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僕、妖狐になっちゃいました 弐  作者: yukke
第伍章 寸善尺魔 ~蔓延る悪しき思い~
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第壱話

 あれから数日後。


 葛の葉さんが陰陽師の方は任せてと言っていたので、僕達は一旦酒呑童子さんの方に集中することになりました。


 そして早速、街でおかしな人間達が暴れていると報告があったので、僕とトヨちゃんが向かいます。


 きっと酒呑童子さんの薬で、妖怪化した人達じゃないでしょうか?

 酒呑童子さんは僕と勝負すると言っておきながら、こうやって人間達に暴れさせ、僕が対応している間に、獣神の妖気を集めようとしているんですね。


 人間達を駒みたいにして使うなんて……酒呑童子さんらしくないけれど、元々これが酒呑童子さんの本性なのだとしたら、それを見抜けなかった自分が不甲斐ないです。


「椿ちゃん、暗い表情していたら駄目だよ?」


「ん~そう言われても、酒呑童子さんに嵌められたと思うとね……」


「だ~か~ら~そう言うのは椿ちゃん1人のせいじゃないでしょう?」


「ひたいひたい……」


 ほっぺを引っ張らないで下さい、トヨちゃん。


「うっ、ぐぅ……そんなふざけた格好をしていて、なんて強さだよ……」


 そのあと、僕達の横で倒れている人達がそう言ってきます。

 この人達、案の定酒呑童子さんの薬を飲んでいて、獣神の妖気に満ちて体が変化していました。


 爪が鋭くなっていたり、鱗が付いていたり、口が嘴になって、背中に鳥の羽が付いていたりしています。

 そんな人達が、数人がかりで銀行強盗をしていたけれど、僕達が駆けつけて数分で押さえつけました。


「変な格好とは何よ! 私達は正義の妖怪ヒロイン、コンコンガールよ!」


「ポーズを付けないでトヨちゃん……」


 この格好、狐のお面を付けている時は平気だったけれど、もう正体を隠す必要ないからって、お面を取ってるの。そしたら急に恥ずかしくなっちゃいました。

 だって、太ももまである長いストッキングに、めちゃくちゃミニのスカートなんだもん……下着が見えそう。しかも上は黒い巫女服だし。


「恥ずかしがらないでよ~私も同じ格好でしょ?」


「トヨちゃんはそりゃ、似合ってるからね……でも僕なんて……」


「1番似合ってるのに何言ってるのかな~?」


 折角離してくれた手をまたほっぺにやらないで、引っ張らないで!


「どっちも似合ってるっての……」


 倒れている人達、今何か言いました? って、あれ……君達地面に倒れて、そのまま顔を上げてにやけて……。


「わぁぁあああ!! この人達、下着見た! ガン見してた~!!」


『うぎゃぁぁあ!!』


『あぎゃぁあ!! 体が裂けそうだ!!』


「つ、椿ちゃん! 神通力が暴走してる! 落ち着いて~!」


 落ち着けませんよ。今日の僕の下着……よりによって……し、し……。


「あら? 椿ちゃん、今日凄く可愛い下着ね。派手じゃないから、これ真剣な勝負下着?」


「トヨちゃんまで見ないで! めくらないで!」


「きゃぁああ!! ごめんごめん~椿ちゃん落ち着いて!」


 とにかく僕は慌ててしまって、神通力で皆を空中に浮かせ、そのままグルグルと回してしまっています。


 でも、これは全員悪いです。反省して下さい。


 ―― ―― ――


「もう、椿ちゃんってば……」


「僕のせいじゃないからね……って、何コレ?」


 それから、報告の為におじいちゃんの家に戻った僕達は、入り口の前で喋りながら立ち止まりました。

 原因はね、入り口の扉が吹っ飛んでいたからです。何故かは分かっています。


「きゃぁ!! 飛君違う! 力入れすぎ!」


「落ち着け! もう少し抑え……ぬぉっ!!」


 庭から香奈恵ちゃんと白狐さんの声が聞こえた瞬間、更に爆発音がします。

 飛君の妖術練習だけど、思った以上に上手くいっていないんです。こんな風に妖術が暴走して、おじいちゃんの家の一部を何度か吹き飛ばしています。


「きゃぁああ!!」


 そして今度は、僕の上から香奈恵ちゃんが降ってきました。


「おっと……と」


「きゃぅ?! あっ、お母さん? あ、ありがとう」


「大丈夫? 飛君、全然駄目なの?」


 丁度僕の真上だったから、落ちてきた香奈恵ちゃんをそのまま抱っこして受け止めます。


 香奈恵ちゃんの耳垂れてるし、所々焦げてるよ。全くもう……。


「因みに椿よ、我が子を守るのは良いが、我を心配はせぬのか?」


 あっ、白狐さんも一緒に飛ばされてたね。香奈恵ちゃんを助けないとと思って、そっちを優先しました。

 だって、香奈恵ちゃん着地出来ないと思ってさ。それなのに、白狐さんが地面にへばり付いています。何してるの?


「白狐さん、なんで着地しなかったの?」


「いや、その……香奈恵と我と、どっちを取るかと思ってな……まぁしかし、同然じゃな。香奈恵はまだそこまで鍛えられてはいない。この高さなら、怪我をするかも知れん。うむ」


 自己完結しました? そりゃどっちも大切だけど、やっぱり怪我する可能性の高い香奈恵ちゃんを助けるでしょ?


 それよりもだよ。飛君の方を見て上げないと、あの子も怪我していたら天狐様に申し訳が立たないからね。


 それから僕は、香奈恵ちゃんを降ろすと、庭の方に向かいます。すると、そこには黒狐さんも倒れていました。

 白狐さん黒狐さん、そして妲己さん玉藻さんにも見て貰っていたけれど、それでも駄目だったのかな?


「……あれ? 妲己さんと玉藻さんは?」


 そして僕は、残りの2人の姿を探して辺りを見回すけれど、妲己さんと玉藻さんの姿がありません。


 まさか、2人とも吹き飛――


「きゅぅぅ……きゅぅ」


「きゅっ、きゅぅぅぅ」


 ――と思ったら、僕の脚に二体の子狐がすり寄ってきました。


 可愛い……けれど、この妖気……まさか妲己さんと玉藻さん?! えっ、ちょっと! 妲己さんは容姿固定のお茶を飲んでるでしょう? その効力を無視して……。


「う~変化、失敗しちゃった……ごめんなさい、言われた通りにやってるのに」


 そして、爆発した後の煙の中から飛君が出て来ました。

 待って下さい。変化を失敗して爆発はおかしくないですか? これ、他の妖術まで発動してるよ。しかも二重で発動するなんて……。


「そうだ! もっと妖気とかを込めれば……!」


「待って待って! 飛君ストップ!!」


 それ以上妖気を込められたら、いったい何が起きるか分からないよ。止めないと!


「てぃ! 変化の術!」


 だけど、飛君は僕が止める前にそう叫ぶと、狐の影絵にした右手を突き出します。

 そこに僕はいないんだけど、その手から狐火が飛び出して来ました。そしてそれは、なんと僕の方に向かって……。


「うわっ!! って、あれ……熱くない?」


 本来の狐火って熱くないもので、物を燃やすには適していないの。だけど、僕達は妖気を込めることで攻撃性を追加しています。でも、飛君の手から出たこれは、本来の狐火みたいですね。


 そして、気が付いたら僕の姿が犬になっちゃってました。


「わぅ~ん!!!!」


 嘘でしょう?! どういう変化の術ですか、これ! あっという間に姿が……。


「つ、椿ちゃん……可愛い姿だね」


「きゃぅん! トヨちゃん、尻尾は駄目!」


「ほぉ、喋れるのか。流石じゃな、椿よ」


 すると、犬になってしまった僕を見て、トヨちゃんと白狐さんが近付いてきて、トヨちゃんが尻尾を触ってきました。

 さっきの飛君の声に反応して、こっちに来てくれたんでしょうけど、白狐さんはちょっと距離があるよ。飛君の妖術の暴走に、巻き込まれないようにしてますね。


「あれぇ? 変化出来ない。まだ妖気が足りないのかな?」


「飛君! 待って! ストップだよ! 周りの人を変化させてるから!」


 そして、飛君は首を傾げながら、また変化の妖術を発動しようとしています。

 もしかして君、人間の姿に変化したいのかな? だからそんなに変化の術を練習してるの?


 やっぱり、妖狐になってしまった自分の姿に、まだ慣れていないというか、内心では戻りたいと思っているんだ。


「飛君、落ち着いて! 僕達の声を聞いて!」


 しかもこの子、集中すると周りの声が聞こえなくなるタイプです。

 妖術の練習をさせる時は、十分に気を付けないといけませんね。

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