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僕、妖狐になっちゃいました 弐  作者: yukke
第参章 阿修羅道 ~大江山の鬼の決意と覚悟~
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第拾話

 あの後おじいちゃんの部屋に呼ばれた僕は、おじいちゃんの前で大人しく正座をしています。


「なるほどの……空狐の神通力か。それとお前さんの神妖の妖気が混ざり、とんでもないことになっとるのか」


「あ、あの……力を入れなければ良いだけで、普通に生活する分に問題ないんです」


「しかし、いざ戦闘になるとあのありさまになるのか?」


 それはその通りとしか言えません。

 実際、力を入れて小指で突いただけで、相手は全身の骨が砕けて吹き飛んでいきそうなんです。


 この状態で酒呑童子さんと戦えば勝てるかも知れないけれど、被害は大きいと思うよ。


「とにかくじゃ、そのコントロールが当分の目的かの?」


「そう……なります」


「分かったわい。それと、お前さんは座敷わらしの居場所を知っとるんじゃろ?」


「わら子ちゃん? あっ、えっと……」


 確かに知ってるけれど、四つ子の守護者、龍花さん達に口止めされてるし……。


「言わんで良い。ただ、ちゃんと守ってくれということだけじゃ。酒呑童子の奴、座敷わらしも狙っとったからの」


 わら子ちゃんを……? あぁ、きっと幸運の力が欲しいんでしょうね。

 どんなに完璧な計画を立てていても、1つの不幸でそれは呆気なく崩れちゃう。だから不幸が来ないように、確実に計画が成功するように、座敷わらしの幸運の気で満ちさせておく。


 僕が天津甕星(あまつみかぼし)に勝てたのも、わら子ちゃんが幸運の気を満ちさせておいてくれたからかも知れません。


「……分かりました。ちゃんと守ります」


 そうなると、早く龍花さん達と連絡を取りたいけれど、調べ物があると言って何処かに行ったっきりなんですよね……何かあったのかな?


「それにしてもじゃ……まさか、豊川稲荷の妖狐まで味方につけるとはのぉ……」


「こほん、お初にお目にかかります。私、豊川稲荷のトヨちゃんと言います」


「そこは譲らないんだね……」


 おじいちゃんの言葉に反応して、僕の横で正座していたトヨちゃんが、頭を下げて挨拶をします。


「うむ、いや……お前さんとは力の上下関係はほぼ無かろう。かしこまらんで良いわい」


「ふふ。でも、こちらでお世話になることもあるかと思うと、そこはきっちりとしておかなければ……」


「う~む……しかし、何故椿には友達感覚でいるのじゃ?」


「だって可愛いから。友達として接してきてくれている椿ちゃんったら、凄く可愛いし、私も何だか若返っちゃいそうなんだよね~」


 両手を頬に当てながらにこやかに笑うトヨちゃんは、何だかちょっとお姉ちゃんっぽかったです。


「そうか。しかし、それならそれで丁度良かったわい。例のあれ……なんと言ったかの? 2人で正義の味方のような事をして……」


「あぁ、コンコンガールですか?」


「うむ、あれは中々良かったぞ。これから2人で依頼や任務をするときは、あの格好で……こりゃ、どこへ行く椿」


 あぁぁ……逃げられなかった。足痺れたよ!

 コンコンガールって聞いた瞬間、この部屋から逃げようとしたけれど、僕って正座するのが苦手で、いつも足が痺れちゃうの!

 今回は緊張もあってか、痺れてくるのが早かったよ。立とうして後ろを向いた瞬間、前のめりになって倒れちゃいました。


「あ~良いですね。椿ちゃんと一緒に、正義のヒロインとして活躍すれば、妖怪の認識も少しは変わるかも知れませんね」


「あぁぁ……!! 今は足触らないで! トヨちゃん!」


 喋りながらさり気なく僕の足を掴んでるもん。

 ツンツンしているんじゃない、ガッシリと掴んでるの。それ、ダメ……本当に悶えるレベルだから!


「そういう事じゃ。酒呑童子が次に何かを仕掛ける前に、人間の意識を変えてしまえば良い」


「でも、今回の酒呑童子の行動で、妖怪達の評価が……」


 顎に反対側の手を当てて考える前に、僕の足からもう片方の手を離して! トヨちゃん!


「うむ、戻すのは大変かも知れんが、椿の人気があれば問題なかろう。雪よ、次の用意は出来とるか?」


「はい、翁」


 すると今度は、雪ちゃんがおじいちゃんの部屋に入って来ました。しかも、正座しながら入り口のふすまを開けていました。

 君はお付きの人とか、忍者とか何かですか? あっ、僕のお付きの人だった……。


「次の会員誌は特別復活号として、今号から会員になった方に沢山の特典を。そして特集は椿の戦闘シーンの数々と……これを……!」


「ほぉ……!」


「あっ、あぁぁぁ……!!」


 そう言えば約束していたんだった。

 あの依頼に行く前に、雪ちゃんと香奈恵ちゃんをお留守番させるために、ビキニの水着を着る約束を……。


「へぇ、椿ちゃん頑張ってるんだね」


「違うのトヨちゃん、逃げられないの……」


 逃げたくてもピッタリと引っ付いて、僕の可愛さをアピールしまくる雪ちゃん。

 いつの間にか写真を撮ってきて、それを使って裏で活動をする香奈恵ちゃん。

 この2人がタッグを組んだら、あっという間に人気者にされちゃいます。


 僕は一言もアイドルになるとは言ってないの……。


「椿……写真」


「うっ、ぐぅ……」


 でも、僕も僕なんです。断れないんです。断ったら、嫌な思いをさせてしまうかも知れないと思うとね……それに何より、もし断ろうものなら……。


「…………」


 ビキニの水着に重ねるようにして持っている、もっと肌の露出の多い水着が見えたよ。断ったらそれが出て来ますよね。いつもこうです。断ったら、もっと無理難題を言われるからね。

 それに何より、この水着を着るってそう約束したんです。約束は、守らないといけません。


「分かってる。分かってますよ、雪ちゃん」


 そして僕は、大人しく雪ちゃんの手にしている水着を受け取ります。

 まだ梅雨に入っていない時期、水着姿になるにはちょっと寒いけれど、そこは我慢ですね。


 でも、撮影をどこでやるか次第――


「さぁ、準備は出来てるよ、椿!」


 ――と思ったら、雪ちゃんがそう叫んだ瞬間に、おじいちゃんの部屋の奥の襖が開いて、そこにもう一つ部屋が繋がっていました。

 そしてそこには既に、撮影に使う機材やら照明やら、撮影の舞台やらの準備が整っていました。


「さぁ、とっておきのものを撮ってくれい、雪」


「任せて下さい」


「あ……あは、あははは……」


 こういう時だけ、雪ちゃんもおじいちゃんも、そして皆も元気になるよね! 集まって来ちゃったよ!!


「お母さん! しっかりと可愛いポーズお願いね!」


 香奈恵ちゃん、混ざってる。僕の子供としてと僕の親友としてが混ざってるよ。


「砂浜はこんな感じで良いかの?」


 砂かけ婆さん? セッセと準備をしちゃって……そしてその砂、完全に砂浜の砂だよね。凄いクオリティ……。


「板は俺達が支えてるぜ~」


 あっ、背景の板、どうやって支えてるかと思ったら、ぬりかべさんとがしゃどくろさんが支えていました。皆本格的に協力してるね!!


「雪さん、照明の位置はこのくらいで?」


「OK」


「ヘビスチャンさんまで?!」


 妖怪センターにいる、人間の形で執事姿の蛇の妖怪、ヘビスチャンさんが、その蛇の身体を使って照明の位置を調整していました。

 そう言えばこの妖怪さんも、僕のファンクラブに入ってたっけ。


「さっ、姉さん。早く着替えるっすよ」


「皆待ってるのよ」


 そして、楓ちゃんと美亜ちゃんもその場にいて、僕にそう言ってきます。


「僕の水着姿を? こんな、ボンキュッボンな身体じゃないのに? というか、水着なら1度着てるよね? 楓ちゃんの実家に行った時に……」


『あの時とは布地の量が違う』


 あっ、そうですか……皆して声を揃えて言わなくても……。

 でも確かに、この水着は布地が少ないです。下も結構際どいし、胸元も……。


「お前達、分かってるだろうが……」


「先に拝顔するのは俺達だ」


 拝顔って……僕のはそんな凄いものじゃないよ!

 それなのに、白狐さんと黒狐さんは、更衣スペースの出入口の1番前に陣取っていて、腕を組んで仁王立ちしていました。


「あのね……2人とも水着姿以上のものを見てるじゃん」


「それはそれ……」


「これはこれだ!!」


 何が違うんでしょう……僕にはちょっと分からない。とにかく僕は観念して、その水着をしっかりと腕に持って、更衣スペースに行きます。


 これは約束した事だからね。好き好んでこんな水着は着ないからね。

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