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僕、妖狐になっちゃいました 弐  作者: yukke
第壱章 意気自如 ~変わらない椿の意志~
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第捌話

 妖狐の里に向かう途中で、まさか妖狐に会うとは思わなかったです。しかもこの子、妖狐の里の妖狐じゃないみたいです。


 妖狐の里に用事があって、遥々愛知県から来たらしいのです。愛知県って事で、僕はある稲荷の事を思い出したけれど……まさかこの子。


「あっ、そうだ自己紹介! 初めまして、私豊川稲荷(とよかわいなり)の妖狐、豊川って言います! 気軽にトヨちゃんって呼んでね、椿ちゃん!」


 やっぱり、豊川稲荷の妖狐さんだ!

 前髪をキッチリと切り揃えていて、肩までの黒髪がとっても綺麗だし、妖気もそこそこ高かったから、位の高い妖狐さんだとは思っていました。

 尻尾と耳の毛色も髪の毛と同じ黒色、黒狐さんみたいだけど、女性の黒髪と男性の黒髪では全然違って見えますね。


 そしてクリクリした大きな目が僕の方を見ているけれど、それがキラキラと輝いています。それと、僕の事を知っているという事は……。


「ねぇ、次の会員誌はいつになるの?」


 やっぱり、僕のファンクラブに入っていましたか。

 もういちいちこれくらいで驚きません。雪ちゃんの広報活動の賜物ですからね。


 でも、こんな状態になってしまったから、次の会員誌は延期でしょうね。


 山の中を歩きながら、トヨちゃんがそう言ってくるけれど、雪ちゃんも僕も暗い顔をしていたから、首を傾げています。


「何かあったの?」


「ちょっとね……」


「そう言えば大阪であった事、他の妖怪達が椿ちゃんのせいにしているんだけど。何でそんな事に? 椿ちゃんがそんな事するわけないのにね」


「知ってたんですね。うん、僕がそんな事するわけ……って、あれ?!」


 そう言えば、トヨちゃんは僕の事を捕まえようとしてきていなかった。どういう事? 撫座頭さんの能力が効いてないの?!


「椿、妖狐達は撫座頭の能力を受けてないわよ。天狐が全ての妖狐に、守護の妖気を与えていたからね」


 すると、驚く僕の後ろからお母さんがそう言ってきます。


「守護?」


「そうだ。天狐はあぁ見えて、全ての妖狐を守護する役目をしていてな。今回の撫座頭の妖気と、あの黒い妖気を邪なものとして防いだのだ」


 僕の言葉に、お父さんが返してきました。と言うことは、他の妖狐達も僕を捕まえたりはしないって事なんですね。

 これから行く妖狐の里の妖狐達も、僕を悪者として捕まえようとはしないんですね。良かった……それが不安だったんです。


 そうなると、早く他の妖狐さん達に会ってみたいな~


「あっ、そうそう。椿ちゃん、これから宜しくね~」


「ひぁっ?! な、何ですかいきなり?!」


 トヨちゃんが、いきなり僕の尻尾を握ってきましたよ。

 何? 急に何なの? 初対面でいきなり尻尾を握るなんて……僕は色々とされてきたけれど、流石に同じ妖狐には無いですからビックリしちゃいました。


「おぉ~凄いフサフサ~モフモフ~これは高得点だよ」


「こ、高得点? な、何の事? それよりも離してくれる? 僕尻尾は……」


「ほほぉ、性感……ふもごっ!」


「それ以上は別料金になります」


 言い方はマズいけれど、雪ちゃんありがとう。トヨちゃんの口を塞いで、僕から引き離そうとしてくれました。

 ただ、トヨちゃんはまだ僕の尻尾を掴んで離しません。雪ちゃんが無理やり剥がそうとしても、離れません。


「ぷはっ! ちょっと、これは妖狐どうしの挨拶なのよ?」


「えっ……?」


「う、嘘だ! 雪ちゃん騙されないで!」


「嘘じゃ無いわよ~妖狐の里では、これが挨拶になってるんだよ。椿ちゃん頑張らないと」


 う、嘘だ……本当にそうだとしたら、僕は挨拶されまくるだけで、ヘロヘロになっちゃうよ。

 くっ、僕の尻尾をこんな風にした白狐さん黒狐さんのせいだ!


「ほらほら、私のも触って良いよ~」


 そして今度は、トヨちゃんが僕に向かってその尻尾を向けてきます。でも僕は、君が尻尾を弄っているせいで力が入らないの。その場にへたり込んじゃいそう。


「こらこら、豊川とやら、それ以上は椿が耐えられなくなるからな。挨拶はそれくらいにしといてくれんか?」


「あっ、白狐さん。は~い、分かりました~それじゃあ次私ね。椿ちゃん!」


 ようやく白狐さんが助けてくれました。

 黒狐さんと妲己さんは辺りを警戒中だったから仕方ないけれど、白狐さんは直ぐに助けに入れたよね? 絶対にまた僕の反応を見て楽しんでいたんだ。


 とにかく、挨拶だったら僕もトヨちゃんの尻尾を触っておきます。僕ばかり触られてるからね。


「お~フワフワしてて、スッゴい触り心地良い~」


「んっ……本当?」


 あれ、気のせいかな。ちょっと艶っぽい声を出したような……それと、何かを我慢しているような……。

 とにかく、僕も自分が触られた時間と同じだけ触っておきます。


「うっ……くっ、つ、椿ちゃん……誰かの尻尾触りまくったりしてるの?」


「ん? そこにいる里子ちゃんの尻尾触ったりしてるけど」


「や、やっぱり~触り方が手慣れてる~ご、誤算だよ~」


 どういう事? トヨちゃんが悶え始めましたよ。


「椿よ、言っておくが、女の妖狐は全て尻尾が敏感になっている。そんなので尻尾を触りあって、挨拶が出来ると思うか?」


「あ~はは~ん。なるほど~」


 白狐さんの言葉で分かりましたよ。トヨちゃんの言っていた、妖狐の挨拶が尻尾を触りあうってやつ、あれ嘘ですね。


「はぅ! つ、椿ちゃん、ごめんなさい~!」


「ふふふ。僕の尻尾を合法的に触るために、あんな嘘ついたんですね~お仕置き!」


「あぁぁぁ!! だからごめんなさい~!」


 い~え、許しません。だから容赦なくトヨちゃんの尻尾を弄りまくりました。


 結局、悶えまくったのは君の方でしたね。


 ―― ―― ――


 それからまたしばらく歩くと、急に視界が広がり、目の前に集落が現れました。

 因みに、トヨちゃんは黒狐さんが担いでいます。僕が弄られた半分の時間でギブアップなんて、情けないですね。


 とにかくやっと着きました。ここが妖狐の里……。


「わぁ、妖狐がいっぱぁい……」


 そして右を見ても左を見ても、狐の尻尾と狐の耳を付けている人ばっかり。そして、皆フサフサして触り心地良さそう。


「うわぁ……狐の中に狸の自分がいるのは、何だか変な気分っす」


 楓ちゃん、それは言わない。迫害されそうになったら、僕が守って上げるから。


「うん、どれも椿には及ばない」


「ねぇ~」


 雪ちゃんと香奈恵ちゃんは僕の尻尾と見比べているよね、失礼だから止めとこうね。


「椿、私達は長に話をしてくるから……まぁ、しばらく里の子達と遊んでおいて」


「えっ? はっ……!!」


 お母さんにそう言われて辺りを見てみたけれど、既に里の妖狐達に囲まれてました!


「ねぇねぇ、君って妖怪アイドル椿ちゃんだよね?!」


「えっ……あ、う、うん」


 三つ編みがとっても似合う妖狐に話しかけられました。あと、ショートヘアーの子とか、色んな妖狐達がいる! もちろん、男性だっています。


 ただ、今僕の周りに来ているのは女の子ばかりです。やっぱり、僕が妖怪アイドルだからなのかな?


「きゃ~!! やっぱり!! サイン下さい! サイン!!」


「握手して下さい!!」


「えっ? 何々? 妖怪アイドルの妖狐、椿ちゃんが来たの?!」


『サインサイン!』


『握手握手!!』


 あぁぁぁ……!! あっという間に凄い事になっちゃったぁ!!

 隠れ里のちょっと怪しい雰囲気はどこにいったの? こんな山奥にあるんだから、もう少し奥ゆかしい妖狐達ばかりかと思ったら、まるで最近の女の子達みたいにキャッキャッと騒いでいますよ!


「は~い、並んで並んで、ちゃんと整理券を持って、準備にお願いします」


「雪ちゃん!!」


 冷静にさばかないで下さい! 何やってるの! というか、気付いたら里の入り口で大行列だよ、もう!

 お父さんとお母さんと妲己さん、それに白狐さんと黒狐さんは、トヨちゃんも連れてとっくに何処かに行って居なくなっているし、これどうしたらいいんですか?


 だけど、一斉に僕の元に集まって来た妖狐の女の子達は、中々その場から離れてはくれず、その内に男性の妖狐達まで集まってきて、僕の姿を見ては「可愛い」「尊い」とか言ってきます。


 結局そこから脱するのに、1時間以上かかっちゃいました。もう日が傾きかけてるよ……。

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