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僕、妖狐になっちゃいました 弐  作者: yukke
第肆章 合縁奇縁 ~頑張れ香奈恵ちゃん~
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第伍話 【2】

「会員は順調に増えている。椿の意思に賛同する人はいる……けど」


 雪ちゃんの部屋に移った僕達は、雪ちゃんに近況を聞きます。実は今後の作戦会議の為に、ここにやって来たのです。


 雪ちゃんの部屋は、相変わらず僕の写真ばっかり……香奈恵ちゃんの部屋もだけどね。

 そして神妙な面持ちで、パソコンの画面に向かいながら雪ちゃんがそう言ってきます。


「過激な人達とか、この世界が滅べば良い、好き勝手出来るし犯罪やり放題……とか、頭のイカれた人達は、こぞって酒呑童子の元に行ってる、みたい。SNSの書き込みだけが頼りだけど……」


「しょうがないです。そういう人達は行くと思ってました」


 雪ちゃんの言葉に、部屋の床に座る僕はそう答えます。

 ここまでは予想通りの動きです。いや、予想通り過ぎて怖いよ。酒呑童子さんが、このまま見ているわけないと思うからね。


「当然だけど、椿を批判する書き込みも」


「あっ……」


 すると雪ちゃんが、インターネットサイトのある画面を見せてきました。

 そこは掲示板みたいになっていて、匿名で色んな人達が書き込みをしているけれど、どうやらその掲示板は、僕の批判をネタにした掲示板らしく、酷い書き込みばかりです。


 中には放送禁止用語を濁して使ってる人もいる……こういうのに知恵を使わずに、仕事に知恵を使ったらどうでしょう。


「よし、雪ちゃん。浮遊丸と協力して、そいつらの住所を割り出して。僕の尻尾で魅了させてやるから」


「了解」


「私も手伝うよ! お母さん!」


 すると、僕が立ち上がって部屋から出ようとすると、雪ちゃん

の部屋の入り口から怒号が飛んできました。


「あんた達、そういう雑魚は放っておきなさいよ!」


 入り口で仁王立ちしていた美亜ちゃんに怒られました。いつからいたんでしょう?

 というかこのメンバーだと、僕が暴走したら誰も止めないですね。飛君は何が何だか分からないって顔してますからね。


「今は酒呑童子との勝負に勝つ作戦を考えなさいよ!」


「はい……」


 そして、僕はそのまま床に座り直して頭を俯かせます。とりあえず反省している素振りはしないとね。


 だけど、酒呑童子さんとの勝負に勝つとは言え、やることは人間がやっている選挙に近いんですよね。

 ということは、僕の訴えを言い続ければ良いんだろうけれど……多分絶対と言っていいほど、亰骸が邪魔をしてくるでしょうね。


 自然に、訴えが出来れば……。


「やっぱり……人間からの依頼をこなしていくしかないのかなぁ。そこで、こっそりと僕達のアピールをしとけば……」


「まっ、今はそれしかないんじゃない? 下手に動けば、向こうが有利になるような状況に持っていかれかねないからね」


 すると、僕の案に美亜ちゃんが同意してきました。案って程じゃないけれど、現状こうしか動けないと思うんです。


「さて、そうなると思って、丁度良い依頼があるけれど、その前に翁が呼んでるのよね。香奈恵と、そこの飛も連れて来いって」


「あっ、分かりました」


 おじいちゃんが呼んでるの? それならそっちが先だよね。その後に依頼に行けたら行きましょうか。


 そして、僕は立ち上がって部屋の入り口に行くと、一度雪ちゃんの方に振り向きます。


「雪ちゃん、いつも通りでお願いします」


「任せて、プランBね」


「いや、普通で……」


「ふふ、腕がなる……」


 あっ、ダメです。雪ちゃんの目が光り輝いています。その前に寝て下さいね。


 そして僕は、雪ちゃんの体を思い、部屋の入り口にそっと、妖草『眠り草』を置いて扉を閉め――


「これは、椿に使うから」


 ――ようとしたら直ぐに妖草を突き出されました。バレてた。


 これ、香りを吸ったら直ぐに熟睡しちゃうんです。さっきので香りを嗅ぎそうになって危なかったですよ。


 ―― ―― ――


 そのあと僕達は、1階にあるおじいちゃんの仕事部屋へと向かいます。最近は、昼間は仕事部屋に居ることが多いんです。

 そこにはいくつかの事務机とパソコンとかがあって、事務仕事をするにはうってつけの部屋になっているんです。


 そしてその仕事部屋に、香奈恵ちゃん達と一緒に入ります。


「おじいちゃん、呼んだ?」


「おぉ、椿か。うむ、ちょっと待っとれ。お主のファンクラブ会員募集の宣伝ポスターを作っとる。もうすぐ出来るからの」


 おじいちゃん、それ仕事? ねぇ、それ仕事? 机に座ってパソコンと睨めっこしながら何やってるの。


「おじいちゃんまで雪ちゃんみたいな……要件が簡単な事なら、やりながら言って下さい」


「むっ、大丈夫じゃ。これで完成じゃ……うむ」


 げんなりする僕は、早く要件を聞こうと思ってそう言ったけれど、手際よくキーボードとマウスを動かすおじいちゃんは、満足な表情をしてから、その手の動きを止めます。

 パソコンとかスマートフォンとか、凄く手際よく扱えるようになったね、おじいちゃん。最初は同じメッセージスタンプ連投してたのに。


「さて、椿よ。実はちょっと頼みたいことがあってな」


「頼み? 僕、依頼を……」


 そして、椅子を動かして僕達の方を向いたおじいちゃんが、そう言ってきます。その椅子良いよね、クルクル回転する椅子。つい遊んじゃうんだよね。


「依頼なら、そう重要性はないわい。いつでも構わん。それよりもじゃ……香奈恵は既に妖術が使えるじゃろう? コントロールはともかくとして」


「あっ、うん……そうだけど」


 これ、嫌な予感がします。妖術が使えるということは、悪い妖怪退治をするためのライセンス、その取得試験を受ける資格はあるんです。


「丁度、試験時期じゃ。香奈恵にライセンス試験を受けて貰う」


 そして、おじいちゃんは香奈恵ちゃんを見ながらそう言いました。


「やっぱり、まだ早いんじゃ……」


「何を言うか、今の香奈恵より幼い妖怪も、妖術が使えればライセンス試験は受け取るわい」


 確かに、妖怪センターには幼い妖怪もチラホラいます。とは言っても、香奈恵ちゃんはまだ妖術が上手くコントロール出来ていないんです。不安だなぁ……。


「何時までも守ってばかりの存在では、香奈恵も不満じゃろう?」


 あ~香奈恵ちゃんの目がキラキラしているよ。「さっすが鞍馬天狗の翁、分かってる~」って言いそう。


「さっすが鞍馬天狗の翁! 私の事分かってるのね!」


 やっぱり言っちゃいましたね、香奈恵ちゃん。


「しかし、数年前からこのライセンス試験の難易度は上がっとる。正直怪我人も少し出とる。抗議はしとるが、昨今の妖魔凶暴化への対策が急がれると返事されたわ。しかし、今回は指摘を受けて大幅に変えると……って、こりゃどこへ行く」


 香奈恵ちゃんが逃げました。

 おじいちゃんの話の最初のところで、一目散に逃げたよ。変えるということは、危険な試験じゃなくなってるかも知れないでじ?


 そしておじいちゃんは、冷静に天狗の羽団扇を振り、渦巻く風を発生させると、それで香奈恵ちゃんを捕まえました。


「あぁぁ!! 風が、風がぁ!!」


 そして、その風に捕らえられた香奈恵ちゃんは、そこから逃れようと必死で藻掻いています。

 何だろう……そういえば僕も、前に同じ事を……香奈恵ちゃん、君は間違いなく僕の子供です。全く同じ反応ですよ。


「飛君、あれは影響されなくて良いからね。ジッと見ないでね」


「は~……うん、分かった! 嫌な事からは逃げるんだね!」


 いっけない!! 飛君が変な事覚えちゃってるよ!


「いや、違くて……あれはノリで……」


「ノリで逃げれば良いんだね、分かった!」


 あぁぁ! ドンドン悪い方向にぃ! どうしよう。


「お母さん、何してるの!」


「だって香奈恵ちゃんが!」


 それを見た香奈恵ちゃんが文句を言ってくるけれど、そもそも君が逃げるからいけないんだよ。


「えぇい、事情は聞い取る。飛とやらも連れて行け。何事も見て経験させることじゃ!」


 そう言って、おじいちゃんは香奈恵ちゃんを捕らえていた風を止めてきました。


 香奈恵ちゃん、頭から落ちたけれど大丈夫?


 とにかく飛君には、色々と見て感じてもらわないといけないよね。

 まだちょっと戸惑っているみたいで、夜は僕達と一緒じゃないと寝られていないけれど、そこは何とか香奈恵ちゃんと一緒にフォローしていって上げないとね。

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