第拾壱話 【1】
細目の陰陽師の人を殴り付け、地面に仰向けにさせたけれど、相手は手を顔に当てて何やら呟いています。
「……猛炎は我が身を纏い、ただ目の前を燃やし尽くす。炎々召羅召羅、式神憑」
すると、次の瞬間細目の人の体が炎に包まれていきます。
しかもその炎が形を成していて、鬼の顔のようになっています。まるで、鬼がその人に力を貸し与えているような感じがするよ。
「きゃっ!! ちょっと、嘘でしょう……何これ!」
「くくく……荒ぶる風は我が身を纏い、ただ目の前を風化させる。轟々波羅波羅、式神憑」
強面の陰陽師の人の方は、暴風がその身を纏っています。もちろん、その風は色んな物を巻き上げていて、鬼の顔のようになっている。
「さて、愚弟よ。分かっているな?」
「もちろんだ、兄者」
「では、やるか」
その時、強面の人に喋りながら立ち上がった細目の人が、また僕の懐に一瞬で潜り込んで来ました。
でも、2度はさせないよ!
「影の禊ぎ、鬼骸!!」
「ごはっ……!!」
僕は影の妖術で、自分の影を鬼のような顔にすると、その影の腕を太くして、それで相手を殴り付けます。だけどその相手は、一瞬で炎の塊になっちゃいました。
しまった! いつの間にか入れ替わってた!
「はっ……!!」
「くぅ!!」
そのあとに細目の人は、僕の左側から蹴りを入れてきます。
何とか左腕で防いだけれど、炎を纏っている脚だったから、腕が焼けて熱いです。
「この……!!」
「おっと……なるほど、吹き飛びませんか……それなら!」
僕は左腕で相手を振り払ったけれど、相手はそのままちょっと後ろに下がっただけで、再び僕の方に向かって来ます。
完全にインファイト。
僕との距離を開けないようにして、ひたすら殴ったり蹴ったりしてくる。
詰めて詰めて張り付いて、絶対に離れない戦い方……でもね、僕がインファイトが苦手だと思いましたか?
「……ふっ!!」
「ぐっ!!」
相手がストレートのパンチを打った瞬間、それを避けるようにして身を捻り、今度は僕が相手の懐に潜り込むと、そのまま相手のみぞおちに肘打ちを食らわせました。これは痛いし効いたはずだよ。
「……甘いわ!!」
「ぎゃんっ!!」
嘘?! 逆に僕の頭に相手の肘打ちが……! 視界が揺れて、バランスが……!
「つぅ……この!! えぃ!」
「ぬっ、ぐっ!!」
それでも何とか耐えた僕は、相手の脛に蹴りを入れてバランスを崩し、そのまま顎に拳を打ちこみます。
これなら脳が揺れてダウンするでしょう?! そのあと追い打ちで……。
「だから……甘いと言っていますよ! 炎羅爆拳!」
「うあぁぁぁぁっ!!」
だけど、相手はそれでも倒れずに、逆に僕のお腹を殴ってきました。そしてその瞬間、相手の拳が爆発します。
激しい痛みと熱で思わず叫んだ僕は、構えが崩れちゃいました。そしてそこを見逃す相手じゃなく、次々と攻撃を……爆発する拳を打ちこんできます。
「そらそらそらそら!!!!」
「あっ、くっ……うぐっ、うぁ!」
せめて最低限ダメージは減らさないと、このままじゃあ……それに、やっぱりこの人おかしいです。
僕の攻撃が全く効いてない! ダメージを受けているような気配がないんです。
「きゃん!! うぅ、なにこいつ……」
「ふははは!! 悪しき妖怪ごときが、俺達に勝てると思うなよ!」
そしてそれは、トヨちゃんが相手にしている強面の人も一緒でした。
トヨちゃんも妖術で対抗していて、大きな狐火とか、近くの木々を槍みたいにして攻撃していたけれど、相手にダメージを与えられている気配はなくて、追い詰められていました。
「くっ……このまま、だと……」
「そうですね、このまま死んで下さい。滅んで下さい、悪しき妖怪ども!」
「だから、僕は……」
本当に、この人達からは僕達に対しての憎しみしか感じられない。
他の感情なんて一切なさそうなんです。いったい何があったら、そこまでの憎しみが生まれるの?
だけど、それを聞く前にこの人達を止めないと。そして自ら行った事を償って貰わないと!
「ふぅぅぅぅ!!!!」
「なにっ!!」
そして僕は、両腕を前に交差して、相手の攻撃を防ぎつつ妖気を溜めていきます。術式吸収でね。
相手のこの爆発する攻撃は、術によるもの……だから、黒狐さんの術式吸収の能力が使えます。
更に他の陰陽師達は、既に美亜ちゃん達や白狐さん黒狐さんが倒してくれています。
後はこの2人……この2人だけで……!!
「馬鹿な……倒れないどころか……私の攻撃に耐えて……押し返して……!」
「術式吸収、術式吸収……ふぅぅ!!」
「な、何を呟いて……! おい、我が愚弟! まだ準備は出来ないのか!」
「で、出来てるよ兄者……ただ……!! 体が痺れて……動けない!」
「なに?!」
あっ、黒狐さんが援護してくれていた。
良く見たら、相手の首筋に黒い雷の針が刺さっていました。黒狐さんの黒い雷で、相手の神経伝達を遮断させたみたいです。
そしてどうやら、この2人は合わせ技か何かを考えていたんでしょうね。
でも残念……妖怪を甘く見たら、こうなるんですよ!
「ぁぁぁああ!!」
「くっ、このぉぉおお!! 妖怪共がぁぁあ!!」
僕が叫びながら相手に向かって走り出し、腕を引いた後に、相手もそれに合わせて腕を引いています。
炎を纏ってはいるけれど、そんなので僕が吸収しまくったこの力に、敵うわけないですよ。
「炎狐破拳!!」
「……っ!!!!」
耐えた……?!
相手の攻撃を交わして、カウンターのようにして顔面に直撃したのに……踏ん張った?!
「あ、悪しき妖怪は……」
「嘘……嘘でしょう、これ耐えるの?!」
「悪しき妖怪は滅する!! 掃討作戦は、続いていますよ!! かぁぁあああ!!」
そんな……目を見開いて、顔面で僕の拳を押し返して……。
「かぁっ!!」
「あぐっ……!!」
そして細目の人は、そのまま僕の腕をへし折る勢いで、頭突きをしてきました。
咄嗟に腕を引いたから腕は折れてないけれど、お陰で相手の頭突きは、僕の顔の狐のお面に直撃です。
このお面は激しい戦闘でも割れないようにしているけれど、右目の部分が欠けましたよ。
つまり防具にもなっているので、ダメージはあまりないです。クラクラするけどね……。
「うっ……つっ」
「うくっ……ごめん、椿ちゃん。折角身動き取れなくなってたのに……」
すると、後退る僕の背中に、トヨちゃんがその背を合わせてきました。
お互い背中を預けている状態で、相手にジリジリと詰め寄られています。
「悪しき、悪しき妖怪は滅ぼす! さぁ、覚悟しなさい!」
「くく……進退窮まったな、妖狐ども!」
黒狐さんの能力を振り払うなんて……どんな力を持ってるんですか?
しかも、良く見たら強面の方も細目の方も、その足に蔦や蔓が絡み付いています。
どうやら美亜ちゃんも援護してくれているみたいだけれど、あまり効果がないようです。
それだけこの2人が別格なんです。
「私達『神格の陰陽師』が……妖怪ごときに遅れをとるわけないんですよ……」
すると細目の陰陽師の人が、僕達に向かってそう言ってきます。
神格? どういう事? 普通の陰陽師じゃないのは分かっていたけれど、もしかしてまた神様と関係しているのかな?
「さぁ……終わらせよう」
そして細目の人がそう言うと、全身から天にも登る程の炎を体から噴きだし、そして強面の人も、同じくらいの竜巻を生み出します。
僕達の両サイドからそんな術をしてくるということは……。
「トヨちゃん……これ挟み撃ちにされるやつ」
多分、2人はこれを狙っていたんだ。
しかもこの大きさ、おじいちゃんの家どころか、そこから少し離れた所で様子を見ている、おじいちゃんの家の妖怪さん達と、援護してくれている白狐さん達も巻き込まれちゃいます。
とにかく、僕は小声でトヨちゃんにそう言います。
「大丈夫……椿ちゃんの能力なら、私の能力と合わせて太刀打ち出来るから。椿ちゃんは術式吸収で溜めておいて」
「な、何を?」
「ふふ……玩具生成」
「えっ?」
それって、特殊な能力が付いた玩具を出す妖術だよ。
確かに術式吸収で溜められるけれど、大きくなったり威力が上がったりするだけだよ?
トヨちゃん……君はいったい何を考えているの?




