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僕、妖狐になっちゃいました 弐  作者: yukke
第参章 阿修羅道 ~大江山の鬼の決意と覚悟~
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第玖話 【2】

「あっ、お姉ちゃん! それ美瑠の天ぷら!」


「あ~ら、駄目よ。この大きい海老の天ぷらは私の~」


 ねぇ、納得いかないのは僕だけかな?


 いつもの宴会用の広い居間で、美瑠ちゃんが楽しそうに、美亜ちゃんと妖怪食の取り合いをしていますよ。


 あれ? 酒呑童子さんの事で沈んでるんじゃ……。


 僕が2階に上がろうとしたら、2人仲良く降りてきて、元気な様子で僕に声をかけてきたからね。

 美瑠ちゃんの茶色いウェーブのかかった髪も、いつも通り艶があって綺麗でした。


 まだあどけなさを残しながらも、少しだけ大人っぽくなった美瑠ちゃんは、昔と比べて活発になっています。

 だから、強い子になっているかというとそうではなくて、たまに寂しそうな顔をしていたりもしています。

 やっぱり、酒呑童子さんの事が気になっていると思う。それなのに、なんでこんなに元気なのかな? もしかして無理してるのかな?


「あっ! 椿ちゃんお姉ちゃん、豚肉さんが!」


 うん、豚肉の梅風味炒めの豚肉さんがね、僕のほっぺを平手打ちのようにして引っぱたいて来ました。平べったい豚肉なのに、血気盛んです。

 でも、それは今は無視です。引っぱたかれておきます。僕は君の事が気になるからね、美瑠ちゃん。


「美瑠ちゃん、大丈夫なの? 酒呑童子さんの事」


「ん? 鬼丸? 大丈夫、大丈夫~椿ちゃんが連れ戻してくれるでしょう?」


 サラッととんでもないことを言ってきたね、美瑠ちゃん。君の中で僕の株はどんな事になってるの?


「いや、でもさ……美亜ちゃんが」


「あぁ、あれは鞍馬天狗に言われて、そう動けと言われたの。美瑠はこの通りよ」


 う~ん、腑に落ちないのは僕だけでしょうか?


「でもさ……味方になってくれていた妖怪が……」


「椿よ、完全に味方になっていたか? あやつは昔から怪しかったぞ」


 そりゃ、皆にとってはだけどね……白狐さん。

 でも、僕は半年間、酒呑童子さんに修行を付けてもらっているから分かるんです。あの妖怪さんは、根っからの悪人じゃないって事を。

 何か隠していても、いつかきっと話してくれるって、そう思っていたのに……。


「椿、妖怪なんてそんなもんじゃ。お前さんはまだまだ、人間だった頃の思いや気持ちが強く残っとるようじゃの。それだけ強力な妖術で人間にされとったからしょうがないが、いい加減馴染む事じゃな」


「む~」


 そう言われたあと、暴れまくるご飯を食べながら喋るおじいちゃんを見て、僕はふくれっ面をします。


「ふむ……しかし、人間との共存には、お前さんのその感情は必要かも知れんな。おいそれと無くせとは言わんが、妖怪の方の考え方にも、馴染む事じゃ」


 敵だったから、味方だったから……そんなわだかまりなく、常にその関係に全力で立ち向かう。

 確かに妖怪さん達を見ていると、何となくそれは見て取れるけれど……時にその人間っぽさが出て来るよね。


 裏切られた事による怒りや、敵だった者が味方になって、何となく気まずい空気になったり怪しんだり。


 それは、人間が妖怪を生み出したから……なのかな?


「う~ん……んんん。そういうものなのですか? 妖怪って……」


『感情の定まらない怪しさと、妖しい姿こそが妖怪だから』


 この場にいた妖怪さん達全員からそう言われちゃいました!


 そう言われたら、何だかこうやって考えてるのがバカらしくなってくるじゃないですか。


 もう食べよう、食べましょう。そうじゃなかったら、また僕は考えすぎちゃうよ。


 気が付いたら僕のお父さんとお母さんに連れられて、香奈恵ちゃんもとっくにこの家に来ていました。そしてそのまま宴会に参加していたし、トヨちゃんまで一緒になって宴会に参加していましたよ。


 もう……あとで皆にトヨちゃんの事を紹介しないと。だけど、当然皆豊川稲荷の事は皆も知っているみたいで、既に打ち解けていました。


 これが妖怪って事なのかなぁ?

 あっ、また考えちゃってる。食べないと、凄い勢いで料理が減っていってるよ!


「あっ、定番のお刺身~これ好きなんだ~って、あれ? 美亜ちゃん、このお魚食べてないじゃん」


 良く見ると真っ赤なお頭が付いてるし、鯛のお刺身に違いないけれど、何で美亜ちゃん食べてないんだろう?


「上げるわよ。それ、新作の妖怪食だけど、私には無理」


「へ?」


 一応妖怪食にも新作は出て来ます。同じ料理でも、動きが違ったりするんですよ。

 だから、今までとは違う食べ方をしないといけないんだけど……このお刺身さんはいったい……。


 と、とりあえず食べてみよう。


「おぃ……」


「ひぇっ! 喋った!!」


「そりゃ喋るわ、魚だからな!!」


「魚は喋らないよ!!」


 そのお刺身にお箸を伸ばしたら、鯛のお頭がギョロッとした目をこっちに向けてきて、口をパクパク動かしながら喋ってきました! 怖いよ、これ!


「おい、お前。俺様をただ食べようとしていたな!」


「えっ、いや……そりゃぁ……」


「ふざけんな!! 俺様のありがたみを知らずに食おうとしやがって!!」


「えっ? えぇぇ!」


 鯛は値段が高いから、ありがたみはあるけれど……それじゃないのかな?

 お魚は栄養が良いって事も知ってるけど……それに感謝して食べないといけないのかな? このお刺身さん。


「良いか? この俺、鯛のお刺身はよぉ……タンパク質は豊富に含まれ、ビタミンAも摂れる。更にはビタミンDに良質な脂質DHA、EPAが含まれている。頭が良くなるの当然だが、EPAは血管の柔軟性を高めるんだよ!」


 あぁぁ……何か始まったよぉ。なにこのお刺身さん……。


「そして、丈夫な歯や骨を作る栄養素、リンもある! 当然カルシウムやマグネシウムもある! どうだ! この完璧な食べ物! 値段が高いのも納得だろう! だから……その事を頭に入れておきながら、ちゃんと味わって食いやがれぇ!!」


「あっ、食べて良いんですね」


「だからお前、ちゃんと味わって感謝して食えやぁぁあ!!」


 うるさいですよ、このお刺身さん……この新作はちょっと外れです。


 だけど、味は鯛のお刺身だし、人間達が食べているのと変わらないです。ただうるさいだけ……。


「おじいちゃん~この新作、うるさいって言っといて」


「うむ……耳が良い奴にはキツいじゃろうな」


 それで美亜ちゃんは食べなかったのかな? 良く見たら、耳をペタンと前に倒していました。


「美瑠も、それ食べられない~お魚大好きなのに……」


「ん~他の新作も嫌な予感がするね」


 だって、ろくろ首さん達が首をぐねぐねと動かして、なにやらのたうち回ってるからね。


「ちょっと、喉の中で動き回らないで……げほっ!」


 里芋? それを使った煮物か何かかな? 動くのはいつもの事だから、ろくろ首さんも食べ方は分かってるはず……。

 すると、いきなりその里芋さんから手足が生え、そのまま立ち上がると、シャドーボクシングを始めてきました。い、嫌な予感……。


「うわっ!!」


 そのまま僕に向かって、思い切りアッパーして来たよ!

 そりゃ喉の中で殴られまくったら、苦しいに決まってるよ!!


「このっ!!」


 とりあえず、僕の尻尾で机に叩きつけておいたけれど、里芋さんは潰れちゃったよ。

 ついでに机も壊れて床も抜けちゃいました。忘れてた……。


「あっ……やっちゃった……」


 もう大惨事。妖怪食がここぞとばかりに暴れ始めます。


「ちょっと、お豆腐が顔に!」


「唐揚げが膨れてるぞ!! 爆発する……ぶっ!」


 正に食卓大戦争……僕のせいじゃない僕のせいじゃない、新作ばかり投入している里子ちゃんのせい!


「椿、お前さん……何か厄介な事になっとらんか?! デコピンの時から怪しかったが、お前さんどんな力を手に入れたんじゃ?!」


「はぅぅ……ご、ごめんなさい、おじいちゃん!」


 誰よりも緊迫した状況になっているのは、僕自身でした。

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