第伍話
あれから無事に森を抜けた僕達は、なんとか妖怪図書館に辿り着く事が出来ました。
ここに来る度に、毎回この森を抜けないといけないのは面倒なので、妖怪センターに頼んで何とかして貰うか、僕が燃やすかしておかないとね。
「さて、椿よ……我々はここで……うぉっ!」
「いやいや、一緒に来て下さいよ」
白狐さん黒狐さんが腕を組んで微動だにしなかったので、影の妖術で2人を引っ張ります。そんなに嫌なのかな……あの妖怪さん達。
因みにここ妖怪図書館は、入り口前が広場みたいに広くなっていて、L字型の建物になっています。
もちろん外観はボロボロで、蔦とか伸び放題。一部は崩れていて、年中妖界を照らす真っ赤な夕焼けと相まって、見事な心霊スポットみたいになっちゃってます。だけど、中は凄いですよ。
そして僕は、白狐さん黒狐さんを引きずってその中に入っていきます。
図書館の中は静寂で、人が歩く足音と、少しばかりのヒソヒソ声が聞こえるくらいです。
左手が受け付けになっていて、そこで今日来た理由を、受け付けの妖怪さんに話すんだけど……。
「くか~くか~」
分厚い本を抱き締め、受け付けのテーブルの上に胡座をかいて寝ている、この小さな老人の姿をした妖怪さんを、先ずは起こさないと。
「むぅ、相変わらずだな。本祓鬼」
そしてその寝ている妖怪さんを見て、白狐さんはため息をついています。
原因は、この妖怪さんがちょっと面倒くさいと言いますか、受け付けをするのに、わざわざあることをしないといけないのです。
因みに、白狐さん黒狐さんはそれが苦手なんです。
僕もあんまり得意じゃないから、この前は凄く時間がかかっちゃいました。
「とりあえず、起こしますよ」
ここでジッとしていてもしょうが無いので、僕は本祓鬼さんの前に置いてあるベルで、その妖怪さんを起こそうとします。
「くか~く……なぞなぞタ~イム!!!!」
「ビックリした!!」
急に起きないで下さい! カッと目を見開いて起きないで下さい!
また白狐さんの顔にしがみついちゃいましたよ。これ、癖になっちゃってる……。
「図書館では静かにせい」
「そっちのせいです……」
というか、最初に大声出したのは本祓鬼さんですよ。
それで、さっき叫んでいたのが僕達が苦手なものなんです。
そう、なぞなぞを解かないとこの図書館を利用出来ないんです!
「どうせまた図書館を利用するのじゃろう? ほれ、なぞなぞを解かんかい」
「う~分かりました……」
苦手でもやるしかないんです。全部で3問、今度はどれだけの時間でクリア出来るのかな……。
「先ずは軽くいくぞ。第1問じゃ、ある人が道で九万円を拾いました。嬉しいかと聞いたら、そうでもないと不満気じゃった。しかし、同じ人が別の場所で一万円を拾った、すると今度は嬉しそうな顔をして、今度は嬉しいと言った。さて、これはどういう事じゃ?」
「…………」
えっ、九万円拾っても嬉しくないのに、一万円で嬉しいって……。
「拾った一万円の方が価値のあるやつだった?」
「椿、迂闊に答えるな!」
「あっ、しまっ……!!」
「不正解じゃ」
すると、床から大量のくすぐり棒が出て来て、僕の体をくすぐってきます。
「あひゃひゃひゃ!! 止めて止めて止めて~!! 今のは答えてないです! 呟いただけぇ!!」
不正解だとこのように、くすぐりの刑を受けてしまいます。本当に、迂闊に答えられません。
その後3分間も、僕はくすぐられ続けました。結構キツいんですよ……これ。
「ヒ~ヒ~し、死ぬ……」
「迂闊に呟くからだぞ」
「分かってるけどね、黒狐さん……1問目は割と簡単だから、当たってるかなと思ってしまって……」
それでも、一万円の方が価値があったというのは消えましたね。それじゃあ、一体なんで?
「しかしなぁ……拾ったのなら警察とやらに届けんと、落とし主が……」
「落とし主……それです!! 拾った本人が、合計十万円を落としていたんじゃないんですか?!」
それなら九万円拾っても嬉しくはないだろうし、一万円拾って無事に十万円戻った事になるから、嬉しいでしょうね。
これが不正解なら、もう無理ですよ……お願いします。
「む……正解じゃ」
「やった……!!」
まだ1問目だけど、それでもちょっと嬉しいや。小さくガッツポーズしちゃいました。
「では第2問! しゃぶしゃぶ、おすし、焼き肉。名探偵が1番好きなのはどれじゃ!」
くっ……また難問ですね。
名探偵が好き? しゃぶしゃぶ、お寿司、焼き肉……接点がない。言い方を変えるのかな?
「英語かの?」
「しゃぶしゃぶって英語でなんて言うの?」
「シャブシャブじゃったな……ぐっ、違うか」
残念ですね、白狐さん。妖怪専用のスマートフォンで調べたみたいだけれど、しゃぶしゃぶはしゃぶしゃぶでした。他の言い方もないし……。
「寿司も焼き肉も、英語にしても意味が無かったな。となると、名探偵の言い方、もしくは名探偵の行動か?」
「う~ん、呼び方では無さそうです……何これ、難しい……本祓鬼さん、ヒントです」
「良いぞ、その代わり何を差し出す」
一応ヒントは出してくれますが、その代わり何かを差し出さないといけません。別に、それは物じゃなくても良いです。だから……。
「僕の尻尾を触って良いです」
「良かろう……おぉ、相変わらず良い触り心地だ」
「うぅ……」
白狐さん黒狐さんは不満気だけど、しょうが無いんですよ……これもあるから、白狐さん黒狐さんはここには来たくなかったんです。
だけど、あるものの情報を集めるには、この図書館が1番なんです。
「宜しい。ヒントは、名探偵なら良くやる行動じゃ」
そして、満足した本祓鬼さんはヒントを出してくれました。
行動? やっぱり言葉を変えるタイプじゃなさそうです。それってもしかして、脱力するような答えじゃないでしょうね……。
「名探偵……探偵じゃなくて名探偵なら、推理力が……」
「推理……すいり……ん? 何か引っかか……」
「白狐よ、これは握り寿司とは言ってないよな……」
あっ……ちょっと待って、僕も今それで分かったかも。
「でもさ……お寿司ってなったら、普通握り寿司とか、そっちの方をイメージしませんか?」
これは卑怯ですよ。でも、多分答えは……。
『お寿司だ!!』
「ほぉ、正解じゃ!」
あ~もう!! これは本当に卑怯ですよ!
名探偵は推理が好きだからさ……そう、酢入りがね。お寿司には酢入りのやつもあるからね……はい、次行きましょう、次。
「ふふ、次こそは本当になぞなぞっぽいなぞなぞじゃ」
それじゃあ今までのは何ですか?
まぁ、言葉遊びが多かったですからね。本格的ななぞなぞとなると、本当に難しいものは難しいんですよ……。
「行くぞ、第3問。買うときは黒く、使うときは赤くて、捨てる時は灰色のものはなに?」
「…………」
こ、これは……全く分からないよ。
買うときは黒? 使うと赤……捨てる時は灰色? えぇ……絵を描くときの道具とか、そんなものじゃないですよね。
「これは我等にとってはボーナス問題じゃったな」
「そうだな白狐。最近は使う家が無いからな、分からないかも知れない」
えっ? えっ? 白狐さん黒狐さん、直ぐに分かったの? 嘘でしょう?!
『木炭』
「うむ、正解じゃ」
「あっ……」
買うときは黒くて、燃やして使うときは赤くて、その後は灰になって……灰色に。
分かったら案外簡単だったかもって思うけれど、最近の家では使ってる所が少ないし、アウトドアくらいでしか使わないから、分からない人は多いかも……。
「我等は昔、良くこれで暖をとっておったからな」
「まぁ、簡単だったな」
久しぶりに白狐さん黒狐さんに対して、年の功を感じました。2人とも凄く長生きだったんですよ……忘れていました。




