表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕、妖狐になっちゃいました 弐  作者: yukke
第弐章 驕兵必敗 ~陰陽師の実力は?~
33/131

第漆話 【1】

 志織ちゃんに連れられて、僕達は図書館のあるスペースへとやって来ました。


 そこは、中央が空いている円卓が置いてある部屋で、その円卓の真ん中に志織ちゃんが向かっていきます。

 そしてここには、大量の本棚とか本が一切ありません。その代わりに、周りの壁には草書体で書かれた文字が大量に書かれています。


 これは妖術を発動するための術式です。ここから司書さんが、利用する人が探している本を出すんです。

 便利なような不便なようなって感じですけど……これが司書さんの能力に関わってきます。

 上手い人なら一発ですけど……志織ちゃんはどんくさいので、全く関係ないのが次々と出て来るんですよ……。


「さぁ、では椿さん。お探しの本は何ですか?」


 だけど、志織ちゃんは自信満々の笑みを浮かべながら、円卓の中央に行って妖術を発動します。

 大丈夫ですよね、上司の人も入り口から見ているし、何かあっても対応してくれるでしょう。


 そして、志織ちゃんが妖術を発動した瞬間、周りの文字が蠢きます。まるで虫みたいで気持ち悪いけれど、我慢ですね。


「えっと……空狐様に関しての資料と、その妖具に関してですけど……閲覧出来ます?」


 もちろんここの資料等には、閲覧禁止になっていたり、制限がかかっているものもあります。


「ん~」


 僕が言った後に、志織ちゃんが蠢く文字を眺めていきます。

 この文字は、利用者が調べたい資料、それがどれだけあるのかを教えてくれます。


「空狐様に関しては、1850冊程の資料と文献がありますけど……その妖具に関しては……無い……いえ、1冊だけありました」


「1冊ですか?」


 少ないだろうとは思っていたけれど、まさか1冊だけなんて……いえ、1冊あるだけでも良かったのかな?


「それ、閲覧は……」


「…………」


 僕の言葉の後に、志織ちゃんが真剣な顔をしながら、この部屋の至る所に書かれている文字を見ていきます。


「閲覧は……条件を満たせば可能みたいです」


「条件……」


「その妖具を持つ者ですね」


 なるほど、この空狐様の妖具を手に入れているということは、その身に空狐様の魂を宿している者ということ。

 この妖具を持っているだけで、その証明になっちゃってますよね。


「それじゃあ、僕がその条件を満たしているから、閲覧を希望します」


「えっ?! あっ、うそ……もしかしてその数珠?」


 条件を満たしている事を証明するため、僕は今、机の上にその数珠を出しています。

 それを見て志織ちゃんは驚き、上司の女性も急いで僕の傍にやって来ました。


「そんな……空狐様の妖具……! これに関する資料は、1冊だけと出ているのね、志織」


「えっ? あっ、は、はい」


「それならその資料は、最重要書類として、この図書館の最深部に厳重に保管されているはずよ。志織、代わりなさい。あなたではまだ無理よ。いえ、何人か呼んでくるわ」


「へっ、えっ……でも」


「良いから、言うことを聞きなさい。あなたはそのまま待機しておいて!」


「はい!」


 な、なんだか物騒な事になってきましたよ。

 空狐様の妖具、そのたった1冊の資料を閲覧するのに、そんなに人数がいるんですか?


 最深部って言ったら、妖界の存在に関わるような、そんな資料が沢山保管されていると聞いています。

 空狐様のこの妖具って、その妖界の存在に関わるものでもあるのかな? ちょっとだけ怖くなってきました。


 とにかく志織ちゃんの上司の人は、妖怪専用のスマートフォンを取り出し、それで何処かに連絡をしようとします。だけど……。


「待たんか、そなた。我々は志織に頼んだのだ。それと、そなたも志織に任せたであろう? それなら、最後まで志織にやらせるんだ。その為のフォローをするのが、有能な部下を生み出す第一歩だろう?」


「うぐ……し、しかし、こればかりは……」


 白狐さんが志織ちゃんの上司の人を止めました。

 あのね、良いこと言ってドヤ顔は良いんだけれど……ちょっとモヤっとしました。何でって?


「白狐さん、志織って呼び捨てですか~?」


「ふぎぎ……!! 待て椿、悪かった!」


 いきなり女性を呼び捨てとか、白狐さんの女たらし。もうずっとほっぺた引っ張ってるもん。


「は、離せ椿! それどころじゃないだろう!」


「分かってるけどさ~な~んか、モヤモヤするの。このモヤモヤが晴れるまで引っ張っときます」


「うぐぐ……!!」


 僕の腕をタップしてもダメですよ。


「まぁ、白狐の言うとおり、この術式による妖術は、途中で術者を変更出来ないだろう? 続けさせるしかないぞ」


「……いえ、無理をすれば代われます」


「無理をすれば? それって、志織ちゃんが……」


「えぇ、彼女の付喪神化を解きます。つまり元の栞に戻れば、この術式は一旦元に戻ります。そこから私が……」


「それじゃあ却下ですね。志織ちゃんにやって貰わないと」


 そんな犠牲を出すような方法で代わって欲しくは無いです。上司の人も志織ちゃんに頼んだんだし、僕達にお願いしたでしょう?

 だから、そこは最後まで志織ちゃんにやって貰わないとね。そうじゃないと、彼女は何時までも成長しません。


「あの、ごめんなさい……私、私やります!」


 すると、志織ちゃんが今まで以上に真剣な顔になって、上司の人にそう言いました。

 その前に僕達の言葉で、上司の人ももう観念していましたけどね。


 そして、その後にスマートフォンを耳に当て、何処かに連絡を取り始めます。まさか、そんなの関係なしに代わろうとするんじゃ……。


「私よ、この図書館で今手が空いている司書達に伝えて。直ぐに私のいるナンバー42のルームに来て頂戴と。えぇ、最深部の資料を1冊取り出すわ。条件は満たされている。いえ、そんな事をしていたら何日かかると……はぁ?! 規則規則と、そんなのに従って、志織の初の大舞台を台無しにする気?! 良いから早く伝えなさい!!」


 そう叫んだ後、その上司の人は電話を切りました。だ、大丈夫なの?


「全く、上は頭が硬いわね。条件が整っている証拠を提示して、センターに問い合わせして確認をさせてなんて……そんな事をわざわざする必要があるのかしらね……ここに持って来ている時点で、もう条件は満たしているのに」


「あ、ありがとうございます」


 そんな上司の人の行動を見て、志織ちゃんは泣き始めてしまいました。


「あ~もう、泣かない。その代わり、いくら失敗しても良いから、ちゃんと目的のものを取り出すのよ」


「はい!!」


 何だか良いですね。部下を信頼して、部下も上司を信頼して……そうなると仕事もはかどるし、部下の能力も上がるってものですよね。


 それはそうと、今センターって言葉で気が付いたんだけど……。


「白狐さん黒狐さん、僕達手配書が……」


「ん? 気付いていると思ったのだが、気付いてなかったのか、椿よ」


 あっ、いつの間にか白狐さんのほっぺから手を離していました。いけないいけない。


「いや、もう良いじゃろう!」


「しょうがないな~それで、もしかしてこの図書館も……」


「あぁ、当然強力な結界がしてある。呪いとかそういうもので、この図書館を攻撃されてはマズいだろう? 他とは違う、かなり特殊で強力な結界が張られている」


 つまりこの図書館の中も、撫座頭さんの能力は届いていないんですね。

 良かった……志織ちゃんが普通に対応してくれたから、すっかりと忘れていましたよ。


 それじゃあ、あとは志織ちゃんが頑張ってくれるだけですね。


「そうそう、申し訳ないですれど、あなた達3人の力も貸して頂きます」


「へっ?」


「最深部の途中には、訓練用の『妖怪大図鑑 幻像集』の本棚があります。幻ではありますけれど、もし志織がその本を間違って取ってしまったら、大量の妖怪達が出て来ます。その対処をお願いします」


 やっぱり、志織ちゃんにやらすべきじゃなかったでしょうか? そんなの志織ちゃんが以前のままなら、絶対出してきますよ。


 お願いします。ちゃんと成長してて下さいね、志織ちゃん!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ