第捌話
そのあと、香奈恵ちゃんの試験の結果の発表を見て、僕達は家に帰りました。
因みに一次を突破した1人は、香奈恵ちゃんの事でした。
特例として、香奈恵ちゃんにはライセンスの8級が渡されたけれど、聞くところによると戦闘能力を見ていないらしんです。
後日昇級試験があるみたいなので、それを受けて下さいだった。役人って、自分達の不手際をこうやって誤魔化したりするんだよねぇ。
本当なら、香奈恵ちゃんはもうちょっと上の級にいけたと思うけどね。
そして家に帰って来た僕達は、早速王様ペンギンの事を、おじいちゃんに説明して、飼うというか……様子を見たいと言うことを伝えました。
「ふむ……まぁ、お前さんが感知したのなら間違いなかろう。しかし、センターの奴等はなにをしとる」
おじいちゃんの部屋で床に座り、同じようにして僕の正面に座っているおじいちゃんが、文句を言ってきます。
確かに、今回はあまりにもガバガバ過ぎたよね。おじいちゃんも、僕達が家に帰って事情を聞いてから、センターの方に電話してましたよ。文句の電話を……。
「それにしてもおじいちゃん、あのペンギン、大丈夫かな?」
「まぁ、様子を見るしかなかろう。凶暴性はないのだろう?」
「ないですね」
それどころか、今ここの庭の池で水遊びしてるからね。
香奈恵ちゃんと飛君の楽しく騒いでいる声が、ここまで聞こえてきています。
「それなら、これはもう良いじゃろう。それよりじゃ……椿よ、白狐と黒狐、そして妲己を迎えに行ってやってくれんか?」
すると、今度はおじいちゃんは神妙な顔付きになってそう言ってきます。
そうなんです、あれから白狐さん達が帰って来ないんです。胸騒ぎはないんだけど……嫌な予感がします。
「分かりました。ところで、白狐さん達はなんの依頼を?」
「うむ。どうやら儂等の仲間のSOSを、天狐が受け取ったらしくてな。迎えに行ってやれと言うことらしいのじゃ」
SOS? いったい誰なんでしょう。
「分かりました。白狐さん達を迎えに行きます」
そして、僕はゆっくりと立ち上がり、その部屋を後にしようとします。
部屋の入り口でコッソリと覗いている、香奈恵ちゃんと飛君を見つけなければ、このまま出発していたんですけどね……。
「香奈恵ちゃん、飛君。連れてかないよ」
「……じ~」
「……じ~」
いや、あのね、口で言われてもだよ。そして飛君は真似しない。
「なんだなんだ、依頼に行くのか? それなら俺も着いていってやろう」
「いや、なんで……?」
するとその2人の隙間から、例の王様ペンギンが出て来ると、頭に乗せた小さな王冠に、その小さな手のヒレを当てて自信満々にそう言ってきます。その自信はどこから来るのかなぁ。
「こんな良い場所に住まわせてくれるんだ、少しは仕事をしないと、罰が当たるだろう?」
もしかしてここに住む気? それならそれで良いと思うけど……香奈恵ちゃんが飼いたいって言ってるから、多分許されないと思うよ。それに、君の仕事と言ったら……。
「むしろ、愛玩動物として皆を癒す仕事を……」
「なんだそりゃ!!」
僕の言葉に釈然としないのか、王様ペンギンは不機嫌そうな顔でそう叫びます。
「いや、君妖術使えるの?」
着いていくと言うのなら、それなりの自信はあるんだよね? もしかして、妖術が使えるとか?
「ふん。そんなのは、俺のこのペチペチパンチで……」
「庭の池で遊んでて」
手をパタパタする王様ペンギンに向かって、僕は庭の池の方を指さしてそう言います。
手のヒレで悪い妖怪さんをペチペチしたって、ダメージにはならないでしょう。やっぱり愛玩用です。
「くっ……し、しかし、水がちょっと足りないぞ! 俺はしっかりと泳げるくらいの水がいる」
面倒くさいですねぇ。それじゃあ、あの妖怪さんに頼るしかないですね。丁度廊下を歩いて来ていました。
「氷雨さ~ん。ちょっと妖術お願いしま~す」
「あら、どこに?」
「ここ」
「は~い」
そして、氷雨さんは僕の指さした所を凍らせてくれました。王様ペンギンのいる空間を……ね。
「…………」
王様ペンギンはビックリした顔をして、氷の中に閉じ込められました。
「ちょ、ちょっと椿ちゃん!!」
「あわわわ! ペンギンさんが!」
当然香奈恵ちゃんと飛君は慌てているけれど、大丈夫だよ。僕の考えが正しければ、この子はこの位じゃあ死なないと思う。しかも、この中から脱してくると思うよ。
「…………」
あっ、ほら、氷にヒビが……。
「……水に点をつけるな!!」
そしてその王様ペンギンは、怒鳴りながら氷の中から飛び出して来ました。
その可愛らしい平べったい足で、氷を蹴り割ったんです。こんなの、あの黒い妖気がないと出来ない芸当だよ。
そう……この子は、その黒い妖気を扱いこなしているんです。
「お前なぁ! 水の左上に点をつけるな! 氷になるっての!」
そのあと、その王様ペンギンは僕に向かって歩いて来て、文句を言ってきます。
そりゃわざとですからね。君の能力を調べるためにやったことだから。
「あら、私の氷を破るなんて……ペンギンなんか氷漬けにして良いのかしらと思ったけれど、その子の異常な妖気を見ると、納得ね」
そして、それを見ていた氷雨さんもそう言ってくるし、おじいちゃんも唸っています。
「なんだなんだ? はっ、やっと俺の凄さが分かったか?」
「凄いというかビックリだよね。君、その妖気ってなんの問題もなく使ってるの?」
「あっ? 当然だ! 気付いた時からこの状態で、普通に使える!」
普通に使える。それはつまり、自然に手に入れたって事で良いのかな?
つまり亰骸に……酒呑童子さんの薬で、その黒い妖気を手に入れたわけではなさそうです。
それならこの黒い妖気の出所はどこ? 分からなくなってきたよ。
「はぁ……しょうがないです。おじいちゃん、このペンギンさんも連れて行きますね。ここで黒い妖気が暴走されても困るし」
「んっ、分かったわい。それで、その2人も連れてくんじゃな」
香奈恵ちゃんと飛君が僕の尻尾に引っ付いて離れません。
思い切り横に振ってるのに。もう、2人とも……いい加減にしてくれないかな?
「あのね、危険があるかも知れないんだよ? まだ戦闘もままならない2人を連れてたら、お荷物になるの? 分かる?」
「そうなったら逃げるから」
だけど、香奈恵ちゃんは僕の言葉にそう返してきました。しっかりとした目で僕を見ながら……。
こうなったら意地でも着いてくるんだよね、香奈恵ちゃんは……。
「そうなった君は折れないよね。本当に危ないと思ったら、僕が無理矢理でも連れ帰るからね」
『は~い!』
飛君まで元気よく返事しちゃって……。
香奈恵ちゃんが試験を受けていた少しの間に、妖気コントロールの練習を少しはやったけれど、結果は悲惨でした。
香奈恵ちゃんよりも大きな狐火を出しちゃって、収めるのに大騒ぎしてましたからね。初めてで火柱のような狐火とか、この子も相当規格外ですね。
道中も練習をさせた方が良さそうです。
「よっしゃ! それなら気合い入れて、新鮮な魚をおやつとしてこのリュックに……」
「生臭くなるから駄目」
すると、王様ペンギンが小さめのリュックを取り出して、そこに魚を詰めようとしました。慌てて止めたよ。
そのリュックも、僕がいつも持ち歩いている何でも入る巾着袋と同じようで、その中に何でも入るみたいなんです。だからって生魚は駄目です、生魚は。
「途中で腹減ったらどうするんだ!」
「本当に王様ですね?! それまでには帰りますよ」
何日もかける必要はないってば。だってSOSがあったのは、あの有名な金閣寺からだからね。人間界の方だけど。
そこに身を隠しているのか、そこで何かに襲われたのか。
白狐さん達が帰ってこない理由も気になるけれど、そこからおじいちゃんの家には行かずに、SOSを発信したのも気になります。
敵がいると思っておいた方が良いですね。




