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僕、妖狐になっちゃいました 弐  作者: yukke
第伍章 寸善尺魔 ~蔓延る悪しき思い~
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第伍話 【2】

 目の前の空を飛ぶ妖魔達は、手足が大きいだけで、力はそれ程大した事はなかったです。

 自分の身を白金の炎で纏わせた僕は、火の玉みたいになって、超高速で妖魔の群れを突破します。


 それでも、僕達を追いかけてくるこの妖魔達は、確実に誰かの命令を受けてますね。しつこいです。


「お、お母さん……」


「ん~どうしようかな~戦っても、これじゃあきりが無いしね……」


 不安そうな飛君だけど、僕は別の事で不安になっています。


 上空を見上げたら、無数に舞う妖魔達。今僕達を追っている妖魔とはまた違う姿をしています。

 額から羊のような角が前方に伸びていたり、肩に砲身を付けていたり、腕が全部剣になっていたりと、様々な妖魔達が空から舞い降りてきているんです。


 そのまま飛んでどこかに行く妖魔もいるけれど、この数はもう異常事態です。


 僕は、香奈恵ちゃんの方も無事かどうか不安になってきているんです。確かこの辺りにいたはずだよ……。

 香奈恵ちゃんが隠れていたはずの場所に着いて、上空から確認しているんだけど、居ないです。まさか……。


「椿よ!」


「お母さ~ん!」


 すると、僕が最悪の展開を頭に描き始めた直後に、白狐さんと香奈恵ちゃんの声が聞こえてきました。

 あぁ、白狐さんが来てくれたんだ……よ、良かった……てっきり妖魔に捕まったのかと思ったよ。


「白狐さん! 香奈恵ちゃん!」


 その声を聞いた僕は、急いで白狐さんの方に飛んで行きます。

 白狐さんも浮遊していて、その腕にしっかりと香奈恵ちゃんを抱えていました。


「お父さんが助けてくれたよ。もう、お母さん……辺りが妖魔一面になっているんだから、私も危ないって気付いてよね」


「ご、ごめんなさい……飛君の事で焦っちゃって」


 近付いた瞬間説教されました……しかもその顔、親友のカナちゃんモードだよ。


「それよりも椿よ。いったいどうなっておるんだ。どこもかしこも妖魔だらけだぞ」


「う~どうやら、空亡の封印がまた少し解けたみたいなんです」


「何と?! それで、後ろの奴等は?」


「妖気回収部隊かな? ひたすら飛君の妖気を狙ってる」


 それと、隙あらば僕もって感じですね。とにかく沢山いるから、ここで戦っても多分終わらないです。


「仕方ない。また鞍馬天狗の翁の家に行って、作戦会議か……」


「あっ、でも……人間の人達を……」


「それは妖怪センターの奴等に任せておけ。それと、人間界側には捜査零課もいるだろう? 妖怪専門の部署がな」


「あっ、そっか」


 それならその人達に、人間の人達の避難や警備を任せたら良いですね。完璧にとはいかないでしょうけど、それでも多少は何とかしてくれるはずです。


 その間に、僕達はこの妖魔の大量発生を食い止めないと。


 そして、僕達は一旦その場から離れて……と思ったけれど、目の前に酒呑童子さんが飛んでいました。

 ひょうたんを浮かせてその上に立ってるよ。色々と使えるんですね、そのひょうたん。


「空亡の封印がちょっとずつ解けていやがるな……もう俺様の策も間に合わねぇ。椿、てめぇも何をしようがもう――」


「そうやって諦めるなんて、酒呑童子さんらしくないよ」


 僕達を見た後に、酒呑童子さんがそんな事を言ってきたけれど、僕はそう反論しました。

 だって、こんなに弱気になっている酒呑童子さんは、初めて見るんだもん。何だか納得がいきません。


 それと、酒呑童子さんがやったこと全てを無かった事には出来ないんです。その分の罰は受けて貰わないといけません。


「……ちっ」


 すると酒呑童子さんは、哀れなものを見るような、そんな目で僕を見た後、僕に背を向けてこの場から去ろうとします。


「逃げるんですか?」


「……たりめぇだ。せめて、俺の手で守れる奴は守らねぇとな。てめぇはてめぇで勝手にしろ」


「仲間を沢山犠牲にしておいて、良く言えるよね」


「あっ? 撫座頭とかその辺の事を言ってんのか? あいつは無事だ。妖気さえ与えてやれば、妖怪がそんな簡単に死ぬ訳がねぇ。皆、俺の志の為に動いてくれたんだ。それを俺が無下にしようとすると思うか?」


「……」


 酒呑童子さんの気迫に、僕はもう反論出来なくなってしまいました。

 そして、酒呑童子さんはそのまま去って行く。どうやら、僕が反論出来ないのを感じ取ったみたいです。


「良いか、椿。てめぇじゃもうどうにも出来ない状態になっちまってるんだ。お前は大人しく仲間達を守っておいて、白狐黒狐と仲良く結婚生活しとけ。それが俺からの最大限の譲歩だ。それでも俺様の邪魔するってんなら、てめぇの大切なもん全部ぶっ壊すぞ」


 もの凄い怒気をその背中から放ち、酒呑童子さんはそう言って去って行きました。しかも妖気まで放っていて、僕と戦ったのにまだ余力を残していたよ。

 空を飛んでいる妖魔達ですら、本能で近寄ってきません。まだまだ僕は、酒呑童子さんには及ばないの? それどころか、今起こっている事態に対しても、僕は何も出来ないの?


 去って行く酒呑童子さんの背中を見ながら、僕は自分の無力さを噛みしめていました。


「椿ちゃん……」


「おおぅ、こりゃヤベぇな……大丈夫か? あの妖狐」


 香奈恵ちゃんが不安そうな声を出して、その香奈恵ちゃんに抱き締められているペンちゃんも、僕の様子を見て心配そうにしています。


 大丈夫……とは言い難いけれど、僕はこれからどうすれば良いんでしょう……。


 ―― ―― ――


 それから、何とか妖魔達を振り切り、僕達は鞍馬天狗のおじいちゃんの家へと辿り着きました。

 だけど、僕はどうやって家に辿り着いたのか、それを覚えていない程に呆然としちゃっていました。


 家に辿り着いてようやく気付いたからね……。


 そして、僕はふらふらと2階に上がると、お母さんお父さんの妖気を辿って、2人の居る部屋へと向かいます。そのままその部屋に入って、敷いてあったお布団に潜り込みました。


「椿?」


「おい、いきなり入ってきてどうした?」


 もちろん、その僕の様子に2人とも驚いています。

 おじいちゃんへの報告は白狐さん黒狐さんに任せるし、何があったかは香奈恵ちゃんが説明出来ると思う。


「……何かあったのね。話しなさい、椿」


 とにかく僕は今、色々な事が積み重なった事で、頭がぼうっとしちゃっています。これ以上考えたら、僕の頭は考える事を放棄しちゃいそうです。


「話しなさい」


「分かりました。話しますから、尻尾離して」


 お布団から尻尾が出ちゃってました。

 でも僕は、お母さんとお父さんに話しを聞いて欲しかったんです。助言して欲しかったんです。


 やっぱり、僕はまだまだ心が若い……子供を産んだし、母性本能から少しは大人になったかなと思ったけれど、実際はこの有様です。


 僕は失敗した……。


 そして僕は、お母さんとお父さんに今までの事を話します。もちろん、おじいちゃんからある程度の話しは聞いていると思うけれど、改めて僕から色々と話しをします。


 その時、僕は溜め込んでいたものが一気に溢れたかのようになってしまって、少し感情的になってしまいました。


 だけど、2人とも僕の話をしっかりと聞いてくれて、真剣な眼差しで見てきます。


「――だから、僕はいったいどうしたら良いのか分からなくなって……僕のやって来た事は全部無駄で……僕の作戦は失敗してて……僕は、僕は……ひぐっ」


 いけない、もう泣かないって決めていたのに……泣きそうになっちゃうよ。


 すると、最初にお母さんが口を開きました。


「ごめんなさい、椿……」


 そして、ゆっくりと布団に潜った僕に近付くと、布団ごと僕を抱き締めてきました。


「ふえっ……」


「あなたになんの説明もなく、辛い事をさせてしまって……本当に、ごめんなさい」


「俺達の姿を見なかった事に、なんの疑問も持たなかったか?」


 そう言えば、ここ最近お母さんとお父さんの姿を見ていなかったです。どこかに行っていたのかな……。


 すると、2人とも意外な事を言ってきました。


『椿、良くやった!』


「へっ……へっ??」


 余りの事に僕の目が点になっていると、お父さんが僕の頭を撫でてきます。止めて、髪の毛ぐちゃぐちゃになるってば。


「お前が酒呑童子の気を、空亡を復活させようとしている奴等の気を引いている間に、俺達は空亡の封を強固にしていたんだ」


「結果、封は確かに一個解かれ厄介な事にはなったけれど、それ以外の封は今までの倍以上にする事が出来たわ。あとは、この出来た時間の間に2つの組織を潰すだけよ」


 そう言ってくる2人の顔は、満面の笑みをしています。でもちょっと待ってね、とりあえず2人のほっぺを引っ張っておくね。


「うん、悪かった」


「ごめんなさい、椿」


「うぅぅぅ~つまり皆は、僕には黙って僕を囮にしていたんですね!!」


 最低ですよ、最低の作戦ですよ! これ!! 僕が馬鹿みたいじゃないですか。


「だから、悪かったと思ってるわ。相手は相当警戒する奴等だからね、椿に話してしまったら、その椿の様子から勘づかれてしまう恐れがあったのよ」


「それに、奴等の注意は殆どお前に注がれていたからな。お前はそれだけ目立つんだよ。だから俺達は、妖怪らしく裏でコソコソ動いたわけだ」


 それじゃあ……僕がやっていたことは、僕が頑張っていた事は別に、無駄では無かったんですね。


「良くやった、椿」


「私達の自慢の娘」


「うぐっ……このタイミングでそれは卑怯ですよ」


 しかもその後、2人は笑顔のままで腕を広げています。香奈恵ちゃんも飛君も見てないから、久しぶりに甘えても良いよね。


 お母さんとしての僕じゃなく、2人の娘の僕として……。


「くっ……うぅ、うわぁぁぁあん!!」


 そして僕は、2人の間に飛び込み泣きつきます。それを、2人は優しく抱き締めてくれました。

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