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僕、妖狐になっちゃいました 弐  作者: yukke
第参章 阿修羅道 ~大江山の鬼の決意と覚悟~
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第漆話

 暖かい温もり、心落ち着く匂い。

 僕の大好きなこの感覚で、無理やり自分自身に鞭打って起きてみたら、白狐さん黒狐さんに今まで以上に強く抱きしめられていました。


 空狐様に魂を消されそうになり、この身体を使われていたけれど、何とか取り戻したよ。

 白狐さんと黒狐さんとの約束だけで、空狐様の力に対抗していました。あと数分遅かったら危なかったけどね……。


「うっ……うぅ」


 そして、助かったことによる安堵で、僕は泣き出してしまいました。

 本当に僕が消えてしまう寸前で恐かった。真っ黒な空間に、溶けていく感覚がして……その感覚も無くなっていって……。


「椿よ、大丈夫か?!」


「おぉ、急に泣くな、こら」


「だ、だって……だって、今度ばかりは本当に危なかって……あと数分遅かったらって思うと……恐くて」


「そのギリギリになった原因は、どこの誰かのぉ?」


「…………あっ」


 白狐さんに言われて思い出しました。

 僕が神妖の妖気を解放して、それで唐傘兄妹を攻撃した時に、2人を吹き飛ばして……自業自得でした。


「こりゃ、目をそらすな」


「ふぎゃっ!! ごめんなさい!!」


 白狐さんにほっぺ引っ張られちゃった……。

 確かに、僕が吹き飛ばしちゃったからここまで戻って来るのに時間かかったんだけどね……。


「それで、椿。空狐の魂は?」


「あっ、うん……また元に戻ったような……そんな感じかな? でも、僕がまた重傷を負えば出て来るかも」


 そう言って、僕は自分の右手を確認します。

 完全に吹き飛ばされたのに、綺麗に治ってる。空狐様が治したから、自分の腕のような感覚がしません……もしかしたら……。


「てぃ……!」


「ぐぉっ!! くそっ! 気付いてやがったか! つ~か椿、その神通力……?!」


 酒呑童子さんが、白狐さんと黒狐さんの背後から迫ってましたね。

 今僕達は地面にいるから、そりゃ迫って来られるけれど、さっきまで空狐様にやられていたのにもう襲ってくるなんて、やっぱり頑丈ですね、酒呑童子さん。


 だから、僕は空狐様が治した右腕を前に伸ばし、空狐様がやっていたような感じで神通力を使ってみると、なんと使う事が出来ました。

 それで酒呑童子さんを吹き飛ばしたけれど、途中で踏ん張られましたよ。


 そのついでに、左腕も伸ばして同じように神通力を使ってみようとしたけれど、何も起きなかったです。この右腕だけでしか、神通力は使えないみたいですね。


 結果的に、置き土産を置いていってくれたような感じですね。


「椿よ……まさか空狐の神通力か?」


「ん~あれより威力は低いかな……」


 空狐様は、酒呑童子をもっと遠くに飛ばしていたし、もっと色々とやれる気がする。これも練習しないと駄目ですね。


 それよりも……。


「酒呑童子さん、話してくれますか? 何でこんな事をするのか……」


 白狐さんから離れた僕は、未だに凄い顔で睨みつけてくる酒呑童子さんに向かって、そう話しかけます。


「体力まで回復してやがるか……言ったはずだぜ、お前のやり方じゃ甘い。俺はいつでも、てめぇを裏切る気でいたぜ」


「修行中もですか?」


「ふん。力もない状態じゃあ、見極められねぇからな。ちょいと強くしてやったら、ある程度出来るようになりやがったし、何より天津甕星(あまつみかぼし)を止めた。多少は期待してたんだぜ……」


 そう言うと、酒呑童子さんは僕達からちょっとずつ離れていく。まさか、逃げる気?!


「だが、妖怪と半妖も通える学校を作ったり、アイドル活動に精を出して忙しくしてよぉ……空亡の事を忘れていなかったとしても、妖怪の存続を脅かしに来やがって……」


「そんな……僕は……」


「椿よぉ……妖怪は恐れられてなんぼだぜ。恐れられない妖怪に、未来(あす)はねぇよ!!」


 そう叫ぶと、酒呑童子さんは地面に拳を突き立て、その周りを陥没させてきます。

 もちろん、僕達の足元の地面も割れて、立ちにくくなっていきます。そして土埃まで舞い散って、酒呑童子さんの姿が隠れていく。


「くそ、いかん! 奴を逃がすな!!」


「酒呑童子!! 貴様!!」


「酒呑童子さん!!」


 とにかく、僕達は酒呑童子さんを逃がすまいとして、各々叫んだり手を伸ばしたり、追いかけようとしたりするけれど、足場が

悪く、そこから脱するので精一杯だったせいで、もう酒呑童子さんの姿は土埃に消え、その影も消えてしまいました。


 どこに行ったっていうの? どこかに飛んだ気配もない。隠れた様子もない。妖具かなにかを使ったの?


「今回は退いてやる。撫座頭も力尽き、行進していた奴等も止められた……また仲間を増やしやがって。こりゃあ、こっちが分が悪ぃわ。じゃあな」


 そして、酒呑童子さんのその声だけが辺りに響きます。

 でも、どこにもいない。妖気ももう感じられない。完全に逃げられたよ。


 だけど、酒呑童子さんが最後に言っていた。行進が止められた……って事は、美亜ちゃんと飯綱さんが無事に止めてくれたって事なのかな?


「ふむ……今回は仕方ないじゃろう。あの酒呑童子を退かせただけでも良しとしよう」


「だが、完全に敵になったな、あの野郎……」


「…………」


 そう、なんですよね。今回の事で、酒呑童子さんは完全に僕達の敵になった。

 撫座頭も力尽きたということは、その能力が解かれたということ。逆転していた立場が、戻りました。


 だけど、僕は素直に喜べない。


 戦わないといけないの? 酒呑童子さんと……。


 帰ってくるって信じてたのに……。


「酒呑童子さんのバカ……」


 だけど、向こうがその気なら、僕はぶん殴ってでも目を覚まさせて、鞍馬天狗のおじいちゃんの家に連れて帰るよ。

 でも、その時に皆の前で土下座させるけどね……そうだ、そうしよう。


「うふ、うふふふ……」


「いや、待て椿よ、何を笑っとる」


「最近の椿は良く笑うな」


 そりゃ、あの酒呑童子さんを土下座させる事が出来るとなるとね、絶対に負けるもんかってなるよ。

 その前に、空狐の力を完全に扱えるようにしておかないとね。


「あっ、そうそう。妖怪達の行進の方はどうなったの? 止められたって言ってたけど……」


「ふむ、見に行ってみるか」


「そうだな、3人の事が気がかりだ。大怪我してたら大変だな」


 3人で止めてくれたのなら、本当に助かったんだけど、もし大怪我なんかされていたら、僕は合わす顔がないよ。


 だけど、飛翔した白狐さん黒狐に連れられて、妖怪達の行進の方に行ってみると、そこには足だけが石化されて動けなくなっている、大量の妖怪達がいました。


 丁度その先頭、行進に追い着いて指揮を執っていたのか、唐傘兄妹達が悔しそうな表情をして、必死に動こうとしていました。

 因みに唐傘兄妹だけ、足とお兄さんの手まで石化されていました。これじゃあ、妹の唐傘の子も動けないですよね。


「ちっ、ちくしょ……まさか、お前がいるとは……!」


「なによ! なんで強い妖怪達はあいつの味方ばかりしてるのよ!!」


 そして唐傘兄妹は、その前に立っている者に向かって叫んでいます。


「なんでって? そりゃあ、強いからこそ分かるの。酒呑童子のやり方は、いつか綻んでいくって。だからね、可能性が低くてもどうしてもね……椿ちゃんのやり方を応援しちゃうの。私達じゃ出来なかったけれど、この子ならって感じでね」


 その前に立っていたのは、トヨちゃんでした。

 腕を組んでいて、堂々と行進の前に立っています。もしかして、この大量の妖怪達の足を石化させたのって、トヨちゃん?!


「これ……私達要らなかったわね」


「おぉぅ、まさにアウトローな強さだぜ!」


 その後ろには美亜ちゃんと飯綱さんもいました。

 どうやら、僕達の方に向かっている途中でトヨちゃんと合流したんでしょうけど、来た時にはもう終わってたって顔をしています。


「あっ、お~い!! 椿ちゃん~! 大丈夫だった?!」


 そして、空にいる僕の姿を見つけたトヨちゃんは、凄い笑顔で僕に手を振ってきました。


「トヨちゃんって……やっぱり強いんだね」


「まぁ、三大稲荷の1つだからな……」


「それにしても無傷とは、余計な心配じゃったな」


 とにかく、あとはこの妖怪さん達を全員、妖怪センターに引き渡せば良いのかな? それは飯綱さんに連絡して貰わないとね。

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