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僕、妖狐になっちゃいました 弐  作者: yukke
第壱章 意気自如 ~変わらない椿の意志~
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第肆話

 大量の黒羽の矢を飛ばした僕の妖気は、一気に減っていきます。

 それこそ、今すぐにでもいなり寿司を食べて補給しないといけないくらいに。


「香奈恵ちゃん、いなり寿司下さい!」


「んっ……!」


「口でじゃなくて手で」


 まさかの伏兵でした。娘と口移しでご飯を貰う親がどこにいますか! 全くぶれないですね、カナちゃん。

 とりあえず目を細めて睨んだら、大人しく手に持ち替えて僕の口に入れてくれました。


「ごぉぉおお!! うぅぅ……!!」


 とにかく、巨大化したあの化け物には効いています。次々と黒い妖気が剥がれていってるけれど、まだまだ小さくなりません。

 どれだけ大量に黒い妖気を取り込んだの? あの1錠でどれだけの妖気が……。


 そして、額の大きな角を見て、ある妖怪さんの姿を思い浮かべてしまいました。


「酒呑童子さん……?」


 そう思うとほんの少しだけ、酒呑童子さんの妖気をあの角から感じるんです。どういう事……もしかして酒呑童子さん、亰骸に捕まってるの?


「椿! ボサッとしない! まだ相手は倒れていないでしょう! 次!」


「あっ、はい!」


 妲己さんに注意されちゃいました。そうですね、今はとにかくこの人を止めないと! それと、次のはもう溜め終えてます。


「強化解放!!」


 そして、僕はまたさっきと同じ黒羽の矢を大量に放ちます。

 とりあえずまた一気に妖気が減ったので、香奈恵ちゃんに……って、またキラキラした目でいなり寿司を口に咥えてる。


「香奈恵ちゃん、2度も注意させないで……」


「んっ!!」


 しかも今度は引き下がらないです。どうしてもやりたいんですね。君、僕の娘じゃなかったの? 娘として扱って欲しいんじゃなかったの?


「あ~もう!!」


 時間もないし、切羽詰まった状況だから、何回も香奈恵ちゃんに注意している暇なんてありません。

 これを計算しての事なら香奈恵ちゃん、君って子は本当に、どんな時でも僕への愛情表現を惜しまないですね。


「ん~!!」


 しょうがないから口移しで貰いました。

 もうこんな事では動揺しません。昔とは違うんです。だから、香奈恵ちゃんが恍惚な表情をしていても気にしないです。


「ぐぉぉぁあがぁあ!!」


「ん~まだ倒れませんか……もう一発ですね」


 そして相手の化け物は、必死に妲己さんの妖術から抜け出そうと藻掻いています。

 ちょっとだけ小さくなったような気がするけれど、それでも姿は戻っていない。


 かなり沢山の黒い妖気を剥がしたんだけどなぁ……。


「しょうがないです、もう一発……」


「いや、待て椿よ!」


「雄叫びが弱くなっていってる。もしかして、限界ではないか?」


 すると、様子を見ていた白狐さんと黒狐が僕を止めてきます。

 そして、そう言われた僕が化け物の方を確認すると、確かに体がフラついていて、雄叫びも減って弱くなっていました。


「やっぱり効いてる」


「ふん……私の影蝋からは逃れられないからね~さて椿、あと一発入れとく?」


「いえ、もう終わりですね」


 妖気が一気に霧散していくのが分かります。恐らく、中にある膨大な黒い妖気が剥がれていったから、あの体を維持出来なくなっているんでしょう。

 そして更に、黒い妖気も漏れていっている。僕の妖術で、漏れやすくなったんだ。


「が……あぁぁぁ」


 そのままその化け物の体は縮んでいき、そして僕達の目の前に倒れ込みました。丁度、僕達を襲ってきたあの男性の姿に戻って。


 良く見たら完全に人間に戻ってますね。良かった……。


「はぁ……はぁ、良かった。あんまり被害が出なくて……」


「うむ、その通りじゃな、良くやった椿よ」


 そして、妖気を沢山消費した僕は、その場に座り込もうとするけれど、その前に僕の前から白狐さんに抱き締められちゃいました。


「むぐぐ……! ちょっと、香奈恵ちゃんが見てる!」


「時には甘えろ、椿。お主は最近頑張り過ぎてる」


「うっ……」


 頑張り過ぎてるのかな? でも、僕は大切なものを守りたいし、お母さんとしても……。


「椿ちゃんはあの頃から変わらないね~自分1人で何とかしようとする癖、直さないとダメだよ?」


「うっ、だから卑怯だってば、カナちゃん」


 今ここで親友として言ってきますか。僕、また1人で頑張り過ぎてたのかな?

 癖……そう、癖ですね。やっぱり僕はまだまだ、人間だった頃のあの時の考えが残っちゃってるのかな。


 1人で生きていこうとしていた、あの頃の考えが……。


「む~分かりました。あっ、それよりも、あの人は大丈夫?」


 白狐さんに抱き締められるのは良いです、大人しくしておきます。

 それよりも、その白狐さんの背後から見える、化け物になった男性は大丈夫なんでしょうか? ピクリとも動かないんだけど。


 そして、その人に向かって黒狐さんと妲己さんが近付いて、様子を見ています。でも、表情が険しいような……えっ、嫌な予感。


「椿、残念ながら死んでるわ」


「……そんな」


「まぁ、あれだけの黒い妖気を一気に取り込み、そして一気に剥がされたんだ、その時のショックでって感じだろうな」


「そ、そんな……僕が、殺……」


「落ち着け椿。あのようにしなければ、もっと沢山の人が死んでいたんだぞ」


 ショックを受けて呆然とする僕に、白狐さんが強く抱き締めてくる。


 でも、どんな理由があっても僕が殺して……今までもそんな事はあったよ。だからこそ、もうこんな事は起こらないようにと思って、強くなっていたのに……助けられなかった。


 僕はまだ……弱い。


「椿よ、気休めにしかならないが……」


「うん、気に病んでもしょうがないよね……それなら動かないと」


「そう、気に病んでも……うんっ?!」


 大丈夫、大丈夫ですよ……僕はもう妖狐としての自覚はある、人間とは違います。

 悲しみはあるけれど、それ以上に怒りが湧いてます。それとね……僕の目は誤魔化せないんですよ、撫座頭さん!


「影の操!」


「ぬぐぁっ! な、なにを……する!」


「それはこちらの台詞です。今回の事件、この男性が妖怪化した原因を、死んでしまったその罪を、全部僕達になすり付ける気でしょう!」


 思い切り撫座頭さんから妖気が噴き出しているんですよ。その妖怪さんの妖気と一緒に、黒い妖気もね。

 それが日本中を覆い尽くすかのようにして、広がっていっています。


 これって、今回の事件の犯人を僕達にする気でしたね。


「そんな事はさせないよ……黒羽の……」


「けっ、けけけ……うけけけけけ!!!!」


「な、何……何がおかしいの?」


 いきなり大きな口を開けて笑い出して、目がないから凄く不気味で気持ち悪い。


「いけない椿、そいつを止めなさい! 白狐黒狐と手伝いなさい!!」


 すると妲己さんが、また影の妖術で相手を固定させようとしてきます。

 その顔は凄く必死で、まるで仇敵に向けるような表情をしています。


 どうやら、なにか凄くマズい事になりそうな感じです。


「白狐さん離して……! もう一回黒羽の矢を……」


「間に合わないわ! 風で吹き飛ばしなさい! 私が何とかする!」


「――っ、風来!!」


 その妲己さんの気迫に押されて、僕は咄嗟に風の妖術を放ちます。だけど……。


「けけっ……!」


 撫座頭が最後にそう笑った瞬間、体が破裂し、そこから一気に大量の黒い妖気と自らの妖気を舞い散らせました。それがまるで、霧のようになって広がっていく。


 撫座頭も死んだ? 違う……生きてる。だって、まだ撫座頭の妖気がそこら中に……違うこれ、広がっていっている。撫座頭が日本中を覆い尽くしている!


「間に……合わなかった。最悪ね……また日陰者の生活を送る羽目になるなんてね……椿、白狐黒狐、あんた達もよ。今回の事件、私達が犯人にされたわ。日本中の人達と、他の妖怪達全員に、それが行き渡ったわ! もう、鞍馬天狗の家にも帰れないわ」


「えっ……そ、そんな……」


 あの家にも帰れないってどういう事?

 人間達にだけ広がったんじゃ、それにおじいちゃん達が、そう簡単に僕達を犯人扱いするとは……。


「撫座頭は死んでいない、分かるでしょう? あいつもあの黒い妖気の薬を飲んでいた。普通ではあり得ない能力を得ていた! 私達を犯人と決め付けさせてくるでしょうね。私達が邪魔になってるから、縁を断ち切って孤立させてきたわね」


「そんな……」


 つまり、鞍馬天狗の家の妖怪さん達皆が、僕達を捕まえに来るって事……? そんな、そんな事って……。


「お母さん……」


 すると、僕の横で香奈恵ちゃんが心配そうな顔をして見上げてきます。

 あぁ、香奈恵ちゃんは僕達の近くにいたから大丈夫だったけれど、でも君も、追われる側になっちゃったって事だよね。


 白狐さん黒狐さんも、流石にこの事態に何も言えなくなっています。


 2人も何もしていなかったわけじゃない。撫座頭の黒い妖気を、守護の力で抑えていたんです。それなのに、2人の力すらも弾かれたんです。


 相手の黒い妖気の力を見極められなかった僕達の、完全敗北です。

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