表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕、妖狐になっちゃいました 弐  作者: yukke
第弐章 驕兵必敗 ~陰陽師の実力は?~
38/131

第拾話 【2】

 皆が呆然とする中で、僕は次にどう動こうか悩んでます。だって、何だか白い目で見られているような気がするんですよ。


 勢いに任せてやっちゃったけれど、やるんじゃなかったです。どこからかシャッター音も聞こえますからね。絶対に雪ちゃんが写真を撮りまくってるんだと思う。それは良いけれど、ちゃんとそっちも動いて下さい。


「ふむ……そうですか、正義ですか……それは、あなた達妖怪は悪では無いと、そう仰るのですね」


 すると、細目の陰陽師の人が、僕達に向かってそう言ってきます。そう名乗ったんだから、そういうことだって察して下さいよ。


「その通りです。妖怪は全員が悪ではないよ」


「それを分からせるために、私達はやって来たのよ!」


 トヨちゃんが僕の後に被せてきましたよ。ありがたいけれど、相手は怯んでないよ。


「そう……ですか……ふふ、くくくく……ふふふふ」


 しかも細目の人が顔に手を当てたと思ったら、気持ち悪い笑い声を出し始めましたよ。何だろう、僕達の言葉が琴線にふれたのかな?


「笑わせてくれる……悪の権化どもが!!!!」


 すると、その細目の人はそう叫んだ後、僕に向かって飛び掛かってきます。ここ屋根の上! 人間の脚力じゃ跳び上がれないでしょう?!


「全ての始まりの天柱(あまばしら)よ、悪しき気を打ち払い、今ここに清き力を開眼せよ!! 開闢かいびゃく! 天地没固(てんちぼっこ)!」


「うわっ!!」


「ちょっ……家が……!!」


 そして、僕達に飛び掛かってきた細目の人は、そう叫びながら拳を振り下ろす動作をしました。何も無いところに向かって何をしてるのかなと思ったら、その瞬間地面が沈みました。

 つまり、おじいちゃんの家が地面に沈んだんです! この家は、僕にとって色々と思い出深い家なんだよ! そう簡単には壊させないよ!


「くっ……!! ト……白! 地面に降りるよ!」


「分かった!!」


 危うくトヨちゃんって言いそうになっちゃいました。

 とにかく、僕はそう言って地面に降りると、そのまま沈み込んだ地面に手を付けます。


 おじいちゃんの家が軋んでるし、このままだとバランスが崩れて倒壊しちゃいます。

 家全体が地面に沈んだからね、まだ崩れてはいないけれど、時間の問題です。


土壌隆起(どじょうりゅうき)!!」


 そして僕は、そう叫びながら妖術を発動します。地面を盛り上げる妖術をね。

 だけど地面はそのままで、盛り上がりませんでした。なんで、どうして?!


「甘いですね、私は沈めてその場に固めたんですよ。悪しき妖怪の巣窟である、その家ごとね」


「くっ……だから、なんでそう決め付けるんですか!!」


「黙りなさい……妖怪など、全てそうに決まっている」


「決め付けるな!! 空翔拳(くうしょうけん)!!」


 何だかムカついてきます。何でもかんでも決め付けてきて……流石の僕も怒っちゃいましたよ。

 だから、相手の正面から空に向かって拳を突き出し、空気の塊を撃ち出します。


「ぐっ……!!」


 しかもそれは、上昇気流を生み出すとっておきのものなんです。そのまま吹き飛んでください!


「無空……絶波!」


「えっ……! 風が……!」


 僕の撃ち出した空気の塊が、相手のお腹に当たったはずなのに、相手は片腕を横に振り払う動作をしただけで、その空気の塊を消してしまいました。


 やっぱり、この細目の人だけは他の陰陽師とは違う。陰陽術だけど……何だろう、何か違う……ただの陰陽術じゃない!


「全員避難したな……よし。覚悟するのはお主等じゃ、悪しき者共よ!」


「えっ……?」


 すると、今度は上空から鞍馬天狗のおじいちゃんの声が聞こえてきます。

 いつの間にか空を飛んでいて、僕達の上から天狗の羽団扇を振りかざしてる。


 待って……何する気なの、おじいちゃん……!


「家など、また作り直せば良い。妖異顕現! 大天(だいてん)打ち下ろし!!」


 そしておじいちゃんは、天狗の羽団扇からとんでもない大きさの竜巻を生み出し、僕達の居る所に落としてきました。

 放つんじゃない……落とすですよ、これ……竜巻がそのまま落ちてきた。


「くっ……ちょっ!!」


「妖異顕現、大黒縄(だいこくじょう)!」


 更に今度は、黒くて大きな注連縄を何本か出現させて、僕達の方に放ってきました。

 他の陰陽師も纏めて捕まえる気だ……流石おじいちゃん、鞍馬天狗の名は伊達じゃなかったよ。


 因みにその黒い縄は、僕達の方にも向かって来ています。


 バレてる、これ僕だってバレてる!!

 だけど、おじいちゃんの強力な妖術で身動きが取れない……そしておじいちゃんの家も、一気に壊れていく。


 僕の思い出が……白狐さん黒狐さんと一緒に住んでいた家が……他の妖怪さん達と楽しく過ごしていた家が……壊れていく。


 なんで? どうしてそんなに簡単に壊せるの? おじいちゃん!


「どんな理由があれ……悪しき事をした者に、帰らせる家はないわ!! 椿!!」


「……っ!!」


 まるで僕の心でも読んだかのようにして、おじいちゃんがそう叫んでくる。

 仮面はしているから、驚いた表情は見えないはずなのに、それなのに的確に心を読んだかのようにして……。


 でも冷静にならないと、バレたら駄目……バレたら捕まる。


「何言ってるの……? 誰と間違えてるの?」


「ふん、まだしらを切るか。えぇわい、とっとと捕まえて……っ?!」


 そしておじいちゃんの出した黒い縄が、僕達の間近まで迫ってきた瞬間、その縄が突然地面に落ちました。


「身内同士の争いは結構。存分にやって下さい。そうなれば、簡単に妖怪を滅ぼせますからね……このように」


『翁!!』


 細目の陰陽師の人が、おじいちゃんの竜巻の中を移動していて、おじいちゃんの背後に回っていました。


 誰も気付かなかった……姿と気配を消していた。しかも飛んでる……どうやって?


 そして手にした細い剣を、おじいちゃんの胸に……突き刺していました。

 その瞬間、おじいちゃんの家の妖怪さん達は、皆一斉に叫んでいます。


 僕も叫ぼうとしたよ「おじいちゃん!」って言いかけた……でも堪えたよ……ここで叫んだら台無しだ!


「……椿ちゃん」


 隣でトヨちゃんが小声でそう言ってくる。本当に、心配そうな顔を向けてきます。


「血が出るまで唇をかみしめて……なんで、そんなに我慢して……」


 狐のお面の隙間から出てたのかな? それとも、君の能力?

 確かに血の味がするよ。だけど、こうでもしないと堪えられなかった。


 そして、敵に貫かれたおじいちゃんは、そのまま地面に落ちていきます。

 それと同時に、おじいちゃんが壊した家も、完全に崩れ去りました。竜巻が消えたからね……突風に巻き上げられたガラクタが落ちて来て、家を……。


 更にその次の瞬間には、おじいちゃんの家の妖怪さん達が、一斉にその細目の人に向かっていました。


 でも、駄目……これ以上の犠牲者は出しません!!


空翔裂波(くうしょうれっぱ)!!」


「なに?! ぐっ!!」


 おじいちゃんの家の妖怪さん達が、その細目の人に攻撃をする前に、僕が攻撃して吹き飛ばしました。


 こいつは危ない。他の陰陽師とは違う。何かが違う。普通の人間かどうかも怪しいです。


「暗!」


「白は後ろ!!」


「はっ……?!」


「ふん!!」


 まだ居るんですよ、1人厄介なのが……そいつも別格、他の陰陽師とは違う。


 そして強面の方の陰陽師の人が、両腕を振り上げ、僕達に向かって振り下ろしてきます。

 何とか避けたけれど、そのまま相手は地面を叩きつけ、そして陥没させています。なんて腕力ですか……。


「悪しき妖怪は、滅びろ!!」


「もう……!! 他の陰陽師はともかく、この2人は別格なのね」


 もう目が怒りに塗れてるもん。

 いったい何があったかは分からないけれど、言葉で止まらないなら……力尽くで止めるしかないです。


「白はそいつをお願い! こいつらは2人で行動させたら駄目だ!」


「ほう……中々良い判断ですね」


「はやっ……」


 トヨちゃんに指示を出した瞬間、細目の人がもう僕の懐に?!


「ふっ! はっ!! せぃ!!」


「あっ、ぐぅっ、ぎゃん!!」


 そして、そのままお腹、足、顎の順に殴られ、同時に何か変な術式を付けられました。何これ……?


「増し増しならぬ。ただならぬ。痛め!!」


「あぐぁぁあ!!!!」


 術式が付けられた場所が痛む! 骨が……いえ、体が引き裂かれるような痛みです。


 だけど……!!


「ぁぁあ……あああ!!!!」


「なに……ぐっ!!」


 僕はその激しい痛みを我慢して、思い切り拳を握ると、そのまま相手を殴り付けて吹き飛ばします。


 鞍馬天狗のおじいちゃんを殺された怒りは、その痛みは、こんな程度じゃないよ!!


「フーフー! お前の相手は、僕だ!!」


 そして、地面に仰向けに寝転がった相手に向かって、僕はそう叫びます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ