第拾壱話 【1】
少し気が焦っていたのか、僕はもの凄いスピードでおじいちゃんの家へと帰り着いちゃいました。
お陰で皆へとへとなのと、顔が真っ青になっちゃってます。そんなに怖かったの?
「もう、皆僕を信用してくれてない~」
ちょっとふくれっ面をして、その事に対して文句を言うけれど、皆何も言いません。よっぽど気疲れしたみたいです。
「つ、椿よ……無事だったのは良かったが、流石に皆疲労困憊じゃ。もう少し考えてくれ、分かったか?」
「ん~分かりました」
確かに、ちょっと調子にのって飛ばしすぎました。もう少し練習しないといけませんね。
「ん? 椿か? 帰ってきたのか。とは言え、全員疲労困憊だな。先ずは休め」
そして、僕が帰ってきた音に気付いたのか、おじいちゃんが家から出て来て、僕達にそう言ってきました。
「そ、その前に……色々と報告を……」
「おぉ!! 龍花達か?! 良く無事で……ここ何年か連絡がなくて心配したぞ」
そのあと、龍花さんがおじいちゃんに話しかけるけれど、おじいちゃんは龍花さん達の姿を見て驚き、そして本当に心配そうな顔をして近付いていきます。
「申し訳ありません。その内半年は酒呑童子に掴まっておりました……」
「その前は……少し追っ手を撒いておりまして。あまりの執拗さで、またしばらく四神の元に隠れ潜んでいたのです」
龍花さん達、何危ない事をしているんですか?
四神の元にいたら、その強力な守護結界で守られるから、追っ手からも逃げられるでしょうけど、そんな危ない事になっていたなんて思いませんでした。
「そんな大変な事態なのか?」
「はい……空亡は、確実に復活しつつあります。ただ、誰も空亡の復活の為に動いている気配はないのです」
そして、龍花さんは必死な様子でおじいちゃんにそう言うけれど、今おかしな部分があったよね。
誰も空亡の復活をしようとしていないのに、追っ手に追われていたって、どういう事? 龍花さん達は誰に追われていたの?
「龍花さん……追っ手って誰なんですか?」
「……妖魔です」
「へっ?」
妖魔って……意思のない、化け物みたいな奴等ですよね? なんで執拗に追われるの? それって意思があるような……。
僕がそうやって不思議そうに首を傾げていると、今度は玄葉さんが話しかけてきます。
「椿様、これはまだ憶測の域ですが……妖魔は恐らく、空亡が産み出した妖怪……なのではないでしょうか? つまり、空亡の子みたいなものですね」
「…………」
それはあまりにもあり得ない憶測だけど……でも、空亡の復活が近付いているから、その力が増して、妖魔達が凶暴化しているって考えたら、つじつまは合うよね……嘘でしょう。
とにかく、僕が自分の力をちゃんと扱えるようにしている間に、周りでは好き勝手してくれてますね……。
今、ある程度まで使えるようにはなったけれど、加減を間違えると、やっぱり凄い事になっちゃうんだよね。
「てぃ……」
『椿様?!』
ダメですね……ちょっと地面に落ちてる小石を指で弾いてみたら、遥か彼方に飛んで行っちゃいました。
それを見た龍花さん達は、同時に驚いています。息ピッタリ。
「とにかく、この力をもうちょっとセーブ出来ないとな~」
お父さんとお母さんは依頼かな? 妖気を感じないよ。とりあえず、神通力の練習は僕の両親に見て貰わないと。
そうと決まれば、お父さんお母さんの様子もだけど、ある人も連れて来ないとね。僕に迷惑をかけたくないと思って、一人で解決しようとしているあの子をね。
「椿様、先ずはその神通力を……」
「龍花さん、分かってます。だけどちょっと待って下さい。ある人を連れて来るので……友達だと思っていたのに!」
「はい?」
僕の言葉に不思議がる龍花さんだけど、それを無視して僕は浮遊し、咲妃ちゃんの家へと飛んでいきます。
これくらいなら今の状態でも十分使いこなせるよ。サッと行ってサッと連れて来ましょう。
「きゃっ?!」
「うわっ!!」
そして僕は、あっという間に咲妃ちゃんの家に着き、窓からお邪魔をして、部屋にいた咲妃ちゃんと、広間にいた灰狐の月翔を連れて行きます。
そして、またあっという間におじいちゃんの家に帰って来ました。
「ただいま~」
「あれ?! ちょっと、私自分の部屋で書き物してたのに?!」
「俺もトレーニングをしてたんだが? ここは鞍馬天狗の?! そんで尻尾離しやがれ!」
あぁ、ついつい尻尾掴んじゃったよ。触り心地良かったからね……。
「って、椿ちゃん?! もしかして、さっきの椿ちゃん?」
「なに?!」
ようやく2人は僕に気付きました。そりゃあ、あっという間の出来事だったからね。
「は~い、おじいちゃんの家にいらっしゃ~い」
「いや……これ、ほぼ拉致じゃねぇか!」
「そうだけど?」
「認めやがった! クソ!」
月翔さんが僕に文句を言いまくるけれど、今のあなたの状況分かってるのかな? あなたの尻尾は、僕の手の中だよ。
「ふふ……」
「あっ、待て。分かった、緊急の話があるんだよな。文句を言って悪かったから、その手を離せ」
僕がニヤつきながら月翔さんの尻尾を持ち上げたら、やっと分かってくれました。
だけど……もう遅いよ、もふもふしたくてしょうがないよ。この月翔さんの尻尾のフンワリ感、僕より上かも。
「はっ……! うっ、くぅ……お前……覚え……うぐぅ!」
そして、僕が月翔さんの尻尾をもふもふし始めたら、月翔さんは必死に悶えるのを我慢し始めます。
あぁ、これ……面白いね。白狐さん黒狐さんが、僕の尻尾を良くもふもふする理由が分かったよ。
「あの、椿ちゃん。私達を連れて来た理由を……」
「んっ、そうでした。咲妃ちゃん、僕達って友達だよね?」
「えっ、そ、そうだけど」
月翔さんの尻尾をもふもふする僕に、咲妃ちゃんがそう聞いてくるけれど、僕がそう返事をしたら凄く戸惑っています。
それは単純に、僕に対して後ろめたい事があるからだよね。視線逸らしてるもん。
「そっか~それなら、僕を頼ってくれても良いのにな~僕達って友達じゃなかったんだ。1人で何とかしようとしちゃって……」
「えっ、いや……そんな事じゃ……というか椿ちゃん、どこでその情報を?」
「ふふ、僕の情報網を甘く……」
「私達と再会しなければ、一生気付かなかったんじゃないんですか?」
虎羽さん、その言葉ちょっとキツいよ。
月翔さんの尻尾を掴んだまま話していたけれど、虎羽さんのそのツッコミに、思わず手を離しちゃいました。お陰で月翔さんに逃げられたよ。
「すいません、申し遅れました。私達は座敷様をお守りする、四神の力を有する4つ子です。私から順に名を、虎羽、龍花、朱雀、玄葉と言います」
そして、そのあとに虎羽さんが自己紹介をします。それに合わせて咲妃ちゃんも挨拶しようとします。
「あっ、どうも……私は――」
「自己紹介は大丈夫です。失礼ながら、あなたのことは調べていましたよ、葛の葉。それとも、葛の葉狐の方が宜しいですか?」
えっ? 虎羽さん、今咲妃ちゃんの事なんて言いました? 葛の葉……だって?
それって、伝承では安倍晴明の母親とされている、白狐ですよね?
「…………そう、そこまで調べたのですか。流石、四神の力を有しているだけはあります」
そう言うと、何かを観念したのか、最初から隠す気はなかったのか、咲妃ちゃんの雰囲気がガラリと変わります。
そしてその後、咲妃ちゃんの体が一瞬で煙に包まれると、次の瞬間には、ウェーブのかかった髪型はそのままで、髪色が真っ白になり、白狐さんと同じように、白い狐の尻尾と耳を付けた姿になりました。
「なんと……葛の葉様。気付かなかったです」
「ふふ……当然よ、白銀。完全に人に化けていたからね。昔も、こうやって完全に人に化けて生活をしていたから、分からないのも無理ないわ」
その咲妃ちゃんの姿を見て、白狐さんが頭を下げています。あっ、白銀は白狐さんの名前です。
というか、咲妃ちゃんの方が立場が上ですか……いや、葛の葉様?
というか、さっきから色んな事が起きすぎて、僕の頭はいっぱいいっぱいだよ。




