第玖話 【2】
その後、追いかけっこをする3人を説得して、玄葉さんの話を聞く事にしたんだけれど、妲己さんはまだむくれています。
まぁ、白狐さん黒狐さんが悪いので謝らせたけれど、やっぱり妲己さんも傷つく事はあるんだね……って、九尾の狐だよね? 妲己さんは。
「椿様、ここで話すのもあれなので、他の3人と合流したいのですが」
すると玄葉さんは、僕達に話をする前にそう言ってきました。他の3人も何とか脱出出来てるのですね。それなら、4人揃ってから話を聞いた方が良いですね。
「分かりました。因みに、その集合場所は?」
「京都御所です。あそこは結界が張りやすく、また今でも結界が張られているので、妖魔を防ぐにはもってこいなのです」
なるほど。確かにあそこは重要な場所だったから、昔強力な結界が張られていたんです。それが、今でも多少効力が残ってるっていうから凄いですよね。
そして、そのあと玄葉さんが歩き出したけれど、所々怪我をしているので、それを治してからになるよね。
「ちょっと待って、玄葉さん。怪我を治してからにしよう?」
「あっ、すいません……」
因みに、僕もちょっとした怪我なら治せるようになりましたよ。玄葉さんの怪我はそこまで酷くないから、僕でも治せそう。
「それじゃあ、僕が治……きゃん?!」
だけど、僕が玄葉さんに右手を向けた瞬間、僕の尻尾が誰かに引っ張られました。ビックリして変な声が出ちゃったよ、誰ですか?
「これ、椿よ。お主、空狐の神通力のせいで、妖術が暴走しているのだろう? 治癒ですら危ない、我がやる」
その事ですか。さっきも妖術発動してたから、気付くと思ったのに。
「白狐さん。僕、さっき影の妖術発動してたよね? 神通力と妖気を完全に分けられるようになったんだよ?」
「しかし、その妖術がかなり弱かったぞ。簡単に解けたからな。分けられたとは言え、神通力は勝手に出て来るから相当抑えとるんじゃろう?」
「うっ……すいません。それと、尻尾持ち上げないでくれますか?」
そう言って、白狐さんは僕の尻尾を掴んだま僕を持ち上げました。もちろん、僕は尻尾を掴まれた状態で宙ぶらりんになっています。
白狐さんたら、僕を注意する時はいつもこれだもん。意識していれば何とか耐えられるけれど、急にこれをやられたら腰砕けになっちゃうよ。
今は何となくこれをやられるなって思ったから大丈夫だったけれど、気を付けて下さいね。
とにかく、白狐さんには全部バレてました。
「治癒なら我がやる。お主はまだ神通力の扱いを練習するんじゃ」
「は~い」
そして、白狐さんは僕を降ろすと、玄葉さんの治癒を始めます。僕もそうやって誰かの助けになりたいけれど、まだまだ強力な神通力が邪魔をしていますね。
「まぁ、さっきの様子を見ていて、しょうがないというところはあるよな。ちゃんと扱いこなさないといけないぜ、嬢ちゃん」
ペットの王様ペンギンが、凄い偉そうなことを言ってきたんだけど。しかも生魚を食べながら……ちょっと待って、それどこで手に入れたの?
「あの、その魚どこで……」
「ここに来る途中で買ったぞ」
僕達は、ここには雲操童さんに乗ってきたんだよ。途中お魚屋さんに寄ってなかったんだけど……。
だけど、王様ペンギンはあるプレートを取り出して僕達に見せてきました。そこには『どこでもお買い物券』と書かれています。
まさか、それがあればどこにいてもお魚を買えるって事ですか? それなら、リュックに入れようとする必要は無かったんじゃ……。
「買うと金がかかるからな、本当はあの家から持ってきたかったが、新鮮なものを食べられるから良しとしよう」
「良しとしようじゃなくて……」
そのお金はどこから? あとで請求が来たらこの子を売ろうかな?
「椿、それはなんだ? またペットを……」
すると、その王様ペンギンを見て黒狐さんがそう言ってきます。
もちろん、僕達が到着した時から気付いてはいただろうけれど、今まで聞ける状態じゃなかったからね。
「香奈恵ちゃんが無理やりね……でもね」
「黒い妖気じゃな」
すると、玄葉さんの治癒を終えた白狐さんが、そう言ってきました。やっぱり気付いてくれてましたね。
「なるほど、そういうことなら仕方ないな。ただし、目は離すなよ」
「分かってますよ、黒狐さん」
そして僕達の会話を聞いて、妲己さんがとんでもないことを言ってきました。
「あぁ、あの黒い妖気って獸神の妖気だったのね」
「今なんて? 妲己さん」
「だから、獣の神様の妖気、獸神の妖気よ。あぁ、漢字は昔使われたものだけど、今使われてる漢字でも良いわよ」
つまり獣神の妖気……ですか。だけど、それはいったいなんなのですか?
「妲己さん、それっていったい……」
「知らなくても当然よね。まだ私達が妖狐に成り立ての頃は、この妖気が一般的だったのよ。だいたい獣から妖怪になるパターンが多くてね。その野生の動物の、生きようとする精気そのものが、妖怪になった事で妖気になるの。それが獣神の妖気なのよ」
そう言うと、妲己さんは王様ペンギンに近付き、その子を見下ろします。
「だいぶ昔からそういう妖怪がいなくなっていって、いつしか人の恐怖の気を使って妖気を作るようになって、今では色んな形の妖気が生まれてるわね。私達も時代に合わせて、獣神の妖気から新たな妖気に変えたけれど、まだ動物から妖怪になるやつがいたのね」
「なんか悪いか?」
見下ろしながらそう言ってくる妲己さんに、王様ペンギンがヒレの腕を腰の辺りにおいて、偉そうにしています。でも、ペンギンの腰って分かりにくいよ……。
「ふふ、成り立てのくせに。まぁ良いわ。酒呑童子の使う黒い妖気の正体は分かったし、反撃には出られるわよ」
「本当ですか?!」
妲己さんのその言葉に、僕は思わずそう叫んじゃいました。
だって、何とか出来るって言うんだもん。今まで良く分からなかった妖気が、ここにきて一気に判明して、しかも対抗策まで……。
「だけど……問題が1つあるのよねぇ」
だけど、妲己さんは凄く嫌そうな顔をしながらそう続けました。その顔、凄く嫌な予感がしますよ。そしてそのあと、僕の方を見ます。
「椿。あんたやっぱり、何とかして空狐の神通力を扱えるようになりなさい。出来るだけ早くね」
それだけ言うと、妲己さんは玄葉さんの言った、京都御所へ向かって歩き出しました。
いや……あの、妲己さん。雲操童さんで飛んでいくからね。もしくは、浮遊が出来る白狐さん黒狐さんに運んで貰うよ。
喧嘩していた罰としてだけどね。
「椿よ、そんな目で見るな」
「何で? 良いでしょ?」
「自分で飛べる練習をだな……」
確かに一理ありますね。早く何とかしないといけないけれど、今のこの状態だと妖気のコントロールが難しいですね。そして、その空孤の妖気を扱う為の妖具は、飛翔が出来ないと……ん?
あれ、ちょっと待って下さい。今の僕の状況って、詰んでないですか?!
「…………」
「どうした椿よ?」
「白狐さん黒狐さん。僕、色々と詰んでた……どうしよう!」
そして僕は、白狐さん黒狐さんに泣きつくようにしながらそう言います。飛翔の事と、今の状況を言ってね。
「ぬぅ、それはマズいぞ」
「おいおい、どうするんだ?」
2人とも今気付いたんだね……僕もだけどさ。だけど、これ本当にどうすれば……。
「あの、良いですか? とりあえず御所へ向かいましょう。話はそこで」
すると、早く出発したくて仕方なかった玄葉さんが、僕達を見てそう言ってきました。
完全に玄葉さん達の事を忘れていましたね。今はとにかく、玄葉さん達の話しを聞かないといけませんね。
玄葉さん達はいったい、どんな情報を手に入れているんでしょう? 気になるけれど、先ずは玄葉さんが言ったように、京都御所まで向かう事にしましょう。




