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僕、妖狐になっちゃいました 弐  作者: yukke
第壱章 意気自如 ~変わらない椿の意志~
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第陸話

 その後僕は、夕方頃にお父さんとお母さんに連れられて、天狐様の元に向かいます。

 その前に結構真剣な顔をしていたから、何か重要な話なのは分かるけれど、いったいなんでしょう。


 そして妖界の方の伏見稲荷大社にある、天狐様の社に着くと、その中で座って待機します。ここは相変わらず変わらないです。


 それと天狐様も変わらないです。その場に直ぐに現れた天狐様は、派手な狩衣を着て現れました。髪の毛もツンツンに立ててるし……天狐っぽくないんですよね。


「久しぶりだな、椿」


「あっ、はい。お久しぶりです」


 そして僕の前に座って、天狐様は僕にそう言ってきます。


「人間界の方は厄介な事になってるな」


「そう……ですね、でも大丈夫です。直ぐに取り返すので」


「そう簡単にはいきそうにないだろうがな」


「えっ? なんで……?」


 その天狐様の言葉に、僕はちょっと動揺しちゃって聞き返しちゃいました。なにか問題でもあるのでしょうか?

 亰骸を倒すだけだから、簡単にいきそうなんだけど……油断さえしなければ。


「亰骸の目的が、人間や半妖の妖怪化……となると、戦力増強をしているのだろうな」


「戦力増強?」


 何でそんなことを……と思ったけれど、僕にも思い当たる節がある。僕の前に立ち塞がった、八坂神社の守り人八坂さん。

 確かその人が、黒い太陽に気を付けろって言っていた。それと亰骸の戦力増強と、何か関係があるとしたら……。


 天狐様が言いたい事って……。


「ん、その顔だと誰かから何か聞いていたのか?」


「あっ、少し……八坂さんから、黒い太陽に気を付けろって」


「八坂か……結局あいつも、これを何とかしたかったのかも知れないな」


 そう言うと、天狐様は自分の後ろに隠していた、古い円形の鏡を取り出すと、それを僕に見せてきます。


「これは……?」


 そこに映っていたのは、燃え盛る炎を噴き出す太陽の表面でした。

 これって今の太陽の様子? 望遠能力があるの? それにしては凄すぎますよ。


 だけど次の瞬間、その炎が消えました。良く見たら、下の方にある黒い影に飲み込まれたように見えるんだけど……。


「……えっと……何が起こっているの?」


「太陽が、食われているんだ」


「えっ?!」


 太陽が食べられるって、何ですかそれ! そんな事ってあり得るの?

 でも、天狐様の真剣な表情と、お父さんお母さんの険しくなった顔を見て、それが本当に起こってる事だと分かりました。


「黒い太陽……通称空亡(くうぼう)。だがこれは、その封印が完全に解かれるどころか、1000年前には起こりえなかった、覚醒が起こっているのかも知れない」


「空亡……? 覚……醒?」


 もう何が何だか分からないです。

 普通に復活するんじゃなくて、何かとんでもない状態になって復活するんですか?


「太陽を喰らい、自身が太陽に成り変わろうとしているなら、これは完全に覚醒しようとしている。つまりもう、その封印が半分以上解けているんだ」


 封印……封印されていた妖怪。空亡……頭が痛い……なんだろう。その空亡と言う言葉、遠い昔に聞いたような……何これ。

 もう僕の記憶は封印されていないはずなのに、何でまた何かを思い出しそうになってるの?!


「椿、空亡は最強の妖怪とされていて、妖怪が最も恐れる妖怪として、遥か昔から語り継がれているわ」


 すると、頭を抱える僕に向かって、お母さんは淡々と空亡の事を説明してきます。


 でもその瞬間……僕の脳裏にある光景が浮かびました。


 黒い炎に包まれて燃える大地、同じようにして燃えていく沢山の村々。


 逃げ惑う人々、それを助けようとする妖怪達。


 そして次々と殺されていく妖怪達、妖狐達……僕は両手を前に出して……何かを止めようと……何かを……ゆっくりと前から近付いてくる。女の子を……。


『駄目です! 空――』


「椿!!」


「はっ?! あっ、はぁ……はぁ……」


 お母さんが叫んだから、映像が途切れました。

 途切れて良かったような……良くなかったような。もう、何なのこれ……僕にはもう、封じられている記憶なんて……!


「椿、まさかとは思うけど、前世の記憶が?」


「へっ? 前世……えっ? 僕の前世?」


 何言ってるのお母さん。そんな香奈恵ちゃんみたいに、前世の記憶を持って産まれたわけじゃないでしょ?

 でも、子供ならたまに前世の記憶が……って、僕は子供じゃない。それなのに、何で前世の記憶が?


「前世というよりも、転生に近いと思うがな……何せ、その魂は未だに椿の中にある」


「……へっ? なんの魂が僕の中にあるの?」


 天狐様の言ってる事もなんだか良く分からないです。

 いったい僕は何なの? 何者なの? 天照大神の分魂だったけれど、今はただの妖狐だよね?


 だけど、天狐様は続けてきます。


「そもそも椿。お前は過去の戦いで、その体を失う程の力を使った。それが天照大神の計らいで妖狐になった……と思うだろうが、そもそも体を無くした者に妖狐の体を与えるなど、天照大神にそんな事が出来ると思うか?」


「……えっ? えっ……」


 天狐様の追撃で、僕はもう大混乱です。

 ちょっと待って、それってどういう事なの……? 天照大神様は、そんな事出来ないって事? それじゃあ、僕はどうやって……。


「金狐、銀狐。あの祠を開ける時が来たようだ」


「そうみたいですね」


「来て欲しくはなかったがな……」


 そして天狐様の言葉に、お父さんとお母さんが暗い顔をします。何か良くないことなの?


「とにかくだ、空亡は妖怪を滅ぼす存在。それを倒そうと亰骸が動いているとしたら、この状況にも説明はつく。しかし、今のままでは亰骸の策を覆せん。だから椿、お前は見に行かなければならない。妖狐の里にある『空狐の祠』にな。それが、亰骸攻略と空亡攻略の第一歩だ」


 そして、天狐様はそう言いながら立ち上がると、そのまま奥へと向かっていきます。ちょっと待ってよ、僕には何が何だか……。


「あの、その前に僕には……」


「あぁ、撫座頭の能力も、空狐の祠に行けば攻略法が見つかる」


 立ち去ろうとする天狐様に声をかけると、天狐様は僕に背を向けたままそう言います。


「へっ?」


 いったいどういう事? 空狐の祠には何があるっていうんですか?


 だけど、呆然とする僕を置いて、天狐様はそのまま奥へと消えていきました。


「椿、行きましょう。妖狐の里に」


「行くにしても、あそこは遠いからな。準備をしないとな」


 そしてその後に、お母さんとお父さんがそう言って立ち上がります。

 もう何が何だか分かりませんよ……だけど、その空亡というのが復活しそうになっているなら、それも止めないといけない。


 でも、それは僕がやるの? 僕達がやるの? どっちなの? 協力して倒せる敵なの? それとも……。


 ううん、考えていても仕方がない。今は僕の大切なものを取り戻したい。

 その攻略の鍵となるものがあるのなら、その妖狐の里にある『空狐の祠』に行ってみましょう。


 でも空狐って確か、3000年も生きてる妖狐でしょ? その妖狐がその祠に居るって事なのかな?

 因みに3000年って、天狐様より長生きなんです。位は天狐様が上だけど、能力的には空狐の方が上なんです。つまり、隠居している妖狐になります。いったいどんな妖狐なんでしょう。


 そして、僕もお父さんとお母さんに続いて立ち上がり、天狐様の社を出ようとするけれど……。


「あぅっ」


 そのまままた可愛くお座りしちゃいました。

 し、しまった……真剣な話で緊張してたし、また変な映像が脳裏に過ぎったりしたから、足に力が入ってました。


 足が痺れてる……。


「どうした椿」


「何でもないです」


 お父さんに言ったら突いてきそうなんで言いません。早く痺れとれて!


「あら、どうせ足が痺れているんでしょう? ツンツン」


「ふにぎっ……いっ!」


 そう思っていたら、お母さんが僕の後ろに伸びていた影を操って、それで突いてきました! 何してるの、お母さん!


 当然僕はその場でへたり込んで、しばらく足の痺れと格闘していました。

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