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僕、妖狐になっちゃいました 弐  作者: yukke
序章 愛及屋烏 ~お母さんとしての僕~
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第肆話

 姿を消した元凶は、まだ歌を歌い続けています。


『~~、~~♪ ~~、~~♪』


 嫌な予感がします。


「ね、姉さん……さっきは手を叩かれましたよね?」


 そうなんです。さっきは手で叩かれました。つまり、あの有名な『幸せ』の言葉を使った曲だから……。


「うん、楓ちゃん。上に気を付けて……あっ、それと一応真正面も」


「了解っす!」


 とにかくあれは、その民謡の歌詞の通りに動いている……それなら、歌詞で次の行動が分かりますね。


『~~、~~~~♪ ~~、~~♪ だぁんだぁぁん!!』


「きたぁぁあ!!」


 やっぱり足でした!! 大っきな子供の足が上空から出て来て、僕達を潰そうとしてきました!

 楓ちゃんと一緒に上を警戒していたから、出て来た瞬間飛び退いて回避です!


「楓ちゃん、次!」


「ね、姉さん……これって歌詞で……」


「そう、歌詞の通りの行動をしているんだ! だから、次の歌詞が分かれば……」


「姉さん?」


 次何でしたっけ?


 あれ……手を叩く、足……次はな~に? 楓ちゃんに聞いてもダメだろうけど、い、一応念の為……。


「楓ちゃん、次の歌詞って分かります?」


「……姉さん、自分が知ってると思うっすか?」


「ですよね……」


 落胆している場合じゃないです。それならそれで、次の歌詞を歌い出したら警戒すれば良いんです。歌い終わるまで行動はしませんからね。


『~~、~~♪ バシンバシィン!!』


「ぎゃんっ?!」


「ね、姉さん!!」


 今度はいきなりですか?! 急に手が出て来て、僕の肩を張り手みたいにして叩いてきました。

 そのあまりの力強さと衝撃で、僕は吹き飛んじゃいました。白狐さんの体術と、防御力上昇の能力がなかったら、今ので死んでたよ。


「い、たたた……相手もバカじゃないですか……」


 吹き飛ばされて道路に倒れた僕は、急いで体を起こして体勢を立て直します。


 そしてこの事態に、周りの人達もようやく退避していきます。

 さっきから一瞬だったし、音しか聞こえなかったと思うけど、今度はしっかりと見えたんでしょうね。悲鳴を上げて逃げる人もいます。


 更に、さっきの大きな子供の顔からは、妖気はあまり感じられませんでした。感じられたのは……黒い変な妖気です。

 これ、皆と行った温泉旅行の時に、猿の妖怪が纏っていた妖気だ。いったい何が起こっているの?


「姉さん……あの子供の顔って……」


「うん、あれは幽霊だけど……変な妖気のせいで、無理やり妖怪化されてる……」


 妖怪とは違う扱いの妖魔とも違う。もっと強力な妖怪になろうとしている。


『~~、~~♪』


「姉さん、次来ましたっすよ」


「分かってます……」


 ほっぺって単語が聞こえたよ。勘弁して下さい……乙女のほっぺを叩くのは、子供の役目じゃないですよ!


『~~、~~~~♪ パチンパチィン!!』


「おっと……!!」


「自分には食らわないっすよ! 妖異顕現、狸腹反響(りふくはんきょう)! ぎゃんっ!!」


「楓ちゃん?!」


 僕は避けたけれど、楓ちゃんは何を思ったのか、お腹に相手の術を反射する鏡を付けた、狸の銅像を出す妖術を発動していました。

 だけど、それは呆気なく壊され、楓ちゃんの可愛いほっぺが叩かれました。


「い、痛いっす~! なんで跳ね返せないっすか!」


「いや、あれ純粋な物理攻撃ですけど……」


「あっ……」


 楓ちゃんのバカ。君のそれは術を跳ね返すけど、物理攻撃は跳ね返せないでしょうが!


「ね、姉さん痛いっす。ほっぺ引っ張らないで欲しいっす! 叩かれた後で更に痛いっす!」


「それならもう少し真面目に……!」


『~~、~~♪』


 あっ、次が来た……って、次はウインクって言ったような……えっ、どういう攻撃になるの?


『~~、~~♪ パチ、パチ!』


「きゃんっ!!」


「うわぁっす!!」


 大きな子供の顔が出て来てウインクしたら、突風がっ?!

 ちょっと、僕の巫女服のスカートが……って、楓ちゃんこれこそ跳ね返してよ!


 このままじゃ埒が明かないです。相手の正体を確かめたかったけれど、もう黒い妖気を剥がしちゃいます!


『~~、~~♪』


 次は指? 指パッチンでもしてくるの? スゴい音か、スゴい爆発が起きそうですね。流石にもう次はないですよ。今ここで決めちゃいます!


「黒羽の妖砕矢(ようさいや)!」


 僕はこの十数年、のんびり子育てしていた訳では無いです。

 天照大神や、敵対した八坂さんに言われた事が引っかかっててね、ずっと鍛錬だけは怠っていなかったよ。


『~~、~~♪ パ……?!』


「もう終わりですよ。君の与えてくるものは幸せじゃないです……」


 そして、僕は相手が動く前に、黒い羽の付いた矢を飛ばし、相手を射貫きました。

 これ、実体のないものを射貫く妖術だけど、強化して妖気を相手から剥がしたりする事が出来るようになりました。


 それで相手の黒い妖気を剥がし、壁に固定しました。固定した瞬間、それは霧散して消えたけどね。


『う……うぅ……』


「もう、良いよ。そんなに幸せになろうと必死にならなくても、無理に幸せだと思い込まなくても良いよ」


『~~、~~♪』


 それでもまだ歌うんだね、君は。


 黒い妖気が剥がれた後、その場に現れたのは、まだ小学生低学年くらいの男の子でした。

 でもこの子、透けてるから霊だと思う。いったい何があったんでしょう……。


 虐待? 事故? 事件? 多分どれかでしょうね。

 そして、この子に黒い妖気を与えて、誰かが妖怪化しようとしていた。


『うぅ……ぐすっ、僕、僕幸せだよ。幸せだよね……?』


 この子に何があったかは分からない……だから、何と言ったら良いか分からないよ。本当に、君は幸せだよって言ってあげた方が良いの? それとも……。


「何言ってるんすか? 君はまだ子供っすよ。それが分かるのかは、もっと大人になってからっす!」


「か、楓ちゃん?!」


 ハッキリ言っちゃったよ! 僕の後ろから堂々と言っちゃった!


 いや、でもどうなんだろう。この子がもし、同意を求めるタイプなら、今のはアウトですよ。だけど、ただ答えを求めているだけなら……。


『……そっか、幸せかどうかはこれから……それじゃあ、僕は逃げずに、ずっとお歌を歌っていれば良いんだ。そしたらいつか、幸せになれるんだ』


 すると、その男の子はそう言ったあと、溶けるように消えていきました。


『あぁ、でも……疲れちゃった……ちょっと寝るね。おや、すみ……』


 そして最後に、そんな言葉を残していきました。

 

 疲れた? あの妖怪化している間、消耗していたって事? 元に戻った瞬間力尽きちゃったって事?

 分からないです。でも、あの子は成仏した感じじゃない……消えたんです。本当に、魂が消滅したように……。


「姉さん、なんか後味悪いんすけど」


「楓ちゃん、流石の君でも気付いた?」


「そりゃ、自分も色々と任務やって来てるっすから。今の感じが、成仏した感じじゃないのは分かるっす」


 何だろう……僕の知らないところで、また何かが起きそうな……そんな感じがします。


 ―― ―― ――


「ふ~む。子供の霊では妖気が固定されませんか……」


「ん~面倒くさいなぁ。もっとその妖気を流し込んで、強力な妖怪にしちゃったら良いだろう?」


「そう簡単ではないんですよ。そんな事をしたら、霊が壊れるのさ」


「なんだそりゃ……あ~ぁ、てめぇがいつも飲んでる薬品を飲ませられたらな~」


「……ふっ、幽霊には飲ませ……いや、待てよ。妖気を持っていて、飲ませられるものがいた」


「んぁ?」


「半妖です……あいつらなら良い妖怪になれる! あぁ、そう言えば目の前にも居ましたねぇ」


「おい、待て……いや、止めろ……止めろぉぉおお!!!!」

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