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僕、妖狐になっちゃいました 弐  作者: yukke
第参章 阿修羅道 ~大江山の鬼の決意と覚悟~
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第玖話 【1】

 その後しばらく飛ぶと、完璧に修復されたおじいちゃん達の家が見えて来ました。

 妖怪って凄いです……たった数日で、何もかも元通りです。新築なんかじゃない。僕が住んでいた、あのおじいちゃんの家そのままなんです。


 こういう事が出来るから、あの時は躊躇なく壊したんですね。全くもう……。


 そして、玄関の前に降り立った白狐さんから降ると、僕はちょっと緊張しながら扉を開けます。

 あんな事があって、それを無かった事にする為に遊びまくろうと思ったんだけど……能力が解けてなかったらどうしようとか、普通に考えちゃうよね。実は美亜ちゃん達はもう既に捕まってて……とかね。


 そうそう、黒狐さんはおじいちゃんの家の前で伸びていました。

 こんな所まで吹き飛ぶなんて……全く力を入れていなくてもこんな威力があるから、ちょっと気を付けないといけません。


「あっ、やっと来たわね、遅かったわね。って、黒狐はどうしたの?」


 だけど、何の問題もなく美亜ちゃんと里子ちゃんが玄関にやって来ました。良かった。


「ごめんなさい、僕の実験でちょっと……」


「何やってるの……全く」


 そして2人とも、白狐さんが担いでいる黒狐さんを見てそう言ってきました。そりゃ、僕がやっちゃったからちゃんと謝るよ。


「椿よ、黒狐は部屋で寝かして来るから、お前は皆の元に行って来い」


「んっ……」


 そして、僕が申し訳なさそうにしていると、白狐さんはそう言って、そのまま玄関から2階の部屋に向かって行きました。

 とにかく、美亜ちゃん達がこうやって出迎えて来たということは、皆能力が解けているのですね。


「椿、悪いけど、私はあの子の傍に居て上げないといけないから。頼んだわよ」


「あの子……? あっ」


 すると、美亜ちゃんはちょっとしんみりした様子で、白狐さんに続いて2階へと向かって行きます。


 そうでした。酒呑童子さんに懐いている子がいたんだ……。


 美亜ちゃんの妹の、美瑠ちゃんです。


 今回の事で1番ショックを受けているのは、多分彼女だと思う。だから美亜ちゃんは、お姉ちゃんらしく慰めに……。

 やっぱり酒呑童子さんは、僕がぶん殴ってでも目を覚まさせないといけないね。


 そして、僕はそのあと長い廊下を歩いて行き、いつも皆が食事をしている広い居間を通り過ぎると、1階の奥の、おじいちゃんが寝かされている部屋へと向かいます。


「翁、入りますよ。椿ちゃんが来ました」


 その部屋に着くと、入り口から里子ちゃんが中に向かって話しかけます。


「入れ……」


 掠れた声……力の無い声。


 これが、威厳のあったおじいちゃんの声? 嘘でしょう……。


 そして、里子ちゃんがゆっくりと部屋の入り口を開けると、その先には布団に横たわる、おじいちゃんの姿がありました。

 変化に回せる妖気もないみたいで、ずっと天狗の姿みたいだけれど、頬は痩せこけていて、あの長いお鼻も気持ち細くなっているような……。


 それと、里子ちゃんがいつものハイテンションじゃなくて、しんみりした様子なんです。調子が狂うんだけど……。

 更にそこには、雪女の氷雨さん、それと女性のろくろ首さんもいました。


「里子、あなたは用意を」


「はい……」


 そのあと氷雨さんが僕達の姿を確認すると、里子ちゃんに向かってそう言います。なに? なんの準備? 言葉が少し重苦しいような……。


「椿よ、傍へ来い……」


「えっ? あっ、は、はい……」


 その場の重苦しい空気に、僕まで思わず丁寧な立ち居振る舞いになっちゃいます。言葉遣いもね。


 そして、そのあと僕はゆっくりとおじいちゃんの元に近付き、その横に正座します。


「椿よ、今回は非常に苦しい思いをさせてしもうた……儂等とした事が、とんだうつけじゃったわ」


「そ、そんな……おじいちゃん達は悪く」


「いや……何があったとしても、お前さん等を信用しきっておれば、こんな事にはならなかったのじゃ……こんな、事にはな……」


「お、おじいちゃん?」


 やっぱり、どことなくおじいちゃんが力無いように思う。グッタリしていて、今にもその命の火が消えてしまいそうな……妖気も、本当に弱々しく……。


「ね、ねぇ……おじいちゃんは別に、命に別状は……」


 とにかく、僕は氷雨さんに確認をしてみます。だけど、僕の言葉に氷雨さんは俯いてしまい、唇を噛みしめています。


 嘘、嘘でしょう? 嘘だって言ってよ……。


「椿ちゃん、言いにくかったからあんな事を伝えたけれど、翁はもう……」


「嘘、嘘だよ! だって、おじいちゃんがそんな簡単に、鞍馬天狗がそんな簡単にやられるわけないって!! ねぇ、おじいちゃん!」


 ろくろ首さんの言葉に信じられず、僕はつい叫んじゃいました。だけど、それを見たおじいちゃんは優しく微笑みかけてくる。


 駄目、やだ……そんな笑みは止めて。それ、最後の笑みだから……死ぬ間際の笑みだから止めて!


 僕はまた失うの? 大切な妖怪を、また僕は……!


「椿よ、母になったのじゃろう。そう簡単に泣くな。そして乗り越えろ」


「うっ、ぐっ……お母さんになっても、僕は僕だもん! 大切な妖怪や人が死ぬ時に、泣かずに我慢出来る人なんていないでしょ!」


「妖怪は、人ではないぞ……泣かずに乗り越える者もおる。酒呑童子のように……な」


 そう言って、おじいちゃんはゆっくりと僕の手を握ってくる。力のない手で……ゆっくりと。


「椿よ、悪かった……信じてやれんで……お前さんは、そのまま迷わず自分の道を進め……そして、立派な妖狐に、な……れ」


「お、おじいちゃん?」


 嘘でしょ? 今ここで? なんで、なんで……おかしいでしょう。

 まるで、僕が来るのを待っていたみたいに、それまで必死に生きていたみたいにしないでよ。


 満足な顔して逝かないでよ!!


「あ……あぁぁ、おじいちゃ~ん!! ダメェ!!」


「は~い!!」


「はぃぃっ?!」


 おじいちゃんが上体を起こして満面の笑みで、痩せこけていた頬がなくなって、立派な顔付きのままで……あれ? あれ? あれれれれ??


「くっ……うくくく。お、翁。もう少し我慢を」


「いやぁ、でも椿ちゃん本気でしたし~」


「うむ、ガチで泣いておったし、流石にのぉ」


「…………????」


 何、何これ? いったい何が起きたの? どういう事?


「ふん、椿よ。正体を隠して儂等を騙そうとしたらしいが、甘いわい! 騙しとはこうやるんじゃ!」


 あ……あ~あ~そういうこと、そういう事ですか……僕、やられちゃった?

 氷雨さん、必死に笑い堪えてるし、ろくろ首さんはもう完全に笑ってるし。酷いよ、これ……。


「それにの、椿。儂は完全復活しとるんじゃ! さぁて、里子に用意して貰っておる宴会の準備も、そろそろ終わる頃じゃろう! 宴じゃ宴! 儂の快気祝いと、椿の帰還祝いを兼ねて宴会じゃあ!!」


 そう言って、おじいちゃんは元気よく立ち上がりました。元気じゃん……めちゃくちゃ元気じゃん。


「あ~その前に、ちょっと3人ずつデコピンさせて貰って良いですか?」


「んっ? なんじゃ、そんなもんで……はぐっ!!」


「きゃぁっ!!」


「あべっ!!」


 そして、僕はゆっくりと立ち上がると、黒狐さんを吹き飛ばしてしまった状態よりも、更に妖気と力を弱めて、3人にそれぞれデコピンをしていきました。

 当然3人とも、思い切り仰け反って畳に頭を打ち付けました。見事なブリッジをしてね。


 乙女の涙は安くないんだからね!


「もう……僕がどれだけ本気で心配して……!!」


 そう言うと、僕はそのままその部屋を出ようとします。


「いてて、分かっとるわい。そんなのは儂等も一緒じゃ。しかしな、妖怪というのはこんなもんじゃ。味方が敵対したあと、また戻ってきたとしても、以前と同じように過ごす。わだかまりなく仲間として過ごせるのが、妖怪の強みじゃわい」


 そうでした……そうでしたね。

 そんな厄介な妖怪達が住む、おじいちゃんの家のこの空気に、僕も飲まれたんです。


 そして、僕は少しだけ笑いながらその部屋を後にします。


 宴会が始まるんでしょ? それならその前に、美瑠ちゃんの様子を見に行きたいからね。


 まだ、手放して喜べる状態ではなさそうだから。

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― 新着の感想 ―
[一言] 騙されたというよりかは椿の勝手な勘違いですよね。みんな1番大事なところを言ってないですし。
2021/12/15 13:55 退会済み
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