第陸話
僕の攻撃に一切怯まず、酒呑童子さんは更に反対側の腕にも力を入れてきます。
僕のお腹に右腕を貫いておいたまま、更に攻撃をするつもりですね……。
分かったところで、これどうすれば……そうだ、僕の白金の尻尾を……!
「白金乱舞槍!」
「んっ?」
僕のこの状態は、無数の尻尾を出すことが出来るんです。
それで槍みたいに硬くした尻尾を無数に出して、酒呑童子さんを貫きます。
「おいおい、ちょっと突くくらいで良いのか?」
貫けてない。
いや、ちょっと待って! 僕結構本気で踏み込んで、本気で貫こうとしたよ! それなのに、ビクともしないってどういう事!
「おらぁっ!!」
「ぎゃぅっ!」
結局そのまま左で殴られて吹き飛ばされました。お腹の腕は抜けたけれど、そのせいで出血が……!
でも僕は妖狐、もう人間じゃない。これくらいの怪我で死ぬようには出来ていないよ。
だって、もう既に血は止まっているからね。あとは傷口を治癒して……。
「まぁ、そう来るわな」
「へっ……?!」
ちょっと待って、僕はまだ吹き飛んでる所だよ。それなのに、もう酒呑童子さんは僕の後ろに……。
「白金の火焔尾槍!!」
「おっと……!」
掴まれた! 白金色の炎を纏った僕の尻尾の槍が、そのまま素手で掴まれた。
「おら!」
「かっ……!! あっ……」
そして、酒呑童子さんは僕の背中を思い切り蹴って、また吹き飛ばします。
僕はボールじゃないよ、それなのにぽんぽんぽんぽんと……。
あっ、また酒呑童子さんが吹き飛ばした方に先回りしてる。このまま続ける気? させないよ!!
「白金の業焔狐火!」
「おぉっ? 以前よりデケぇな」
そりゃ効かないのは分かってるよ。酒呑童子さんの身を包む程の炎でも、平然と立っているもん。
だけど今の内に……。
「影の操……」
そして僕は、酒呑童子さんに気付かれないようにして影の妖術を発動すると、それを街路樹まで伸ばします。
そのままその影で僕の体を引っ張り、酒呑童子さんの斜線上から移動します。
こうしないと、攻撃を受け続けることになるからね。なんとか流れを変えないと!
「そこかぁ? おらぁ!」
「ぎゃふっ!!」
だけど、僕が移動した瞬間に、その方向に向かって酒呑童子さんが裏拳を放ってきました。
その拳圧で僕はまた吹き飛ばされたよ!
「甘い……甘いぞ! 椿! そんなので空亡が倒せると……おっ?」
「くっ……! げほっ、けほっ……もう……こっちはブランクがあるんだってば、久しぶりの神妖の妖気のコントロールの感覚が、まだ掴めてないの!」
そのまま酒呑童子さんが追撃してきたけれど、その拳をしっかりと片手で受け止めました。
やられてばかりはいられないよ。こっちも反撃しないと!
「てぇぃ!!」
「ぐっ……! なるほど……」
いや、だから、ちょっとは後退ってよ。頬を思い切り殴ったのに、一歩も後退ってない!
そして、酒呑童子さんはまた僕のお腹を殴り付けようとしてきます。
今回は見えていたよ、だいたい酒呑童子さんはこうやって攻撃してくるよね。
相手に攻撃させてから、全くダメージを受けないで平然とする。そして、相手が驚いている所に攻撃をする。
驚いていたら防御に気を合わせないから、結果的に酒呑童子さんの攻撃をモロに受けてしまうことになるんです。
「くっ……!」
「おっ? 受け止めたか」
さっきまで、僕も同じ方法でやられていました。
それは単純に、酒呑童子さんと十何年も会ってなかったから、その戦い方を忘れていたんです。
でも、何回かやられてようやく思い出したよ。
「もう僕に、同じ手は通用しないよ! 狐狼皇拳!!」
そして僕は、また火車輪を展開して白金の炎を腕に纏うけれど、今度はその纏う炎を何重にもしてから逆噴射させて、ブーストした拳を酒呑童子さんの顎に当てました。
「ぐぉっ!!」
流石にこれは吹き飛んだね。
実は右腕で酒呑童子さんの拳を受け止めていたんだけど、こっちで攻撃する前に、左腕で妖術を発動しようとして、その手を狐の影絵の形にしていたんです。
そして、そっちに一瞬目を向けた酒呑童子さんの隙を突いて、右腕を離して攻撃をしたのです。
「ぐっ……!!」
酒呑童子さんはそのまま何回か地面を跳ねて、後ろに後退ると、地面に膝を突いた状態で踏ん張って止まりました。
倒れると思ったけれど、倒れなかったです。それくらいの勢いで殴ったのになぁ……。
「なるほどなぁ、容赦はない。手加減をする気はないな」
「当然です。ここで酒呑童子さんを倒して、僕の家まで引きずっていって事情を聞きます」
「はははは!! 相変わらず、殺しはしない……か」
「そりゃ、その必要性がないからね」
すると、酒呑童子さんはそのまま立ち上がり、腰に付けたひょうたんに手を伸ばします。でも、させないよ。
「尾槍!」
「おっと……!」
あっ、尻尾の槍で貫こうと思ったのに、すんでの所でひょうたんを上に上げられた! でも、まだだよ!
「甘いです、僕にはまだ沢山の尻尾があるよ!」
とにかく、酒呑童子さんにお酒を飲ませたらダメです! だから僕は、今必死になってそのひょうたんを貫こうとしているんだけれど……。
「ほい、ほらほら、どうしたどうした? こっちだこっち~」
「あっ、くそ! あ~もう!! お酒は飲んだらダメェ!」
全く貫けない所か、何だか遊ばれてる?! 無数ある僕の尻尾の攻撃を、もの凄いスピードで腕を動かしながら交わしています。
何だろうこれ……何だか虐められてる気分。それか……。
「かっかっかっ、酒が飲めない人生なんてつまんねぇんだよ! いいからお前は黙って内職してろ!」
「もう、お医者さんに止められてるのに、どうなっても知らないからね! って……ちが~う!!!!」
そう、飲んだくれの夫を止める奥さんみたいな……って、何させてるの!! 僕も思わずノっちゃったよ!
なにこの流れ……以前の酒呑童子さんと同じような……まさか。
「気付いたか? 俺はあの頃から変わってねぇ。ただ、決意したんだよ。飲んだくれてダラダラして……肝心な事から逃げ続けて……その結果が茨木童子の暴走と、その死に繋がった」
そう言いながら、酒呑童子さんはひょうたんからお酒を飲みます。
しまった! 僕の尻尾を交わしながら飲むなんて……!
「だからよぉ……もう2度もそんな事は起こさせねぇ。俺様の大切なものを守るためには……悪にでも何にでもなるぜ。なにせ俺は、大江山の鬼だからな!」
「その大事なものには、誰が含まれてるの? それを空亡から守るために、こんな事を?」
「…………」
「答えてよ、酒呑童子さん!」
「……答えて欲しけりゃ、俺様に勝ってみろよ! 椿!!」
「当然、そのつもりだよ!」
だんまりなんて、いかにも酒呑童子さんらしいけどね。肝心な事はいつも言わない。
だから、今度は言ってもらうよ。どうやったらそんな考えになるのか、今まで酒呑童子さんは何をしていたのか。
全部話して貰って、そして馬鹿野郎って言って引っぱたいてやるんだ!!
「はぁぁぁあ!!」
「ひっく、うぃ……来いよ、椿ぃぃい!!」
そして、僕も酒呑童子さんも全力の妖気をその腕に込め、一気に走り出してお互いを殴り付けます。
でも……跡形もなく吹き飛んだのは、僕の右腕の方でした。
「えっ……」
「悪ぃな……ゲームオーバーだ、椿」
「あっ、えっ……」
酒呑童子さんのひょうたんが見える。飲んだお酒は……酒鬼? 嘘……全力全開の、本気モードのお酒をもう……。
「あっ、うぁ……ぁぁぁあああ!!」
熱い……右肩から下が熱くて熱くて堪らない!!
痛いの? これって激痛ってやつなの? 分からない、分からない! お腹を貫かれた時はこんな痛みはなかった。
それは妖気で守ってたから……でも、これは妖気ごと吹き飛ばされたから、だから……こんなに……。
「あっ、うっ……うぐぅぅぅ!!」
「覚悟が足りねぇな……さって、行進の方はどうなってる?」
「はっ、はっ……」
だ……め、行かせたら駄目。
こんな酒呑童子さんを相手に、白狐さんも黒狐さんも勝てるわけが……。
『無に消せ、無に消し、空にせよ』
だ、誰? 頭に誰かの声が響いて……。
『厳重なる封の中に、全盛期の我……来る。この度空亡を滅ぼすのは……我だ』
「はっ、はっ……こ、これ、まさか……」
『器の魂よ、消えよ』
「あっ……がっ!!」
僕の中の何かが膨れ上がって……僕の感情を、僕の意識を乗っ取ろうとしてくる!!
空狐様の魂が、僕が大怪我して死にそうになった事で出て来た?!
でも、今までも……違っ、今はあるじゃん……空狐様の魂を反応させるものが、その妖具が!!
「はっ、はっ……うぁぁあ!!」
抑えないと抑えないと……そうじゃないと、僕が僕じゃなくなっちゃう!




