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僕、妖狐になっちゃいました 弐  作者: yukke
第参章 阿修羅道 ~大江山の鬼の決意と覚悟~
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第壱話

 鞍馬天狗のおじいちゃんの家が襲撃されてから1週間、何事もなく穏やかな日々が続いています。


 時折、人々からのお願い事があるくらいで、悪い妖怪退治はないです。

 まぁ、センターが僕達を悪い妖怪として手配しているので、そんなの来るわけないんですけどね。


 鞍馬天狗のおじいちゃんは一命を取り留めましたが、妖気の減りが著しいらしくて、しばらく療養されているようです。

 これは飯綱さんが、まだ撫座頭の能力を受けているフリをして、鞍馬天狗のおじいちゃんの元に行ったりしてくれているから分かった事なんです。テンション高いから怪しまれないんだよね……飯綱さん。


「そんなわけでだ、今鞍馬天狗の所は家を再建するのに手一杯らしくてな。センターの依頼がこなせないらしい」


 おじいちゃんの家から戻ってきた飯綱さんが、僕に向かってそう言います。


 連絡どうもありがとうだけど……飯綱さん、今僕は朝のシャワーをしている最中なんですよ。ビックリしましたからね。


「それじゃあ、センターの方は戦力不足になってるんじゃ……」


「あんた達が抜けた穴もあるからな。上位の依頼が消化出来ず、貯まっているらしい。正直、クレームの嵐らしいぜ」


 そう言いながら、飯綱さんはある紙を僕に見せてきます。


「それは……?」


「一枚、受注してきたぜ」


「いや、これ2級以上のライセンスがいるけれど……飯綱さんは何級なんですか?」


「4級だぜ!」


 いや、なんで自信満々なんですか? それじゃあこの依頼は受けられないんじゃ……。


「知り合いに2級以上の奴がいるから、そいつと行くと言ったらすんなり承諾してくれたぜ」


 センターの方は大丈夫なんですか……?

 それだけ上位依頼が貯まってるから、たったそれだけで承諾したんでしょうね。本来なら、その人のサインかライセンス証がいるのに……。


「ふふ……それにこの依頼を達成出来れば、撫座頭の能力を受けていても、皆に亰骸への猜疑心(さいぎしん)を与える事が出来るぜ」


「へっ……? どうやって……」


「鞍馬天狗の翁の家と、センターも出入りしてやがるんだよ、あいつらはな。まぁ、襲撃の時はいなかったが……あいつらなんか企んでやがる」


 そんな……亰骸がおじいちゃん達の家にも?

 でもそんなの、おじいちゃん達やセンターが許すわけないと思うのに、なんで出入れを許してるんだろう……。


「思うに、あんた達の事で何か重要な手がかりを持ってるとか、そんな言葉で相手に取り入ってるんじゃねぇのか?」


「そうだとしても……おじいちゃん達が、そんな怪しい組織の出入りを許すなんて思えない」


 何かまだありそう……そうだとしたら、飯綱さんにもうちょっと協力して貰いましょう。危険だけれど、今は飯綱さんだけが頼りです。


「とにかく、今は飯綱さんだけが頼りです。飯綱さんが考えている作戦で行きましょう」


「よっしゃ! 任せとけ! アウトローを沢山の奴等に認めさせるのも、パンクな奴等の好きな展開なんだよ!」


「僕はアウトローじゃないよ!」


 その後僕はシャワーを終えて体を拭き、尻尾と耳の毛の水気をタオルで取ります。

 その間に飯綱さんが喋ってたけれど、僕はアウトローじゃないからね、させられたんだからね。


 んっ? それじゃあ今はアウトローなのかな? もうどっちでもいいや。


「あんた、毛が良く抜けてるぞ。ストレスか?」


「ちょっとね……それもあるだろうけれど、夏毛に生え替わってるの。これからの時期は抜け毛が多くなるからさ、大変なの。飯綱さんも多少はあるでしょう?」


 半妖だけど尻尾はあるからね、抜け毛とかはあると思う。

 だけど、飯綱さんは白い棒の付いたあめ玉を取り出すと、それを口に含みます。ちょっと待って、白い棒が仰け反ってたよ。嫌な予感……。


「ふっ、アウトローなこの私には抜け毛なんて……ないのさ!! アウトローだろぅ!!」


「……」


 妖怪食のあのあめ玉と、同じ動きや格好をしないといけないなんて、どんな試練なんですか。僕はつい無言で見つめてしまいました。

 思い切り仰け反ってえび反りになって、そのまま両手を地面に付けました。ブリッジの体勢だっけ……それ、どうするの? お腹を空に向けて、おへそ見えてますよ。


「とにかく、その依頼に付いて良く見せて下さい。依頼を解決していけば、多少はこの事態を変えられるかもなんですね?」


「まぁ、それは相手の出方次第だ。上手くいけばだな」


「了解です。それじゃあ依頼内容を見せて下さい」


「ほらよ」


「そのまま歩いて来ないで!! 気持ち悪いですよ!」


 カサカサと何の化け物かと思っちゃうよ!

 頼むからあめ玉を口から出して歩いて下さい。喉に詰めますよ。


「これ、この格好……とってもアウトローだ!!!!」


「周りから白い目で見られても?」


「むしろそれこそ、アウトローの印だ!!」


 あぁ、もう面倒くさいです。

 とにかく僕は、ブリッジしている飯綱さんから依頼書を受け取ると、タオルで髪を乾かしながらそれを眺めます。


「……堀川通りに妖怪行進? これ、2週間前の依頼……」


 丁度撫座頭の能力が広がった時ですね。

 そこから誰もこの依頼に行ってないんですか……? 危ないじゃないですか……一般の人に危害が及んでたら、センターの威信にも関わってくるでしょうに。


「まぁ、今の所危害はないみたいだな……というか、危害があってもバレてない可能性もあるけどな」


「う~ん、その可能性が高そうなので、慎重にいくべきですね」


 さて、そのままストレッチし出した飯綱さんは放っておいて、いつもの巫女服に着替えて……って、僕の下着がない。


「……」


 おかしいなぁ……流石に香奈恵ちゃんはそんな事しないし、雪ちゃんもそんな暴挙には出ない。というか、堂々と頂戴って言いそう。


 そうなると、外から感じる妖気の主が取ったのかな? これ、感じた事のある妖気ですね。まさか、僕達の監視に来たんじゃ……。


「……飯綱さん、ちょっと協力というか……外にいる妖怪さんに何か憑かせておいてくれる?」


「んん? 良いぞ。外か……外に居たら誰でも良いのか?」


「このさい誰でも良いです」


 その妖怪さんが下着泥棒なのは間違いないからね。


 すると、飯綱さんはようやく口からあめ玉を出して、懐から竹で出来た筒を取り出します。


「そうら来たれや、憑きもの狐さん!」


 そう言うと、飯綱さんはその竹筒の蓋を外して、中にいた胴の長い狐を呼び出します。

 これを人に取り憑かせるのが、飯綱さんのやり方なんです。普通は人に使役されたりする事が多いけれど、飯綱さんは半妖なんで、使う側になっています。


 そして次の瞬間には、その筒から出て来た狐さんは消えていて、同時に外から叫び声が。


「ぎゃぁぁあ!! か、痒い、体が痒い~!!」


「やっぱりこの声……」


「知ってる奴っすか?」


「最近大人しいと思っていたけれど……」


 盗撮ばかりでは飽き足らず、遂に物にまで手を出したのでしょうか? 手はないのに……。

 とにかく、僕は急いで巫女服を着て、叫び声のする外に飛び出します。


 するとそこには、体の痒さに悶えて地面を転げ回る、浮遊丸の姿がありました。


 その姿はドローンの形をしていて、そこに肉付けをしたような感じになっています。

 そして、その体中には目玉が沢山付いていて、それで遠くのものを見たり、透視したりする事が出来ます。


 つまり、この浮遊丸は盗撮のプロなんです。しかも、透視で女の子の裸ばかり見ているから、昔は良く鞍馬天狗のおじいちゃんに罰せられていました。


 だけど、ここ最近は大人しくしていて、おじいちゃんもちょっとずつ仕事を出すようになっていのだけれど、またやり始めましたか……。


「浮遊~丸さ~ん?」


「あっ、く、くそ……なんやこれ、なんなんやこれは! 一体俺の体に何をしたんや! 痒すぎるわ!」


 その前に黒羽の妖砕矢で、浮遊丸への撫座頭の能力を打ち消さないと。


「えぃ」


「ぬわっ! な、なんやなんや?」


 黒い妖気が剥がれましたね。これで浮遊丸さんも、以前の状態に戻っているはず。

 だけどそれはそれ、これはこれなので、そのまま浮遊丸さんを掴んで僕達の家へと連れて行きます。罰は与えないといけませんからね。


「さて……情状酌量の余地はないので、このまま……」


「待て待て、待たんか! 話があるんや!」


「それじゃあ僕の下着を返して下さい。その後に罰を与えて、話はそれからです」


「あっ、いや……え~っと」


 普通に話をしに来たら良いのに、余計な事をするからこうなるんですよ。


 そのあと、僕は浮遊丸さんを掴んで引きずり、家の周りを2~3週してから家の中に入りました。

 最後の方は叫ばなくもなって、体をピクピクさせていたけれど、前はこれ以上の罰を与えられていたよね? これくらい平気だよね?

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