第拾壱話 【2】
トヨちゃんが何を考えているかは分からないけれど、今はトヨちゃんの言うとおりにした方が良いかも……。
「というか、なんの玩具を?」
もうおじいちゃんの家の妖怪さん達は、僕達の声が届かない所にいる。それなら会話だけではバレないです。
「ふふ、私の能力であいつらの術を閉じ込めるわ」
そう言ってトヨちゃんが出してきたのは、手に乗るサイズの古い壺です。
「さっ、あの玩具を……」
そして、トヨちゃんは僕に耳打ちをしてきます。
「えっ、あの玩具……? なんで?」
「私の妖術を付与したら、あっという間なのよ。さっ、急いで!」
とにかく、相手の術は迫ってきている……というか、細目の陰陽師の人の細い剣に集まってる?!
「さぁ、掻き消えなさい……妖怪達!! 炎羅剛羅!」
「……っ! 術式吸収、術式吸収……強化解放!」
あり得ない程の大きな炎の竜巻が、細目の人の剣に纏って、その人が構えた瞬間収束していきます。
これ、究極の必殺技ってやつです。一気にこの辺り一帯が消し飛ぶよ!
「玩具生成!!」
とにかく僕は、バネみたいなもので伸びるタイプの、大きなマジックハンドを生成すると、まるで高熱を帯びたようにして真っ赤になっている相手の剣に向かって伸ばします。
「無駄ですよ……灼熱と暴風の中で、裂波に切り刻まれなさい!」
「今ね……妖異顕現、妖気吸着!」
すると、相手の剣からもの凄い威力になって出て来た炎の竜巻が、僕のマジックハンドに捕まりました。
えっ……トヨちゃん何したの?! 僕の玩具生成にはこんな効果付けられないよ!
「何これ何これ!! 何したの?!」
「椿ちゃん、ちょっと落ち着いて! そのまま全部こっちの壺に!」
何だか炎の竜巻が、お餅みたいになってグネグネ動いちゃってるよ!
僕が慌てて動かしちゃってるんだけどね……だって、何だか気持ち悪いんですよ。炎の竜巻を掴んでるって、何とも言えない感触なんです。
「な、何なんですか……これは!」
もちろんその光景に、細目の陰陽師人と強面の陰陽師の人は、呆然となっています。
「椿ちゃん、そのままそのまま、ゆっくりとこっちの壺に……」
「くっ……させません!」
ただ、相手のこの炎の竜巻は、まだ相手の細い剣から出ているから、全部出し切らないと……。
「うっ……くっ!」
こうやって引っ張り合いになるんです。
だけど、こうなったら僕達の方が有利ですね。
黒狐さんの黒い雷と、美亜ちゃんの呪い、そして雪ちゃんが相手の地面の周りを凍らせてくれています。
強面の方は、美亜ちゃんの能力で木の根っこに足を縛られて、細目の人の方は、黒狐さんの雷の妖術を受けていて、どちらも足下は雪ちゃんの能力で凍っています。
「か、体が……うわっ!!」
「うぉっ!!」
だから、強面の人の方は足がもつれて転び、細目の人の方は、痺れて動きにくなった体で、僕の引っ張りを耐えようと踏ん張って、そのままツルッと滑りました。まぁ、当然そうなるよね。
もうね、綺麗にいったよ。足は曲がらずに、真っ直ぐのまま上に上がってましたからね。
「椿ちゃん、今の内に!」
「分かって……ます!」
そして僕は、その瞬間に思い切り引っ張って、相手の細い剣から炎の竜巻を全て出します。
「いきますよ!」
「準備は出来てるわ!」
そのまま、僕は地面に置いてある古い壺に、その炎の竜巻を叩きつけます。すると、あっという間にその壺が炎の竜巻を飲み込んでいきます。
凄い……全く周りに被害を出さずに、壺の中に入っていきます。
「これが私の妖具。豊川の封印壺よ」
そして、炎の竜巻は壺の中に全部入っちゃいました。
でも、これって入れても無くならないよね? いくらでも入れられるのかな? トヨちゃんが蓋をしたけれど、溢れてくる様子はないです。
「そしてこの壺ね、さっき入れた術を……私達の力に還元出来るの! それ!!」
そう言うと、トヨちゃんは直ぐに壺の蓋を取ります。その瞬間、また炎の竜巻が出て来て、今度は僕の体に纏っていきます。
凄い妖術が練り込まれてるよ、これ!
「ちょっ、ちょっ……これどうすれば?!」
「そのまま何でも良いから、椿ちゃんの妖術と組み合わせてドカーンとやっちゃって!」
いや、それをしたら周りにまで……う~ん、それなら……。
「玩具生成!」
大きな竹とんぼを作って、僕の前にちょっと小さめの竜巻を生み出して……それで相手を引き寄せます。
「うおっ! 今度は何だ、兄者? 兄者?!」
その兄者さんは気絶してますよ。
さっき転んだ時に、盛大に垂直に頭から落ちたからね。だから……君達には遥か彼方に飛んでいってもらいます。
「てぇぇい!!」
そして僕の身に纏っている、もの凄いパワーの炎の竜巻を、僕の生み出した竜巻に向かって放ちます。
自分で出した竜巻は、僕の風の妖術で自在に操れます。そこに操れるように変換した相手の術を重ねたから、あとは自由自在、相手はもう避けられないです。
「うぎゃぁぁあ!!!!」
威力は拡散せずに絞りに絞って、この2人だけを出来るだけ遠くに吹き飛ばしました。
今意識があるのは強面の人だけだから、その人が叫び声を上げて、炎の竜巻と共に上空へと消えて行きます。
今思ったけれど、これ相手死ぬ……よね?
拡散せずに絞ったけれど、威力は絞ってないし……でも、あの2人の陰陽師の体の周りに、何かおかしな力が纏っていたような気がします。
普通じゃないあの2人だから、きっとあれくらいじゃ死なないと思う。
「さて、残りの陰陽師の人達は……」
「椿ちゃん、気絶してるよ」
全部白狐さん達がやってくれていましたね。
それなら、然るべき所に出さないとね。もちろん、警察の事です。
妖怪達の存在が明らかになって、人々との共存を探る中、警察の人達をいち早く味方に付けられたのは大きかったよ。
人間側の法律にも、あっという間に妖怪に関しての記述が加わったからね。
『人に害を与えない妖怪に関して、違法に処罰をしたり、非人道的な危害を加えない』というものね。
つまり、今回の陰陽師達の行動は……完全に法律違反なんです。だからとっくに警察も動いてると思ったけれど、来ないんですよ……。
「捜査零課の人達は何やってるのかな……」
とにかく僕は、妖怪関連の事件の対処をする、捜査零課に連絡をしようとするけれど、その前にここから逃げないといけなかったです。
鞍馬天狗のおじいちゃんの家の妖怪さん達が、僕達の方にやって来ています。
「あの、椿ちゃん……よね」
そして雪ちゃんのお母さん、雪女の氷雨さんが僕に近付いてそう言ってきます。
その目は、いつもの心配してくる目だけれど、まだ撫座頭さんの能力が効いてるはずです。そんな状態では帰れないよ、皆を苦しませるだけです。
それに……おじいちゃんも。
「ぐっ……つ、ばき……」
妖気が無くなっていなかったから、死んではいなかったんだって、今気付きましたよ。怒りで妖気の確認を忘れていました。
だけど、意識はまだ戻ってないみたい。それでも、僕の名前を呼んでいる。無茶したら駄目だよ……。
「……誰のこと? 僕は正義のヒロイン。妖狐の暗だよ」
そう言って、僕は皆に背を向けてその場から走り出す。
「あっ、待ちなさい! 雪は……? 雪も帰ってこないけれど、あなたの味方を?」
「椿ちゃん……!」
「椿ちゃ~ん!!」
もう、皆して僕の名前を……僕だって決め付けている。追いかけて来ている。
「トヨちゃん……何かで皆を吹き飛ばして……風の妖術は僕の得意妖術だから、バレちゃう」
「良いの? 皆あなたを疑っては……」
「良いから……!」
後ろの皆に聞こえないようにしながら、小声でトヨちゃんにそう叫びます。
その後に、トヨちゃんは困った顔をしながらも妖術を発動させて、後ろの皆を見えない力で吹き飛ばしました。
念力か何かかな? トヨちゃん凄い……流石です。彼女がいなかったら、今回は危なかったかも知れない。正体を隠しながらだったから……。
「良いの? あれで」
そして、その後にトヨちゃんがそう言ってきます。
「良いんです。まだ撫座頭の能力がある以上、今帰っても皆を苦しませるだけですから」
「そうは言っても、泣きそうでしょ?」
「そんなわけないよ」
嘘ですけどね……狐のお面を付けてて助かりました。
他の皆も、あの場から何とか撤退してくれたみたいで、僕達の近くに皆の妖気を感じます。
今はまだ無理でも……いつかきっと取り返して見せます。僕の大切な大切な居場所をね。
そして、丸い満月の明かりが夜空を照らす中、僕達は伏見稲荷に向かって走って行きます。




