第弐話
家の外をウロウロした後、グッタリした浮遊丸を引き連れて、僕は自分の部屋へと入ります。
そこには白狐さん黒狐さんがいて、僕が戻ってくるのを待っていました。そして一緒に入ってきた飯綱さんと浮遊丸をみて、何があったのか聞いてきます。
とりあえず一部始終を話すと、それぞれ一発ずつ浮遊丸を殴り付けてくれました。因みに下着は取り返してるからね。履いてるからね。
「で、浮遊丸よ、話とはなんだ?」
「い……いててて。酷いやないか……お前達にとっては良い話を持ってきたっちゅ~のに。つ~か、なんか頭のモヤが晴れたような気がするんやけど……やっぱ俺等、なんかの能力を受けてたんか?」
白狐さんの言葉に、浮遊丸がそう答えてきます。もちろんその後に、僕は撫座頭の事を話します。
「はっは~ん。なるほどな……そりゃえげつない事をしてくるもんやな……亰骸は。まぁ、納得いったわ……」
すると、浮遊丸は突然真剣な顔に……この妖怪さん顔が無かったです。目がちょっと真剣な目つきになってるだけですね。
「鞍馬天狗の翁はな、お前達の行動に、ずっと疑問を抱いてるんや。そんでこの前の事件やろ。もう何かあると見て間違いないと思ったんやろう」
「この前の事件?」
「いや、バレとるで。ガッツリバレとるから。こっそりスマートフォンで調べ取るわ」
バレてたバレてたバレてた……!! 恥ずかしい恥ずかしい……!!
「椿よ、そう暴れるな。可愛いだけだぞ」
そりゃね……床に座っている状態から、そのまま寝転がってゴロゴロして足バタバタさせてるもん。白狐さんならそう言うと思いました。
「しかしな……奴も本気らしくて、翁はもう迂闊に裏切れへん状況にまでなってるらしいねん。せやから、1ヶ月や。1ヶ月しか時間があらへん。何としても撫座頭の能力を打ち消すんや! そうせぇへんと……」
「どうなるんですか?」
浮遊丸がいつも以上に真剣な口調です。何だかそれくらい、重要な事みたい。
「鞍馬天狗の翁の家の妖怪達と、妖怪センターの奴等は、全員亰骸に協力する事になるわ……なんせ、奴が亰骸を動かしてるらしいからな」
「だから奴って……」
「酒呑童子や」
「へっ……?」
浮遊丸から出て来たその名前に、僕は一瞬戸惑いました。
だって、だってあり得ないもん……なんでその妖怪が? なんでそんな事を……。
信じられない。
「椿、気持ちは分かるけどな。酒呑童子の使いや言う奴がやって来てな、色々と話していきおったわ。そんで、俺達に協力をしてくれと言ってきおった」
「協力って……人間を全員妖怪化する事への協力ですか!」
「そうやないと、あれは倒せへん。お前の行動も、あれのせいでお前がおかしくなったと、そう言われたんや」
「それって、酒呑童子が直接来て言ったの?」
「いや、ちゃうけどな……せやから、鞍馬天狗の翁は時間を設けたんや!」
僕がいない間にそんな事が……酒呑童子さんが、なんでそんな事を?
「センターの方も、同じ判断を?」
「せやな。それに、センターの方はてんやわんやしとるから、答えを出すのに時間がかかってるんや」
確かに、突然怪しい事をしている組織にそんな事を言われても、直ぐに協力するなんて言えないですね。
本当に酒呑童子さんが亰骸を動かしているのなら、この事も予測出来なかったのかな? いや、予測出来たはずですよ……あの妖怪なら。
それなら、この展開も想定内なのかな……? 僕が、撫座頭の能力を打ち消そうとしていることも……。
「とにかくよぉ……その撫座頭の能力を打ち消そうにも、あんたがその妖具を使えるようにしないといけねぇだろ?」
「そう……なんですよね、飯綱さん」
「その為の修行をしないとな。ぼうっとしてたって、使えるようにはならねぇだろう」
「分かってる。分かってます」
でも、どうしても考えちゃう。
なんで酒呑童子さんが亰骸なんか作って、こんな事をし出したのか……それを決意した瞬間はいつ? 僕達と別れてから? それとも最初から、僕達を出し抜いて……?
「椿、考えても仕方ない。それなら、飯綱が持ってきたその依頼に行くぞ。実戦の中でこそ自分の力も上がるってものだ」
「そう……ですね、黒狐さん」
「うむ。酒呑童子に聞くのは、撫座頭の能力を打ち消してからじゃ。流石にそんな展開になると、奴も姿を現すじゃろう」
「そうだね……」
そう、そうなんだよね。また、酒呑童子さんは僕を試している。これくらい容易に解けなければ、それには太刀打ち出来ないぞ……と。
空亡に挑む資格なんか無いって。酒呑童子さんならそう言いそうです。
それなら見せて上げないとね。酒呑童子さんの想定外の展開を!
「うん。行きましょう、白狐さん黒狐さん! 先ずは飛べるようにならないと!」
「よし来た」
「じっくりと教え込んでいくからな」
そして、僕の言葉に白狐さん黒狐さんがそう答え、僕はゆっくりと立ち上がります。
先ずはこの任務、堀川通りを行進している妖怪の団体さんを止めないとね。
もしこの中に、黒い妖気を纏っている妖怪がいれば危ないですからね。人間にも危害を加えるかも知れないし、既に加えているかも知れない。
だから、依頼でも油断しないで行かないと。
それで、メンバーは多く連れて行ってもしょうが無いので、白狐さんと黒狐さん、そして飯綱さんは当然として、あと2人くらいにしておいた方が良さそうです。
香奈恵ちゃんはまだ小さいからお留守番を……と思ったら、皆僕の部屋の入り口から顔を覗かせていました。
「ちょっと皆……今回のは危険だから……」
「うん、だから私が行くんだよね」
「いや、香奈恵ちゃんはまだ満足に妖術を使えないじゃん」
「言ったね~あれから妖術を使えるように、いっぱい練習してるんだから! 妖異顕現、狐火!」
「ちょっと待っ……!」
この前はそれで火炎放射器のようにして、大量の火を放ったじゃん。僕と白狐さんの子供だよ、妖気もそれなりに凄いんだからね!
「きゃぅっ!!」
だけど、右手を狐の影絵の形にした香奈恵ちゃんは、そのまま風に煽られて天井に頭を打ってしまい、そして床に落ちて倒れ込みました。
火の妖術を使うはずが、風の妖術が発動したのですね……まだまだコントロールが出来ていないですね。
「やっぱりお留守番ですね」
「あぅぅ……お母さんの戦闘姿……」
顔を打ったのか、片手で鼻を押さえながら香奈恵ちゃんがそう言います。
それを見たいが為に、依頼に着いていこうとしたんですか? 凄い執念だけど……今回は流石にね。
「香奈恵、大丈夫。その写真なら、私がいっぱい撮ってくる」
「それじゃあ雪ちゃんもお留守番ですね」
「何故……!」
近い近い近い近い……雪ちゃん詰め寄りすぎです。
「僕を撮るのに必死になって、攻撃を受けたり、相手に捕まったりされたら困りますから」
僕は正論を言っているのに、雪ちゃんはちょっと納得いっていないようです。
「もう、僕の戦闘姿ならこの前撮ったでしょう!」
するとその後に、雪ちゃんが背後から何かを出してきます。
「あぅ……!」
そう、それはビキニタイプの水着です。
淵にレースは付いているけれど、結構露出の多いタイプになっていますね……。
そして、それならこれを着て撮影会をしろと、雪ちゃんが目で訴えてきます。
依頼に連れて行くか、水着撮影会か……ですか、うぐぐ。
「うっ……くっ、雪ちゃんと香奈恵ちゃんはお留守番……! か、代わりにそれ、き、着るから……」
「……!!!!」
あっ、凄い勢いで2人ともお座りしたよ。でも、里子ちゃんまで増えてる!! 里子ちゃんまでお留守番ですか?!
「しょうが無いです。美亜ちゃんトヨちゃん、一緒に来てくれます?」
「はいは~い」
「……ったく、しょうがないわね」
そう言いながらも、美亜ちゃんは何だか嬉しそうだね。尻尾の先が丸くなってますよ。
「あ、あの……姉さん、自分は?」
ただ、そこで楓ちゃんが不満そうな顔でそう言ってきたけれど……おバカ忍者を連れて行くよりも、雪ちゃんや香奈恵ちゃんの方がまだマシだったりします。
簡単な依頼ならいざ知らず、これは難易度が高いです。楓ちゃんではキツいんですよね。
「楓ちゃん、君は修行です。来る決戦の時に備えて、君の真の力を解放しておいて下さい!」
「はっ、自分の真の力……り、了解っす!!」
だけど、実は1番扱い易かったりもします。
僕がそう言っただけで、楓ちゃんの不満顔はなくなり、代わりに目をキラキラと輝かせて、やる気に満ちていっています。
楓ちゃん、君は変わらないね。




