第壱話
翌日、色々と疲れが出てしまった僕は、その日は伏見稲荷の自宅の方でお昼前まで寝てしまっていました。
「…………今何時?」
「11時前じゃの」
「……それで、白狐さんはなんでずっと横に?」
「寝顔が可愛くてついの……」
横に転がって寝ている状態で目が覚めて、そのまま起きようと上体を起こしたら、白狐さんがにこにこ顔で僕の横に座っていました。
僕達はベッドじゃなくて、床にお布団を引いて寝ています。畳だからね。だからね、正座で寝顔を見られていたら、かなり恥ずかしいしビックリするんだよね。
「起こしてくれても良いじゃん~」
「いやなに、疲れとると思っての」
「そうだけど……香奈恵ちゃんは久しぶりの学校でしょ? 僕も一緒に行って、あの雷獣さんと話そうと思ってたのに」
僕が理事長になったあの学校は、相当立場が危うかったらしいんです。
雷獣さんが必死に説明してくれていたから、まだ何とかあの状態のままで維持されているけれど、もう少し遅かったら、そこに通う半妖や妖怪達は追い出されていたらしいです。僕の息がかかっていて、危ないからって理由でね。
だから、お礼に行きたいんです。そこはしっかりしないとね。それなのに、僕は熟睡しちゃってました。
「しょうがないなぁ……香奈恵ちゃんの下校時に合わせて行こうかな」
「香奈恵は今日、友達と遊ぶと言っておったぞ?」
すると、お布団から起き上がった僕に向かって、白狐さんがそう言ってきます。
友達と遊ぶ? 香奈恵ちゃん、僕が寝ているのを良いことに……いや、香奈恵ちゃんが戻ってきたからお祝いをするんでしょうけど……。
「どこで? 誰と? 何時まで?」
そこはちゃんとハッキリさせておかないと、香奈恵ちゃんはまだ小学校低学年だからね。
「ぬぉ……毎回それを聞いてくるから、困ってると言っておったぞ」
ほら、香奈恵ちゃんはこれを狙っていたんだよ。
「あのね、中身は確かにカナちゃんだけど、体はまだお子様なんだよ。何かあったらどうするの?」
そして僕は、そのまま白狐さんに詰め寄ります。こればっかりは譲れないんだよ。
「確かにそうだが……」
「まぁ、香奈恵ちゃんも香奈恵ちゃんだし、しょうがないです。あの子、友達沢山いるもんね」
やっぱり前世のカナちゃんそのまんまだからね。その持ち前の明るさで、友達なんかあっという間に沢山作っちゃってました。
とにかく、はだけたパジャマを直しながらタンスに向かい、そこから着替えを出します。
たまにはあの可愛い巫女服以外も着ないとね。やっぱり、お母さんらしく婦人服かなぁ……。
「椿よ……」
すると、タイトスカートとブラウスを出してきた僕の肩に手を置き、白狐さんが首を横に振りながらそう言ってきます。
「な、なに……白狐さん」
「…………」
無言でミニスカートタイプの巫女服を出してきました。しかも、細かい所に和風の装飾が入ってる新作じゃないですか。
「いや、あの……流石にもう僕も……」
「……似合うと思うか? 背伸びしなくても良い、椿は幼妻だろう?」
「う、うぅぅ……」
似合うか似合わないかと言われたら、確かにあまり似合わなそうです。僕はこの巫女服から逃げられないのかな?
―― ―― ――
そのあと、結局白狐さんの用意した巫女服を着た僕は、同じ1階にあるリビングへと向かいます。
「おぉ、起きたか椿」
「あら、お寝坊さんね~椿~」
『おはようございます、お姉様~』
すると、真っ先に黒狐さんと妲己さんがそう言ってきて、その後にヤコちゃんとコンちゃんが同時に挨拶してきました。息ピッタリなんだよね、この2人。
そして、目の前に朝ごはん兼お昼ご飯が置いてある僕の席に着くと、早速腹ごしらえをします。お腹減って目が覚めたようなものだから……。
「そうそう、椿。今日の夕方に、伏見稲荷の方に私専用のいなり寿司が届くからね。勝手に食べないでね」
「あっ、今日ですか? 分かりました」
タコの足のように暴れる油揚げのお味噌汁を飲みながら、僕は妲己さんに返事をします。
妲己さん用のいなり寿司。正確には、九尾用のいなり寿司です。
かなりの妖気が練り込まれていて、減らないどころか2つ3つと増えていくんです。
普通の妖狐が食べようとしても、相当難易度が高く、その妖気で胃がやられたりするので、まず食べられないです。僕は1回たべたけどね。何とかギリギリだったけど……。
そして、妲己さんと玉藻さんは月1回のペースで、そのいなり寿司を食べているんです。
今日それが届くみたいで、ちゃんとこの家に持っていかないと、誰かが間違って食べちゃったら大変です。
「さて、それじゃあ私は黒狐と依頼に行ってくるからね。あと宜しくね~」
「ん、いってらは~い」
口の中で油揚げが暴れてるよ……もう。喋りにくいです。
多分、依頼が終わったら2人はデートすると思うし、きっと何処かで夫婦の営みもすると思う。
早くそっちにも子供が出来ないかな? そしたら、次は僕が黒狐さんの子供を産むんだから。
「さて……では我々も、銀狐と金狐が来る前にやっておくか」
「んぐっ?!」
その後に、白狐さんが立ち上がってそう言ってきたけれど、やるってもしかして、夜にやる夫婦のいとな……まだお昼ですよ! 思わずお味噌汁を噴き出しそうになっちゃったよ。
そ、そりゃ、夕方にも襲われたりした事あったし、まんざらでもないけれど……お父さんお母さんが来る前に軽くって……白狐さんもしかして、僕の事を体のいい性処理道具として見るようになってきているんじゃ。
そんなのは嫌だよ。
「あ、あの……その、白狐さん。まだお昼というか……」
「だから良いんじゃろう?」
う~俯きながらじゃないと聞けない。だけど、白狐さんは明るい時間からやる方が好きなんだ……。
「で、でも……僕のお父さんお母さんが来る前になんて……そんなに僕の事を軽く見てるの?」
「ん? まぁ、椿は軽いじゃろう」
「なっ……!!」
ショ、ショックです。白狐さんにそんな目で見られていただなんて!
でもだからって、そこにつけ込んで僕を性処理道具として扱おうとするなんて!
流石の僕も目くじらを立てるほど怒るよ!
「酷いよ白狐さん! 僕の事を、せ、性……性処理道具にしようなんて! 僕は、白狐さんとの愛の確認の行為だと思ってたのに!」
だけど、僕が怒り出した時から、白狐さんが何というか……凄く可愛いものを見るような目をしてきて、しかもその後僕の頭を撫でてきました。
今はそんな気分じゃないけれど、白狐さんに頭撫でられたら、力抜けてへたり込んじゃうよ。
「うぅ……卑怯ですよ、白狐さん!」
それでも、僕は怒ってる事を分かって貰うために、必死に白狐さんを睨みつけます。
「ふふ……そうかそうか。そんなに椿は我としたいか。全く、とんだ変態だな。飛翔の練習をやるよりも、我と愛を育む方が良いか」
「えっ……?」
あっ、あれ……? 僕もしかして、凄い勘違いしてた……?
「えっ、やるって……あの」
「飛翔の練習をやろうと思っていたがな。椿が怒るほどまで駄々をこねるのならば仕方ない」
「……ぁぁぁあ!! 違っ……違う! 白狐さん違うって! あの、その!」
白狐さんが言ってたのは、飛翔の練習をやるって事だったんですね! その前に変な事を考えていたから、勘違いしちゃったよ!
すると、白狐さんはへたり込む僕を抱き上げると、そのまま寝室へと歩いて行きます。
「待って待って! 練習! 飛翔の練習させてぇ!!」
「椿の可愛さにやられたわい」
「やられなくて良いってば!!」
だけど、白狐さんは僕の言葉には耳を貸さずに、そのまま寝室へと連れて行かれてしまいました。
こうなったら、あとはもう分かるよね。僕は徹底的に可愛がられました。




