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僕、妖狐になっちゃいました 弐  作者: yukke
第弐章 驕兵必敗 ~陰陽師の実力は?~
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第拾弐話

 伏見稲荷の家に帰ってきた僕達は、既に家に帰っていたお母さん達を見て唖然としてしまいました。


 だってその隣に、腕と脚に包帯を巻いている咲妃ちゃんの姿があったから。


「あ、あの……そちらの方は大丈夫でしたか?!」


「いや、うん……な、何とかね。それよりも、咲妃ちゃんが既に助けられていたとは思わなかったです」


「何よ~? 私達が苦戦するとでも思ってたの?」


「いひゃひゃ! いひゃいです、妲己さん! そうではないけれど、早すぎるというか、それとその人!!」


 ボソッと呟くんじゃなかったよ。妲己さんの耳がピクピクと動いた瞬間、思い切り僕のほっぺを抓ってきました。

 それよりも、僕のお父さんが連れている、縄で縛り付けられたその人って……。


「あっ、父です」


 すると、僕が見ているのに気付いたようで、咲妃ちゃんがそう言ってきました。


 やっぱり、咲妃ちゃんのお父さんですか。聞くところによると、陰陽師の組織『式柱』のトップをやっているみたいです。

 まさかついでに捕まえてくるなんて……流石最強の妖狐4人衆です。


 その人は短髪で丸眼鏡をかけていて、ちょっと頬がこけてはいるけれど、威厳はある感じです。目が恐いですからね。


 何で荒いことをする組織の上に立つ人って、こうも目が鋭く恐くなるんでしょう……。


「咲妃よ……妖怪どもの手を借りるとは、情けない娘だ……うごっ」


「ちょっと黙れ……自らの娘にそんな辛辣な言葉を与えるとは、なんて父親だ! 自分の娘だろ、もっと愛で……ぐほっ!」


「お父さんもちょっと黙ってて」


 咲妃ちゃんのお父さんの言葉に、僕のお父さんがキレちゃったけれど、キレるポイントが違うってば。恥ずかしい事を叫びそうになったから、ハンマーみたいにした尻尾で頭を叩いておきました。


「……椿ちゃん、良いお父さんね」


「そうですか? というか、話進まないから」


 羨ましいそうな目で見ないで、咲妃ちゃん。

 確かに君のお父さんが君にする仕打ちを考えたら、僕のお父さんは良いお父さんかも知れないよ。だけどね……。


「ふふ……反抗期もまた愛の試練。これを乗り越えた時には、この時の苦労が……」


 何かブツブツ呟いてるよ。一生反抗期でいようかなぁ……。


 とにかく、僕は咲妃ちゃんのお父さんに近付き話しかけます。


「さて、咲妃ちゃんのお父さん。今やっている妖怪掃討作戦。中止にして貰って良いですか? と言っても、1番上の人間であるあなたがいなければ……」


「ふっ、くくくく……」


 何かおかしいのでしょうか? 僕の言葉の後に、咲妃ちゃんのお父さんが含み笑いをしてきます。そして、咲妃ちゃんの顔色もどんどん曇っていく。

 何? まだ誰かいるの? 式柱を支えている人達が、まだいるというのですか?


 もしかして、トップはこの人じゃない……それとも、他にも何人もその代わりをしている人がいる……ということ?


「椿ちゃん……京北の方の鞍馬天狗さんの家で、強い人達が2人いなかった?」


「いました。確か、神格の陰陽師とか……何だか変な事を……」


「実は今回の妖怪掃討作戦は、その人達の立案で、その人達がメインで動いているの」


「えっ……? それじゃあ、咲妃ちゃんの父親を捕まえても……」


「うん、あんまり意味がないんだ」


 そして、咲妃ちゃんと僕が会話している間中、ずっと不敵な笑みを浮かべている咲妃ちゃんのお父さんが、僕達に向かって話しかけてきます。


「神格の陰陽師は4人だ……戦ったのなら分かっただろう? 奴等は別格だ、まさに神の如き力を持っている。何とか退けたとしても……」


「まぁ、あの2人なら倒したけれど、多分また動くんでしょうね」


「なにっ?!」


 そんなに意外だったのかな? 自信満々に説明していた所悪いけれど、事実を突きつけておきました。


 それにしても、あのレベルの人があと2人いるなんて……それにあの人達、人間かどうかも怪しいです。

 だからって妖怪ってわけではないよ。妖気は全くなかったからね。それじゃぁ、あの力はいったいどうやって……。


「それはそうと咲妃ちゃん、あの妖狐は?」


「あぁ……月翔なら……」


 ちょっと気になったから聞いてみたけれど、聞くんじゃなかったかな……凄く言い辛そうな顔をしている。ま、まさか……。


「あの妖狐さん、死――」


「――んでねぇからな!」


 あっ、生きてました。僕の後ろから叫んできたよ。

 だけどフラフラしてるし、頭から血がダラダラ出てるってば! 大怪我じゃん!


「ちょっと月翔! 動いたら駄目でしょう!」


「いいや、お嬢様を守れず怪我をさせてしまったんだ……! 寝ている場合なんかじゃねぇ! そこのおっさんに手を出される前に、俺が……!」


 ちょっと、物騒なものを出さないで下さいよ。刀を抜いて咲妃ちゃんのお父さんに向けてます。


「月翔、止まれ!」


「なぅ……!!」


 その後に、咲妃ちゃんが月翔さんに向かってそう叫びます。

 すると、月翔さんはそのまま手を真っ直ぐ脚に付け、気をつけのポーズを取っています。


 咲妃ちゃんに何か術でもかけられてるのかな? そんな感じの動きでしたね。


「玉藻さん。引き続き、月翔の治療お願いします」


「ふふ、分かったわ。途中で逃げちゃって、やんちゃなものよ」


「なっ、おっ……ちょっと待て、あれは……あれだけは止めてくれ! 玉藻さん! 自力で治るから、治癒力で治るからぁ!!」


「だ~めじゃ」


 あぁ、玉藻さんが治療してくれていたんですね。

 咲妃ちゃんが、月翔さんの後ろに現れた玉藻さんにそう言うと、玉藻さんはそのまま彼を担いで連れて行きました。お尻を撫でながら……。

 玉藻さん、治療だよね? 他に何もしてないよね……月翔さんのお尻を撫でる撫で方が、どことなくいやらしかったような……。


「ごめんね、椿ちゃん。私じゃ、神格の陰陽師の4人を止められなくて」


「ん? あぁ、仕方ないと思うよ。あの2人は別格だったし、更にあと2人もいるなんて……想像もしたくないよ」


 連れ去られて行く月翔さんを眺めながら、咲妃ちゃんがそう言ってきます。

 でも、あんな人達を言葉だけで止めようとしても、多分無理ですね。


 妖怪を滅ぼす。


 このたった1つの事に囚われ過ぎています。

 でも、こんな状態どこかで見たような……いや、何回か見ていますよ、僕とした事が……。


「咲妃ちゃん。その4人って、昔から陰陽師にいるんですか?」


「う、うん……小さい頃から私と一緒に、立派な陰陽師になるために修行してきた仲なの」


 幼馴染みみたいなものですか……そうだとしたら、多分咲妃ちゃんが1番良く分かってるはず。


「その4人が、突然別人みたいになった感覚はありますか?」


「ある。2~3年前から……だよ」


 ということは、もう確実ですね。


 その4人は何かに操られているか、その体を乗っ取られているかのどちらかです。因みに……。


「ふふ……ふふふふ……くくく。2人倒した所で、あの4人が一斉に襲いかかれば、貴様等でも、ひとたまりも……」


「黒羽の妖砕矢」


「……っ!!」


 後ろでブツブツ言ってる咲妃ちゃんのお父さんも、同じだったと思いますよ。

 念のために黒羽の妖砕矢を打ったら、咲妃ちゃんのお父さんから黒いアメーバみたいなものが飛び出して来ました。


「お父さん!!」


「何ですか、これ?」


 妖気も何も感じない。この黒いのはいったい何ですか?!


「ぬぅ……なんじゃこれは……気持ち悪い」


「祟り神とかそんなレベルじゃない、強い負の気を感じるぞ!」


 だけど、それを見ていた白狐さん黒狐さんがそう叫びます。もしかして、相当ヤバいやつですか? これ……。

 出すんじゃなかったかな? だけど、まだ咲妃ちゃんのお父さんの体に引っ付いているし、何とかしないと……。


「椿よ、これは神術で浄化せねばならんが……我等2人には浄化の力はない」


「前の僕なら、何とかなった……?」


 僕のその言葉に、2人は答えにくそうな顔をします。それだけで十分答えになってるよ。


 やっぱり神妖の妖気がないと、この先キツそうです……。


 そう思っていると、黒いアメーバみたいなものは、また咲妃ちゃんのお父さんの中に戻っていきました。当然、咲妃ちゃんのお父さんはそのまま気絶しました。


 それを見て心配そうに駆け寄る咲妃ちゃんに、僕は「大丈夫です」とは言えなかった……。


 とにかく、陰陽師の組織『式柱』は、その全員が何かに操られているのだけは確かになりました。

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