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僕、妖狐になっちゃいました 弐  作者: yukke
第弐章 驕兵必敗 ~陰陽師の実力は?~
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第捌話

 志織ちゃんがテンパっているせいで、次々と最深部手前の図鑑コーナーから、図鑑が出て来ています。

 しかもその全てが、妖怪達のライセンス取得の為の、訓練用の妖怪図鑑なんです。幻が次々と出て来る出て来る。


 志織ちゃんを落ち着かせないと!


「志織ちゃん、志織ちゃん! 落ち着いて下さい!」


「はわわわ……どうやったら最深部に? どうやったら最深部に?! この分厚いのを全部退かせば……!」


「志織! そんな事をしても最深部のは取れません! 落ち着いて深呼吸して、目的の本の呼吸を捉えなさい!」


 上司の人も一生懸命志織ちゃんに声をかけているけれど、志織ちゃんは落ち着く様子はないです。


 しょうがないなぁ……声が無理なら、もうこの方法しかないですよ。


「志織ちゃん、志織ちゃん! はい、僕の尻尾!」


「ほぇ? あっ、わぁ……モフモフ」


 咄嗟に志織ちゃんの前に行って、自分の尻尾を彼女の目の前でフリフリさせました。当然、志織ちゃんはそのまま僕の尻尾をモフモフしてきます。くすぐったいけれど、我慢我慢。


「はうぅ……志織ちゃん、お、落ち着きました?」


「へっ? あっ、はっ! ご、ごめんなさい……私」


「んっ、大丈夫です。落ち着いて続けて下さい。あっ、それと、上司の妖怪さんの声に耳を傾けてね」


 何とか落ち着きを取り戻したみたいです。


 良かった……声が駄目なら、もう物理的なものでしか無理でしたからね。僕の尻尾くらいで落ち着かせられるなら、いくらでも触らせるよ。僕が我慢出来る範囲でだけどね……。


「椿、とりあえずこいつらを何とするぞ!」


「あっ、はい! 黒狐さん!」


 それと、そろそろ白狐さんを起こさないとね。サキュバスさんはもう居ないだろうし、もう寝ぼけても来ないでしょう。


 ―― ―― ――


 その後、この部屋にやって来た大量の司書さん達と、やっと起きた白狐さんも加わり、何とか皆で図鑑を全て閉じることが出来ました。


 結構ヘトヘトになっちゃいましたけどね……。


「すまん、椿よ……我とした事が……」


「本当ですよ、白狐さん。僕、ちょっと危なかったです」


 こんな状況じゃなければ、僕は多分抵抗出来なかったと思う。というか、多分黒狐さんも加わって……あっ、でも、今日の夜も2人の相手をしないといけないんだった。


 しょうがないなぁ……今日はちょっと特別に甘えようかなぁ。


「椿、夜はまだ早いぞ」


「ふえ? あぁっ?!」


 僕、また顔がにやけてた?! 黒狐さんが嬉しそうな顔してそう言ってきましたよ。


「そう、その調子よ志織。良い? 最深部には取ってはいけない重要書類が多いわ。目的の書類を一つだけ取る繊細な動きと、集中力がいるわ。雑念は捨て、集中しなさい」


「は、はい……」


 そして、僕達が図鑑を閉じている間に、志織ちゃんは上司の妖怪さんの指示の元、この図書館の最深部の部分まで進めていました。

 と言っても、2人の会話を聞き取って、そうなんだなって思うしかないけどね。相変わらずこの部屋の周りを蠢き、形を変え続けている文字達を見ても、僕達には何も分からないですからね。


 それに良く見たら、志織ちゃんの体が淡く光り輝いています。妖気も高まってるし、これは期待出来そうです。


「あっ……こ、これ? これ、かな。椿さんの探している資料」


「そう思うなら、取ってみなさい」


「はい……!」


 不安がっている志織ちゃんに、上司の方がそう言います。

 そしてその後に、志織ちゃんが天井に手を伸ばし、目を閉じて集中します。


 お願いします……これ以上失敗されると僕達の体力も持たないし、志織ちゃんの評価も……。

 すると僕の前に、紐だけで製本された、ボロボロの古い本が一冊降りてきました。


「これ……」


「そ、それが多分、椿さんの言っていた、空狐様の妖具について書かれた物だと思います。あの、空狐様の資料も要りますか?」


「あっ、はい。妖気が大丈夫でしたらだけど」


「任せて下さい!」


 今ので自信が付いたのでしょうか、志織ちゃんは満面の笑みでそう言ってきました。でも、また図鑑を出さないで下さいね。


 さて、僕は僕でこの本を見てみないと……随分と古い本だから、めくるのも慎重にいかないと。

 それとこの表紙の文字、妖狐の里の空狐様の祠にあった、あの石碑と同じ文字で書かれています。象形文字みたいな、そんな文字です。これなら読める。


「…………無慧(むけい)。それが空狐様の妖具である、この数珠の名前かな?」


 表紙はそれだけしか書かれていない。それじゃあ、中に使い方が書いてあるのかな?


 そして僕は、ゆっくりとページをめくります。


「椿よ、なんて書いてある?」


 そんなに急かさないで下さいよ、読めるとは言え、かなり難しいんですよ。昔の言葉の言い回しが難しいですからね。


「うぅ……螺旋の渦の中、天翔る竜が如く力を持って、黒き皇を打ち倒さん。多分この『天翔る竜が如く力』が、この数珠を使えるようになるための条件かも……これはどういう事でしょう?」


「飛翔能力か?」


「白狐よ、そんな簡単な事ではなかろう」


 えっ、飛翔能力? ちょっと待って、妖狐って飛べるの?!


「待って下さい! 白狐さん黒狐さんは飛べるの?!」


「んっ? あぁ、飛べるぞ」


「とは言え、妖気とは違う力を使わないといけないけどな」


 初耳なんですけど……というか、そういえばそれっぽい事があったような……たまにどうやって移動したの? ということがあったからね。


「僕まだ飛べないから、もしかしたらそれかも……」


「ふむ、まぁ試す価値はあるかの」


「そうだな白狐、帰ったら練習してみるか」


 練習……僕、飛べるのかな?

 あっ、でも、この資料は持ち出し不可みたいだし、今の内に全部見ておかないと。


「えっと……『この妖具は、私自身しか使えないようにする。他の者に使われ、悪用されないようにしなければならない。その存在を、その事象を、何もかもをも無に帰してしまうこの数珠は、危険である』」


 まぁ、この辺りは予想していましたよ。

 ただ、その後に書かれた事がまた、この数珠の特殊性を際立たせています。


「『油断をすると、形を変えていく。無形の妖具。数珠は、1番形を成しやすかった』ですか……無形、形がない妖具だったんですね」


「椿よ……」


「あっ……」


 僕が読み終わった後、白狐さんが机に置いてあった、空狐様の妖具を指差しました。

 形が変わっていましたよ……扇子になってました。透明に近い扇子に……。


「なるほど、無形の妖具ですか……それと無慧をかけているのかな? それとも、他にも何かあるのかな?」


 まだまだページはあるから調べてみます。


「『力は飛翔だけにあらず。星を呼ぶ力を持ってしなければ、この妖具は使えない。黒き星を呼ぶ力を持つ、この妖具を……』って、黒き星?」


「ふ~む、謎な事だらけだな……」


 黒き太陽……黒き星。


 あくまでもこの妖具は、空亡を倒すためだけに作られた妖具っぽいですね。


「う~んんん……」


 後は基本的にこの数珠の能力とかくらいですね。

 これ、使えるようになったらかなり強力なんですけど……流石、力だけ言ったら最強の妖狐です。


 そんな妖狐の魂が、僕の中に?


 未だにしっくり来ないけれど、使いこなせればかなりの戦力になるよ、これは。


「それで椿よ、その本はもう良いのか?」


「ん~出来たら複写したいけれど……」


 白狐さんの言葉に答える様にして、僕は難しい顔をしてそう言います。もちろん、遠回しに志織ちゃんの上司の妖怪さんに言ってます。


「無理ですね。持ち出しどころか、複写も禁止されています。門外不出の物ですね」


「うぐ……そうですか」


 そうなると、もう全部記憶するしかないですね。頑張って読み込みましょう。あっ、そうだ、そのついでに空狐さんの資料も読んでおこう。


「志織ちゃん、丁度良いから空狐様の資料も……」


「は~い! 今出してます~」


「うん、図鑑じゃないよね?! 戻ってる戻ってる! 階層戻ってるよ!」


「あ、あっれぇ?!」


 もう大丈夫だと思ったのは僕の気のせいかな?! やっぱり志織ちゃんは志織ちゃんのままでした!

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