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僕、妖狐になっちゃいました 弐  作者: yukke
第参章 阿修羅道 ~大江山の鬼の決意と覚悟~
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第肆話

 堀川通りと鞍馬口通りの交差点、大きな通りの交差するこの場所ですけど……ここって主要道路ってだけで、実は辺りには得に目立ったものはないんです。


 それなのに、そんな所に1人、異様な妖気を漂わせている妖怪さんがいました。


 トヨちゃんの連絡でその場所にやって来た僕達は、早速その男性の妖怪さんを確認しています。反対側の道路の街路樹の陰でね。

 ただ、僕達がやって来た瞬間、トヨちゃんが親指を立ててどこか満足気にしていました。僕が白狐さんにお姫様抱っこされたまま、空から降りて来たからですか?


「あの人、人間に見えるけれど、妖気があるから妖怪……ですよね?」


 半妖の可能性もあるんだけれど……これだけ濃い妖気なら妖怪だと思う。ただ……。


「亰骸の奴等に妖怪化されている可能性はあるよな」


 黒狐さんの言うとおりなんです。だけど、その妖怪はバス停の椅子に座ったまま、顔を俯かせていて動かないです。


 その格好は、夏にはまだ早すぎる黒い浴衣で、手には唐傘が握られています。遠くからだと分かりにくいけれど、黒い髪の毛は癖っ毛が凄そうです。


「う~ん、動かないですね」


 凄く目立つ格好なのに、道行く人達は誰も気付かないの?

 姿を消してる……もしくは実体がないとか、そんなレベルなのかな?


 今のところ黒い妖気は感じません……とにかく、しばらく様子を見ておきましょう。


「あの2人も呼ぶ?」


「ん~2人はまだあそこで待機して貰います。本当にこの妖怪さんかどうかも分からないし……」


 多分この妖怪さんだと思うけれど、実は罠で、他の場所で他の妖怪が行動を起こされていたらマズいですからね。


 するとその時、その目の前の妖怪さんが急に立ち上がり、唐傘を手にしてそれを広げます。


「あっ……! あれって……」


 それを見て、僕は思わず叫びそうになりました。

 その唐傘には、大きな1つ目と、その下に目と同じくらいの大きな口があって、そこから長い舌がべろんと伸びていたんです。


 あれ、唐傘お化けだ!


「なんと……唐傘兄妹か?!」


「白狐さん、今なんて……?」


 あの妖怪さん達は兄弟だったんですね。


「うむ、唐傘の妹を持ち、フラフラと町を練り歩いては人々を誘惑しているそうだ。男女関係なく、何処かに連れ去るという悪い妖怪達だ。確か手配書にあったはずじゃ、確認する」


 その前に、唐傘お化けの方が妹だった事に僕は驚いていますよ。兄妹でしたか……そしてそっちが妹さんですか……僕の頭は混乱中です。


「始めるか……」


「は~い、お兄ちゃん!」


 すると、唐傘の妹を持つお兄さんがそう呟きます。妹の唐傘さんの方は、それに元気良く返事をしていました。

 それと良く見たら、その大きなパッチリした目には、長いまつげがありましたよ。これは確かに女の子の目ですね。


「ふむ、あったな。人々を誘って妖界に連れて行き、妖怪にさせてしまうようじゃ。これは止めねばな」


 そう言えば、薬なんて使わずに人が妖怪化してしまうのは、他にもあるんです。

 それなのに、亰骸は薬を使って変な妖気を与え、そして妖怪化している。なんでそんな面倒くさい事をしているのかな……。


 そう考えていた時、その唐傘兄妹から突然黒い妖気が噴きだします。


「なっ……?!」


「なんじゃと?! 何故急に黒い妖気が!!」


「しかもこれは相当な妖気だぞ!!」


「ちょっと3人とも、声が大きい!!!!」


 そういうトヨちゃんが1番声が大きいですよ。慌てて全員で口を押さえても、もう遅いよね?


「……お兄ちゃん、なんかいたね」


「ふん。どうせセンターの妖怪達が、俺達を捕まえに来たんだろう」


 あぁ、やっぱり完全にバレていますね。それなら、先手必勝だよ!!


「黒焔狐火!!」


 そして、僕は街路樹の陰に隠れたまま、黒狐さんの妖気を解放して、黒い狐火を相手に向かって放ちます。

 多分避けると思うから、その隙に黒狐さんか白狐さんが捕まえてくれたら良い。

 因みにアイコンタクトで意思疎通はバッチリですよ。白狐さん黒狐さんも、捕まえる体勢に入ってるからね。


 だけど、相手は一向に姿を現しません。もしかして、そのまま僕の妖術にやられたの? 嘘でしょう?


「ちょっとぉ……熱いわねぇ」


 すると、僕の黒い炎の中から、妹の唐傘の子の声が聞こえてきます。

 やっぱりやられてない……まさか、唐傘の子が僕の炎を防いだの?!


「こんなの私には効かないわよ!!」


 すると、突然声のする方から突風が吹き荒れてきて、僕の狐火が散ってしまいました。

 そして、その散った炎の中から、唐傘の子が兄を庇うようにしながら前に突き出されています。もちろん、傘を広げた状態でね。


「お兄ちゃんには指1本触れさせないわ!」


 そして次の瞬間、その唐傘の子の舌が僕に向かって伸びてくる。

 そのスピードは凄まじくて、僕が隠れている街路樹を貫きます。まるで鋭い槍です!


「あっぶない……!」


 咄嗟に避けたけれど、これは受けたら駄目な攻撃だよ。


「ふっ……妹を怒らせたか。お前、もう命はないな」


 そして、その唐傘の子の陰から、気だるそうな目をするお兄さんが見てきます。

 どうやら戦闘は、完全に妹の唐傘の子にやらせています。だけど、動くのはその子を持っているお兄さんだよね。


「影の操!」


 そこで僕は、影の妖術を発動して相手を捉えてみます。


「お兄ちゃん、危ない!」


「分かってる……」


 捉える前に跳んで避けられました。

 気付いても遅いくらいのスピードで、僕自身の影を伸ばしたのに、それを避けられてしまいました。

 ついでに、相手の影も動かしてそれでも捕まえようとしたけれど、ヒラリと身を捻って交わされました。


 このお兄さんもできる……。


「黒雷槍、飛雷!」


 すると、僕の後に続いて、今度は黒狐さんが攻撃をします。

 黒い雷の槍に、放電能力を付けた妖術でね。でも、それは妹の唐傘の子に防がれました。


「ふっふ~ん! なにこの妖術、効かないわよこんなの!」


「なんだあの唐傘は……普通じゃないぞ!」


「そうですね……」


 黒狐さんの妖術を防いで無傷な時点で、もう普通じゃないや。硬いとかそんなレベルじゃない。黒い妖気を使って何かしているんでしょうね。


「さて、お前達は俺達がやるとして……もう時間だな。出て来い……百鬼夜行の時間だ」


 僕達が、この唐傘兄妹をどうやって捕まえようか考えていたその時、お兄さんの方がそう言って、唐傘の妹を上にさして、黒い妖気を身に纏っていきます。


 すると、唐傘の妹の子の影が波紋のように広がっていき、その影が広がる地面に、焼けるように真っ赤な夕焼けが映し出されます。これって、妖界と繋いでいる?!


「あの方は言った。残念ながら、薬だけで人間達を全て妖怪化させるのは難しい。それならば、昔否定していたあいつの方法も使わせて貰う。時間がない……」


「それって……酒呑童子さんの事?」


「……あんたがあの方の名前を言わないでよ。この期待外れのダメ妖狐!」


 キツい言い方ですね……でも間違いない。酒呑童子さんがそんな事を……。


 茨木童子の意志を継いだわけではなさそうだけど、それならいったい何のため? 空亡を倒すため? だったら、茨木童子がやったことも……。


「椿よ! 今は目の前の敵に集中じゃ!」


「くっ……分かってます!」


 だって、広がっている影の波紋から、次々と妖怪達が出て来ているんです。止めようとする間もなく、一瞬でね……。


 そして、だいだらぼっちやがしゃどくろ等の大型の妖怪も沢山います!


 あっ、がしゃどくろは、鞍馬天狗のおじいちゃんの家のがしゃどくろさんとは違うからね。

 人間だって何人もいるように、その種類の妖怪も何体もいるんですよ。


 だから、この百鬼夜行だってもの凄い光景になるんです。がしゃどくろが、10体……多いよ。


「残念ながら、俺達は妖界から妖怪を呼ぶことしか出来ない。妖界へと誘い込むのは……」


「俺達さぁ~へへへ! 久しぶりだなぁ、あの時の妖狐!」


「影法師?!」


 影の波紋から更に影が出て来たと思ったら、人の影が妖怪となった、影法師でした。

 確かこの妖怪は、以前も影を使って、妖界へと人を引きずり込んでいた。


 その影法師が、20……30? 沢山いる!!


「ダメだ椿。これは想定外だぞ!!」


「だけど止めなきゃ……人間達が!」


 でも、慌てる僕達の前に、あの唐傘兄妹が近付いてきます。


「これぞ、焰魔百鬼夜行(えんまひゃっきやこう)! さぁ、止められるなら止めて見ろ! 俺達がそうはさせないがな!」


「もうあんたは終わりなのよ。お兄ちゃんと一緒に、引導を渡してあげるわ!」


 そう言うと、唐傘兄妹のお兄さんは、片手を前に伸ばして手を下に下げると、そのままお化けのポーズを取り、妹の唐傘の子は、自分の顔が僕達に見えるようにして、長い舌を伸ばして挑発してきました。


 とりあえず、その百鬼夜行は止めないと……だから僕は、美亜ちゃんと飯綱さんに、スマートフォンのSNSで、妖怪の行進が始まった事を伝えました。


 妖怪の行進が始まった時の作戦は考えてはいるけれど、果たしてこの大量の数の妖怪達を相手に、上手くいくでしょうか?

 だけど僕達は、この唐傘兄妹を倒さないと行進を止めに行けない。


 今は何とか堪えて下さいね、美亜ちゃん、飯綱さん!

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