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僕、妖狐になっちゃいました 弐  作者: yukke
第伍章 寸善尺魔 ~蔓延る悪しき思い~
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第弐話 【1】

 あれから何とか飛君を落ち着かせると、家の中に入り、おじいちゃんに事の顛末を話しました。


 それでなのかは分からないけれど……。


「まさか帰って直ぐに、しかもこんな夜に妖怪退治なんて……」


「ごめんなさい、お母さん。私のライセンス取得の初依頼だって、鞍馬天狗の翁が張り切っちゃって」


「そんで、なんで俺も一緒なんだよ~!!」


「だってペットだもん。それに、ペンギンもお散歩するでしょ? お散歩お散歩」


「ペンギンに散歩は要らねぇわ!」


 香奈恵ちゃんの腕の中で、王様ペンギンが暴れてます。

 もしかして、動物園で良く見るペンギンの散歩シーンを見て言ってるのかな? あれはパフォーマンスだからね、必ず散歩させないといけないわけじゃないよ。


 香奈恵ちゃん、君ちょっと幼児退行して――


「お散歩お散歩」


「は、はい……お散歩します」


 ――るわけじゃないね。目が据わってるよ、躾けちゃってるよ。全く……。


「あ、あの……僕も一緒なのは、妖術が上手く使えなかったから?」


 そしてその香奈恵ちゃんの横で、飛君が不安そうな顔をしながらそう言います。

 まぁ、おじいちゃんの目的は、僕が妖術を使って依頼をこなしている姿を見せて、妖術の使い方を確認して、それを肌で感じて貰おうって所でしょうね。


 僕なんて、そんな事せずにいきなり妖術使っちゃって、そのままライセンス取らされて依頼に行かされたからね。

 今思えばだいぶスパルタだよね……おじいちゃんはやっぱり厳しいです。


 とにかくそんな訳で、僕達は今、京都では一部の区画を走っている電車、嵐電のある駅にやって来ました。

 四条大宮という所から嵐山、そして北の方を結ぶ電車で、実は途中で道路を走ったりするのです。つまり路面電車です。


 夏になるとその中が改装されて、妖怪の仮装をしたりして楽しむイベントもやってますね。


 それで、そんな所にやって来たのは……その嵐電の線路に、無人の電車が走っている所を、何人かの人が目撃したらしいのです。

 車掌もいなかったらしく、なんで走っているのか分からなくて、これは妖怪の仕業じゃないかと言う事で、センターの方に依頼がやって来ました。


 依頼のランクはDランク。香奈恵ちゃんのデビューには持って来いですね。


「む~私のライセンスだったらCランクはいけるよね? 何でDから?」


「妖術をちゃんと使えるようになってから言って下さい」


「これでもちゃんと使えますよ~練習してたんだから」


「本当かな~?」


 香奈恵ちゃんも危なっかしい所があるし、ちょっと不安です。


「あの、お化けの電車が出るの?」


 すると、飛君が香奈恵ちゃんに引っ付きながら、怯えた様子でそう言ってきました。

 不安な表情をしていて、男の子なのに香奈恵ちゃんの服の袖を掴んで離しません。


 だけど、昔の僕もこんな感じだったのかなって思うと、何だか無性に昔の自分が恥ずかしくなってきます。


「これで女の子だったらな~昔の椿ちゃんみたいで可愛かったのに~」


「あ~香奈恵ちゃん、今そんな事を言ったら、約2名の妖狐の心にダメージ受けるからね」


 1人はもちろん僕だし、もう1人は飛君です。

 そのまま俯いちゃって、腕を振るわせています。多分、もっと男の子らしい所を見せたいんでしょう。


 だから、そのあと顔を上げて、キッとした目つきになっているけれど……手が離れていないよ、飛君。


 するとその時、僕達が居る駅に向かって、遠くの方から一台の電車がやって来ます。


「……ひっ!」


 飛君、香奈恵ちゃんの陰に隠れても、今からその電車を調べるんだよ、意味ないよ。


「お母さん……」


「うん、この時間に電車は来ないはず」


 因みにまだ終電じゃないです。その時間は流石に眠いし、終電の後に来るってわけでは無いみたいだったから、だいたい世間では晩御飯が終わったくらいの時間帯に来てみました。


 そしたら来ましたね、普通に赤茶色のボディをした電車が。紫や緑もあるけれど、そっちで来ましたか。ちょっとレトロタイプのやつですね。


 そして、その電車が僕達の前にやって来ると、普通の電車と同じようにして、停車してドアを開きました。

 行き過ぎるかと思ったけれど、止まったよ。しかも、これって乗れって事?

 行き過ぎたら飛び乗るつもりだったけれど、予定外だね。どうしよう……。


「へぇ、本当に無人だね~」


「香奈恵ちゃん?!」


 ズケズケと入っていったよ! ちょっと、飛君も引っ付いたままだよ?!

 飛君も怖すぎてなのか、手が硬直しちゃって離れないのか、引きつった顔で香奈恵ちゃんに引きづられていっているよ。


「のぉぉお!! 誰も乗ってねぇ! 車掌もいねぇ! 幽霊電車じゃねぇか! 離せぇ!!」


 王様ペンギンも、香奈恵ちゃんの腕の中で必死に暴れているけれど、香奈恵ちゃんがしっかりと抱き締めているから、逃れられないみたいですね。


 それよりもこの電車、幽霊電車と僕も最初は思ったけれど、この電車からは妖気を感じます。

 これは妖怪の仕業? 幽霊の仕業じゃないなら、何とかなるかも知れません。


「香奈恵ちゃん、妖気を感じる? 僕がサポートするから、探してみて」


「は~い!」


 確かにこれは、香奈恵ちゃんや飛君の妖術練習には持って来いかも知れません。この電車から感じる妖気は、凄く弱いです。

 暴走して強い力で吹き飛ばさないように、ちゃんと妖気をコントロールしないと、相手を捕まえる事は出来ないよ。


『それでは発車しま~す』


 そして、僕達が乗ったと同時に電車の扉が閉まり、そのまま走り出します。

 この路線は、北野白梅町と言う駅から、四条大宮に向かう電車に乗り換える駅に向かう路線だけど、駅に誰も居なかったのは、やっぱり皆怖いからなんでしょうね。


「う~むむ……」


「香奈恵ちゃん、分かるかな?」


 とにかくこれは、香奈恵ちゃんに依頼されたものだから、僕は極力手出しはしないようにしないとね。

 僕はもう妖気の出所は分かっています。これは慎重に行動しないと駄目ですね。


「んん……おかしいな。妖気が電車全体に……」


 キョロキョロと辺りを見渡した後、香奈恵ちゃんがそう言います。いい線いってますね、香奈恵ちゃん。


「お母さん、もしかしてこれ……この電車全体が?」


「うん、香奈恵ちゃん。この電車全体が?」


「よ、妖怪……?」


「はい、正解~」


『えぇぇえ?!』


 全員ビックリしないで下さいよ。

 まぁ、ビックリもするのかな。何せ僕達は、ズケズケとその妖怪の体の中に入っていったようなものですからね。


「しょ、消化されるやろ!」


「しょ、消化って……?」


「もう……飛君、ペンちゃん。そんな事ないでしょう? もしそうなら、お母さんが止めるって~」


 そう言って、香奈恵ちゃんが僕の方を向いてきます。

 その前に、ペンちゃんって王様ペンギンの名前かな? 流石にずっと王様ペンギンじゃ言いにくいもんね。


「そ、そうか、そうやな。あぁ~びっくりした。そりゃ、我が子に命の危険があれば止めるよな」


 そして王様ペンギンは、香奈恵ちゃんの中で安堵のため息をついてそう言うけれど、名前はペンちゃんで良いんですね。

 それよりも、この中から妖怪を退治しようとしても難しいと思うから、何処かの駅で無理やり降りて、退治するなり捕まえた方が良いと思うんだよね。


 多分この妖怪は、狸が化けた『偽汽車』。まぁ、これは電車だから『偽電車』かな?


 この妖怪は、線路が出来る事で狸が自分の住処を追われ、その恨みを晴らすために汽車に化け、人間達を驚かそうと線路を走っているそうです。そのあと本物の汽車に轢かれたりしているけどね。


 このままいけば、この化け狸さんも轢かれるのかなって思うと、早く対処して上げた方が良いかも知れないけれど、そこは香奈恵ちゃんに任せてみましょう。時には失敗も経験しないと、成長しないからね。


 するとその時、再び電車内に車内アナウンスが流れます。


『お待たせいたしました~次は~きさらぎ駅~』


「えっ?!」


「お、お母さん、これ、妖気が……!」


 妖気が変貌した?! 何これ、黒い妖気が急に……獣神の妖気?! しかも、気が付いたら外の景色が一変してる。

 燃えるような赤い夕焼けに照らされて、どこまでも続く広い田園が見えます。


 ここって妖界?! でも、どこなの……こんなの見たことない。京都じゃない? どこに飛ばされたの、僕達。


 いけない……いきなり難易度が上がったよ。


 しかも「きさらぎ駅」って、最恐の都市伝説に出て来る駅の名前じゃないですか。

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