第拾話 【2】
あのあと良く分からないまま、僕は皆の前で正座をしています。
「椿様! またとんでもない力を……」
「いや、あの……でもね、玄葉さん」
数十メートル級の大蛇の妖魔を倒すには、これくらいしないと……。
だけど、他の3人も僕を囲んで説教しそうな勢いです。久しぶりに会ったのに、いきなり説教なんて……。
因みに、他の3人も玄葉さんと同じ顔、同じ容姿、同じ髪型です。見分けるのは、そのポニーテールを括っているリボンの色だけです。
青が龍花さん、白が虎羽さん、赤が朱雀さん、緑が玄葉さんになっています。
「椿よ、とりあえず神通力の方は極力抑えろ。コントロールが出来るようになるまで、妖術は控えろ……命の危険があるとき以外はな」
「だから、さっきのは命の危険が……」
そう言うと、白狐さんは僕の顔を見た後に少しだけため息をついて、玄葉さん達に僕の事を説明します。
玄葉さん達からしたら、僕の身に何が起こったか分からない状態なので、怒るのは仕方ないと思う。また僕が無茶して変な力を手に入れたんじゃないかってね。
それがその通りだからこそ、玄葉さん達は本気で心配して、こうやって怒っているんです。
でもね……何度も言うけれど、僕も一児の母になっているから、いつまでも子供扱いはして欲しくないかな。
「分かりました……椿様の状況は理解しました。それなら尚更、家に籠もって力を扱う練習を……!」
「そんなボロボロの姿の4人に言われてもな~」
「これは……?!」
そうなんです。四つ子の玄葉さん達は皆、カッターシャツに紺色の太もも辺りまでのスカートを履いているんだけど、ボロボロになっていて、所々に穴が空いていたり破れたりしています。しかも汚れもあるんです。
相当な激闘があったのか、何日も閉じ込められていなければ、こんな事にはなりませんよ。
「とりあえず、何があったか話して下さい。僕への説教はその後ね」
「あっ、はい……それよりも椿様、座敷様は?」
そして帰ろうとする僕を見て、虎羽さんがそう言ってきます。
「んっ、大丈夫です。元気にしていますから」
『良かった……』
僕の返事を聞いて、4人とも凄い安堵の表情を浮かべました。確かに、玄葉さん達が1番大切にしているのは、わら子ちゃんだもんね。
そしてそれに続くように、朱雀さんが僕に別の事を聞いてきます。
「椿様、それでどこまで知っているんですか?」
どこまで? それは酒呑童子さんの事かな?
今僕達は、広いところまで歩きながら4人と話をしています。この人数だと運ぶのも大変だから、運操童さんを呼ぶみたいなんです。
「亰骸を作ったのが酒呑童子さんで、わら子ちゃんを狙ってて、僕に敵対してるって事?」
『…………』
その僕の言葉に、4人とも「知っていたんですね」といった顔をするけれど、そのあとまた真剣な顔になりました。
「では、陰陽師の方は?」
「ん~式柱は潰れたけれど……あっ、そう言えば、その組織の最強陰陽師の4人は動きを見せないですね……」
すると、今度は龍花さんが話しかけてきます。
「妖魔の方は?」
「えっ? 凶暴化しているけれど、他に目立った動きは……」
僕がそう答えたあとに、玄葉さん達は顔を合わせて何かヒソヒソ話を始めています。
全部話してくれたら良いのに、何でそうやって相談するのかな?
「ちょっと、全部説明してくれた方がありがたいんだけど……」
すると、4人ともヒソヒソ話を止めて、龍花さんが僕の方を向きました。
「椿様、悪いですが……かなり後手になられてます。ここから挽回するのは厳しいです」
「へっ? 嘘……僕が後手にって……」
いったいどう言う事? 誰も何も目立った動きは……白狐さん黒狐さんも特に何も……あれ? 2人とも険しい顔してる。
「やられたの……」
「なるほど、嵐の前の静けさか……どうもおかしいとは思っていたが、酒呑童子のあの言いようでは、まだ時間があると思っていた」
「えっ? えっ? 嘘、なに?」
2人も凄い焦った顔をしているよ。なんで? 僕、何かとんでもないミスをしちゃったの?!
「椿よ、酒呑童子に一杯食わされたぞ。あの映像で行った言い合い、そして勝負だが……あれはお主の動きを抑制するためのもので、酒呑童子は勝負をする気はなく、裏でこっそりと別の計画を進めておった。そして陰陽師の方もな」
そして、皆の言葉に焦っている僕に対して、白狐さんがそう言ってきました。
「椿様。酒呑童子の人間妖怪化作戦は、あなたが撫座頭の能力を解いた時から、完全に頓挫しているんです。今酒呑童子は、人間達に獣神の妖気の薬を渡してなんかいません!」
「なっ……!!」
「代わりに、獣神の妖気を持った動物達を必死に掻き集めています」
黒い妖気はやっぱり獣神の妖気だったんですね……じゃなくて、それなら酒呑童子さんの狙いはいったい……。
「酒呑童子がなぜ、獣神の妖気を掻き集めているかは分かりません。まだ調べるしかないです」
全て龍花さんが説明してくれて、ようやく僕は完全に蚊帳の外にいることに気付きました。
やられたよ……様子見なんかしている場合じゃなかったです。もっとしっかりと動かないといけなかったよ。
「更に、異常な強さをもつ陰陽師の4人ですが、何かを復活させようと動いているようです。失礼ですが椿様は、陰陽師の組織の中でも、上位にいる陰陽師の子と、仲良くされているのでしょう? 何も聞かされていないのですか?」
そのあと龍花さんは、更に僕に追い打ちをかけてきます。
もう止めて……自分自身の情けなさに、僕お家に閉じ籠もっちゃうよ。
ただ咲妃ちゃんに関しては、あの子の性格上、僕達に迷惑をかけたくないから、必死に自分達で何とかしようとしているかも知れません。
それはそれで、友達として見て貰えてなさそうですね。いや、まだ友達として遊んだり絡んだりが少ないからですね。
「ふふ、分かりました……あとで咲妃ちゃんをおじいちゃんの家にお連れします」
「つ、椿様?」
「いけない、椿様の何か変なスイッチを押してしまったようだ」
どういう事かな? 朱雀さん~? 虎羽さんと不思議がってるし、他の2人もちょっとたじろいでるね。
僕が含み笑いしただけでどうしたのかな~? 皆恐がり過ぎだよ。
「お、お母さん……その不敵な笑みは流石に恐いよ?」
「そう? 他の妖怪さん達の方がもっと恐いじゃん」
「普段そんな笑みを浮かべないから、余計に恐いの」
そんなものなのかな? それと、酒呑童子さんにもタップリとお仕置きしないとね。
「うふ……うふふふふ。やることいっぱいだぁ~」
「つ、椿様?!」
「椿様が壊れた!」
龍花さん玄葉さん、別に僕は壊れていないよ。自分の不甲斐なさと、僕を簡単に騙せると、僕にバレないと思って動いていた人達への怒りはあるけれど、それだけだよ。
「白狐さん黒狐さん、それに皆、急いで帰るよ。早速動かないとね」
そして僕は、皆に向けて神通力を使い、その体を浮遊させます。
「つ、椿よ、ちょっと待て!!」
「神通力は使うな!」
「え~今何だか調子良いんだよ~上手くいくから暴れないで」
『ひぃぃぃいい!!』
全員悲鳴なんか上げちゃって。大丈夫です、空狐様に体は乗っ取られていないし、その意識も出て来ていないよ。
本当にどういうわけか、酒呑童子さんにしてやられたと思った時から、何だか全身の力が抜けてね。
神通力とか神妖の妖気とか、僕の中の色んな力が、ストンとお腹に落ちたみたいになって、そのまま落ち着いたんです。
あぁ、僕ってちょっと力みすぎていたのかな? 何だか色々と脱力しちゃって、逆に神通力が使えるようになったのかも。
そうと分かれば、これからガンガン使ってくよ。
「さぁ、皆。帰りますよ~」
そして、僕もそのまま浮遊すると、皆を連れておじいちゃんの家へと向かいます。
『助けてぇ~!!!!』
皆の悲鳴を聞きながらね。




