第拾話 【1】
京都御所に着いた僕達は、真っ先に残りの3人を、走りながら探します。
残りの3人は龍花さん、虎羽さん、朱雀さんです。
妖気を探れば良いんだけど、最近は人間界に妖怪達が沢山出て来ているから、ここ御所内にも沢山の妖気があるんです。
それでも妖気の質は違うから、それを頼りに探していきます。というか、3つの妖気が固まっている所があるから、きっとそこですね。
あとは……。
「ウロロロロ!!!!」
この大きな数十メートル級の大蛇の妖魔を撒くだけです。倒そうとしても、鋼鉄のような分厚い鱗は、どんな妖術も効かなかったです。
そんな鱗だから、物理攻撃も生半可なものだと、一切通用しないのは分かるよね。
「おぉい!! 必死に逃げろ必死に!! 食われるぞ! ぱっくんと丸呑みだぞ!」
「ちょっと静かにしていてくれるかな?! 僕に抱きかかえられてるくせに!」
そもそもこの妖魔に見つかったのは、この王様ペンギンのせいなんです。
草むらに何か隠れてるって言って歩いて行って、チロチロ出ていた舌を引っ張ったんだもん。因みに、ここ御所の入り口での事です。
危うく丸呑みにされる所を僕が救出して、今こうやって走っているんです。僕と、このペンギンだけでね。
他の皆を無視して僕達を追って来たし、単純に舌を引っ張られたから怒った感じです。
こんなのが人間界の草むらに潜んでて大丈夫なのかって感じだけど、普段は普通の蛇の大きさなんです。
だけど、こうやって怒って襲いかかる時だけ、数十メートルの大きさにまでなって襲って来るんです。
とにかく、他の皆が追い着いて来て、この蛇の足止めをしてくれるまで必死に逃げないと!
「キシャァァア!!」
「うわっと!」
そして後ろから追いかけてきた大蛇が、急にその体を伸ばして、勢いを付けて突進してきました。
直ぐに勘づいたからジャンプして避けたけれど、その直ぐ後に尻尾の方が飛んできました。二重で攻撃してくるなんて賢いね!
「うっ……! とと……危ない危ない」
「おぉい! 今危なかったぞ! 尻尾に締め付けられる所だっただろう!」
「だから静かにしててくれるかな?!」
確かに危なかったけどね。判断ミスをしていたら、あっという間に締め付けられる所だったけれど、何とかギリギリで相手の体を蹴って脱出しましたよ。
それにしても、このペンギンうるさいですね……いったい誰のせいだと思ってるの?
「退け退け~人間達~食われるぞ~!!」
しかも、偉そうに御所内にいる人達にそう叫ぶ始末。
御所内と言っても、常に結界が張られているのは中央の建物だけです。その外側の広い敷地には結界がありません。張りやすいってだけでね。
その結界を張る前にこの大蛇の妖魔に入られたから、今から結界を張っても遅いって事です。
だから、人間達にも逃げて貰わないといけません。既にセンターには連絡がいってると思うから、僕はとにかく人の少ない方へと逃げるだけです。
悲鳴を上げながら逃げ惑う人々とは反対方向に逃げ、目の前に他の人達がいたら別の方向へ、そうやっているうちに、グルグルと回りながら中央に行きつつあるけれど……あれ、これって追い込まれたかな?
巨大な大蛇が、いつの間にかとぐろを巻くようにして僕達を追いかけているとすると、これって徐々にその大蛇の体の内側に……。
「はぁ、はぁ……ん~やっぱり」
「おいおい、目の前に太いあいつの体が! 追い込まれたってのか?!」
「だから、ちょっと黙ってて下さいよ」
目の前に大きな蛇の体が見えたから、僕の考え通りだと分かり、そこで一旦立ち止まります。
すると、大蛇の方もようやく捕食出来ると感じたみたいで、それでも警戒しているのか、向かっては来ないでそのまま止まっています。それでも、このままだと仲良くごっくんされちゃう。
そもそもこの大蛇の狙いって……自分を怒らせた者の捕食。
それは多分このペンギンだけど、この大蛇さんにしたら腹の足しにもならないんじゃないのかな?
「…………み~ぎ」
「おっ……?!」
「…………ひ~だり」
「おい、ちょっと待て!」
あ~だけど、このペンギンを掴んで右に左に動かすと、目がそれを追いかけて、頭もペンギンを追いかけて動いてるね。
ということは、僕は狙われてない……つまり、大蛇さんの餌を持って走ってただけですか……。
「おい、何を考えてる……」
「いやぁ、もうしょうが無いかな~と思って」
すると、僕の考えてる事が分かったのか、王様ペンギンは媚びるような目つきをしながら見上げてきます。
「ま、待て……お、俺が悪かった。い、今までの事も謝るから……!」
だけど僕は、ペンギンを掴んだままの右腕を振りかぶり、丁度大蛇の真上に狙いを付けます。
「待て待て!! 良い子にする! 良い子ちゃんになるから! 大人しいペットになるから! 見捨てるな!!」
「せ~の……っと! 餌だよぉ!!」
「薄情者~!!!!」
そして僕は、腕にしっかりとしがみついていた王様ペンギンを振りほどくようにして、そのまま上空に勢いよく放り投げます。
その瞬間、ペンギンは思いっ切り鳴け叫びながら飛んでいきました。しっかりと掴まっていてもヒレだもん……そりゃ掴まりきれずに吹き飛ぶってば。
さて……と。
「ぁぁあああ!! 呪うからな! お前の事呪うからなぁ!! 化けて出てやるぅ!!」
「キシャァァア!」
考えたとおり、この大蛇は妖気を餌にしているんだ。
あの王様ペンギンには、質の良い獣神の妖気があるから、大蛇にとってはそっちの方が美味しい餌になるんでしょうね。
だから目の前に僕がいても、それを無視して体を上に伸ばして行き、王様ペンギンを食べようと大きな口を開いてきました。
そうなると、その大蛇の体の内側は、完全に僕にさらけ出してる状態になります。ここは流石に柔らかいよね?
「狐狼拳!!」
「!!!!!!」
うわっ! 一か八かで腕に火車輪を取り付けて、いつものように炎を纏ってブーストさせたのは良いけれど、あまりの威力に僕の体が引っ張られちゃって、大蛇の体を貫通させるどころか、粉々に破裂させてしまいました。
大蛇の体が粉々のバラバラで、そこら中に血の雨が降ってます。やっぱり……威力が強すぎです。
これでも積み木を倒すくらいの軽い力でやったのに、こんな事になるなんて……。
「わっとと……ストップストップ! あと、ペンギンさん!」
「うぷっ……!」
とにかく、僕の体はジェット噴射を受けたみたいになってしまい、それでも何とか吹き飛んでいく前に踏み止まったのは良いけれど、体が鞭打ち状態になりそうになったよ。本当に危ないよ、これは……。
そのあと尻尾を伸ばして、落ちてくるペンギンさんをキャッチすると、再び僕の腕に抱きかかえます。
「ふぅ……大丈夫でした?」
「…………」
あっ、王様ペンギンがぬいぐるみみたいになってる。顔中涙まみれになって。
「し、死ぬかと……見捨てられたかと思っただろうが!」
「あ~はいはい、そんな事したら香奈恵ちゃんが怒りながら悲しむから」
ヒレで僕の顔をペチペチしないで、今ちょっと動けないんだから……。
「椿ちゃ~ん!!」
すると僕の前から、その香奈恵ちゃんの声が聞こえてきます。
流石にこれだけの騒ぎを起こせば来るよね。だけど、ちょっと遅いよ。でも、多分逃げ惑う人間達の誘導もしていたんでしょうね。
「はぁ、はぁ……大丈夫だった?!」
「あ~とりあえず……」
そして、香奈恵ちゃんは真っ先に僕達の心配をしてきました。
もちろん、その後ろにいる白狐さん黒狐さんも心配していて、妲己さん……は、心配していなさそう。
更に玄葉さんと、無事に合流出来たのか、龍花さん虎羽さん朱雀さんの姿もありました。
やっと守護者の四つ子が揃いました。懐かしいです。
皆同じ顔、同じ姿、同じポニーテールなんだけどね。見分けるのはリボンの色だけだから、一瞬だと誰が誰なのか分からないです。
そして僕は、全員からほっぺを引っ張られちゃいました。なんで?!




