第漆話
何だか試験会場がざわめいています。
というか、沢山の妖怪達が出て来ているけれと、もう終わったの?
とにかく、僕は慌ててセンターの中に戻り、その様子を伺います。
「え~今回の試験ですが……不甲斐ない者達が沢山いたようでして、ある1人以外一次で全員失格という事態になりました! あまりにも酷いので、これから再度追試験を行い、そこで一定の点数を取れれば――」
なにそれ?! いったいどんな試験をやったっていうの? 気になるけれど、それは外部には言わない約束なんですよね。
僕もライセンスを取った時、白狐さん黒狐さんに言おうとしたけれど、ヘビスチャンさんに止められましたからね。
「1人って、流石にそれなら香奈恵ちゃんは落ちてるかな……」
「あっ、香奈恵お姉ちゃん」
そんな既に諦めムードの僕の横で、飛君がゾロゾロと出て来る妖怪達の中にいた香奈恵ちゃんを指差してきます。
「あっ! お母さん~飛君~!」
「お前、いい加減離せこら!!」
そして、僕達を見つけた香奈恵ちゃんが嬉しそうに手を振ってくるけれど、何か変なものを抱き締めてませんか?
なぁに、あれ? 小っちゃな王冠を頭に付けた、コウテイペンギン?!
「香奈恵ちゃん、なにそれ?」
「私のペット!」
「いや、ペットって……」
「ペットじゃねぇ!!」
コウテイペンギンが、香奈恵ちゃんの腕の中でバタバタ暴れているけれど、それ多分その子納得してないから。
「香奈恵ちゃん、ちゃんと離して上げて。その子納得してないじゃん」
だけど、僕の言葉に香奈恵ちゃんはキョトンとしています。
そしてそのあと、その香奈恵ちゃんの後ろから、試験の案内をしていた妖怪さんがやってきます。
「いやぁ、すいません。その子、動物園で妖怪化していた所を、このセンターで保護したのですが、どうにも傍若無人と言いますか、手を焼いていました。試験に使ってみても、結果この有様でして……引き取って頂けてありがたいです」
「ん?」
引き取る? えっ……? 香奈恵ちゃん、君なんて言ったの?
「うん、引き取るの!」
目を爛々とさせて、ハッキリと言ったね。その子試験で使ってみたって言っていたけれど、多分センターでは手に余るんでしょうね。
妖怪センターって、動物系には弱いのかな? 僕も以前、霊狐だった天照大神のレイちゃんを、ここで引き取ったからね。
それでも、そう簡単に飼って良いなんて言えないの。何せ、センターでも手に余るし、傍若無人とか言っちゃってるもんね。面倒くさい事になるよ。
「香奈恵ちゃん~僕の許可無しで……」
「飼うの……」
ちょっと待って香奈恵ちゃん。僕の近くまで来て、そのまま上目遣いで訴えて来ないでくれる? 断りづらいよ。
「可愛い……」
それと、そのコウテイペンギンも良く見たら可愛いんです。
飛君がフラフラと近付いて、頭を撫でようとしちゃうくらいですからね。
「ぬぁ~!! ガキが手を出すな!」
「痛っ!」
あっ、飛君が撫でようとしたら、思い切り突かれた……というか噛まれた? 凄い気が荒いね、この子。
そう思うと、飼うのは難しいじゃん。絶対に家でも暴れられそう。
「飛君、大丈夫?!」
そしてそれを見た香奈恵ちゃんが、目の前の飛君を心配そうに見る……けれど、同時にコウテイペンギンを締めてます。
「ぐっ……ぐぅ、わ、悪かった……です。ごめんなさい」
もしかして香奈恵ちゃん、既に躾けてる? だけど、間違ってるからね、その躾方……。
「香奈恵ちゃん、香奈恵ちゃん。ペットなら飛君がいるでしょ?」
「僕ペットなの……?」
しまった、突かれた手を押さえながら、飛君が泣きそうな顔でそう言ってきました。
手の痛さで泣いているのか、僕の言葉のせいで泣いてるのか、どっちなんでしょう?
「ん~でも、この子飼う!」
駄目です、全く折れません。ただ、そろそろその子を離した方が良いかも。苦しがってるよ……。
可愛いヒレで香奈恵ちゃんの腕ペチペチしてるから、確かに可愛いけどさ……。
「香奈恵ちゃん、とりあえずその子を降ろして。話せるなら、その子に決めて貰ったら良いじゃん」
そして、僕は香奈恵ちゃんをそう説得し、香奈恵ちゃんも僕が折れないのが分かったのか、そのコウテイペンギンを降ろします。
「げほげほっ、全く……暴力女子が……」
「それで、コウテイペンギンさん」
「コウテイペンギンじゃねぇ! 王様ペンギンだ!!」
「ペタペタ足っ!!」
降ろされたそのコウテイペンギンに話しかけたら、思いっ切り両脚でキックされたよ。
でも、その足もペンギンの足だから、痛くないどころか、何だかペタペタしてて気持ちよかったような……。
だけど、王様ペンギンってなんか格下げされてない?
「あの、王様ペンギンって、格下げになってない?」
「ぬっ! 別に良いだろう!」
答えて来た感じからして、コウテイペンギンじゃないって事を貫きたいんだろうけれど、だからって王様は……しかも王冠まで。
とにかく、この子に決めて貰わないといけないですね。
「それで、その……王様ペンギンさん。君は、どっちに住みたいの? ここのセンターか、僕達の家か」
「ふん、貴様等の家がどんな所か知らねぇ。まぁ、引き取られた恩もある。動物園にいたままだったら、俺は確実に処分されていた。その恩を返してぇ……しかしな、恩ってのは、相手にもそれを受け取れる程の余裕がないといけねぇ」
腕を組んで何だか長々と話しているけれど、その間ちょっとずつ僕達の方に近付いているのは気のせいかな?
「だが、ここにはその余裕が今はないようだ……それならその間、別の所に行くのもありっちゃありだが……」
焦れったいですね、早く決めて欲しいところだよ。香奈恵ちゃんの試験の結果も気になるんだから……。
「それで、君はセンターにいるのは嫌って事で良いのかな?」
「嫌ってわけじゃねぇ! そういう訳じゃねぇ。俺の溢れ出る魅力にこいつらが付いてけないだけだ!」
そう言って、完全に僕の足にその手を置いてるよね。いや、ヒレですか? ヒンヤリしてます。
「あのさ……正直に言ってくれないかな? 僕達の所に来たいの? センターに残るの?」
「…………お魚はありますか?」
それが本音かな? 凄く言い辛そうにしてましたよ。
「お魚ならいっぱいあるし、池とかもあるよ。何なら、君が住めるように水質も調整するよ」
「……ふふ、そうか。しかしそうなると、センターへの恩が……」
「あっ、それじゃあセンターの方、この子が納得しないので、やっぱり引き取るののは……」
「お世話になります、お世話になります、お世話になります~!!」
ヒレで僕の足をペチペチしないでよ。
まぁ、センターの妖怪さんも、一瞬もの凄く残念そうな顔してたし、今この瞬間は満面の笑顔なんですよ。これはもう断れないから……本当に、皆やってくれますね。
「しょうがない。香奈恵ちゃん、ちゃんとお世話するんですよ」
「やった!! 飛君! 一緒に名前決めるよ!」
「えっ? 僕も? う、うん!」
そして、香奈恵ちゃんは飛君にそう言うと、再度その王様ペンギンを抱き上げます。やっぱり暴れているけれど、大丈夫かな?
でもよく考えたら、飛君と一緒に育てるなら、飛君の成長にとっては良いかも知れません。
ペットを育てると、朗らかな人になりやすいらしいからね。いや、まぁ……爬虫類とか両生類は別だよ。
これを気に、飛君が扱く真っ当な天狐になってくれたら良いよね。
「ぬぐぅ!! は、離せ! 過度なスキンシップは苦手なんだ!」
それにしてもこの王様ペンギン、特殊な妖気だね。
小さな体の中にもう一個妖気が……ってこの妖気は、例の亰骸が広めている黒い妖気?!
その可愛さと、香奈恵ちゃんがいきなり持ってきた事でビックリしちゃってました。だから、しっかりとこの子を見てなかったよ。
どういう事? なんでこのペンギンの中に黒い妖気があるんですか? それなのに、このペンギンは僕達を襲う事もなければ、凶暴化している気配もないです。
本当に訳が分からないです。更に謎が増えちゃいました……。




