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僕、妖狐になっちゃいました 弐  作者: yukke
第弐章 驕兵必敗 ~陰陽師の実力は?~
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第陸話

 それから無事に中に入れた僕達は、お目当ての本を探すんだけど……探すのも一苦労なんですよ。


 図書館の中は居たる所に本棚があって、壁にも床にも天井にも、本棚が並んでいます。

 良く落ちたり傷んだりしないな~と思ったんだけど、本棚の周りを妖気が囲んでいて、それが本を守っているみたいなんです。


 そしてここには、何百億冊という本が存在しているんです。

 だから、ここから本を探すには……司書さんが必要なんです。もちろんここにいるから、妖怪や半妖です。


 そして僕は、図書館の中を忙しなく動き回る女の子を見つけ、その子に向かって手を振ります。


「お~い! 志織(しおり)ちゃん!」


「はい?! ちょっと、図書館ではお静かに……え、椿ちゃん?!」


 その子は僕の声に驚いて、こっちを振り向きます。

 以前ここに来たときにもお世話になった、付喪神です。名前から分かると思うけど、本の栞が付喪神となったものです。


 フレームもレンズも分厚い眼鏡をかけていて、そばかすがある女の子。黒い髪の毛もボサボサで、手入れなんかしていないのが分かります。

 多分、お肌の手入れもしていないと思うけど、まだ付喪神化して日が浅いのか、お肌は綺麗なんですよね。


 あっ、この子は栞だったからね、挟まれ続けられる日々で、胸なんて当然真っ平らなんです。本人は全く気にしてないけど。


 それと、この子と接するときには油断したらダメなんです……。


「どうしたんですか? 椿ちゃん。お調べ物?」


「あっ、うん、そうなんで……」


「きゃぁっ!!」


 あっ、やっぱり! 志織ちゃんがこっちに来る途中で、足がもつれて前にコケてます。しかも、大量の本をその両手に積み上げたまま……。


「ほっ……!!」


 危なかったです……分厚い本が何冊かあったから、それが僕の頭の上に落ちて来そうになってました。

 何とか避けたけれど……床に散らばった何冊かの本から煙が……。


「いかん、椿、一旦離れるぞ!!」


「うわっ!!」


 突然白狐さんに抱っこされました。

 確かに、本から出ている煙から妖気を感じます。いったい何を運んでいたの? 志織ちゃん……。


「あわわわ!! 魔人さん!! 出て来ないで下さい!! 間違えたんです!」


 うわ~上半身ムキムキの、強面で髭もじゃの魔人さんが出て来ました。

 ムキムキは僕、トラウマなんですけど。過去にムキムキな人と色々あったので……。


 それと、もう分かると思うけれど、志織ちゃんはかなりドジなんです。


「むむむ……1度閉じるか、栞を挟まないと!」


 すると、志織ちゃんは指と指の間に栞を出現させ、それを格好よく構えます。あの、だけど……。


「志織ちゃん、後ろ……」


「へっ? ひゃあああ!!!!」


 飛び出す植物図鑑かな?

 志織ちゃんの後ろに落ちて開いていた本から、沢山の木の枝や蔓が出て来て、志織ちゃんに絡み付いています。


 ついさっきここの目の前の森林で、同じような扱いを僕は受けたので、これ以上はもう勘弁です。


「黒焔狐……」


「待ちなさい!! そこの馬鹿妖狐!」


「バ……?!」


 すると、沢山出て来た木の枝とかを、燃やして処理しようとした僕に向かって、怒号が飛んできます。


「他の本が燃えたらどうするんですか! ここは火気厳禁ですよ! 分からないのですか!」


「あぅ……」


 そうでした。妖気で本棚が囲われているとはいえ、何があるか分かりませんし、本棚を囲う妖気よりも強い妖気を当てれば、燃えてしまうかも知れないんでした。


「全く……」


 そしてションボリする僕の前に、怒号を浴びせたその妖怪さんが出て来ます。


 この妖怪さんも眼鏡をかけているけれど、フレームは細く、薄めの眼鏡です。志織ちゃんのとは正反対ですね。

 そして、バリバリ仕事が出来そうなキャリアウーマンみたいな格好をして、茶髪の髪の毛も後ろで纏めています。

 スーツがピシッと決まっていて、ちょっと格好良いけれど、雰囲気は凄く性格がキツそうな妖怪さんです。


「全く……志織、またですか」


「あぅぅ……! ごめんなさい~あひぃ! そ、そこはダメェ!!」


 志織ちゃんが悶えてる。ちょっと危ないですね、早く助けないと。


 すると、怒号を飛ばしてきた妖怪さんが、呆れた顔をしながら指を鳴らします。

 その瞬間、その妖怪さんの周りに沢山の栞が出て来て、散らばって開いてしまった本に向かって飛んでいきます。


 実はここの本は、その全てに妖気が込められているんです。防犯の為にです。

 重要機密を勝手に読まれないように、こうやって許可無く開いたら、罠が発動するようになっているんです。


 こうなってしまったら、栞の付喪神の司書さん達に、一旦栞を挟んで閉じて貰わないといけないのです。

 つまり、このキツそうな雰囲気の妖怪さんも、栞の付喪神さんです。


 そして、その妖怪さんが出した栞は、次々と開いた本の間に挟まり、その本を閉じていきます。どうやら何とかなったようです。


「はぁ……はぁ、あ、ありがとうございます」


「志織、あとでタップリと仕事を与えるわ」


「あぅぅ……」


 実は初めて会うんだけれど、この妖怪さんが志織ちゃんの上司みたいですね。

 ようやく解放された志織ちゃんがお礼を言うけれど、逆にその上司の妖怪さんからお小言を受けています。


「あなたはいつも慌てるわね。少しは落ち着きなさい」


「は、はぃぃ……」


 とにかく、騒ぎは何とかなったようですし、僕達の用事を……。


「あの……本を」


「あぁ、失礼しました。本をお探しなのですね」


 そして、僕がおずおずとそう尋ねると、上司の妖怪さんが急に礼儀正しくなって、そう言ってきました。その後に、志織ちゃんの方を見ています。


「志織さん。そう言えば、以前もこの方達の対応したわね?」


「あっ……は、はい……」


 志織ちゃんは消え入りそうな声でそう答えます。

 正直、前回は色々と大変でしたからね。それで白狐さん黒狐さんも、ちょっとここには足を運びにくくなっちゃったんですよ。


 それでもこの前は、まだここで働き出して半年位の頃だったし、今はもう何年も働いているはず……なのに、ドジは変わっていないのが怖いです。


「リベンジしますか?」


「あっ……は、はい!」


 あっ、急に元気になりました。リベンジしたかったのですね。だけど、白狐さんが止めに入ります。


「いや、すまんが、別の者を……」


「それでは、こちらの方へどうぞ~!」


 あぁ、白狐さんの言葉が無視されちゃいました。それに、志織ちゃんにスイッチが入っちゃったみたいなので、もう無理そうですよ。


「申し訳ありません。それでも不安なので、私も近くで見させて頂きます。それでお願いしても宜しいでしょうか?」


「白狐さん。ここまで深々と頭を下げられて、丁寧に対応されたら断れないですよね」


「う……ぬ」


「白狐、大丈夫だ。椿は俺が守る」


「いや、それは我だ」


 どっちでも良いですよ。それよりも早くしないと、志織ちゃんが先々行っちゃってます。図書館の利用者をちゃんと見て下さい、志織ちゃん。


「追いかけますよ、白狐さん黒狐さん。僕の事は2人で守って下さい」


 とにかく、僕はそう言って志織ちゃんの後を追いかけます。

 白狐さん黒狐さんも、今は争ってる場合じゃないのは分かっていたから、直ぐに僕の後を着いて来ます。


 さて、ここからが問題なんですよ。


 司書さんの協力を得ないと、目的の情報の載った本は、見つけられません。ここでその司書さんの能力が試されます。


 志織ちゃんは前回ボロボロだったから……大丈夫でしょうか?

 あれから何回も司書として対応はしていると思うけれど、今回の調べ物はちょっと難しいですよ。


 だけど、張り切ってる志織ちゃんの後ろ姿を見ていると、何でか信じてしまいたくなります。しまいたくなるんだけど……。


「きゃん!!」


「あっ、コケた……大丈夫ですか? 志織ちゃん」


「だだ、大丈夫です!」


 鼻血出しながら言われても……本当に大丈夫かな?

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