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僕、妖狐になっちゃいました 弐  作者: yukke
第肆章 合縁奇縁 ~頑張れ香奈恵ちゃん~
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第参話 【1】

 そのあと、九尾化しちゃった例の男の子が落ち着いてから、僕達はその子を連れて、鞍馬天狗のおじいちゃんの家へと向かいました。


 対処というか、起こってしまった事の報告はしないといけませんからね。隠したとしても、あとでバレたら余計に大目玉なんですよ。皆も隠し事はいけませんからね。


 それで今僕達は、大広間でおじいちゃんの前に正座して、状況を報告したのだけれど……おじいちゃんからは大きなため息しか出て来ません。


「妲己……お前さんがついていながら……」


 主に妲己さんに対してだけどね。僕も怒られてるけれど、この子の姿を戻せなくなったのは、妲己さんのせいですからね。トドメをさしたみたいなものです。


「なんで私ばかり……」


「そりゃあ、元に戻せる可能性を潰したのは、妲己じゃからのう」


「だけど玉藻……」


「まぁ、しかし……この男の子(おのこ)も普通ではないの」


 すると、僕達の話を聞きつけて、この広間にやって来た玉藻さんが、香奈恵ちゃんの陰に隠れて震えている男の子を見て、そう言います。


「もう、大丈夫だよ。悪い事はしない人達だから」


 結局、香奈恵ちゃんが落ち着かせる為にずっと傍に居てくれたからか、その子は香奈恵ちゃんに懐いちゃいました。犬みたいです。


 そして、香奈恵ちゃんからそう言われたあとに、その子は玉藻さんをジッと見ています。

 容姿が気になるのかな? まぁ、一見すると凄い豪華な着物みたいだもんね。でもね、玉藻さんの着物って、戦闘になると動きやすい形に変わるから、普通の着物じゃなかったりするんですよね。


 とにかく、この子はそんな玉藻さんの着物が普通じゃない事を見抜いたのか、玉藻さんを警戒しまくっています。


「玉藻さん。この子、やっぱり……」


「うむ……気付いとったか、椿」


 家に連れて帰った時に気付いたけどね。この子の中の微弱な、九尾以外の妖気を……この子、妖怪の血も流れていたみたい。

 だから、あの九尾専用のいなり寿司を食べても、妖気中毒で死ななかったんですね。


「半妖か?」


 すると、おじいちゃんが僕達の会話を聞いて、難しい顔をしながら腕を組んでそう聞いてきます。


「半妖って程では……」


「江戸の頃かの……ほれ、その時は妖怪達の全盛期じゃったから、良く人間の町にコッソリ住み着いては、人間と交わっとったんじゃ。その頃の血じゃないかの?」


 玉藻さんがそう言ってきて少し納得しました。

 なるほど、家柄とか家系、そういもので脈々と受け継いで来たものなのかな?


 とにかく、この子にも帰るべき家があるはず。


「ねぇ、君……あっ」


 そして僕は、その子に自分の家の事を聞こうと、後ろにいる香奈恵ちゃんの方を向くけれど、そのままその子は香奈恵ちゃんの背中に隠れちゃいました。


「ちょっと、大丈夫だよ。私のお母さんだから」


「香奈恵お姉ちゃんのお母さん?」


 香奈恵お姉ちゃんって……香奈恵ちゃんの方が年上だったの?


「香奈恵ちゃん、その子って……」


「聞いたら、今の私より1つ下だったよ」


 それなら、今8歳くらいかな。香奈恵ちゃんが、その体で産まれてまだ9年だからね。

 実質9歳だけど、中身は前世で僕の親友だった香苗ちゃんだから、20歳は超えてる? う~ん、この場合精神年齢どうなるんだろう?


 とにかく、香奈恵ちゃんは普通の9歳児じゃないんです。精神は大人だから、その子が懐いちゃうのも無理はないかなぁ。


「大丈夫だよ、君。何も取って食おうなんてしないから。そんな妖怪達はここにはいないよ」


 そして僕は、その子を怖がらせないようにしながら、笑顔で話しかけます。


「ほ、ほんと?」


「ほんとほんと。それに、君の事を家の人にも話さないといけないんだ」


 僕が人間との共存を目指し、妖怪の存在を世間に認知させるために必死になっている今、それでも人間達の中には、その存在に恐怖する人達は多数いる。

 良からぬ事に利用する人達もね……それを止めて分からせてやるのも、僕達妖怪の仕事。


 だから、この子の両親が驚きショックで倒れるか、化け物になったと言って追い出すか……そのどちらかになる可能性だってあります。ちゃんと付き添わないと、危ないんですよ。


「ぼ、僕……僕……」


 するとその子は、まだ生えたての小さな九本の尻尾を弄りながら、言いにくそうに口を開きます。

 その自分の尻尾のフサフサ感、もう虜になりつつあるみたいだね。


「僕、家……こんなんじゃない」


「えっ?」


 こんなんじゃないってどういう事? もしかして、両親が共働きで夜遅かったりで、いつも1人って事かな?


「椿よ」


 するとその時、広間に白狐さんと黒狐さんが入って来て、僕の横に座ってきます。

 2人には、この子の戸籍とか色々調べて貰っていました。戻ってきたということは、何か分かったのかな?


「どうでした? 白狐さん黒狐さん」


「うむ……その男子、髪の毛や舌からDNAを取り、色々と伝手を使って調べたがな、どちらにもその戸籍がなかったわ」


「えっ……? そんなのって……」


 僕の言葉にそう返してきた白狐さんに、僕は唖然となりました。この現代で、戸籍がないなんて……。


「椿よ、あり得るんだ。この現代においても、無戸籍の子供が日本にも沢山いる。そう言うのを、DQN親とか毒親とか人間達は言っているだろう?」


「あっ……」


 いましたね。僕もチラッと耳には聞いていたし、相当酷いことは知っていたけれど、ここまでとは思わなかったです。


「それと香奈恵。その子は自分の名前が分からないんだろう?」


「う、うん、そうみたい」


 そして白狐さんにそう言われて、香奈恵ちゃんはゆっくりと背中にいるその子を見ます。その瞬間、その子は少し体を強張らせました。


「大丈夫、大丈夫だよ」


 確かに知能指数も低そうで、学校にも通わせて貰えて無さそうだよ。


「あの、僕……お父さんとお母さんいない。気付いたら1人だった……ずっと、捨てられた食べ物とか、ゴミ箱から食べ物探してた」


 ちょっと、その発言で更に謎が深まっちゃったよ! 家がこんなんじゃないってそういうこと?! そもそも家が無かったよ。

 それじゃあ、この子はいったいなんなの? 多少の妖気がその体内にあって、尚かつ両親がいないなんて……あっ、でもまさか……。


「白狐さん、黒狐さん」


「うむ……」


「どうやら、俺達はとんでもない拾いものをしてしまったようだな」


 やっぱりですか……確認の為に白狐さん黒狐さんを見たら、2人とも腕を組んでその子を見下ろしていました。その子が怖がってるから、腕を組むのは止めてね。


 そして妲己さんと玉藻さんも、僕達の言葉でようやくその子の正体が分かったようです。


「な~んだ、そう言うことか……それなら妖狐にしちゃっても問題なかったじゃん~」


「これ、妲己。奴に怒られるぞ」


「でも、どのみち妖狐になる所だったのよ? 呼ばれたのよ、伏見稲荷にね」


 妲己さん、正座を崩して足を伸ばさないで下さい。安心したからってそれはないですよ。


 とにかく、この子は結局妖狐になる運命だったのです。それがちょっと早まっただけだけどね。


「えっ? ちょっと……お母さんも皆も、この子が何者か分かったの?」


 皆の反応に、1人だけ訳が分からないような顔をして、狼狽えている香奈恵ちゃん。それに反応して、背中にいる子も不安になっちゃっています。


「うん、ただ……懐いたのが香奈恵ちゃんって所が、ちょっと不安かなぁ。こんな大役、君に出来るかなぁ」


「ちょ、ちょっと……なに? 大役って……えっ?」


 とりあえず説明してあげないとね。


「その子ね、神隠しにあった女性の子供。いつか神社の神様になる為の子供なんだよ。そんな子を、通称『御子(みこ)』って呼んでるの。日本の皇居がこれを使ってたけれど、元はここからだよ」


「へっ? 神様になる子供?」


 僕の言葉に、香奈恵ちゃんが目をパチクリさせています。可愛いな。


「そう、そしてその子の父親はきっと……天狐様だ」


「えっ……」


 天狐様が数年前に、1人の女性をこの稲荷山で神隠しに合わせ、その時に子を宿らせたんだと思う。この子は、きっとその女性と天狐様の子供。半妖……ではない、血を限りなく薄めさせていたみたい。


 そのあと女性の方は、そんな不可思議な体験で出来た子供を、普通の子として愛す事が難しかったんだと思う。

 やっちゃいけない事だけど、ある程度育ったところで、この近辺に捨てたんだと思う。


 それを天狐様が見つけて呼び寄せた……自分の跡を継がせる妖狐にするために……ということは、いち早く天狐様に言わないといけないけれど、もう遅いかも知れません。


「やはりここか……」


 ほら……瞬間移動したみたいにして、天狐様がこの場に現れたよ。さぁ……ここからが大変です。

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