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僕、妖狐になっちゃいました 弐  作者: yukke
第参章 阿修羅道 ~大江山の鬼の決意と覚悟~
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番外編 其ノ弐

 空狐となった椿の作り出したブラックホールに引き込まれる酒呑童子は、何とかしようにも何とも出来ない状態になっていた。


 何せ、その場で踏ん張るので精一杯。ちょっとでも気を抜くと、その黒い星のようなブラックホールに引き込まれ、死んでしまうからだ。


「へっ……そう簡単に死んでやるかよ」


 そして、踏ん張りながら酒呑童子は空狐に向かってそう言うが、当の空狐は聞いていない。


「……んっ? 何か邪魔な奴が空を覆っていますね。消しておきましょう」


「なっ?!」


 すると、夕日から上空に目をやった空狐はそう呟く。

 その覆っているのは撫座頭であり、その妖怪の強化された能力で、亰骸の起こした事件の罪を椿達は被っていたのだ。


「消えろ……目障りです」


 そして、空狐は手にした数珠を空に掲げ、そのまま妖気を放つ。空を覆っているものの妖気を無にするために……。


「ギェェェ!!!!」


「撫座頭?! ちっ……!」


 その数珠が光輝いた瞬間、空から撫座頭の悲鳴が聞こえ、何かが落ちてきた。それは真っ黒な物体になっていて、一瞬撫座頭だとは分からないだろう。

 だが、撫座頭は空を覆っており、空狐がそれに向けて、何もかも無にしてしまう数珠の力を放ったのなら、落ちてきたのは力を失った撫座頭だと気付くだろう。


「くそっ……!」


 もちろん酒呑童子はそう捉え、この展開に多少の狼狽えを見せている。

 だが、彼は動けない。ブラックホールのような性質の物体が前にある以上、動くと吸い込まれるのだ。


 なんとかしなければ、そうは思っていても、色んな物を吸い込んでいるこのブラックホールは何とも出来なかった。


 正確にはブラックホールに限りなく近い、その場の空間だけを沈めている超重力の玉。それに引っ張られている状態が、今の酒呑童子である。


 周りの街路樹は、とっくにそれに引っ張られ、小さく圧縮されるようにして飲み込まれていっていた。


「……ざけんな……更にデカくしていってんじゃねぇよ! マジで、この星をブラックホールにする気かよ!」


「そうしなければ、あれは倒せません。覚醒して復活する前に潰します。誰かさんが、覚醒までさせようとしているとは思いませんでしたよ」


 そう言って、空狐は更にその超重力の玉に妖気を込めていく。

 自ら発生させた物の為、空狐は完全にその力場を掌握しており、彼女が引きずり込まれることはなかった。

 だから、そのまま完全なブラックホールにさせて、太陽にぶつけようとしているのだ。


「椿!!」


「椿よ!」


 だがそんな時、酒呑童子の背後から2つの声が響いてくる。

 それを聞いて、酒呑童子は少しだけ希望が見えたような顔をした。


「おっせぇよ、てめぇら!」


 そして、そのやって来た2人の妖狐、椿の夫白狐黒狐に向かって、酒呑童子はそう叫ぶ。


「ぬっ……酒呑童子か?!」


「貴様……椿に何をした!」


 もちろんこの2人も、酒呑童子が亰骸を作った事は聞いており、彼の姿を見た瞬間、敵意剥き出しの顔をした。


「ちっ……確かに椿を痛めつけたが、あんな状態になるとは思ってもいなかったわ!」


『貴様……!』


「俺に怒りを向ける前に、先ずはあいつを何とかしろよ。その為に来たんだろう!」


 今にも殴りかかりそうな白狐黒狐に向かって、酒呑童子は気迫の籠もった声でそう叫んだ。

 その様子から、彼は既にその場に踏ん張るのが限界なようであった。


 逆に白狐黒狐は飛翔しており、更には空間に己の体を固定する妖術も発動している為、超重力の玉にはあまり引っ張られていなかった。

 しかし、それは空間ごと引っ張っている為、時間の問題ではある。だが、空間と空間を楔を打つようにして移動すれば、多少は超重力の影響を受けないで移動は出来る。


「なんだお前達は?」


 そしてその様子を見て、空狐はそう言ってくる。


「ふん、お前の体の主の夫だ。妻を返して貰おうか?」


「椿は、お主に体を取られるのを嫌がっていたからな」


「ほぉ……しかしなぁ、あの局面で我が出なければ、此奴はどうなっていたか分からなかったぞ? それに返すも何も、返すものはもう何もないわ」


 2人の言葉にそう返しながら、空狐はあくどい笑みを浮かべて、手を自らの胸に付けた。もう諦めろと言わんばかりに。

 しかし、白狐と黒狐がそれで諦める訳はなかった。ジリジリと歩みより、再度空狐に話しかける。


「いや、まだじゃ……」


「そうだな。俺達にあんな事を言った手前、あいつは絶対にまだ消えていない! 今助けるぞ、椿!」


 そう言うと、2人とも空狐に向かって凄い勢いで飛んで行く。その手前にある超重力の玉など、目もくれずに。


「ほぅ、やるな……中々の手練れではないか。では、これならどうだ?」


 それを見た空狐はそう言うと、パチンと指を弾き、更に黒い玉を次々と自分の周りに生み出した。

 それは全て、目の前の空間を歪ませている超重力の玉であり、目の前のものほどではないが、それなりの重力を持っている。


「ほいっ」


 そしてそれを、空狐は白狐黒狐に向かって全て放った。


「ふん、これくらい……」


「稲荷の祖である我に、通用すると思うか?」


 しかし、それが放たれた瞬間、2人ともその身に纏った妖気を放出し、空狐の放った超重力の玉を弾き飛ばした。


「ほぉほぉ……なるほど、そこで踏ん張っている妖怪よりは厄介……いや、何か引っかかりが……我の力はこの程度では? んん?」


 すると、空狐は何か不思議そうな顔をしながら、自分の手を開いたり閉じたりし始める。まるで何かを確かめるようにして。


 どうやら、その椿の身体に違和感を感じているようである。何かが抵抗しているのか……それとも、椿の身体が空狐の妖気に耐えられなかったのか……。


「…………なんだ、この抵抗感。いや、この身体の魂は消えて……はっ!!」


 そして、空狐が自分の身体の違和感に戸惑っている間に、白狐と黒狐が空狐を挟むようにしてその横に立った。


「諦めろ。その体、椿に返すんじゃ」


「まだいるようだな、消えてないんだな、椿! それなら……!」


 それを見た空狐が、新たな超重力の玉を作ろうと指を弾く前に、白狐と黒狐は椿の体をした空狐に抱きついた。


「んなっ?! 何を!!」


 その展開に驚いた空狐は、辺りに漂っていた超重力の玉を消してしまい、空間を歪ませていた玉も、思わず消してしまっていた。


「うっ、くっ……少し動揺したが、これくらい……ん? か、体が動か……!!」


 白狐と黒狐に挟まれ動揺した空狐は、それでも直ぐに落ち着きを取り戻しており、2人を吹き飛ばそうとする……が、自分の体が動かないことに気が付いた。


 それは完全に想定外。その様子から、椿の魂はまだ消滅していない事が分かる。

 当然、白狐と黒狐がそれを見逃すわけはなく、一気に畳みかけていく。


「頑張れ、椿! 空狐の魂を逆に押さえ込め!」


「まだキツそうなら、この温もりで目を覚ますんじゃ!」


「うぐっ、止めろ、止めろ貴様等!! 分かってるのか?! 空亡を消すチャンスを、この最大のチャンスを逃すことに……!!」


 しかし、白狐と黒狐に抱き締められてもまだ抵抗をする空狐は、2人に向かってそう叫ぶ。

 だが、それくらいで揺らぐような2人ではない。さっきよりも、更にキツく抱き締めていく。


「知れたこと、全てを犠牲にしてまで勝とうとは思わんな」


「椿の声に耳を傾けてみろ。あいつなら、こんな方法をとらずに空亡を倒すだろうな」


「ぐっ……くっ、そ、そんな事では……空亡は倒せん。全てを犠牲にしなければ……3000年……長い時を生きて、空亡と戦い続けた我が言うことだぞ!」


 だが、空狐の言うことには耳を貸さず、2人は更に追い打ちをかけていく。


『知れたこと。歴史は教訓。そこから新たに学び、新たな解決法を見つける事こそ進化というものだろう。椿は進化した妖怪だ! 甘く見るな!』


「なっ……」


 2人同時に、しかも両方からそう言われ、空狐は面食らってしまっていた。

 その進化という言葉に反応したのか、2人の強い意思に押されたのか、自分の中にある未だ消えないもう一つの強い意思に押されたのか、空狐のその意識が一瞬揺らいだ。


「うっ……くそ……おのれ……! ふっ、後悔……せぬことだな……」


 その後何やら苦しそうに呻いたと思ったら、そう言い放って空狐は意識を失った。そのまま白狐と黒狐に身を預けながら。更にはその服装が、普段の椿の巫女服に戻っていた。


「椿? 椿!」


「椿よ! 大丈夫なのか?!」


「…………うっ、うぅ……」


 そして2人の声に応えるようにして、再度目を開けてくる……が、その目の雰囲気はいつもの椿に戻っており、濁りのない綺麗な瞳が2人を見てくる。


「椿、椿だな!」


「良く戻ってきた、椿よ!」


「へっ? あぐぅ……!! く、苦しい……白狐さん黒狐さん。ご、ごめんなさい……ただいま」


 しかし、椿の言葉には答えずに、2人ともしばらく椿を抱き締めていた。


 そして椿も、しっかりとその両腕で2人を抱き締めた。

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