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僕、妖狐になっちゃいました 弐  作者: yukke
第弐章 驕兵必敗 ~陰陽師の実力は?~
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番外編 其ノ壱

 ここは京都市内の北の方にある住宅街。

 割と大きな家の建ち並ぶこの場所は、倹約家が多く住んでいた。だからこそ、大きな住宅も維持できるというもの。決して贅沢はしない。だが、家はそこそこ大きい。


 だからそこに住む人達を、お金持ちと思ってはいけない。家の維持でいっぱいいっぱいなのだ。


 そんな閑静な住宅街の中、昭和臭さが残る和風の大きな家の前に、ある4人の妖狐がやって来た。


 その内2人は同じ狐色の毛色。しかし、残り2人は金色と銀色の毛色をしていた。


 狐色の毛色の妖狐は、1人はツインテールで年若い強気そうな女の子。ミニスカートとキャミソールみたいなシャツで、まるで男受けを狙っていそうな格好である。

 もう1人はまるで、平安時代からやって来たかのような十二単を着ており、腰までの長い長髪に、たれ目がちな目が妖艶な色気を醸し出している。


 金色の毛色の妖狐も、そんな十二単を着た妖狐と似た雰囲気で、長髪である。こちらはロングスカートとニットソーを着ていた。

 銀色の毛色の妖狐は、銀色の髪を遊ばせており、やんちゃな若者風になっていた。服装もそんな感じである。


 そう、この4人は椿達と別行動をしている、妲己と玉藻、金狐と銀狐であった。


「さ~て、ここね。陰陽師の団体『式神』のトップ。咲妃の父親の住む家は」


 そして、その家の前で妲己がそう言ってくる。


「良い? 決して見つからずに動くのよ、妲己。あなたの影の妖術が要なのよ」


「分かってるわよ。とっとと咲妃を見つけて、助け出せば良いんでしょう? 見たところ結界も張ってな……」


「着いた瞬間に私が解いたからの」


「あっ、そ……」


 どうやら、この家には陰陽術による結界が張ってあったようだが、玉藻が既に解いていたようである。

 しかも、相手に気付かれないように、静かに解いていたのだ。妲己が気付かないのも無理はなかった。


「それじゃあ、私が先に行くから、陽動頼むわよ」


「分かってるわ。何ならお仕置きもしておくわ」


「程々にね~」


 妲己が金狐に向かってそう言うと、彼女は妖術を発動し、自らの影の中に入り込んだ。

 そして、そのまま妲己の影は家の玄関に移動していくと、その隙間から中に入り込んだのだ。


「さて……それじゃあ銀狐、玉藻、行くわよ」


「ふふ……派手にじゃの?」


「よし、それなら先ずは俺が驚かしてやる。妖異顕現、銀光石火(ぎんこうせっか)!」


 そう言うと、銀狐は自らの体を銀色の光で包み、真正面の家に向かって攻撃を始めた。

 それはもう、その家を壊していくかのようにして、次々と殴り付けていく。だがもちろん、それに気付かない家主ではない。


「おっ、出たな。式神!」


 しかし、陰陽師が自ら出ることはなく、その家の2階の窓から、太い金棒を持った鬼が出て来ただけであった。


「せぃ!!」


 だがその式神は、銀狐の高速の拳で呆気なくその胴を貫かれる。


「舐めたものね……玉藻、玄関からお邪魔するわよ」


「良し、来た。ほいっとな」


 そして金狐の言葉に反応し、玉藻が袖口から丸い玉を取り出すと、それを玄関に放り投げた。その瞬間その丸い玉は爆発し、玄関を吹き飛ばす。


「さっ、お邪魔するわよ~」


 入れるようになった事を確認した金狐と玉藻は、そのまま玄関から中に入る……が。


「そんなお邪魔の仕方があるか~!! 爆符(ばくふ)!」


 中にいた陰陽師の男性の1人が、その2人に向かって達筆で書かれた札を投げつけてきた。その先に火を付けて。


 そして次の瞬間には、その札が爆発した。


「ふむ、手荒い歓迎じゃの」


「玉藻、手荒い侵入をしたのだから、歓迎も手荒いのは当然でしょう」


「そういうものかの?」


「なっ、なっ……!」


 だが、金狐も玉藻も傷1つ無く、爆発した後の煙の中から出て来た。それも、なんの妖術も発動せず、自身が纏ってる妖気のみで防いでいた。


 どうやら威力には自信があったのか、その札を投げつけた陰陽師は、信じられないといった様子で腰を抜かしている。


「なんだ、ただの下っ端かの?」


 そして、玉藻が腰を抜かしているその男性に近付いて行くと、真顔でそう言った。

 その瞬間、その男性は面白い位に手足をばたつかせ、何とかその場から逃げようとしている。


「これこれ、別に取って食わんから安心せぇ。私達を悪者とか、人間を食う化け物とか、そちらが勝手に決め付けているんじゃ」


「そうね。だからね……その決め付けている人の元に、案内してくれるかしら?」


 この家の中は、まるで屋敷みたいになっており、入って直ぐの玄関からは、既に通路が2つに分かれていた。

 中に特殊な術でも施しているのか、外見とは違う内装をしており、入り組んだ迷路になっているであろうことは、容易に想像出来た。


 だからこそ……いきなり現れて攻撃をしたこの男性の陰陽師に、案内を頼むのは当然のことだった。

 なぜいきなり襲わせたのか……それが不思議でならなかったが、金狐は気にせずにその男性に案内を頼んだ。


「……分かりました。こちらです」


 そして、その男性はすんなりと金狐と玉藻を案内しだした。


(罠ね……)


(お粗末なものだの)


 当然、金狐も玉藻はそう考えた。

 力の差が歴然で、圧倒的な差でやられたからといって、素直に自分のボスの所に案内するものなのだろうか……。


 そして案の定、その男性はグルグルと長い廊下を右へ左へ進むだけで、部屋に入ろうとはしなかった。


 ―― ―― ――


「……金華狐火(きんかきつねび)


 10分は歩いただろうか、突然金狐が金色の狐火を、案内している男性へと放つ。

 いきなり燃やすのかと驚くのが普通だが、前を行く陰陽師の男性は、全く避ける素振りを見せずに、金狐の狐火をモロに受けた。


 そしてメラメラと燃えていくその男性は、突然人型の小さな紙になってしまった。

 陰陽師が良く使用する、式神を使役するときの紙型であった。


「いつからかの?」


「1分くらい前かしら? あの陰陽師、今必死に逃げてるわね。足音が遠ざかってる」


「やってくれたの。恐らくこの廊下、無限迷宮になっとるんじゃないか? 追うかの?」


「そうね、追わなくて良いわ。この程度、だからなに……よ」


「そうじゃの」


 だが、敵の術中にハマったと言うのに、2人はこの余裕の笑みである。


 それは、外で銀狐がこの家を壊しているからなのか、それともこの程度の術なら、容易に解けて脱出が出来るということなのか……。


「ふふ、術式解除」


 答えは両方だった。


 金狐がそう言って指を鳴らした瞬間、長く入り組んだ廊下は突然消え、広めの和室が現れ、その中央に2人は立っていた。

 それと同時に、その天上を突き破りながら銀狐が降りて来た。当然、この衝撃に古い家が絶えられるわけも無く。激しい音と共に崩れ去っていく。


「銀狐……せめて妲己が、咲妃ちゃんを助けたのを確認してからにしてくれない?」


「ん? あぁ、悪い悪い。まぁ、あいつなら何とかするだろう」


「そうじゃの」


 その崩れてくる瓦礫は、何故か3体の妖狐の元には落ちて来ず、完全に崩壊した家の瓦礫の中で、平然としながら会話をしていた。


「くっ……ば、化け物どもが……!」


 すると、その瓦礫の中、沢山倒れている陰陽師達の中で、たった1人立っている者がいた。

 眼鏡をかけ、好印象なイメージの細めの男性だが、装いや佇まいから、上に立っている人間の雰囲気を漂わせている。


「あら? もしかしてあなたが、咲妃ちゃんのお父さんかしら?」


「ぬっ……そうだとしたら……」


「子供を監禁するとか、児童虐待に当たるわね~覚悟は出来てるかしら?」


「監禁? そんな証拠が何処に……」


 すると次の瞬間、金狐の後ろの地面にある、不自然に現れた影から妲己が現れる。

 その腕に、ボロボロに引き裂かれたTシャツと、下着だけの姿になった咲妃を抱えて。当然灰狐の月翔も、妲己に抱えられていた。血まみれになって。


「あら、ナイスタイミングね妲己」


「全くもう、誰? 家崩したのは」


 当然、妲己の言葉に全員が銀狐に視線を送る。


「あんた、後で覚悟しておきなさいよ。ちょっと焦ったんだからね」


「ぬっ……悪かったな」


 それを見て、心底穏やかでないのは咲妃の父親であった。

 慌ててその場から逃げようにも、既に妲己の影の腕が自分の影を掴んでおり、動けなかった。


「なっ、なななな……なんなんだ、お前達は!」


 そして、その口から信じられない言葉が飛び出す。


「あ~ら、私達を知らないなんて」


「ほんと、可哀想にのぉ」


「まぁ、金狐と銀狐である私達は仕方ないとは言え、妲己と玉藻を知らないなんてね~」


 その瞬間、咲妃の父親の顔が青ざめたのは言うまでも無かった。


 最強の妖狐4人を相手に、陰陽師とは言えただの人間が勝てるわけもなく、惜しい戦いが出来るわけもなかった。


 これは、椿達が出発して30分後に起き、10分程で終わった出来事であった。

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