第拾話 【1】
着替えを終えた僕達は、トヨちゃん達と一緒に鞍馬天狗の家へと向かいます。もちろん、大きめの雲操童さんに乗ってね。
メンバーは僕とトヨちゃん、そして白狐さん黒狐さんに飯綱さん。更には雪ちゃんと美亜ちゃんと楓ちゃんに香奈恵ちゃん、里子ちゃんも着いてきました。つまり、ほぼ全員です。
僕のお母さんとお父さん、そして妲己さんと玉藻さんは咲妃ちゃんの方に向かってくれました。むしろこっちの4人は、最強四天王なので任せて大丈夫かも知れません。
不安なのは、ちゃんとチームワークが取れるのかどうかなんですけど……お母さんがいるから大丈夫だよね。
「椿ちゃん、段取りは頭に入ってる?」
「香奈恵ちゃん……親友モードですよ」
「だって、椿ちゃんのこんな姿……もう2度と見られないもん! 娘でいてる場合じゃない!!」
「落ち着いて下さい、カナちゃん!!」
確かに今の僕の格好は……袖が長くて丈の短い着物で、更には太ももくらいまでの短いミニスカートに、膝丈までのニーソックスにリボンが付いています。
上は黒くて、スカートとニーソックスは白……オタクが好みそうなこの格好……凄く恥ずかしいよ。
トヨちゃんも同じ格好だけど、向こうは上は白くて、ニーソックスは黒いです。つまり対照になってます。
「椿、最高に似合ってる」
「この姿を褒められてもなぁ……」
僕、一児の母だよ? そりゃ、まだ高校生か……下手したら中学生に見られるかも知れないけれど、精神はそうじゃないからね!
「椿ちゃん、これが上手くいったら2人でユニット組まない?」
「トヨちゃんはノリノリですね……」
しかもユニットって……確かに僕は妖怪アイドルとして、色んな人に知れ渡っちゃってるけれど、豊川稲荷のトヨちゃんと一緒にユニットってなったら……もっと有名になっちゃいそうですね。
「ユニット……なるほど。トヨちゃん、あなたの頑張り次第です」
「雪ちゃん!」
マネージャーっぽく対応しないで! ほぼマネージャーだけどさ……。
「あんた達馬鹿やってないで、もう着くわよ」
すると、1番前に座っている美亜ちゃんがそう言ってきました。
そう言えば、ちょっと涼しくなったな~と思ったら、もう辺りが山に囲まれている集落までやって来ていました。
そしてその先には、一筋の煙と、僅かだけれど戦闘音が聞こえてきました。
まだ戦っているということは、全滅はしていないですね。間に合った……!
「それじゃぁ椿ちゃん豊川さん、お願いしますね!」
「里子ちゃん、トヨちゃんって言って~」
「えっ……?! あっ、は、はい」
里子ちゃんは、親しい人や妖怪以外には礼儀正しいですからね。それを知ってて、トヨちゃんからかってますよ。
そして作戦だけど、姿を見せるのはトヨちゃんと僕の2人だけで、あとの人達は物陰から援護をする形でいきます。
問題は……僕達の登場なんです。
恥ずかしいよ……これが本当に恥ずかしいんだけど……やるしかないんですよね。もう決まっちゃったから。
「着いたわ! 鞍馬天狗の翁の家!!」
そして、また美亜ちゃんがそう叫んできます。
その瞬間、僕達の上から雷が降ってきました。雲1つ無いのに、どこからですか?!
雲操童さんがビックリしちゃって、体が散っちゃったじゃないですか!!
「くっ……陰陽師の攻撃?! 椿、私達は大丈夫だから、作戦通りに動きなさい!」
上空から落下する中、美亜ちゃんがそう叫びます。それと同時に、美亜ちゃんは懐に入れていた種子をばらまきます。
そう、美亜ちゃんは種にも呪いをかけることが出来て、そこから大量の草や蔓を出して、伸ばしたり出来るようになったんです。つまり、それで落ちてる他の皆を助けてくれます。
だから、あとは僕達ですね。
「トヨちゃん、ちょっと僕に掴まってて」
「えっ、う、うん!」
「風来、風弾!」
そして、近くにいたトヨちゃんが僕の腕を掴んだのを確認した後、僕は妖術を発動して、風の塊をおじいちゃんの家の庭に撃ちます。その時に出来た突風で、この家の屋根に着地です。
問題なのは、その庭には大量の陰陽師と、おじいちゃんの家の妖怪さん達が戦っていて、僕の出した突風に煽られていました。
『だ、誰だ?!』
「この風……この妖気……まさか!」
そして、陰陽師の人達は全員そう叫び、おじいちゃんの家の妖怪さん達は、僕の妖術で狼狽えています。その妖術が、僕の妖術だって気付いたような感じで……。
あっ、ちょっと待って……この作戦失敗かも。
顔を隠していても、妖気を妖怪専用スマートフォンで調べられたら終わりですよ!
「椿ちゃん……上手い具合に、皆がこっちを見てるよ」
「あ~う~そうだけど……もう僕の正体はバレてそう」
落ちてる時に、咄嗟に狐のお面は付けたけれど、おじいちゃんの家の妖怪さん達は全員、僕の方を凝視しているんですよね。
それでもやらないと駄目? いえ、怪しんでスマートフォンで調べられる前に行動しないと!
「……ん~? 誰ですか? 君達は」
「兄者、そんな事を聞かなくても妖怪に違いない。ぶっ殺すぞ!」
すると、僕達が行動に出る前に、革のジャケットとそれに合わせた服を着た細目の男性と、肌着を着けずに、派手な柄の入ったカッターシャツを着た、強面の男性がこっちを見てきます。
強面の方は凄い目で睨みつけてきていて、今にも攻撃しそう……。
「土に埋もれし魂よ、その御恵みをもって我が声に応えよ! 食らっとけ『土魂縄』!!」
「うわっ!!」
地面から太い注連縄が沢山出て来て、僕達に向かってきます。まるで大蛇みたい!
しかも、僕達の立っている屋根を吹き飛ばしたよ! これ、捕まえる術じゃないの?!
「流石、問答無用ね……」
「いや、トヨちゃん! 呑気に吹き飛んでないで、何とかしな……」
「大丈夫だよ、私を誰だと思ってるの? 豊川稲荷の稲荷なのよ! 妖異顕現!」
すると、トヨちゃんがそう叫んだ瞬間、何もないところから狐の石像が現れて、僕達をその背に乗せてきました。
動いてる?! この石像動いてる! というか、それで別の屋根の所に着地されても、石だからお尻痛いよ。
「相手の術、まだ消えないよ!」
「だったら、それは僕が何とかする!」
その後、石像から降りた後にトヨちゃんが叫びます。
あれは僕ならなんとかなるけれど、僕だって分かるような妖術は使えない。だから、僕が使わなさそうな妖術を使わないと。
「妖美尾操」
そして僕は、自分の尻尾を妖艶に見えるように広げて動かし、その内の1本の毛を、相手の土で出来た縄に引っ付けます。これで、この術は僕が操れます。
「そら、そっちに行きな!」
もちろん言葉遣いも、僕だとバレないような言葉遣いをしないといけないです。
いつもの僕じゃない、自分以外の人を演じるようにしないと……これがかなり難しいです。
とにかく僕は相手の術を操り、逆に相手に返します。
「ふぅ、やれやれ……木剋土」
だけど、当然相手は五行術で、その土の縄を相殺して消しました。
その前に、木を出していないのにどうやって相殺したの? 手を前に突き出しただけなのに……この細目の人、一筋縄ではいかないかも。
「もう一度聞きますよ。誰ですか、あなた達は」
あ~トヨちゃんがポーズ取ってる、やるしかないんですね。
とにかく、トヨちゃんが先に大きな声で喋りだします。それに続かないと……。
「誰と聞かれたら答えないとね! 私達は、清き太陽の如く熱い正義の魂を宿す妖狐! 私は白!」
「僕は暗!」
『2人の巨大な正義の心が、悪しき者達を打ち砕く! 正しき人と、正しき妖怪を助ける私達は、正義のヒロイン「コンコンガール」!!』
はい、恥ずかしい……穴があったら入りたい。
一応正義のヒロインみたいにポージングはしたけれど、皆呆然としながら見てましたよ!!
帰りたい、今すぐ帰りたい!! 即席の前口上も、なんか変だもん!!




