あれ……?」


 えっ、なんで僕が泣いてたって知ってるんですか? さも当たり前のように言ってきたんだけど。


「お母さんお母さん、あれだけ大きな声で泣いてたら、ここまで聞こえるって。ビックリしたよ、本当に」


 そして不思議がる僕に向かって、香奈恵ちゃんがそう言ってきました。

 しまった……この家には、防音なんて機能なんにも無かったんです。自分の家と同じ感覚でいてしまいました。


 あぁぁ……それじゃあ、さっきの泣き声はここまで聞こえて、皆に……!! 恥ずかしい!


「これこれ椿よ。隠れても意味がないぞ」


「そうだろうけど、駄目です。恥ずかしい……穴があったら入りたい」


 白狐さんにそう言われたけれど、こんなに恥ずかしい思いをしたのは何年ぶりだろうって感じで、皆に合わせる顔がなくなっています。

 多分、今僕は顔が真っ赤です。こんなの見られるわけにはいきません。


「事情は聞いた。さっきのは嬉し泣きと、色々と張り詰めていた気が抜けたからだろう? 誰も馬鹿には――」


「椿の歓喜の泣き声、しっかりと録音し……あっ!」


「そんなの録音しないで下さい! 雪ちゃん!」


 多分馬鹿にはしてないと思うけれど、雪ちゃん達がいる以上、こんな事をされちゃうんですよ。とりあえず尻尾を伸ばして、そのボイスレコーダーは回収です!


「大丈夫よ、椿ちゃん! もう一個あるから! あぁ!!」


「何でそんなに僕の泣き声を録音したいんですか! 恥ずかしいどころの話じゃないから駄目!」


 今度は里子ちゃんが、懐からボイスレコーダーを出してそう言ってきましたね。黙っていれば良いのに、何で高らかに「あります」って宣言するのかな? 同じように尻尾を伸ばして没収です。


 問題は、他の皆も同じようにしてボイスレコーダーを取り出している事なんですよね。全員回収です!


「それよりもおじいちゃん、早く話を……!」


「う、うむ……しかし、儂だけはそれを持っておいても……」


「駄・目・です!」


 おじいちゃんもボイスレコーダーを持っていて、しっかりと握って離さないし……思いきり顔を踏みつけながら引っ張ってるのに。


「あぁ……あんな風に椿ちゃんに踏みつけられたい……」


 そして、里子ちゃんが恍惚な表情を浮かべてますよ。これじゃあ話が進まないよ。しかも、そろそろ美亜ちゃんがキレそ――


「スゥスゥ……」


 あれ? 美亜ちゃん? 呆れを通り越して、いつもの事だと思ったのか、思い切り寝ちゃってますよ、お昼寝しちゃってますよ!


「ちょっと……これじゃあ本当に話が進まないから! おじいちゃん、それ渡して!!」


「うぬぐぐぐ……!」


 それから僕とおじいちゃんの格闘は、更に20分続きました。


 ―― ―― ――


「ふぁぁ……終わったかしら?」


 そのあとようやく決着が着き、僕は項垂れながら白狐さん黒狐さんの横に座り直します。その直後に美亜ちゃんが起きてきて、しっかりと伸びをしています。


 僕の泣き声の入ったボイスレコーダーを回収するためとは言え、取引として別の声の入ったボイスレコーダーを渡す事になっちゃいました。


 孫娘のような感じで「おじいちゃん」と言っている声を……。

 今更だけど、鞍馬天狗のおじいちゃんって爺バカですか? めちゃくちゃホクホク顔なんだけど。


「椿、当然のように旦那達の方なのね……」


「クソ……一時の癒しだったか。それならもっとスキンシップを……」


 こっちはこっちで親バカだし。だから僕は白狐さん黒狐さんの横に――


「ふふ、やはり椿は我等の方が良いか」


「当然だな。あれだけ愛でていれば」


 こっちは嫁バカでしたね。毎回思うんだけれど、何で僕の周りはこんな妖怪達ばかりなの?

 だけど、これ以上関わってはいられないので、僕はおじいちゃんの方に真剣な顔を向けて話をします。


「おじいちゃん、これからの事についてだけど」


「う、うむ……そうじゃな。とにかく酒呑童子、亰骸の方は勝手に空亡と戦おうとしておる。復活する事を前提に動いておるのなら、儂等の邪魔はせんじゃろう。何かまだ裏で人間達を動かしておるようじゃが……今はそれよりも空亡の復活阻止じゃ」


 おじいちゃんの返答に、僕は少し悲しい気持ちになりました。

 酒呑童子さんは、もう僕達に期待はしていないという事なんだよね……それが何より悲しいよ。前はあんなに僕達に協力してくれていたのに……。


「それでじゃ。空亡の復活を何者がしているのか……これがまだハッキリとは分からんのじゃが、おおよその予想では……」


「陰陽師の組織『式柱』その中で最強と呼ばれていた4人組……ですよね」


「ふむ、それくらいの予想は出来るようになったか、椿」


「そりゃね」


 僕の言葉に驚く様子もなく、おじいちゃんがそう言ってきます。僕も色々と依頼や任務をしてきたからね。

 だけど、あんまり考えたくは無かったよ。それでも、今僕達が知っている中で怪しいのは、その4人組くらいですから。


 人間が空亡を復活させようとしている。その理由も自ずと分かるよ。僕達妖怪を滅ぼそうしている。

 怨恨なのか陰陽師としてのプライドからなのか、それは分からないけれど、とても馬鹿な事をしているよね。

 復活させようとしている空亡の様子からして、人間達もタダでは済まないかも知れないって、そう感じられないのかな。


「とにかくじゃ、儂等はより一層結束して事に当たらねばならん。空亡は、儂等妖怪からして最低最悪の敵じゃ。完全に復活してしまったら、儂等は……」


「そうですね……だからこそ、復活を阻止しないと……」


 だけど何だろう……何かおかしいような。


 空亡の様子。封印が解けそうなのに、それだけ凄い妖気をあまり感じられないんです。引っかかる。凄く引っかかるんだよね……。


「……椿、今のところあんたの感知能力が1番なのよ。何か気になる事があるなら言いなさい」


 すると、僕の様子を見て何か察したのか、美亜ちゃんが真剣な顔でこっちを見てきました。美亜ちゃんはそういうところが鋭いですよ。


「……ん、う~ん。ほんのちょっとの違和感だよ。あのね、空亡って妖怪を滅ぼす妖怪で、妖怪の中でも最強の存在ですよね?」


「うむ、そうじゃ」


「それで、今復活しそうだっていうのに、それだけの強い妖気を感じないんです……」


「それは、まだ空亡の封印がじゃな……」


「多少気持ち悪い妖気があって、太陽からそれが漏れてるのは分かるよ……多分これが空亡の妖気だと思う。でもね、これが最強の妖怪の妖気? って言われると、違うんじゃないかなっていう感じで……ん~なんて言ったら良いか分からないけれど、妖気の質がね、そこまで濃くないんです」


『…………』


 おじいちゃんが補足しようとしたところで、僕がそんな事を言っちゃったから、皆「そんな馬鹿な」みたいな顔をして固まっちゃいました。


「椿よ……空亡は既に、その力が衰えているとでも?」


「分からないです、白狐さん……だけど、胸騒ぎはするの。何かとてつもない事が起こりそうな……そんな胸騒ぎは」


 まだ情報が足りなくて、僕達だけじゃこの違和感の正体は分からないです。

 とにかく今は、空亡の復活を阻止する……それで良いと思うけれど、他にもまだあるような気がします。


「……葛の葉である咲妃ちゃんに、今どうなってるか聞きます。とにかく、式柱最強の4人を捕まえないといけません」


「むっ……そうじゃな。今率先して行うのはそれじゃの」


 そう言うと、おじいちゃんは膝を叩いて立ち上がり、皆を見渡します。


「よいかお前等! これから何が起ころうと、儂等は儂等の絆を疑ってはいかんぞ! 今までの人間達との絆もじゃ! では、各自引き続き調査と封印の方を頼むぞ!」


『はい!!』


 そしておじいちゃんの言葉に、皆が力強く返事をします。

 そうでした。僕には心強い味方がこんなにもいるんです。皆を信じて、僕は僕の出来る事をやるだけです。

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