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僕、妖狐になっちゃいました 弐  作者: yukke
第肆章 合縁奇縁 ~頑張れ香奈恵ちゃん~
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第肆話 【2】

 晩御飯を無事に食べ終えた僕達は、それぞれ自由な時間を過ごしています。

 香奈恵ちゃんには色々と説明をして、思い切りため息をつかれたけどね。とにかく、僕は庭で神通力を扱う練習をします。


 香奈恵ちゃんも、僕と同じ場所で(ふぇい)君に色々と教えているみたいです。この世界で生きる為の常識とか、色んな事をね。

 もちろん妖術の方もだけど、そもそも香奈恵ちゃんが危なかっしいから、目を離せません。

 だけど、その子はまだ上手く妖気を扱えなかったので、そのコントロールからになります。


 基本的に妖怪さん達は、生まれたり妖怪に成った瞬間から、妖気のコントロールがその体に刻み込まれるんだけど、この子はそんな事はなかったんです。


 ちょっと特殊な子だったからかな。


「こら、椿。よそ見をしていて良いのか?」


「へっ? あっ……」


 しまった……お父さんに言われて視線を戻したけれど、おそかったです。

 神通力のコントロールの為に、その辺にある石を浮かせてたんだけど、気付いたら何処かに行ってました。


「やれやれ……あっという間に宇宙まで飛ばすなんて。相当強力なんだな」


 地球の石が隕石になっちゃった?

 それを見たのか、お父さんは空を見上げていて、そのまま関心しながらそう言ったけれど、前途多難なのは誰が見ても明らかなので、その後に思いっ切り肩を落とされちゃいました。


「椿……先は長い。あまりのんびりもしていられないんだろう? 少しスパルタで行くぞ」


 そして、そのまま顔を上げたお父さんは、凄く険しい顔をしていました。こんなお父さん初めて見たよ。


「は、はい……!」


 だから、僕は気をつけして返事をするしかなかったです。

 それを見ながら、お母さんはにこにこ顔です。ウッドデッキでお茶を飲みながらね。なんでそんなに満足そうなんだろう?


 ―― ―― ――


「あ~う~!! 疲れた~!」


 そして数時間後、ようやく解放された僕は、温かい檜のお風呂に入ります。

 僕の家の外観は洋風だけど、中は割と和風なので、お風呂が檜風呂でも違和感はないんです。


 というか、おじいちゃんの家の檜風呂が気に入ったから、ヤコちゃんとコンちゃんにリクエストしていました。贅沢だよね。


「もう……私は椿ちゃんのものなのに~」


「香奈恵ちゃん、それ勘違いされるから止めて」


 そして、そのお風呂には香奈恵ちゃんも一緒に入っています。

 このお風呂の大きさは、だいたい3人入ると窮屈になるくらいなので、今僕達は窮屈です。なんでって……。


「はぁ~お湯、お風呂……初めて」


 飛君まで一緒に入ってきてるんだもん。香奈恵ちゃんに引っ付いているからしょうがないけどさ……普通に2人の女子達の中に、なんの恥ずかしげもなく入って来たんです。この子の将来が不安です。


「飛君……お母さんと2人っきりの時間も欲しいな~」


「??」


 そんな状況に不満を漏らす香奈恵ちゃんだけど、飛君、首傾げてるからね。分かってないよ、きっと。


「香奈恵ちゃん、しばらくは我慢して下さいだね」


 だけど、そう言う僕の尻尾を、香奈恵ちゃんは普通に触ってきました。あっ、しまった……。


「良いもん良いもん、飛君あんまり分かってないもん」


「…………あっ、うっ、くぅ……香奈恵ちゃん~飛君が変な風に育ったら、天狐様に怒られるよ!」


 今、こうやって僕が香奈恵ちゃんに尻尾を弄られてるのも、じっと見てるもん! これ、ダメなんじゃないの?!


 だけど、香奈恵ちゃんは手を止める事なく弄り続け、そのあと何かを閃いたような顔をします。


「……そうだ。この子、妖狐のトップになれるかもなんだよね? そしたら、私はその育ての親? 言うことを聞いてくれる? 全妖狐を、椿ちゃんのもふもふを世に広める為の……ひゃぁっ!!」


「そんな事させないからね!」


 流石にそこまでの暴走を許すわけにはいかないよ。すかさず僕も、香奈恵ちゃんの尻尾を握り締めます。


「ちょ、ちょっとお母さん……そこ、ダメェ!!」


「んっ、くっ……少しは僕の気持ちを理解して貰わないとね!」


 因みに、その様子を飛君がジッと見ているけれど、今はそれどころじゃ……。

 だけど、そうやって僕達がじゃれていると、香奈恵ちゃんが飛君にぶつかってしまい、そのまま香奈恵ちゃんの動きが止まりました。


「……あっ、あっ、あぁぁ……」


「香奈恵ちゃん? どうしたの?」


「飛君、飛君のが……飛君のだぁ」


 いや、ちょっと良く分からないんだけど、とにかく混乱しているみたいです。飛君がどうしたのかな?


「いったいどうし……へっ?!」


 そして、僕も飛君の方を確認すると、引っ付いた香奈恵ちゃんの腕に、飛君のご立派なモノが当たっていました。いや、これ……大人としての機能もちゃんと備わってる!


「ちょっ……?! 飛君! うそっ……! それ普通じゃ……」


 もしかして、僕達がじゃれているのを見て、興奮したんじゃ……。


「お、おおおお母さん……これどうしたら?」


「なんで僕に聞くの?!」


「だって、毎晩のように扱ってるでしょ!」


「扱ってるって……香奈恵ちゃん言い方!」


「それじゃあ、くわ――」


「ダメェ!!」


 それ以上言ったら思い浮かべちゃうからダメです!

 だから、僕は思わず香奈恵ちゃんの口を塞いで叫んじゃいました。だけど、これは香奈恵ちゃんが悪い。


 とにかく、8歳にしてこれは卑怯だよ。白狐さん黒狐さん並みじゃん……。


 だけど、飛君に特に変わりは無く、まだ僕達を見ています。初めての事で戸惑ってるんじゃ……。


「2人とも……綺麗だね」


 でも、その子はニッコリと笑うとそう言ってきました。それはそれで予定外だから恥ずかしいです。あっ、香奈恵ちゃんもちょっと顔が赤くなってるよ。


「僕、ここでお世話になっても良いのかな……? 何も分からなくて、ずっと1人で生きていたのに」


 そう言うと、その子は顔を俯かせて沈んだ表情を見せてきます。

 いけない……この子はまだ、妖狐になってしまって戸惑っているところなんだ。気丈に振る舞っていて、僕達に迷惑をかけないようにしているだけで、内心は不安でいっぱいなんだ。


「飛君、大丈夫だよ。その姿になっただけじゃなくて、君には色々と事情があってね。結局、ここにお世話になることにはなっていたと思うよ。だから、ここを自分の家だと思っていいよ」


 そう言って、僕は飛君に笑顔を向けます。ただ、今すぐにここが自分の家だなんて思えないと思う。だから、まだ時間がいる。

 それまでは、香奈恵ちゃんに傍に居て貰わないとね。この子、不安で押し潰されちゃうよ。


「あのね、飛君。あなたはもう普通じゃないの。それならそんな不安にならずに、ドッシリと構えていれば良いのよ」


「香奈恵ちゃん香奈恵ちゃん! だいぶアバウトというか、適当だね!」


 あれ? おかしいな……僕が妖狐になっちゃった時、前世の香苗ちゃんは、スッゴい面倒見の良い頼りになる人だなって思ったのに、今はだいぶ違う感じだよ。

 あの時と同じようにしてくれたら、この子も落ち着くだろうし、まともになっていくと思うのに……。


「香奈恵ちゃん……僕が妖狐になった直後みたいな、面倒見の良い感じはどこにいったの?」


「えっ? あれは……椿ちゃんにだけよ。だって、それだけ好きなんだもん~」


 すると、僕の言葉にそう返事をして、そのまま後ろにいる僕にもたれかかってきました。僕は君の恋人じゃないよ?


「香奈恵ちゃん、嬉しいけれど……飛君が変に育つと、その後どうなるか分からないからね。もしかしたら責任を取らされて、この子と番いになんて……」


「よし、良い? 飛君。今までの事は、全部大切な人にしかやったらダメだからね!」


 香奈恵ちゃん。相当苦しいよ、それ!

 僕がちょっと意地悪な事を言ったら、香奈恵ちゃんは慌てて飛君にそんな事を言いました。


 う~ん……僕を卒業してくれるのは、まだ先になりそうだねぇ、香奈恵ちゃん。


 そして僕は、必死に飛君に色々と補足をしている香奈恵ちゃんを見ながら、ゆっくりと湯船に浸かり直し、体を温めました。

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