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僕、妖狐になっちゃいました 弐  作者: yukke
第壱章 意気自如 ~変わらない椿の意志~
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第拾話

 グッタリとしてお風呂から上がった僕は、この里の妖狐達と同じ服に着替えます。薄手の着物と、袴と同じ素材で出来たスカートですね。


 そしてようやく、この里の長のいる大きな木の家へと向かいます。しつらえは立派なので、その家に偉い方がいるんだなって、一発で分かります。


「ふぅ……疲れました」


「長に会う前から疲れてどうするの」


「だって、ここの里の妖狐達が……」


 その家の前まで来るとお母さんが立っていて、僕を中に連れて長の所まで案内してくれているけれど、その途中でついため息交じりにそんな事を言っちゃいました。

 お母さんが呆れた顔をして返してくるけれど、そもそもその原因は、この里の妖狐の女の子達にあるんですけど……。


 因みに他の皆は里の妖狐達と遊んで貰っています。

 どうやら長からの話は、僕とお母さんお父さん、そして妲己さんしか聞いたら駄目みたいなのです。その祠に行けるのも、その4人だけと言われました。


 いったい何があるんですか? その祠に……。


 そしてお母さんに連れられて、この家の中でも更に広い部屋へとやって来ました。二部屋か三部屋位が1つの部屋になってるくらいの広さです。


 更にその奥には壇上があり、その前でお父さんと白狐さんと黒狐さん、そして妲己さんが立って待っていました。それともう1人いる。


 えっ、あの十二単みたいな着物を着た妖狐は……。


「玉藻さん?!」


「あら、やっと来たね。お久しぶりじゃの」


 何で玉藻さんまでこんな所に?


 玉藻さんは今、コスプレ居酒屋の玉恵さんの所で、お手伝いしながら暮らしているんです。

 実は玉藻さんと玉恵さんは、姉弟だったのです。あっ、玉恵さんが弟です。その……ニューハーフの妖狐さんなので。


 だから今は、そこで2人で一緒に居酒屋を営んで、穏やかな生活を送っていたんだけれど、そんな玉藻さんまでこんな所にやって来ているなんて……よっぽど重要な事なんでしょうか?


「玉藻さんまで呼ばれてるなんて……」


「なに、あの祠を開けると言うではないか。あの祠は、それ程の強力な妖気を持った妖狐が、4人必要なのでな」


 それで呼ばれたのですか。僕のお父さんとお母さん、そして妲己さんと協力して開けるんですね。

 そこには何があるの? そんなに強力な武器でもあるの? それとも、誰かが封印されてるの?


「さっ、椿、それと皆も座りましょう。(ともえ)様が来られるわよ」


 そして、雑談をする僕達に向かってお母さんがそう言ってきたので、僕達は順番に並んで壇上の前に座りました。


 僕が真ん中でね。えっ……なんで?


「今日の主役はあなたよ、椿」


「へっ? へっ?」


 僕? えっ……いったいどういう事? 

 ただ僕は、天狐様にここにある空狐の祠に行くように言われただけなのに……。

 なんだか仰々しい感じになってきたので、ちょっと戸惑います。


 すると、壇上の脇に居た妖狐のお姉さん達が、僕達に向かって声をかけてきます。

 綺麗だなぁ、この妖狐さん達。一切痛んでなさそうなサラサラの長髪が、絹みたいに見えるよ。


「巴様が来られました。ご無礼の無いように……」


 そして妖狐のお姉さん達がそう言うと、壇上の右袖から、着物も肌も目の色も髪の毛も、全部真っ白な妖狐の女性が出て来ました。

 その真っ白な長髪は床まで伸びていて、うっかり踏んづけてしまいそうな感じだけど、髪の毛が足を避けているような、そんな感じで靡いていました。


 この人が……巴様? 妖狐の里の長。

 目も細目だから、その瞳が真っ白なのが気付きにくいけれど、何もかもを見通しているようなその視線は、ちよっと怖いかも知れない。


 そして、その妖狐さんは壇上の真ん中に正座をして座ります。丁度僕と向き合う感じです。やっぱり、僕に関しての話? これ以上僕に何があるっていうの?


「…………」


 何を話してくるんだろう……そう思って僕は身構えます。


「…………」


 だけど、巴様は中々話してこない。


「…………」


 まるでお人形さんみたいに感じる。だけど、早く喋って欲しいです。その視線を向けられ続けるのは、ちょっとキツいです。


「…………」


「巴様?!」


 すると、巴様は突然涙を流し始めました。

 えっ? えっ? 僕何かした?! 明らかに僕を見て泣いたよ? いったいなにが……。


「……すまぬ。巡り巡って、よもやこの時期にまた妖狐のお姿とは思わず……つい」


「えっ……えっ?」


「そなたが椿じゃな。申し遅れた、私はこの里の長をしている、巴と言う」


「あっ、はい。えっと、椿です。よ、宜しくお願いします」


 そして僕は、巴様が挨拶をした後に自己紹介をして頭を下げます。

 礼儀はちゃんとしないと、横にいるお母さんにお尻を抓られちゃいますからね。


「そう固くならなくともよい。そなたはこれからの日々に、試練が待ち構えておるんかもしれんのじゃ。ここに居る間はゆっくりすると良い。それと、今は落ち着いて日々を過ごすんじゃ」


 そう言って、巴様は柔やかな笑みを僕に向けてきました。あっ、表情が無さそうな感じもしたけれど、ちゃんと笑ったりもしてくれました。

 よかった……怖そうな人だったから、ちょっと緊張しちゃってました。


 それよりも気になる事を言われましたよ。


「あの、これからの日々に試練って……?」


 確か僕は空狐の祠に行くんですよね? そこには、空狐様がいるんじゃ……その妖狐に何か言われるの?


「行けば分かる」


 何だかはぐらかされました。行けば全部分かるのかな? それなら行くしかないけれど……。


「その前に、そこに行く資格があるかどうか試させて貰う」


 そう言うと、巴様は右手を前に差し出して広げてきます。その瞬間、僕の後ろに何かが出て来る気配がしました。


 敵? こいつを倒せとか、そんなやつですか?

 そう思って後ろを確認すると、そこには目の前にいる巴様と全く同じ姿をした、もう1人の巴様が座っていました。


「さぁ、捕まえてみて下さい」


「へっ? 捕まえる……のですか?」


 お母さんに睨まれた。言葉使いを気を付けないと……。


「そうです。正し、普通では捕まりませんよ」


「うえっ?!」


 僕の直ぐ後ろにいるから、直ぐに捕まえられると思ったら、右手を伸ばした瞬間、今度は僕の左側に座っていました。

 一瞬で移動したの? 見えなかった……こんなの捕まえるなんて出来るの?


「うっ……くっ! あれ? ちょっと!」


 気が付いたら、僕は立ち上がって真剣に捕まえようとしているけれど、いちいち反対側に出て来るから、捕まえられないよ……ってあれ、これってもしかして、僕が捕まえようとする腕に反応してるんじゃ……。


 試しに右手で捕まえようとしたら、左に、左手で捕まえようとしたら右に移動しました。

 それならと思って右手を使い、左側にいるもう1人の巴様を捕まえようとしたら、逆さまになって天井に張り付きました。意味なかったです。


「む~影の操!」


 もう良いです、妖術を使って捕まえます! と思ったけれど、今度は妖術が出ません! 封じられてる?!


「体術のみで捕まえて下さい」


「うぅ……」


 壇上にいる巴様は、何だか少し嬉しそうにしています。もしかして楽しんでます? これ、試してるんじゃなくて、僕で遊んでるんじゃ……。


「む~」


 そうなると、ただ捕まえようとするだけじゃ駄目ですね。何かあるはずです。攻略法が……。


 それよりも、この巴様は分身か何かなのかな? この分身の巴様を捕まえるなんて出来……。


「…………」


 ちょっと待って下さい。あれ? 巴様は、分身を捕まえて下さいって言ったっけ?


 言ってない! ということは……。


「……そっち!!」


「あら……」


 ようやく相手の言葉の意図を理解した僕は、咄嗟に壇上の巴様に向かって行き、そのまま飛び付きます。

 要するに、巴様を捕まえれば良いんだ。同じ姿をした巴様が出たから、ついそっちを捕まえるんだって思い込んでいました。


 そして立場なんか関係なく、捕まえる時は目上でも容赦なく捕まえられるかどうかを、試されていたんだ。


「ふふ、捕まえまし……」


「さぁ、それはどうかしら?」


「……あれっ?!」


 相手は逃げる暇はなかったはず……それなのに、僕の手にはなんの感触もなかったです。

 それで良く見たら、巴様が正座をしたまま、ちょっと横にズレていました。それで僕の突撃を回避しましたか……だけど。


「んっふふ~それでも捕まえてるのは捕まえてます!」


「……おや?」


 そう、尻尾です! 僕の尻尾の先を、巴様の腕に絡ませる事に成功していたんです。


「やりますね……こんなに尻尾を自在に扱うなんて。敏感なのに」


「ふぁっ?! そ、それなら触らないで下さい!」


 何だか触り方が艶っぽいというか、そんな触られ方は初めてです。軽く悶えそうになっちゃいました。


 とにかく、これは捕まえた事で良いよね?

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