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僕、妖狐になっちゃいました 弐  作者: yukke
第壱章 意気自如 ~変わらない椿の意志~
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第漆話

 そして翌日、僕は白狐さん黒狐さん、そしてお父さんとお母さんと香奈恵ちゃんも一緒に、妖狐の里に向かう事になりました。今はその準備をしています。


「妖狐の里か~椿ちゃんみたいな妖狐達がいっぱいいると思うと……うふふふふ」


「香奈恵ちゃん、今は君もその妖狐ですよ」


 変な笑い方をしないで下さい。それに、僕と同じような巫女服なんか着てたら、弄られるのはどっちになるかな~


「香奈恵、尻尾触り放題の天国、共に萌え死ぬ覚悟は出来てる」


「なんで雪ちゃんも出掛ける準備してるんですか?」


 いそいそとお着替えをして、ちょっと大人っぽい服装に身を包んだ雪ちゃんの表情は、どこかウキウキしていそうです。


「しょうがないでしょ、私達も、今は鞍馬天狗の翁の所には戻れないわよ」


「そうっすね。皆さん元に戻って貰わないと、また姉さんを捕まに行かないといけないっすからね。そんなの嫌っす」


「そんなわけで、私達も椿ちゃんと一緒に行動するのは当たり前なのよ~」


 そして、他の3人も出掛ける準備をしていました。いや、全員でゾロゾロと行くのは迷惑じゃないですか?!


「ふふ、妖狐の里には許可を貰っているから、皆で行きましょう」


「お母さん?! 良いの?!」


 僕が不安そうにしていると、その後ろからお母さんがそう言ってきました。


「えぇ、別に誰も入ってくるなってわけでは無いからね。それに、椿も皆と一緒の方が良いでしょう?」


「えっ……いや、別に嫌では無いけれど、妖狐の里の妖狐達に迷惑かけそうな……」


「その割には尻尾振ってるわよ?」


「ふやぁっ?! 尻尾振らない、狐は尻尾振らない!」


 狐は群れで生活しないから、尻尾なんか振らないのに、何で今僕は尻尾を振っているんでしょうか?!

 とにかく、必死に止めようとしているけれど止まらない! 誰か止めて~!


「ふふ、人に慣れた狐は尻尾を振るようになるのよね~」


「お母さん! 僕は人に慣れた狐じゃない!」


 そんなペットの狐じゃないんだから……。

 そう思っていると、後ろから雪ちゃんが僕を抱き締めてきます。あっ、嫌な予感……。


「ほ~ら、椿。ナデナデナデナデ」


「ん~きゅぅ……って、駄目ぇ!!」


 雪ちゃんに顎を撫でられて甘え声が出ちゃった! しかも香奈恵ちゃんの目の前で……もうお母さんとしての威厳も何も無いですよ。


「これこれ、あまり椿を撫ですぎるな。我等に反応しなくなるだろう?」


「本当に、最近の椿は妖狐らしくなって、更に可愛くなっているんだ。これ以上可愛くさせたら、俺達が独占出来ないだろう」


「そう言って白狐さん黒狐さんも頭撫でないで、顎撫でないで、ほっぺプニプニしないでぇ!! きゅぅぅぅ……!」


 それ以上されたら、嬉しくて甘え声ばかり出ちゃうから! 勘弁して下さい! 僕は香奈恵ちゃんの前では、しっかりしたお母さんでいたいんです!


「さて、それじゃあ今の内に全部済ませちゃいましょうか。楓」


「う~美亜さん、自分も姉さんをナデナデしたいっす」


 本当に、これ以上は僕の威厳も何も無いです。だから必死に抵抗しているけれど、雪ちゃんにしっかりと抱き締められていました。駄目だ、逃げられない!


 結局その後僕は、全員にまんべんなく撫でられてしまいました。僕は皆のペットじゃないのに……。


 ―― ―― ――


 その後、白狐さん黒狐さんに引きずられて、僕達はとある山奥へとやって来ました。


 京都からは出ていないよ。それと、伏見稲荷にも雲操童さんは常駐しているので、撫座頭の影響を受けなかった者もいます。

 その雲操童さんに運んで貰い、1時間もかからずに移動しました。ただ、その雲操童さんの上で僕はグッタリしていましたけどね。


 もう本当に、僕は皆の玩具ですよ。


 とにかくここは、京都市内からなら車で2時間弱、弥生時代、強力な国があったとして、古代丹後王国の存在が伝わる、京都の丹後半島の……海沿いの方です。


 雲操童さんでは行けない場所らしいので、僕達は途中から山の中を歩いています。


 確かこの地域には、日本海側最大の前方後円墳があったはずだよ。銚子山(ちょうしやま)古墳だったかな。地元の人達が知らずに削ってしまって、一部田んぼにしちゃってるけどね……。


 それとここは、丹後七姫と言われる美女達が居たんです。小野小町と静御前もその1人とされています。

 あと『浦島太郎』や『天女の羽衣伝説』もこの地がルーツと言われていたっけ。


 とにかく、それくらいこの丹後半島には伝説や伝承がいっぱいです。


 だからね……こんな山奥で鬼が出て来ても、なんら不思議ではないし、別に驚きはしません。でも、ここは人間界だから! 出て来たら騒ぎになるから!


『おのれ……麻呂子王(まろこおう)。良くも我々を……』


「って、これ怨念じゃん。黒羽の矢」


『がぁっ……!!』


 何時までも迷っててもしょうがないですよ。だから、僕がその怨念を弾いて上げたけど、その瞬間何処かに行っちゃいました。どこに行ったの?


「ふむ……どうやら麻呂子王とやらを探して、この辺りを彷徨っていたのだろう」


「怨念が消え、成敗された本来の場所に飛んだんじゃないのか? しばらくしたら成仏するだろう」


 すると、さっきのを見て白狐さん黒狐さんがそう言ってきます。

 良かった……ってその前に、麻呂子王というのが気になるので調べてみましょう……えっと……。


「えっ? えっ……えぇ!!」


「どうした椿よ」


「姉さん、なんか凄い奴だったんっすか?」


「凄いもなにも……聖徳太子の異母弟(いぼてい)だよ……」


『なっ……?!』


 半分血が繋がってる兄弟じゃん。

 昔の偉い人の中には、そういう繋がりが多かったとは聞くけれど、この土地ってやっぱり……京都ならではの伝承が多いですね……。


 すると、その場で立ち止まっていた僕達の耳に、何かがやって来る音が聞こえます。また妖怪?


「白狐さん、黒狐さん……」


「分かっとる」


「何が来るんだ?」


「あっ、皆も戦う準備をしておいて」


 その音が聞こえた時から妖気は感じていたけれど、音が近付くにつれて、それが濃くなっているので間違いないです。妖怪ですね……。


「はぁ……はぁ……あぅ!」


 へっ? 急に誰かが茂みから飛び出して、躓いた?


「きゃぅっ?!」


「はぶっ!!」


 ちょっと! 僕に向かって突っ込んできましたよ!

 だからその直後に、僕は顔に柔らかい衝撃を受けて、後ろに倒れちゃいました。って、この柔らかい衝撃は……。


「う、う~ん……いったた……はぁっ?! あっ、女性で良かった~」


「うぶぶ……! 退いて下さい!」


「ご、ごめん!」


 やっぱり、豊満な胸でしたね。思い切りその胸に押し潰されたんですね、僕……。


 ふふ、うふふ……胸が無い僕に対しての嫌味かな~?


「つ、椿落ち着け……変なオーラが出とるぞ」


「え~そんなオーラ出てませんよ~」


「うぅ、なんか怒ってる? とにかくごめんってば! それよりも私、追われてるのよ! 助けて!」


 そう言って、その豊満な胸の女の子は僕達に助けを求めてきます。


 でも、歳は僕と変わらない若い女の子の見た目です。だけど良く見たら……見慣れた物がその子には付いていました。


 フサフサの狐色の尻尾、同じ毛色の耳が、ピョコンと頭から生えている。この子、妖狐だ!


「はれ? 良く見たら……尻尾が、えっ? 妖狐仲間?! わっ、わっ、5人もいる!」


「オタク仲間みたいに言わないで下さい……」


 別にそれが悪いって訳じゃないけれど、なんか言い方が……。


「あっ、ごめん……でも、それなら丁度良いや。あれ、何とかして!」


 そう言って、その妖狐の女の子が指刺した方向からは……。


『麻呂子王~!!』


 さっき僕が退治した鬼の怨念が現れました。

 全く同じ奴? いえ、2体居たんですね。角の付き方がちょっと違います。


 最初の奴は額の真ん中から1本、今度のは右端から1本生えてます。別の鬼ですね……ソックリだけど。


「黒羽の矢」


『がぁっ!!』


 とにかく全く同じ術で対応するだけです。

 うん、この鬼も怨念を弾いたら何処かに飛んでいきました。


 そして、その後妖狐の女の子がキラキラした目で僕を見てきました。これ、また僕はやっちゃったんでしょうか?

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