第捌話
あれから数日は、ちょっとドタバタしていて大変でした。
まず、妖怪行進をしていた妖怪達は全員、センターの妖怪達の手で、妖界の方の監獄へと送り込まれました。聞いた話だと、恐らく2度と出て来られないみたいです。
そして、妖界に送られた人間達は皆、妖界の方で隠されていた所を保護されました。
何人か妖怪化しかけていて危なかったけれど、皆あの行進に気付かず、見えもせず、ただフラフラとその行進に着いていっていたらしいです。
僕達が戦闘を始めても周りに犠牲者が出なかったのは、人間が一人もいなかったからです。全員行進の方に引っ張られていましたからね。
そしてそのまま、影法師達に連れて行かれていたんです。僕達が気付かない間にね。
ただ、美亜ちゃんと飯綱さん、そしてトヨちゃんはその現場を見たらしく、妖怪事件担当の捜査零課の人達に聞き込みをされていました。
僕は僕で、大怪我したり空狐様に身体を取られそうになったりしたから、妖怪病院の方で検査を受けて、そのついでに色々と聞き取りされました。
やっぱり事件の全貌は記しておかないといけないみたいで、半妖の刑事さん達は大忙しでした。
それと、それだけの大量の妖怪が捕まったので、僕の築き上げてきた人々への信頼はガタ落ちです。なんて事してくれたの……。
とにかくそんな事があったけれど、僕の身体の方も大事なく、色々と事件の事を話した後にようやく解放されました。
「ん~とにかく家に帰って寝たい~」
病院から出ると、僕は伸びをしながらそう言います。
「これこれ、その前に寄るところがあるのではないか?」
「あっ、そっか……」
そう、撫座頭の能力は消えたので、鞍馬天狗のおじいちゃんの家の妖怪さん達や、センターの妖怪さん達に追われる事はなくなりました。
能力が解けて、僕が濡れ衣を着せられていたって、直ぐに分かったでしょうからね。
その確認の為に、これから白狐さん黒狐さんと一緒に、おじいちゃんの家に向かうことになっているんです。
その前に、既に美亜ちゃん達がおじいちゃんの家に戻って、皆の様子を見てきてくれているけどね。
皆、謝りたいらしいです。
とは言え、僕は皆に追いかけられたり、皆と戦ったりはしなかったよ。
完全に閉じ籠もっていたし、むやみやたらに動き回らなかったからだけどね。
「それじゃ、行きましょうか。白狐さん黒狐さん」
「うむ」
「ほら、椿、来い」
来いって黒狐さん……2人とも飛翔して手を伸ばされても、僕まだ飛べないよ。
「む~」
まさかこんな時でも練習とか言わないよね?
とりあえず2人に不満顔を向けてみたけれど、何だか2人同時にほっこりした顔をされました。
駄目だ、効かない。最近僕の可愛さ攻撃が効かないよ。
「何事も練習あるのみじゃ」
「とにかく飛んでみろ」
そして、2人とも僕の目の前を飛びながらそう言ってきます。
「そうは言ってもさ……今はどうなるか分からないの……」
実は、右腕が空狐様によって治されたからか、右腕に空狐様の妖気が込められちゃっていて……妖術どころか、妖気も上手く扱えなくなってるんですよ。
だからね……。
「椿?!」
「お前、どうした!!」
ちょっと飛ぼうとして軽く飛び上がっただけで、一瞬で遥か上空まで行っちゃうんです。
空狐様の妖気が、僕の妖気と神妖の妖気とも混ざっちゃって、とんでもなく強力な妖気になっちゃったの……本当、どうしよう。
「う~ん……コントロールの練習しないと……」
ある程度まで上がったところであとは落ちるだけだけど、途中で白狐さんと黒狐さんが助けてくれるでしょう。
落下していく感覚は怖いけどね……い、意識飛びそう……早く助けて欲しいよ。
「椿よ!!」
「大丈夫か?!」
すると、その途中でやっと白狐さんの腕の中に落ちて、そのまま抱き締められました。そして、2人とも凄い顔で心配してきています。
とにかく説明しないといけよね。
「んっとね……神妖の妖気が復活したのは良いけれど、この空狐様に治された右腕には、空狐様の妖気まで含まれていて、僕の体は今、その2つの妖気が混ざってとんでもない事になってるの」
「とんでもない事?」
「黒狐さん黒狐さん」
言ってもどれくらいか分からないから、見せた方が良いよね。
そして僕は、黒狐さんを手招きして呼び寄せると、デコピンをしようと指を曲げます。
「んっ? おぉ、デコピンか? それで何か分かるのか?」
「大丈夫、軽くだよ。全く痛くない程度でね。てぃ……」
「……っ!!!!!!」
「黒狐!!!!」
本当に軽く、力なんて全く入れてないのに、黒狐さんはまるで額に隕石を受けたかのようにしてのけ反ると、そのまま吹き飛んでいきました。
多分大丈夫だと思う……けど、早く追いかけないと。
病院で検査受けてる時も大変だったの……色々壊しちゃって。多分原因は、この強力な神通力です。
空狐様の神通力は相当強力だって、妖怪図書館の資料に書いてあったけれど、ここまでだなんて……。
「椿よ……まさか空狐の力を……」
「うん、全くコントロール出来ません」
これじゃあ歩く爆弾です。まともに戦えやしません。
「う……ぬ。それを何とかせんといかんな……ところで、黒狐はどこまで行ったんだ? 行けども行けどもどこにも落下してないぞ」
「う~ん」
おじいちゃんの家の方向を向いていたから、多分そっち方面に飛んでいったとは思うけれど、まさかおじいちゃんの家まで飛んでいったんじゃないよね?
白狐さんにお姫様抱っこされたまま、おじいちゃんの家に向かって飛んでるけれど、黒狐さんの姿がないや……。
それでも黒狐さんなら死にはしないだろうけれど、あとで色々と要求されそう。
「うぅ……問題山積みだよぉ……もう」
「まぁ、仕方ない。一つ一つ片付けていこう。我はいつでもお前と一緒にいる。安心しろ」
「んっ、ありがとう。白狐さん」
やっぱり、白狐さんは優しくて落ち着くよ。だって、優しく僕を持ってくれているからね。1番大好きです。
「とりあえず黒狐さんを追いかけよう」
「そうじゃな。まぁ、死んではおらんだろうし、どこかで伸びておるじゃろう」
そう言って、白狐さんはゆっくりとその先へと飛んでいきます。
あんまり急いでいないような気がするけれど、もしかして……少しでも長く僕と2人きりでいたいからかな?
すると、白狐さんが僕を更にしっかりと抱き締めてきました。
「ん……白狐さん?」
あれ? 何も言わない。逆に恐いです。もしかして、僕怒られる? 神妖の妖気を隠してたし、挙げ句空狐様に何もかも取られそうになってたし。そう考えたら怒られて当然かも……。
「……えっ?」
だけど、抱き締められた僕の頬に落ちてきたのは、温かい水滴でした。ちょっと待って、これって涙?
「……」
「びゃ、びゃびゃ白狐さん?!」
泣いてる? 白狐さんが泣いてる?! 僕のせい? うん、僕のせいだよね、これ!!
「本当に……今回ばかりは、心底駄目だと思ったぞ。椿を信じていたとしても、心の底では強い不安感に駆られていたのだぞ」
「あぁぁ……白狐さんごめんなさい!」
とにかく、僕は慌てて白狐さんの涙を拭おうとするけれど、その前に白狐さんにその腕を掴まれました。
「いいや、許さぬ。我をここまで心配させおってからに」
あっ、これって……今夜寝かせてはくれないパターンになりそう。覚悟しておきましょう。
でも、不謹慎なんだけど、本当に本気で心配されたのが嬉しくて、僕はちょっとだけにやけちゃいました。白狐さんに見つからないように……ね。
でもそのあとに、手を離してくれた白狐さんに向かって、ちょっと微笑んでおきました。
とにかく、このあとおじいちゃん達と会うんだけど……なんて言われるかなぁ。今の僕の状態……。
ちょっとでも妖術使ったり攻撃しようとしたら、とんでもない威力になって周りを破壊したり、他の妖怪さん達を吹き飛ばしちゃうんだよね。
でも、不安がったり怖がったりしている暇はないです。
ちゃんとコントロール出来るようにして、戦えるようにしないと、酒呑童子さんが次何を仕掛けてくるか分からないんです。
準備万端で迎え撃たないといけません。
その為にも、今まで以上に皆との結束が必要になってきます。今回の事で、変にギクシャクしている場合じゃないんです。
そうだ。今まで離れていた分、タップリと皆と遊ぶことにしよう!
そう考えたら早く着いて欲しいけれど、白狐さんがまだゆっくりと飛んでいます。
どれだけ僕と一緒にいたいんでしょう? 別に良いけどね。




