第拾話 【2】
皆が呆然とする中で、僕は次にどう動こうか悩んでます。だって、何だか白い目で見られているような気がするんですよ。
勢いに任せてやっちゃったけれど、やるんじゃなかったです。どこからかシャッター音も聞こえますからね。絶対に雪ちゃんが写真を撮りまくってるんだと思う。それは良いけれど、ちゃんとそっちも動いて下さい。
「ふむ……そうですか、正義ですか……それは、あなた達妖怪は悪では無いと、そう仰るのですね」
すると、細目の陰陽師の人が、僕達に向かってそう言ってきます。そう名乗ったんだから、そういうことだって察して下さいよ。
「その通りです。妖怪は全員が悪ではないよ」
「それを分からせるために、私達はやって来たのよ!」
トヨちゃんが僕の後に被せてきましたよ。ありがたいけれど、相手は怯んでないよ。
「そう……ですか……ふふ、くくくく……ふふふふ」
しかも細目の人が顔に手を当てたと思ったら、気持ち悪い笑い声を出し始めましたよ。何だろう、僕達の言葉が琴線にふれたのかな?
「笑わせてくれる……悪の権化どもが!!!!」
すると、その細目の人はそう叫んだ後、僕に向かって飛び掛かってきます。ここ屋根の上! 人間の脚力じゃ跳び上がれないでしょう?!
「全ての始まりの天柱よ、悪しき気を打ち払い、今ここに清き力を開眼せよ!! 開闢! 天地没固!」
「うわっ!!」
「ちょっ……家が……!!」
そして、僕達に飛び掛かってきた細目の人は、そう叫びながら拳を振り下ろす動作をしました。何も無いところに向かって何をしてるのかなと思ったら、その瞬間地面が沈みました。
つまり、おじいちゃんの家が地面に沈んだんです! この家は、僕にとって色々と思い出深い家なんだよ! そう簡単には壊させないよ!
「くっ……!! ト……白! 地面に降りるよ!」
「分かった!!」
危うくトヨちゃんって言いそうになっちゃいました。
とにかく、僕はそう言って地面に降りると、そのまま沈み込んだ地面に手を付けます。
おじいちゃんの家が軋んでるし、このままだとバランスが崩れて倒壊しちゃいます。
家全体が地面に沈んだからね、まだ崩れてはいないけれど、時間の問題です。
「土壌隆起!!」
そして僕は、そう叫びながら妖術を発動します。地面を盛り上げる妖術をね。
だけど地面はそのままで、盛り上がりませんでした。なんで、どうして?!
「甘いですね、私は沈めてその場に固めたんですよ。悪しき妖怪の巣窟である、その家ごとね」
「くっ……だから、なんでそう決め付けるんですか!!」
「黙りなさい……妖怪など、全てそうに決まっている」
「決め付けるな!! 空翔拳!!」
何だかムカついてきます。何でもかんでも決め付けてきて……流石の僕も怒っちゃいましたよ。
だから、相手の正面から空に向かって拳を突き出し、空気の塊を撃ち出します。
「ぐっ……!!」
しかもそれは、上昇気流を生み出すとっておきのものなんです。そのまま吹き飛んでください!
「無空……絶波!」
「えっ……! 風が……!」
僕の撃ち出した空気の塊が、相手のお腹に当たったはずなのに、相手は片腕を横に振り払う動作をしただけで、その空気の塊を消してしまいました。
やっぱり、この細目の人だけは他の陰陽師とは違う。陰陽術だけど……何だろう、何か違う……ただの陰陽術じゃない!
「全員避難したな……よし。覚悟するのはお主等じゃ、悪しき者共よ!」
「えっ……?」
すると、今度は上空から鞍馬天狗のおじいちゃんの声が聞こえてきます。
いつの間にか空を飛んでいて、僕達の上から天狗の羽団扇を振りかざしてる。
待って……何する気なの、おじいちゃん……!
「家など、また作り直せば良い。妖異顕現! 大天打ち下ろし!!」
そしておじいちゃんは、天狗の羽団扇からとんでもない大きさの竜巻を生み出し、僕達の居る所に落としてきました。
放つんじゃない……落とすですよ、これ……竜巻がそのまま落ちてきた。
「くっ……ちょっ!!」
「妖異顕現、大黒縄!」
更に今度は、黒くて大きな注連縄を何本か出現させて、僕達の方に放ってきました。
他の陰陽師も纏めて捕まえる気だ……流石おじいちゃん、鞍馬天狗の名は伊達じゃなかったよ。
因みにその黒い縄は、僕達の方にも向かって来ています。
バレてる、これ僕だってバレてる!!
だけど、おじいちゃんの強力な妖術で身動きが取れない……そしておじいちゃんの家も、一気に壊れていく。
僕の思い出が……白狐さん黒狐さんと一緒に住んでいた家が……他の妖怪さん達と楽しく過ごしていた家が……壊れていく。
なんで? どうしてそんなに簡単に壊せるの? おじいちゃん!
「どんな理由があれ……悪しき事をした者に、帰らせる家はないわ!! 椿!!」
「……っ!!」
まるで僕の心でも読んだかのようにして、おじいちゃんがそう叫んでくる。
仮面はしているから、驚いた表情は見えないはずなのに、それなのに的確に心を読んだかのようにして……。
でも冷静にならないと、バレたら駄目……バレたら捕まる。
「何言ってるの……? 誰と間違えてるの?」
「ふん、まだしらを切るか。えぇわい、とっとと捕まえて……っ?!」
そしておじいちゃんの出した黒い縄が、僕達の間近まで迫ってきた瞬間、その縄が突然地面に落ちました。
「身内同士の争いは結構。存分にやって下さい。そうなれば、簡単に妖怪を滅ぼせますからね……このように」
『翁!!』
細目の陰陽師の人が、おじいちゃんの竜巻の中を移動していて、おじいちゃんの背後に回っていました。
誰も気付かなかった……姿と気配を消していた。しかも飛んでる……どうやって?
そして手にした細い剣を、おじいちゃんの胸に……突き刺していました。
その瞬間、おじいちゃんの家の妖怪さん達は、皆一斉に叫んでいます。
僕も叫ぼうとしたよ「おじいちゃん!」って言いかけた……でも堪えたよ……ここで叫んだら台無しだ!
「……椿ちゃん」
隣でトヨちゃんが小声でそう言ってくる。本当に、心配そうな顔を向けてきます。
「血が出るまで唇をかみしめて……なんで、そんなに我慢して……」
狐のお面の隙間から出てたのかな? それとも、君の能力?
確かに血の味がするよ。だけど、こうでもしないと堪えられなかった。
そして、敵に貫かれたおじいちゃんは、そのまま地面に落ちていきます。
それと同時に、おじいちゃんが壊した家も、完全に崩れ去りました。竜巻が消えたからね……突風に巻き上げられたガラクタが落ちて来て、家を……。
更にその次の瞬間には、おじいちゃんの家の妖怪さん達が、一斉にその細目の人に向かっていました。
でも、駄目……これ以上の犠牲者は出しません!!
「空翔裂波!!」
「なに?! ぐっ!!」
おじいちゃんの家の妖怪さん達が、その細目の人に攻撃をする前に、僕が攻撃して吹き飛ばしました。
こいつは危ない。他の陰陽師とは違う。何かが違う。普通の人間かどうかも怪しいです。
「暗!」
「白は後ろ!!」
「はっ……?!」
「ふん!!」
まだ居るんですよ、1人厄介なのが……そいつも別格、他の陰陽師とは違う。
そして強面の方の陰陽師の人が、両腕を振り上げ、僕達に向かって振り下ろしてきます。
何とか避けたけれど、そのまま相手は地面を叩きつけ、そして陥没させています。なんて腕力ですか……。
「悪しき妖怪は、滅びろ!!」
「もう……!! 他の陰陽師はともかく、この2人は別格なのね」
もう目が怒りに塗れてるもん。
いったい何があったかは分からないけれど、言葉で止まらないなら……力尽くで止めるしかないです。
「白はそいつをお願い! こいつらは2人で行動させたら駄目だ!」
「ほう……中々良い判断ですね」
「はやっ……」
トヨちゃんに指示を出した瞬間、細目の人がもう僕の懐に?!
「ふっ! はっ!! せぃ!!」
「あっ、ぐぅっ、ぎゃん!!」
そして、そのままお腹、足、顎の順に殴られ、同時に何か変な術式を付けられました。何これ……?
「増し増しならぬ。ただならぬ。痛め!!」
「あぐぁぁあ!!!!」
術式が付けられた場所が痛む! 骨が……いえ、体が引き裂かれるような痛みです。
だけど……!!
「ぁぁあ……あああ!!!!」
「なに……ぐっ!!」
僕はその激しい痛みを我慢して、思い切り拳を握ると、そのまま相手を殴り付けて吹き飛ばします。
鞍馬天狗のおじいちゃんを殺された怒りは、その痛みは、こんな程度じゃないよ!!
「フーフー! お前の相手は、僕だ!!」
そして、地面に仰向けに寝転がった相手に向かって、僕はそう叫びます。




